今も、これからも
彼女は今日も、彼が入院している病院に行く。
ーー三年前 at 金沢駅前公園
「ごめん!電車乗り遅れちゃったから、おくれる!」
慌ただしい声と電車の中の騒音が携帯の中から聞こえる。
「大丈夫だよ、春。それよりも、電車の中での通話はいけないよ」
春を落ち着けながなも、電車の中での通話を注意する。
「わかったよ、秀。じゃあ、もう切るね」
プツッ!
「春はせっかちなんだから、
少し悪戯でもしよーか」
少しニヤつく秀は金沢駅に向かった。
春と秀は同じ大学に入学しており、恋人と言う関係を保っている。
「ふー、やっと着いた!秀起こってるかな?」
そんなことを言いながら、小走りで改札口を抜け、金沢駅前公園に向かおうとした。
そんな春を引き止めるものがあった。それは駅前で起こってる事故だ。
「ここって、よく事故起きるよねー、でも、早く行かなきゃ!」
早く行こうとする春に悪魔の囁きのように聞こえた会話があった。
「おいおい、ひき逃げだってさ!しかも、ひかれたのは、学生だってさ!可哀想だなぁ……」
「おい、それ本当か?名前な何て言うんだ?」
立ち止まって、この会話を聞いていた春も次の言葉が秀ではないことを祈った。
「確か……お…大前……大前秀……だったかな」
春の頭は真っ白になった。
「秀が……
死んだ…………」
その後、秀は何とか一命をとりとめたが、脳に損傷が出たらしく、ある一定の記憶がなくなってしまったらしい。
現在も秀は入院している。そして、ほぼ毎日春も秀のいる病院に行っている。
電車にさえ遅れなければ、と思うと自然に涙が出る春であった。あの事故以来、春には心無い励ましの言葉が送られた。みんな優しい秀がすきだった。
「 もうすぐでね…私も大学卒業出来るんだよ……秀も今頃は……」
春の目から涙がこぼれた。
「……何かね、………泣けて来ちゃった」
そっと秀の手の甲に自分の手をのせた。
「……春………泣くなよ……
そんな姿は……春には似合わない
僕はね……元気な春が大好きなんだよ
僕は春の彼氏で……
あり続けたいと……思ってるし、
春も僕の彼女で……あって欲しい……
大好きだよ……春」
「……秀っ⁈」
秀はあの事故以来、喋ったことはなかった。それも、脳の損傷によるものらしい。だからこそ、春は驚き、戸惑った。
「今も、これからも………」
春の目から涙が溢れ出た。
こうして春は、また歩き出した。