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白銀の鳳蝶  作者: 祐多
第三章 仕事
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八帝会議

 




帝、とはそれぞれの属性を極めた者であり、総帝とは全ての属性を極め、七人の帝―― 炎帝・水帝・雷帝・地帝・風帝・光帝・闇帝に認められ、彼らを束ねる者である。



――八帝会議とは、七人の帝と総帝が月に一度、世界政府組織の本部に集まり行う会議のことである。





午後七時半十五分前――



八帝会議専用の会議室、八帝会議室の円卓には既七人の帝がいた。


皆、フード付きのマントを着用しており、フードで顔は見えない。マントの色は、赤・青・黄・茶・緑・白・黒。後は銀のマントの総帝が来るのを待つのみである。


七人の帝は仲良く談笑をしていた。



「総帝はいつも通り十分前に来るんだろうなぁ~」



黄色のマントの雷帝が呟く。これは彼の癖であり、何となく間延びした話し方だ。



「総帝は少し几帳面なところがありますからね。総帝としてのあの方を見ている限りは、ですが」



常に敬語を話す白のマントの光帝は、冷静に分析をしていた。七人の帝の中で、一番冷静な人物である。



「なぁ、炎帝。普段の総帝はどうなんだ? 帝としてだけじゃなくて友人としての交流もあるんだろ~?」



雷帝が赤のマントの炎帝に問う。



「私も気になります!」


「アタシもよ」



仲の良い二人組――青のマントの水帝と緑のマントの風帝が、雷帝に同意した。おしとやかな面をもつ水帝と、明るく活発な性格の風帝は、性格は全く違うのにも関わらず気が合うらしい。



「……」



無口な黒のマントの闇帝は、無言であるが気にはなるらしく、じっと炎帝を見た。彼は基本的に口を開かない。その動作から何をしたいのか理解する他ないのである。基本的に面倒事が嫌いな炎帝は溜息を吐きだし、それから口を開いた。



「……確かに几帳面なところもお持ちになっている。例を言うなら、毎日ご起床される時間は決まっていらっしゃる。付け加え、ご起床された後一時間程、毎日鍛練をなさっている」



流石は総帝だと帝達は感心した。彼ら彼女らは、皆総帝を尊敬している。総帝の顔も名前も年齢も知らないが、その忠誠心は確かだった。

 



「今の御自分に満足ならさずに、その上を目指される。総帝は本当に素晴らしいお方だ」



この中では一番年長の地帝が、低く嗄れた声で感嘆の言葉をもらした。彼だけは、名前も顔も皆に知られている。ここにいる帝たちだけにではない。一般市民でさえ、彼の顔や名前を知っているのだ。



地帝が時計ををちらりと見た。つらるように、他の帝も時計を見る。直後、和やかな雰囲気が一瞬にして真面目なものに変わった。


帝達は総帝の到着が近いと時計を見て気がついたのだ。七人の帝は、一斉に慌ただしく動き出した。


光帝は紅茶を注ぎ、闇帝と地帝が扉の左右の取っ手を握り、扉の前に水帝と炎帝が立ち、雷帝と風帝は上座の総帝の立派な肘掛け椅子の左右に立ち、肘掛け椅子を少し引いた。



時計の長い針が、4を指す。それを合図に、闇帝と地帝は扉を開けた。銀のマントの総帝が、その座に相応しい覇気を纏い、扉の前に立っている。



時刻は七時半十分前――。



いつも通りの時間である。


帝達がうやうやしく頭を下げた。



「「ようこそお出で下さいました、総帝」」



炎帝と水帝が挨拶をする。



「いいえ。――出迎え、有難うございます」



総帝がフードの下で少し微笑 んだ。



「総帝。どうぞこちらへ」

 



炎帝が総帝を椅子へと導く。総帝が椅子の前へ立つと、雷帝と風帝が椅子を前へ押して、総帝を座らせた。


それを見届けると光帝が紅茶を差し出す。



「どうぞ総帝」


「有難うございます」



総帝は少し香りを楽しむと、少し口に含んだ。



「……いつもながら美味しいです」


「お褒め頂き光栄です」



光帝が白いフードの下から、嬉しげに少し微笑んだ。



「では、皆様もお座り下さい。会議を始めましょう」



総帝の一言で、全員が席についた。


 



「これより、八帝会議を行います。本日、始めの議題は最近の魔物の様子についてです」



風帝と雷帝の表情が、少し変化した。何か思い当たる節があるのだ。



「どうやら、心当たりのある方がいらっしゃるようですね。風帝、雷帝、出来ればお話して頂けますか」


「「はい」」



二人の返事に全員が耳をかたむけた。



「今日、アタシはSSランクの依頼を受けていました。何の変哲もない依頼のハズ……だったんですけど。依頼の内容はハードグロックとゴーレム、合わせて五百体の討伐と書かれていたんだけど、実際に現場に行ったら千体もいたんです。こんなに大きな群れを見たのは初めてでした」


「千体だと!?」



地帝が驚きの声を上げた。


ハードグロックもゴーレムも一匹ならばDランクの依頼となる、下級の魔物である。それが五百体もいればSSランクの依頼となる。しかし更にその二倍──千体ともなればSSSランクの依頼となってしまう。


この依頼を受けたのが帝でなければ今頃その者の命は亡かっただろう。なんせSSSランクは七人の帝と国王と五人の強者だけなのだ。


次に雷帝が話しはじめた。



「おれがやった依頼はSSSランクの依頼です。今日は団員の実力を上 げるために、おれが隊長をしているギルド“暗夜の憂鬱”の三番隊を引き連れて行きました。アクアドラゴン七体の討伐でしたが……、そもそもアクアドラゴンには群れる習性はありません」


「アクアドラゴンが群れを……」


「信じられないわ……」



光帝と水帝が呆然と呟く。


アクアドラゴンは一体の討伐でAAAランクの依頼になる、上級の魔物である。一般的にドラゴンには群れる習性を持つものは少なくアクアドラゴンも例外ではない。


しかしそのアクアドラゴンが群れをなしていたのだ。


二人の話を聞き、暫く俯いて思考していた総帝が不意に顔を上げる。


 


「では、俺からも報告致します。今日の夕方頃、俺は五つの依頼を受けました。SSランクとXランクの依頼を一つずつと、SSSランクの依頼を三つです。始めに行った依頼はSSSランクの依頼で、スパーヌドラゴン八体の討伐でした。ですがスパーヌドラゴンは群れる習性がありません。


次に行ったXランクの依頼、ダイアモンドドラゴン十二体の討伐でしたが、こちらも群れる習性はありません」



総帝は坦々と報告をした。



「スパーヌドラゴンとダイアモンドドラゴンまでもが……」



雷帝が俯いて思考するが、頭脳派ではない雷帝は何も浮かばないようで、顔を上げ総帝を見る。


他の帝も総帝に注目した。



「ここに来る前に調べたのですが……、風帝のように依頼書に書かれていた魔物の固体数よりも実際の固体数の方が多い、ということが最近起こっているようです。あと……、これも調べたのですが、群れる習性を持たず単独行動をする習性を持つはずの魔物が、群れをなしていることもあるようです」



帝達は息を呑んだ。もし、本当にそのようなことが起こっているのであれば――



「……負傷者も、……死亡者も出ております」



先程の話の時よりも幾分か総帝の声のトーン が下がっている。総帝は何かに堪えるように手をきつく握り締めていた。


総帝の心には、人を救い切れなかったという後悔の念が渦巻いている。



「……これ以上、被害者を増やさないために、対策と今回の異常の原因の調査を行います。具体的には対策としてSSランク以下の者が依頼を受けるときには、必ず三人以上で行動すること、自分のランクより一つ以上低いランクの依頼を受けるようにするか、または依頼のランクより一つ以上ランクの上の者と依頼を受けること、……ですね。


調査の方はまだ手がかりも何もないので、当分は個人での調査とします」



総帝の悲しみを含んだ声に、帝達は頷いて口々に返事をした。



「では次の議題に入ります。――」




こうして夜はふけてゆく。




この時はまだ誰も、予想出来なかった。






――人類を掛けた戦いがこれから始まるということが。





そしてこれは、この戦いの序章にしか過ぎなかったのである――――









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