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白銀の鳳蝶  作者: 祐多
第二章 初授業
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初授業2

 




――この闘技室には強力な結界が張られている。


高等部でも三年生になれば上級魔法を使える生徒は多少はいる。更にこのニアン学園は優秀な生徒が多いと耳にしている。


おそらくは、他の学園よりも強力な魔法を使える生徒が多く、強い結界を張る必要もあるのだろう。



数分後、生徒が全員集まった頃、先生が到着した。


長い青紫色の髪に、同色の瞳を持つ、背の高い女の先生である。髪を靡かせながら入って来た先生は生徒を見回した。



「みんな、集まってる?」



――サキカは、なぜかその声に懐かしさを覚えた。以前どこかで会ったことがあるのだろうか。


はきはきとした話し方をする先生は、全員出席していると判断したのか自己紹介を始めた。



「私はリミ・クローツェ。リミって呼び捨てで呼んで貰えると嬉しい。まあ、それはさて置き、授業を始めるよ。挨拶はいいから、魔法学の教科書を出して。……あ~、ついでに自分の属性の魔法書もあったら出しておいて」



魔法書とは魔法の詠唱やその魔法を発動させる方法、消費する平均の魔法量が書かれている本である。

サキカは随分気さくな先生だ、と思いつつ“ボックス”から教科書と火属性の魔法書と、光属性 の魔法書を取り出した。


周りを見ると皆も同じ様に“ボックス”から教科書と魔法書を取り出している。



「今日は中級魔法を覚えてもらう。私は見てまわるから、わかんないこととか、どうしても出来なかったりとかしたら呼んでね」



その言葉にざわめきが広まる。



サキカには何故皆がざわめくのか分からず首を傾げた。そんなサキカにガイアが説明をしてくれた。

 




「中等部では初級魔法を完璧にするのを目指して練習するから、中級魔法を練習するのは初めての人が多いんだよ。俺らみたいにギルドに所属してたりすれば練習場所を確保出来るが普通の学生には無理だからな」



ガイアの言葉に納得するが、もう一つの疑問が生じた。


(僕は五歳の頃には中級魔法を完璧にマスターしていたのですが……、中級魔法は難しいものなのでしょうか)


サキカに常識等は通じない。


サキカは最強と呼ばれはじめた七歳の頃には、大の大人ですら修得するのが困難な、というよりもほぼ不可能な神級魔法を使用出来ていた。


一属性に一つ二つしかないとはいえ、その神級魔法を全て使うことの出来るサキカには、中級魔法は難しくないどころか簡単に感じられる。


“自分は普通ではない。”


最近はガイア達帝に囲まれているうちに段々とその自覚は薄れはじめていたのだが、改めてそれを自覚した。


しかし改めてそれを自覚してしまうと、悲しさや虚しさを感じてしまう。



――何故だろうか。……自分が普通に生まれてこれなかったのは。



サキカはその答えを、まだ知らない。



(ガイアも同じ様なことを思ったことはあるのでしょうか……?)


ちら りとガイアを見てみるが、ガイアはいつも通りの無表情で、何を考えているのか分からなかった。


そうこうしているうちに皆がグループを作りはじめたので、サキカもガイア達のグループに加わった。




「さぁてと、練習開始といきますかぁ~」



やる気満々で楽しそうに魔法書を開いたレイト。しかし、誰も見向きもしない。



「サキカ、光属性なのよね? この魔法、一緒にやってみない?」


「あ、……うん」



有舞に誘われたサキカは、『友達』という存在をくすぐったく感じながらも嬉しくて、笑顔で頷いた。



「リリス、コツ教えてやるよ」


「ありがと、ガイア」



ガイアはリリスを誘い、断る理由のないリリスは、それを了承する。 


「ちょっ、ちょっとま――」


「あっちでやってみよ?」



無視されたに等しいレイトは、四人に声をかけようとしたものの、有舞に阻まれた。



「分かった」



サキカは再び苦笑を漏らし、頷く。



「俺らは向こう行くか」


「うん」



ガイアとリリスは、レイトの存在を完全に無かったものとみなしているのか、無視に無視を重ねて比較的空いている場所へと移動した。



「み、みなさん、オレの存在をわすれ――」


「これってどういう意味よ?」


レイトの台詞を再び遮る有舞。サキカはレイトにまで手が回らず、有舞が指差す魔法書の文章を見る。



「これのこと?」



サキカが尋ねると、有舞が頷いた。


少し離れた場所からはガイアとリリスの声が聞こえてくる。



「力み過ぎだ。力を抜け」


「……わかった」



完全に無視されたレイトは崩れ落ちた。サキカは有舞の質問に答えてようやく手が空き、レイトを振り返った。



「レイト、練習しないの?」


「……うわぁぁあぁあぁん!!」


号泣し始めたレイトに、サキカは更に苦笑した。



「オレの味方はサキカだけだぁ~!!」


叫び声を上げるレイトを、サキカは困り顔で見るしかなかったのだった。





「これ、難しい ……」



有舞が顔をしかめながら練習しているのは、光属性の魔法書の中級魔法・“ライトショット”である。



“ライトショット”の発動形状は弾丸で、一般的な発動方法は、手で銃を撃つ真似をするというものだ。この魔法は光属性の中級魔法の中でも簡単な魔法であり、初めて光属性の中級魔法を練習するには適当といえる。


また、この魔法は一度詠唱をすれば連続での無詠唱の発動が可能であり使い勝手が良い魔法である。



「昔、あたしの姉貴が使っているのを見て、憧れていたのよ」


(……姉貴?)


有舞が難しそうな顔をしつつ発した言葉によって、脳内に一人の女性が浮かんだ。


『鈴方』という有舞の名字から連想し出てきたのだが、その女性は思い返せば有舞とどこか似た顔立ちをしていた。毛先のカールした亜麻色の髪もそっくりだ。 


「怜さん……?」


「えっ!? 知ってるの!?」



――サキカは以前、怜を助けたことがあった。



怜は“月の光”の光属性の隊と呼ばれる、六番隊に所属していた。


小さな村の近くの森に魔物が大量発生した時に、怜が派遣された。


怜はSランクだったため、一人でも十分と判断されていたため、彼女は一人でこの任務を遂行していた。


しかし、予想外のことが起きた。最上級の魔物であるダイアモンドドラゴンが十体も現れたのだ。


彼女は一人で逃げることも出来たが、必死に戦い村を守ろうとした。


だが、ダイアモンドドラゴン十体にSランクごときが太刀打ち出来る訳もなく、殺されそうになっていたところを、村の近くの任務を受けていたサキカが通りかかり、助けたのだ。



怜はこの時逃げずに戦ったことを讃えられ、六番隊から世界最強の隊と言われている“月の光”零番隊の隊員に昇進し、ランクもSからSSへと上がり、彼女の“光の天使”の二つ名は広く知れ渡ることとなった。


サキカは零番隊隊長でもあるため、怜とは今でもよく会うが、妹がいるとは初耳だ。


向こうはこちらの顔を知らないということに安心しつつ、本当の事が言える訳もないサキカは、ごまかす。


「 零番隊隊員の怜さんでしょう? あの“光の天使”様って呼ばれている……」


「よく知っているわね」


「俺も光属性だからね。あの方は目標の一人だから」



ふわっと微笑むサキカに有舞は顔を赤らめた。


「何赤くなってんだよ、有舞」


それをなぜかレイトがニヤニヤと笑い、有舞をつついた。



「うっさい!!」



有舞は赤い顔のまま、初級光属性魔法を詠唱破棄する。



「え゛、あ、ちょっと待ったそれは止めて!!」


「煩い、黙れ、死ね!!」



ドカーンッ!!



凄まじい音と共に、レイトは撃沈した。 



黒焦げになったレイトをほったらかしにして――サキカは気になってそちらをちらちらと見ていたが――、サキカと有舞は練習を開始した。


とは言え、サキカは既に出来るため、出来ない振りをするのに苦労していた。



「え~と、詠唱は……、光の弾丸よ、我の敵を撃ち抜け“ライトショット”」



わざと魔法が発動しないように、魔力の込める量を足らなくしたり、魔力を乱したりするのは、意外に神経を使うものだ。


それも手加減ではなく全く出来ない振りをするのは、更に疲れることであった。


それは、サキカは普段手加減をすることはあっても、出来ない振りをするのは初めてだからだ。


慣れないことに疲れを感じ始めたころ、有舞が声を上げた。



「出来た!!」



嬉しそうにその場で飛び跳ねるように喜ぶ有舞を見て、サキカは少し微笑んだ。


――自分が初めて魔法を使ったとき、誰も褒めてはくれなかったことを思い出しながら。



「サキカ、見ていてね。――光の弾丸よ、我の敵を撃ち抜け“ライトショット”!!」



シュッ!



淡い黄色の弾丸が、銃の形を真似した有舞の手の人差し指の先に現れ、鋭い音と共に空を切って飛んで行く。


コントロールはまだあまく、途 中でそれてしまっていたが、発動出来ただけでも上出来だろう。



「有舞、お見事!」


「まあねっ!」



ニコッと笑いピースマークを向けて来る有舞に、先程と同じ微笑みを向けた。


その微笑みに、なぜか有舞が顔を朱にそめて固まった。



「……有舞、どうかした?」



まさか見惚れられているとは思いもしないサキカが有舞の顔の前で手を振ると、有舞はハッと我に返る。



「な……なんでもないわ。それより、サキカは出来たの?」



有舞の顔が若干赤いことが気になったものの、サキカはそれには触れず、答えた。



「まだ出来ないけど……仕方ないよ。俺、Eランクだから」



予想していた言葉に、用意していた台詞と作り笑いでごまかそうとしたが、そうはいかなかった。



「Eランクだとか、関係ないわ! サキカだってやろうと思えば出来るはずよ!!」



(確かに出来ますが……、そのように熱く語られますと、困るのですよ)


サキカは万が一の為、初級魔法が何とか出来る、ということにしておきたいのだ。 


ここでもし、有舞に指導されて出来るようになった振りをし、『実はやれば出来るのではないのか』と思われるか、もしくは有舞に指導されても出来ない振りを通し、有舞を落ち込ませるか。


どちらの選択肢も良いものだとは言えない。


ならばここではとことん駄目人間を演じ、有舞に指導されないようにすべきだ。



「無理だよ。初級魔法もどうにか発動出来るぐらいにしか使えないし、初級魔法だって何回も何回も練習してやっと発動するようになったばかりだから」



サキカはわざと悲しそうな笑みを浮かべ演じる。どのように演じれば有舞が諦めるかなど、計算済みだ。



「それに俺には頼りになる魔武器があるから」



サキカがそう付け足すと、有舞は渋々ながら納得してくれたようだった。



「ねぇ、サキカの魔武器って何?」



納得したらそちらの方に興味を引かれたらしい有舞。



「今はまだ秘密」



いずれわかることであり、今教える必要はないだろうと、サキカは笑って質問をかわした。


サキカの笑顔に見惚れている生徒を尻目に――本人は見惚れられていることに気が付いていないが――、サキカは黒焦げのままだったレイトに近付いた。



「レイト、練習しないの ?」


「あっ、あぁ!!」



話し掛けてもらえて余程嬉しいのか、文字通り飛び起きて魔法書をパラパラとめくる。



「これにしよう!」



――レイトが選んだのは水属性の中級魔法の中でも難易度が高く、威力もそれなりにある魔法だった。



「それは未だ早いんじゃ……」


思わず少し眉尻を下げ指摘してみるが、レイトは全く聞く耳を持たない。



「いや、オレはこれをやる! ……水の波よ、洗い流せ“水波”!!」



勢い込んで詠唱破棄をするレイト。しかしながら、……否、当たり前と言うべきか、何も起きなかったのだった。


それを見た有舞は大笑いだった。



「わ、笑うな!!」


「ハハッ! ……レ、レイト最高!!」



楽しそうに言い合う友人二人を見ると、サキカも楽しくなって笑った。 



ふと背後から視線を感じ振り向く。


すると昨日、イヴにユリアスと呼ばれていた少女と目が合った。



ドクンッ……



途端、鼓動が早まるのを感じた。顔が血が集まったかのように熱を持ち、火照る。


サキカは何故か分からないが急に恥ずかしくなり、目を反らせた。


――しかし、ユリアスも同じ様な反応を見せていたことは、サキカは知らない。




「うぅ……。何で出来ないんだぁ!」



何度も“水波”を放とうとしているが、一向に発動する気配を見せないため、レイトがついに叫んだ。


サキカは先程の出来事を振り払うかのように、首を左右に軽く振り、レイトの手助けに入った。



「レイト、多分魔法にこめる魔力量が少ないんだと思うよ」


「そうか……? なら……、水の波よ、洗い流せ“水波”!」



スザァアァァッ!



漸く水の波が現れ、地面を少し濡らした。発動はしたものの、有舞同様にコントロールが全く出来ておらず、すぐに波は消えた。



「っはぁはぁ……。と、とにかく発動はしたぞ!」


荒い息を整えながら、レイトはニカッと嬉しそうに笑う。



「凄い! 頑張ったね」


「おう!」



――学生らしい、サキカとは違う笑顔。一瞬、羨ましいと感じて しまった。サキカはそれを誤魔化すために笑みを浮かべたのだった。 


×××××××××××××××



一方、ガイアとリリスは――




「もっと魔力をこめろ」


「……はいな」


「想像力が足りない」


「……了解」


「そこの魔力構築が変だ」


「はいはい……」



若干、スパルタと化していた。


ガイアの指導は厳しいが、的確でわかりやすい。



数分後―― 




「……風よ、渦を巻き、巻き上げろ“竜巻”!!」



風属性中級魔法の中でも、難易度が比較的低い魔法“竜巻”。


ブォオォォッ!!



リリスもコントロールはまだまだだったが、ガイアの厳しい指導の元、しっかりと発動できるようになっていた。


付け加え、魔力の質の封印が解かれたリリスは、以前よりも魔法を使うのが上手くなっている。




結局、この授業中に中級魔法を一つでも発動出来るようになったのは、クラスの四分の一程の生徒だったらしい。


授業十五分前になると中級魔法を発動出来るようになった生徒が、皆の前で実演をするようにとリミに言われ、ガイア率いる優秀な生徒は実演をした。


発動は出来ても、コントロールが出来ていたのは、ガイア、ユリアス、アーク、の三人だけであったのは言うまでもない。


 



因みにガイアが堂々と実演したのは、なんとあまり目にすることすらない上級魔法であった。



「火の陣よ、闇にも負けぬ炎となりて焼き払いたまえ“ほむら”」



――火属性上級魔法“焔”




ブォッ……




円を描くようにして現れた炎が、凄い勢いで燃え上がり、地面を黒焦げにした。



「すっげ……」


「上級魔法かよ」


「さすが学年一位」



それを唖然としながらも息を呑んで見つめていたクラスメイトの憧れの視線を浴びながら、ガイアはサキカ達のもとへ戻って来る。


ガイアはそのままサキカに飛び付いた。



「サキカ、褒めてくれ」



サキカは相変わらずのガイアの頭を、苦笑いで撫でた。リリス達三人以外のその光景を目撃した生徒はあんぐりと口を開け、見ていた。



「なぁ……、ガイアってやっぱりホモなのか?」


「いや、違うでしょ、…………多分」


「……」



三人の間にはガイアホモ疑惑が浮上していた。



「でもまあ、サキカは美人だし、ガイアはカッコイイし……、ありかも」


「……正直、オレなんてサキカが男なことに疑問を持ってるしな…………」


「ぼくもそう思う。初めて見たときはサキカ君は女の子かと思ったぐらいだし……」



サキカ女 子疑惑まで浮上し、流石のサキカも慌てた。女性に間違えられることは多々あるが、友人にまで女疑惑をかけられたくはない。



「違うから。ガイア、そろそろ離れて」



一先ず否定をしたサキカであったが、「俺はホモでもいい」というガイアの危険な一言に背筋に悪寒が走った。



「止めてよ……。俺にはそんな趣味ないから」


「冗談だ」



サキカの言葉に、ガイア無表情で言葉を返し、ようやくサキカから離れた。


サキカはレイト達をちらりと見て溜息を吐き、少し俯いた。よく言われる言葉であるが、聞く度に毎回落ち込んでしまうその言葉。 




「俺、そんなに女顔なのかな……」



ガイア達は慌てて取り繕った。



「ち、違うぞ!? 美人ってその……、か、カッコイイって事だ!」


「そ、そうそう! サキカは男前よ!!」


「君ほど男らしくてカッコイイ人はいないぐらいだよ」


「お、おう! サキカはオレからすれば姉……兄貴みたいだ!!」



言い間違えかけたレイトの台詞は聞かなかったことにして、サキカは少し顔を上げた。



「そう、……かな」



自信無く小さく呟く。



「ああ!」


「そうよ!」


「そうだよ!」


「おう!」



四人からの必死の肯定が返ってきて、それが可笑しくて思わず笑ってしまった。



「うん……。そうだよね」



――その様子にガイア達がホッとしたのは言うまでもない。




「今日の授業はここまで! 教室に戻ってね」



リミが声を張り上げた。サキカは生徒達の流れに逆らうことなく、教室に戻ったのだった。



.

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