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白銀の鳳蝶  作者: 祐多
第一章 学園編入
3/24

ニアン学園

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 カーテンの隙間から温かい朝日が射し込み、薄暗い部屋の中を照らし始めた。時刻は朝の六時。サキカは目を覚ました。

 普段ならば朝五時に起きて鍛練をするが、今日が始めて学園に登校する日と言うこともあり、今朝だけは鍛練を止めたのだ。

 昨日、学園に通えることを聞いてから、学園が楽しみで楽しみで仕方がない。長年夢見た学園生活なのだ。不安はあるがそれ以上に楽しみなのである。サキカは綻ぶ口元を引き締めて、大きく伸びをし、ベッドから出た。


 顔を洗い、簡単に朝食を取って歯を磨き、必要な物をまとめた。サキカが通う事になったニアン学園は、全寮制であるためどうしても荷物が多くなってしまう。サキカは悩んだ末、無属性の中級魔法“ボックス”を使い、荷物を納めた。


 “ボックス”は異空間を作り出す魔法で、その中は真っ白な何もない空間が広がっている。また、“ボックス”はその“ボックス”を作った者が開けば、場所を構わず開くことが出来る。つまり、“ボックス”の中に入れたものは何処にいても取り出すことが出来るのだ。付け加え、“ボックス”は中級魔法だが初級魔法並に簡単である。便利で簡単な魔法であるため、学生もよく使う魔法なのだ。



 あとは、魔力をどうするかだ。魔封具で抑えたものの、未だに体から溢れ出る魔力はAランク下位並のもの。これでは、魔力に敏感な者や強者には周りより強いと感じとらせてしまう可能性がある。

 サキカは軽く目を閉じると、身体から溢れ出る魔力や、身体中を循環している魔力を操り、無理矢理体内に抑え付けた。これでサキカから感じられる魔力は、一般的な学生より少し低いぐらいのものとなったはずだ。魔封具を使わずにこの方法のみで魔力を抑えるという手もあったが、無理に抑える魔力量はやはり少ない方が楽だ。



 制服や教科書は学園で渡されるため、サキカは動き易い私服に着替え、部屋を出て鍵を閉めた。

 向かう先は“紅蓮の破壊者”──つまりはガイアの部屋である。ドアをノックすると、準備を整え、制服を着た紅髪の少年──ガイアが出て来た。



「おはよう、ガイア」


「おはよ。さて、行くか」



 周りに誰もいないことを確認してから、転移で学園の近くの人気のない場所に移動する。

 何故転移で直接行かないかというと、普通の高等部一年生は転移魔法を使えないからである。転移魔法は高等部三年生で習い、たとえ習ったとしても、優秀な極一部の生徒しか修得出来ない。大人は約一割の者が出来るらしいが。

 サキカとガイアは十六歳、高等部一年生である。転移などしたらどうなることか目に見えている。

 馬車や車という手段もあるが、馬車に乗って学園に行くのは遠くから来るものと貴族ぐらいであり、車などという高級なものに普段から乗れるのは上級貴族ぐらいだ。


 二人で並んで登校していると、ニアン学園の制服を着た学生たちと出会でくわした。学園に近づくにつれて、その人数は増していく。

 ガイアと会話をかわしながら歩いていると、周りから痛いほどの視線を受ける。恐らく、私服姿の見たことのない同年代の少年──つまりはサキカ──が、ニアン学園の制服を身に纏ったガイアと歩いているからだろう。

 ニアン学園は小中高一貫となっているため、今日が入学式とはいえ、皆顔見知りばかりなのだ。名前まで知るのは同じクラスになったことのある生徒ぐらいであるが、廊下で何度もすれ違えば顔ぐらいは見覚えがあるのである。

 ところがサキカは今まで学園に通っていなかったため、見覚えのない人、それも私服姿である。


 しかし、それだけではここまで周りの視線を集めることはないだろう。ならば──。

 サキカはガイアをちらりと見た。綺麗な、というより男らしい、しかし整った顔立ちをしているガイア。注目を集めている理由は、隣を歩く彼だろうか。

 だが、自分以上に目を引きそうな彼には、あまり注目は集まっていないようだ。どちらかといえば、自分に視線が向いている気がする。自分の格好が何かおかしいのか。着ている服を見下ろすが、何もおかしな点はない。ギルドの自室を鏡を見たのだから、髪に寝癖がついていたり食べ滓が口の周りに付着しているということもないだろう。


 結局、その答えが出ることはなく、強烈な視線の中、二人は学園に到着した。



 ──しかし、学園は全く学園といえる外見をしていなかった。それは、例えるならば有名貴族持ちの巨大な城。もしくは 王家のエンブレムの刻まれた城。

 白を基調とした色合いが、上品さを醸し出している。門も大きく、高さは5mはあるだろう。城──もとい学園の周りは高い煉瓦の塀で囲まれており、それが威圧感を醸し出していた。


 ──およそ学園とは思えない外観。まさしくそびえ立つという言葉が似合うような、そうこれは、堂々とした白亜の城。

 それは全く学園のイメージとはかけ離れており、本当に学園なのかと疑いたくなるほどだ。

 一体誰がこんな『城』を『学園』としたのだろうか。しかし、深く考えたところで、サキカには理解できそうにない。


 サキカは考えるのを放棄して、ガイアの後について学園長室に向かった。


 学園の廊下は広かった。白い壁に絵画が飾られており、床は大理石と思われる石が敷かれている。内装もどこぞの王城かと錯覚させるようなものであるが、そこを行き来するのは騎士や使用人などではなく、サキカと同じ年頃の少年や少女で、それ以外は時折初等部の小さな子供や教師らしき大人だけだ。


 そしてガイアが足を止めたのは、一段と豪華な金の装飾が施された扉の前だ。扉向こう側から強い魔力を感じられる。おそらくは、この向こうが学園長室であり、学園長は強い魔力の持ち主なのである。



「はい」



 ガイアがドアをノックすると、返ってきたのは落ち着いた男性の声。



「「失礼します」」



 ドアを開け中に入ると、白っぽい色で統一された豪華な部屋の机を挟んだ正面に、立派な肘掛け椅子に座っている一人の男性がいた。

 よわい六十ほどの男性である。白髪混じりの黒髪を短く刈り込み、厳つい顔をして、緑の瞳を持つ目の目尻に、皴を寄せて微笑んでいる。


 男性の気配や魔力を近くで感じ、サキカは直感した。──この男性はつわものである、と。


 ドアが閉まると男性が立ち上がりサキカに近づき、右手を差し出す。その動作にも全く無駄がなく、しなやかな動きから必要最低限の筋肉を必要最低限の力で動かしていることが見て分かる。魔力特化ではなく、身体も相当鍛えているのだろう。



「君がサキカ君だね。ステラから君の話は伺っているよ。わたしが学園長のラウ・イスカーだ」



 サキカは躊躇しながらも右手を差し出し、作り笑顔を浮かべて握手を交わした。ラウの掌の皮膚は固く、ごつごつとしている。それは、右利きなのか両手剣でも仕様しているのか、はたまた盾を握っているせいなのだろうか。



「改めて自己紹介を致します。総帝“白銀の刀 使い”、サキカと申します。因みに名字はありませんので、必要でしたら適当に考えます」


「そうだね。……名字がないと目立つかもしれない。適当に考えてくれるかい?」



 ラウは手を離しながらサキカに頼んだ。──名字がない理由を詮索されなかった。名字がないということは、親がいないことを意味している。理由が詮索されなかったのは、学園には名字無しが多くいるからかもしれない。



「では……フォーラスとでもしておきます」


「分かった」



 適当に頭の中に浮かんだ名字を告げると、ラウは机にあった紙にフォーラスと書き留めた。それを書き終えると、彼はガイアに緑の目を遣った。



「礼を言ってなかったね。サキカ君の案内、ご苦労様」


「……いえ」



 いつもの仏頂面で短く答えるガイア。サキカはふとあることに気がつき、ラウに問いた。



「学園長先生、俺の制服や教科書はどうしたらいいのですか?」



 サキカは今、私服姿だ。ステラから制服も教科書も受け取っていないし、彼女に買いに行けとも言われていない。



「ああ、それならここに」



 ラウは机上にあった制服と教科書類を指差す。小さな山をなしているのは、科目数が多いせいなのだろうか。



「すまないがあっちの部屋で着替えてきてくれるか」


「はい」



 サキカは制服を机上から取り、ラウが指差す部屋で着替えた。制服はガイアと同じものである。サイズは着ると勝手に調整されるようで、長身のサキカには少し小さいように思えたそれは、今は丁度よいサイズにへと変わっている。

 サキカが着替えを終え、部屋から出てくると、ラウが説明を始めた。



「君の着ている制服は特待生のものだ。因みに君とガイア君以外に同学年には後四人、特待生がいる」



 サキカとガイアが着ている制服は、黒地に白と金のラインが入っている。よくよく思い返せば、確かに登校している時に見た制服には白と金のラインは入っていなかった気がする。



「クラスは1-S、ガイア君と同じクラスで学年で優秀な子が集まっているクラスだ。他の四人の特待生も同じクラスだから、仲良くなれるかもしれない」



 『ガイアと同じクラス』。それを聞いて、益々これからが楽しみになってきた。思わず笑みが零れる。



「さて」



 ラウがガイアを見た。



「君は先に行ったほうがいい。担任には君が入学式に出ないことを言ってあるが、サキカ君と一緒に行ったら、転入生と間違えられるかもし れない。まぁ、優等生の君の顔を知らない教師は、ここにはいないと思うがね」



 ラウは楽しそうに笑った。ガイアは無表情で答える。



「分かりました。……サキカ、教室で待っているからな」


「うん。また後でね」



 サキカは笑みを浮かべ、手を軽く振り、ガイアを見送った。彼と別れることに不安はない。教室に行けば会えるのだ。ガイアが出て行くと、サキカはフッと息を吐く。



「仲が良いんだね」



 ラウに話しかけられ、ラウの方を見ると、微笑んでいるラウと目が合った。



「ええ、俺の兄のようなものですから」


「兄?」


「はい。……幼少の頃から一緒にいますし、色々と世話になっていますから。友達、と言うより兄貴、ですね」



 ──幼少の頃を思い出した。懐かしいそれに口元を緩める。あの頃の彼は今のように落ち着いた性格をしていたわけではなく、やんちゃで悪戯好きの少年であった。



「成る程」



 ラウは優しげに笑った。先ほどまでの笑顔より、柔らかく親しみに溢れているのは何故だろうか。

 


「あっと、忘れるところだった。教科書をしまってくれるかい? そのままだとこの場に忘れて行くだろう」


「そうですね……」



 サキカは頷いて“ボックス”の中に教科書を納めた。たしかにこのまでは忘れて行きかねなかった。暫く談笑していると、ドアをノックする音がした。ノックした人物が、サキカがここで待たされている理由であろうか。



「どうぞ」



 ラウが返事をする。



「失礼します」



 ハスキーボイスの声の後に部屋に入ってきたのは、薄い水色の髪を短く切り、青色の目をした、二十代前半の若い女性であった。ボーイッシュな印象をうける顔立ちが戦いの経験を積んだ女兵士のようだ。



「イヴ先生、時間通りだね。こちらが貴女のクラスに入る事になった、サキカ・フォーラス君。サキカ君、担任のイヴ・グランツェ先生だ」


「御紹介いただきました、サキカ・フォーラスと申します。宜しく御願い致します」



 サキカは右手を胸に当て、左手を背後にまわし、軽く左足を引き頭を下げる。

 これはこの世界における、一番美しいとされている礼の仕方だ。一昔前は王族や上位・中位の貴族、帝や二つ名持ちの強者ぐらいしか使用しない高貴なものといわれていたが、今では目上の人に対して商人が使用したりもしている。


 何故か知らないが、イヴは顔を赤らめてほんの少し目を反らした。なにも言わずに口をつぐんでしまったイヴにどうしたものかと迷ったが、サキカは声をかけた。



「……イヴ先生?」



 イヴは小さく咳払いをすると、再びこちらを見てくれた。青い瞳とサキカの目が合う。



「……私は先程紹介があった通り、イヴ・グランツェだ。これから宜しく頼む」



 彼女は話し方まで男前のようであった。



「はい」



 微笑んだサキカに、イヴが再び目を反らす。初対面で嫌われてしまったのかと気分が沈み込みそうになったが、それはさすがにないだろうと結論を出す。しかし、ならば何故彼女は目をそらすのだろうか。

 イヴは反らした目をラウに向け直していた



「では、教室にフォーラス君を連れて行こうと思います」


「頼む」


「はい。……失礼いたしました。フォーラス君ついて来なさい」



 イヴはドアを開け、サキカを見た。今度はしっかりと目があった。初対面の、それも担任の先生である彼女に嫌われたわけではなかったのだと安堵する。



「はい。学園長先生、失礼いたしました」


 イヴはサキカがついて来たことを確認すると、教室に案内してくれた。歩いている間、二人は無言であった。しかしそこに気まずさはない。イヴはあまり口数が多い方ではないようで、だが、サキカもようもなく自分から話しかけるような性格ではなく、必然的に無言となったのだ。


 教室の前に着くと、イヴが口を開いた。


 教室には既に皆がいて席についてイヴの到着を待っている様子が、ドアにはめられたガラス越しに見えた。



「私は先に教室に入って行く。君は私が合図したら入って来てくれ」


「はい」



 サキカは頷き、返事をした。 イヴが教室に入って行き、広い廊下で一人になると、自分が緊張している事に気が付いた。

 戦闘前の少しピリピリした体が引き締まるような緊張感とは違い、今までに体感したのことのない、地に足がついていないかのような不安がある緊張感。



(何でしょう……この感じは)



 自分が今まで感じたことのないものを感じ少し戸惑ったが、イヴに目で合図を送られ、不安を拭い、気を取り直してドアを開け教室に入った。


 教室も全体的に白かった。クラスの人数の割に広く、そして廊下から見た広さと矛盾が生じている。おそらくは空間属性魔法によって、空間を拡張してあるのだろう。


 サキカが教室に入ると少しざわめいていた教室が、一瞬沈黙に包まれ、直ぐに歓声が上がる。一部の男子からは刺さるような視線。

 サキカとしては居心地が悪くてしかたがない。拭い切れなかった不安が込み上げてくる。


 しかし、イヴの隣に立ち前を向くと心配そうにこちらを見る紅い髪の少年──ガイアと目が合い、安心感が湧いた。サキカは心配はいらないと、ガイアにいつもの微笑みを送ったのだった。



「フォーラス君、適当に自己紹介してくれ」



 こうなることはある程度予想していた。サキカは廊下を歩きながら考えていた台詞を口にする。



「サキカ・フォーラスです。ギルドランクはEです。宜しくお願いします」



 頭を下げて一礼すると、教室内がざわめいた。



「何だ落ちこぼれかよ」


「よくSクラスに入れたな」


「特待生のくせに落ちこぼれかよ」


「あれじゃね? 金払って特待生にしてもらったんだろ」



 生徒たちからそんな言葉が発せられる。

 サキカの記憶によれば、高等部一年生のギルドランクはC~Dぐらいである。しかし、特待生でEランク。生徒の反応は当然だ。サキカはそれを予測しながらもわざとEランクと言ったのだ。


 サキカが弱いと知れば、わざわざ戦いを挑んでくる者はいないだろうと考えたのだ。そう、つまりこれは、正体を知られないための策である。

 もし、戦いを挑まれた場合、手加減をすればよいのだが、勘が良い人には手加減をしていると気付かれる可能性も無くはない。

 それならばなるべく戦いを避けようと考えて出した答えである。


 サキカは冷静にその様子を眺める。予想通りの結果に、満足すらしていた。これならば、不要な戦いから逃れられるであろう。だが──。

 突然ざわめきが消えた。突き刺さるような殺気が、ガイアから放たれたのだ。勿論、サキカだけを避けて。恐らく、ガイアはとてつもなく怒っている。



「ガイア」



 サキカがたしなめるとガイアはビクッと身体を震わせ、殺気が消えた。おそらくあれが殺気だとわかった者は、ほとんどいまい。学生が相手をしたことがあるのは、せいぜい中級に位置する魔物である。身動きすら制限されるような強い殺気など、浴びたのは初めてだろう。


 殺気が消えたことにより、皆は安堵したように身体の強張りを解いた。それが何かわからなくとも、強烈な殺気に命の危険を感じていたに違いない。



「……あぁ、確かフォーラス君はガイアと知り合いだったな」



 恐らくラウがイヴに話しておいてくれたのだろう。先程の殺気は彼女には向いていなかったであろうが、殺気自体には彼女も気がついたのかもしれない。



「はい。それと俺の事はサキカで結構です」


「分かった。……サキカ、な。ガイアの隣は丁度あいているし、隣の席にするか?」


「はい、ではそう致します」



 サキカは礼を告げる代わりに微笑み、ガイアの隣の席に座った。



「これで全員が揃ったから、授業を始める。今日は魔力量と魔力の質と属性を調べる。魔力量と属性はこの球体、魔力測定機、魔力の質はこの立方体、質測定機を使って測ることが出来る」



 魔力量とはその名の通り、魔力の量のことである。

 人は一人一人持っている魔力量が違う。持っている魔力量が多ければ多い程、魔法を使える量も多くなる。魔力は時間をかければ回復をするものだが、そんなに早く回復するものではない。

 人により個人差があるが、魔力が無くなるぎりぎりまで使った場合、全回復するまで四日~一週間かかる。だからこそ、持っている魔力量は多い方がいいのだ。


 魔力の質とは、言うなれば魔力の密度であり、こちらは高ければ高い程、魔法の威力が高くなる。

 魔法の質はランク付けされており、一番上がS、そこから順にA~Gとなっており、これは努力をすれば高くなるが、それでもどれほど努力をしてもBランクぐらいまでにしかならず、それ以上のランクの者は大抵、生まれつき質が高い魔力を持っている。


 成長期で日に日に増加していく魔力量や訓練次第で多少は良くなる質はともかく、属性は初等部の時に調べているはずで、すでに皆自分の属性を知っているはずであるが、ならばなぜ改めて調べ直すのか。

 実はそれは、魔力をはかるのに使用する道具──今から使うのは魔力測定器だが──は、ほとんどのものが属性までも調べれるようになっているからであり、特に意味はなかったりする。あえていうならば、進化属性や派属性とよばれる属性が使えるようになったかを調べるためである。


 サキカはふと思った。どうやって誤魔化そうか、と。

 封印した状態でも、サキカの魔力量はAランク並だ。そんなに大きな魔力量を持つEランクなどいるわけがない。属性など、持っているのは普通は一人一つか二つだ。

 属性や魔力量は、魔力を流す時に気付ければごまかしが利く。しかし魔力の質はそうはいかない。

 今まで魔力の質は下げる必要など一度も無かったため、どうすれば質を低く出来るかが分からないのだ。


 考えるが、良い案が浮かばない。



(いっそのこと、イヴ先生には僕の正体を話してしまいましょうか……)



 そうすれば動き易すくなるであろうが、イヴを信用して良いものなのかがまだ判断がつかない。測定してからどうにか誤魔化すしかないだろう。

 結論を出したサキカは、意識を思考から引き上げた。

 思考に費やした時間は僅か五秒間。それはサキカが“白銀の刀使い”として活躍しながら培った判断力の賜物である。



「名前を呼ばれた者からこちらへ来い。ではアンドリューから」



 イヴに呼ばれた少年が、前の教卓まで出ていく。茶色髪を七三分けにしワックスで固め、瞳も茶色。いかにもお坊ちゃまといった風体ふうていの少年の制服には、白と金のライン。特待生である。


 教卓の上には透明な球体と水色の透明な立方体が、一つずつ置いてある。前者が魔力測定機で、後者が質測定機である。今から使用するあれらより、さらに細かい数値がはかれ、さらにはかれる最大値が数倍のものを、サキカは以前ギルドで使用したことがあった。



「まず魔力測定機に魔力を流してくれ」



 アンドリューは魔力測定機に軽く触れる。サキカは彼が魔力を流したのを感じとる。すると球体に数字と色が浮かび上がった。

 数字は魔力量、色は属性を表しており、色はそれぞれ、赤は火属性、青は水属性、緑は風属性、黄は雷属性、茶は土属性、白は光属性、黒は闇属性となっており、進化属性や派属性と呼ばれるものは元の属性と近い色で表されるものが多い。


 アンドリューの魔力を流した魔力測定機は、“80000”という数字と、黄色の渦巻きが出来ていた。


「……属性は雷、魔力量は八万か。さすがはヴィルソン家、五大貴族だな」



 アンドリューはどこか誇らし気な顔をしていた。少しばかり教室がざわめく。サキカは驚いていた。



(あのヴィルソン家、ですか)



 五大貴族はとても有名である。王族や帝の次に発言力を持ち、代々強力な兵士や魔法使いを世に送り出している、五大貴族。その実力は、素質と努力によって維持されており、それはアンドリューも例外ではないだろう。



「次、質測定機に魔力を流してくれ。今度は少しで良い」



 アンドリューが魔力を質測定機に流すと、質測定機が光り出し、Cという文字が浮かび上がる。



「Cか。こちらも流石だな」



 アンドリューの口元は緩んでいた。誉められて嬉しい、というより、ほっとしたようなそんな表情だ。測定結果がよくなければ両親にでも怒られるのかもしれない。ヴィルソン家の子供は、たしか一人であったはずだ。次期当主ならば、結果の良し悪しで両親の機嫌が変わるのは、当然であろう。当主の実力が今一であったら、他の上級貴族から見下されてしまうのだから。



「次、──」



 生徒の名前が次々と呼ばれていく。そして、ある人物の名前が呼ばれた。



「次、ユリアス」



 一人の少女が席を立つ。制服には白と金のライン、特待生である。


 生徒が再びざわめき始める。

 それは、その少女の容姿故にだろうか。薄く緑がかった腰まである長いさらさらの髪、エメラルドグリー ンの瞳を持つ、大きな目。幼さを残しながらも整った目鼻立ちは、美人というより、可愛いという言葉の方が似合っていた。背は真っ直ぐに伸ばし、凛とした姿が何とも美しい。

 しかし本人は緊張のためか、少し顔を強張らせていた。



 ──その少女を一目見た瞬間、なぜかサキカの鼓動がはやまった。



 理由が分からず、サキカは眉を寄せる。会ったこともない少女だ。美しい少女であるが、美しい人物というのは今までも何度も目にしてきた。しかし、綺麗な女性を見て鼓動がはやったことなど、今まで一度もない。

 なぜか目を離すこともできない。釘付けになったかのように、サキカの視線は彼女から離れないのだ。一体全体、彼女がどうしたというのだろうか。


 ユリアスと呼ばれた少女が、測定をはじめる。



「魔力量・十万、属性・風。アクスレイド家も優秀だな」



 ──アクスレイド家。風を担う五大貴族の一家である。

 それを知らなかったらしい生徒がさらにざわめきを大きくした。しかし、サキカの鼓動がはやまった理由は、それではないだろう。なぜ、彼女がこんなにも気になって仕方がないのだろうか。


 ユリアスが白く細い手で質測定機に軽く触れ、魔力を流す。



「……Bか。アンドリューより凄いな」



 ざわめきの中、ユリアスがほっとしたような表情で席に戻っていった。彼女もアンドリューと似たような状況なのかもしれない。

 彼女がサキカの死角にはいると、ようやく目をそらすことができた。妙にはやまった鼓動もおさまり、安堵の息を吐き出す。



「次、リリス」



 ローブで体を包み、フードで顔を隠した女子らしき生徒が、席を立った。その背は低い。髪の毛まですっぽりと隠されているため、髪色すらわからない。

 そして、先程とは違う、ある種のイジメのようなざわめきが聞こえてきた。



「何だ落ちこぼれ、まだいたのかよ」


「Sクラスの恥だ」


「顔隠してキモいんだよ」



 ヒソヒソと話す声。

 リリスというらしい少女と全くかかわりのないサキカまでもが、それの声に怒りを抱いた。リリスの友人であると思われる彼女の隣の席の女子生徒が、きつく拳を握ったのが見えた。ガイアも友人なのか、先程からサキカの時ほどではないものの、ピリピリとした殺気を放っている。



 ──抑えようとしているが、怒りも殺気も抑えきれない。サキカにとっていじめというのは、これほどまでに怒りを感じるものなのだ。サキカの身体から僅かに殺気が漏れだした。



 僅かといえど、総帝の殺気だ。途端にざわめきが止む。

 今、生徒が感じているのは死への恐怖であろう。首筋に刃物をあてられているかのような、恐怖。


 おそらくは、生徒の大半がそれの正体がわからない。しかし、それゆえに恐怖心が増すに違いないのだ。正体のわからないものほど怖いものはない。

 それはリリスやリリスの隣の席の生徒、イヴ、ガイアを器用に避けて、教室中の生徒に向ける。


 イヴとリリスは、ざわめきが止んだことに疑問を感じているようだったが、殺気には気が付かずに測定を始めた。



「魔力量・七千、属性・風」



 ──魔力量があまりにも少ない。


 通常、こ の年頃になると皆、魔力量は四万ほどあるものだ。

 しかし、リリスは七千。これが苛めの原因であろう。──昔のサキカとは正反対だ。今ではもう思い出したくも無いような記憶が蘇り、サキカは自嘲気味に少し笑った。



「質はEか。……よし、次、有舞」



 測定が終わったため、サキカとガイアが殺気を放つのを止める。殺気が消え、生徒がほっとした顔をした。


 リリスの隣の席の女子生徒が立ち上がる。亜麻色の髪に薄緑色の瞳の少女。少しきつい目が特徴的である。



(名前からして、東の国の方、でしょうか?)



 東の国は中央の国とは言語が異なる。東の国の言語はジパング語、中央の国の言語はオルス語である。ジパング語には漢字というものがあり、東の国の者の名前は、漢字で表されている。また、ジパング語は発音が変わっているため、名前を聞いただけでも東の国の者だと直ぐに分かるのだ。

 サキカの名前も実はジパング語である。発音的に明らかにオルス語ではないことに、親友のガイアは気がついているだろう。しかし、彼は、今まで一度もそのことについてサキカに訊ねてこなかった。彼は彼なりにサキカを気づかってくれているのかもしれない。

 有舞はリリスとすれ違いざまに笑顔を交わし、前へ出ていく。前に行くと魔力測定機に触れた。



「魔力量・七万、属性・光」



 どうやら有舞は優秀な生徒らしい。よく見てみると制服は特待生のものである。

 次に有舞は質測定機に触れた。



「Dだな。……次、──」



 その後、暫く何事も無く進んでいったが、再びざわめきが起こった。どうやらその生徒は、学園では有名らしかった。


 アーク、と呼ばれた少年。少し長めの茶色の髪に、同じく茶色の瞳。銀縁の眼鏡をかけており、いかにも優等生らしい。そして白と金のラインが入った制服。


 アークが測定を始める。



「……魔力量・十三万五千、属性・土。流石、学年二位」



 ──学年二位。成る程、生徒が騒ぐわけである。しかし、学年一位は──。



(おおよそ予想はついているのですが……)



 サキカはちらりと隣に目を向ける。その生徒──ガイアはサキカの視線には気が付かず、眠たげな瞳で測定を見ていた。



「質はCだな。次、ガイア」


「じゃ、行ってくる」



 ガイアが席を立つと、アークの時以上に教室がざわめいた。ガイアが教卓の前に行き、測定を始める。



「……魔力量・十五万七千、属性・火、 闇、黒炎。学年一位は伊達ではないな」



 途端、一気に教室が騒がしくなった。



「十五万七千っ」


「すげぇ」


「ガイア君、カッコイイ!」


「はあ……流石ガイア君だわぁ」



 生徒から歓声のようなものが上がる。


 勿論、これはガイアの本気ではないだろう。ガイアもサキカと同様に魔封具を付けており、更にその状態で加減をしている。

 しかも、ガイアの本来の属性は普通属性の火・闇と、火属性の進化属性(派属性)──普通属性の上位属性で、普通属性魔法よりも進化属性もしくは派属性とよばれている属性の魔法の方が威力や効果が高く、その進化属性のもとの属性を持っていれば努力次第で習得可能であり、生まれながらに持っている者もいる──の黒炎・蒼炎であり、蒼炎属性を使えることを隠しているのだ。

 

 ガイアは歓声を無視し、無表情のまま質測定機に触れる。



「! ……A」



 更に生徒からの歓声が上がる。これには流石のイヴも驚いた様子であるが、ガイアは生徒からの声が煩いのか、わずかに眉間にしわを寄せただけであった。



「予想以上だな……。凄いな、ガイア」


「いえ」



 ガイアはにこりともせず、席に戻った。



「次、サキカ」



 サキカが席を立つと、冷ややかな視線が向けられ、嘲笑が起こる。



「精々頑張り給え、フォーラス君」



 アンドリューの席の横を通ると、アンドリューがニヤニヤしながらクラス中に聞こえるような声で言った。さらに笑いが沸く。

 だが、それは突然止んだ。ガイアがまた殺気を放っているのだ。



「ガイア」



 サキカはガイアを見ることもなく、名前を呼んで彼をなだめる。直ぐに殺気が消え、クラスに沈黙がおりた。

 しかしそれはアンドリューの一言によって元の雰囲気に戻った。



「……流石落ちこぼれ君。他人に頼らないと何も出来ないなんてな」



 再びクラスは笑いに包まれる。ガイアがきつく唇を噛み締めるのが見える。──ガイアには悪いことをしてしまった。後で謝罪すべきだろう。サキカは一息吐くと、教卓に向かった。


 魔力は一万ほどであると測定器に誤認させるとして、属性はどうしようかと迷う。サキカは全ての普通属性と派属性・進化属性を持っている。 特別属性も持っているが、この魔力測定機は普通属性しか調べられないため今は関係ない。正直、こんなにも属性を持っていても、普段使うのは得意な属性の水の進化属性の氷と特別属性の植物だけである。



──考えた末に選んだのは、火属性と光属性。



 属性には様々な特性がある。攻撃特化の火属性と防御や治癒、そして速さが優れた光属性の二属性ならば、バランスが良い。

 サキカは魔力測定機に触れ、火属性と光属性の魔力をほんの少し流した。



「魔力量・一万、属性・火、光。Eランクにしては良い方だな」



 それを聞き、教室が益々騒がしくなる。



「流石落ちこぼれ君、予想以上だよ」



 アンドリューがイヴの言い方を真似てサキカをあざけた。教室を包み込むのは、サキカを馬鹿にしたような悪意に満ちた笑い。しかし、サキカは気にとめない。何かを口にしたところで、ますます酷くなるだけだと経験から知っているのだ。



 ──しかし、教室は数秒後に静まり返ることとなる。



(……質、……どう致しましょう)



 魔力を流せばどうなるかなど、既に経験済みだ。ギルドでこれよりも性能のよいものではかったことがあるが、あれで「ああなった」のだから、これでも間違いなく「ああなる」だろう。だが、魔力を流さないわけにはいくまい。

 結局、良い案は浮かばず、諦めたサキカは質測定機に軽く魔力を流した。



 ──質測定機は強烈な光を放ったかと思うと、高い音をたてて割れて粉々になってしまった。予想通りだ。



 教室中が沈黙。唖然としているイヴと生徒を見て、サキカは苦い顔をするしかない。ガイアが珍しく大笑いしているのが、視界の端に映った。ちなみに声はあげていない。



(………………………どう致しましょう)



 サキカは頭を抱えたくなった。しかし、どうにかしてこの空気を変えなければならない。とある案を思いつき、口を開く。



「………これは、弁償ですか?」



 ──サキカはこの場に似合わぬ発言をしたのだった。そのおかげて幾分か雰囲気が和んだ。



「……いや、いい。それにしても凄いな。間違いなくSだ」



 イヴがそれに答える。サキカは誤魔化すために微笑んだ。



「俺は魔力量が少ない代わりに質が良いんですよ」



 イヴは納得した顔で頷く。そういう者も少なくはないからだ。



「そうか……。しかしこれでは測定が続けられないな」



 イヴの言葉にサキカはうなだれる他ない。仕方がなかったとはいえ、大破させてしまったのだ。



「あ、いや! 代わりが職員室にあるから気にするな」



 落ち込むサキカに、イヴが慰めの言葉らしきものをかけてくれた。



「……申し訳ありません」


「気にするな! 今代わりを持って来るからな、席について待っていろよ」



 イヴが教室を出ていく。サキカはとぼとぼとと席に戻った。ガイアはそんなサキカの頭を無言で撫でてくれたのだった。


 暫くしてイヴが帰ってきて測定が再開され、その後は順調に進んで行き、特にハプニングもなく、予定していた時間どおりに測定は終わった。



「さて、今日はここまでだ。明日から授業が始まる。遅刻などないように」



 イヴは丁度鳴ったチャイムと共に、教室を出て行った。生徒は席を立ち、三々五々散って行く。


 しかし、青瞳青髪そして垂れ目の男子生徒一人と、確かリリスと有舞と呼ばれた女子生徒がこちらの方へ近付いて来た。



「ガイア、帰ろうぜ。サキカも良かったら一緒に帰らないか?」



 青髪垂れ目の男子生徒が、サキカとガイアに話しかけた。ガイアの友人であろうか。

 彼らが彼らからしたら落ちこぼれであるはずの自分とも仲良くしようとしてくれていることに気が付き、サキカはとても嬉しかった。



「あぁ。……お前らサキカに自己紹介しろよ」



 ガイアの態度は素っ気ない。しかし、紅の髪から覗く耳が、うっすらと朱色に染まっている気がした。もしかしたら彼は照れているのかもしれない。



「おぉ、わりぃわりぃ。オレは──」


「あたし、鈴方すずかた 有舞なおま、特待生よ。一応言っておくけど、祖父は東の国出身だけど、あたしは中央の国で生まれ育ったわ。ランクはB、属性は光。だけど魔法は苦手でいつも弓で戦ってるわ。有舞って呼んで。宜しく」



 有舞は青髪の男子生徒を遮って自己紹介をした。いつものことなのだろう、ガイアはなにも言わない。



「酷くないか!?」



 青髪の男子生徒は叫ぶが皆は無視である。どうやら彼は普段から無視をされているようだ。かといってそこに悪意は感じられず、なぜか微笑ましく感じられた。彼らからしたら、これは単なるじゃれ合いなのだろう。



「うぅ……お、オレは──」


「ぼくはリリス・クローネ。属性は風、ギルドランクはE。……気が付いていると思うけど 、落ちこぼれだよ。ぼくはこのクラスに入るような実力は無いけど、学園長先生が有舞達と同じクラスにしてくれたんだ。こんなぼくでよかったら、仲良くしてほしい。ぼくのことはリリスでいいよ、これから宜しく」



 リリスも男子生徒を遮って自己紹介した。



「ひ、酷い……」



 男子生徒は半泣きである。サキカは苦笑しながらも他意識は他のところに向いていた。



(この魔力は……)



 サキカはリリスから発せられる魔力に驚いていたのだ。ちらりとガイアを見ると、どうやら正解らしい。



「流石サキカ。魔力だけで気が付くなんてな」



 ガイアの言葉に一同が驚く。リリスが口を開いた。



「……よく気が付いたね、ガイアでも気が付かなかったのに」



 ──彼女から発せられる魔力は、人間のものではなく、獣人と呼ばれる、獣の耳や尾をもつ一族のものだった。



 獣人は差別の対象になることが多い。おそらく、あのマントとフードは獣人特有の耳や尾を隠し、獣人であると知られないための手段なのだろう。


 しかしサキカが驚いていた理由はそれだけではなかった。

 確かにリリスから感じる魔力は小さく、質も普通より少し低いぐらいである。だが──、サキカはそれに違和感を感じていた。


 質は言うなれば魔力の密度と、魔力一粒一粒の良し悪しのようなものである。そして魔力の質が良いと、魔法の威力も高くなる。つまり、魔力が濃いほど質が良い。

 しかしリリスの魔力には違和感がある。何かで抵抗を付けて密度を低くしているような、無理矢理魔力の粒の一つ一つの隙間を広げて質を悪くしているような、そんな違和感。


 そしてサキカは直感した。──リリスの魔力の質は封印されている、と。



「……サキカ君?」



 黙り込んだサキカを心配そうにリリスが見上げる。フードのしたから覗く彼女の顔立ちはまだ幼く、暗いせいで瞳の色まではよくわからない。



「……あ、ゴメン。ぼうっとしてた」



 サキカは作り笑顔を浮かべて、青髪の男子生徒の方を見た。



「その……、君は?」



 サキカはガイアぐらいとしか同年代の人と話したことがない。それ故に少し緊張していた。どのように話したらいいのか、よくわからないのだ。



「おお、サキカ、君だけはオレの味方だ~!」



 しかし、男子生徒は全くそれに気がつかず、なぜか涙を流し始めた。



「えっと……、ゴメン、自己紹介してもらえるかな」



 サキカは狼狽うろたえて、どうしたらよいのかわからずに気まずく笑みを浮かべた。どうも彼との距離感が上手く掴めない。



「あ、あぁ!」



 男子生徒は制服の袖で涙を拭き、顔を上げた。



「オレはレイト、ルシファ・レイトナール。名前で呼ばれるのが嫌いだからレイトって呼んでほしい。属性は水、ギルドランクはC。宜しくな、サキカ」



 ニイ、と笑ったレイトに、サキカの緊張がわずかに解れた。──何となく、彼らとは仲良くなれそうな気がした。

 それは親友であるガイアの友人であるからなのか、それとも彼らの笑みから嬉しげな感情を感じ取ったからかもしれない。



「うん、宜しくね」



 サキカは、これからの学園生活に期待を抱きながら、ふわりと微笑んだ。



.

鈴方すずかた 有舞なおま


ちょっときつい目が特徴の女子生徒。特待生であり、潜在的な能力が高い。亜麻色の髪に薄緑色の瞳をしている。身長は平均的。



ルシファ・レイトナール(通称レイト)


青髪青眼、垂れ目の少年。いじられキャラ。なかなか顔立ちはいいすだが、色々と勿体ない性格をしている。しかし、その性格が悪いわけではない。身長は平均的。



リリス・クローネ


獣人の少女。背は低く、童顔。しかし、声は低め。魔力量から落ちこぼれと呼ばれているが……。



ユリアス・アクスレイド


五大貴族がアクスレイド家長女。可愛らしい顔立ちをしている。髪色は薄い緑で、瞳はエメラルドグリーン。



アンドリュー・ヴィルソン


五大貴族がヴィルソン家長男。茶髪を七三分けに固め、瞳も茶色。何故かサキカとリリスに敵対心を抱いている。



アーク・レオン


学年第二位の少年。茶髪に虎眼石タイガーアイの瞳。銀縁眼鏡を常にかけ、優等生のような雰囲気を身に纏う。




☆魔法


“ボックス”<補助・無・中級下位>

物を異空間に仕舞う魔法。もとは特別属性である空間属性魔法であったのを改良して、誰でも使えるようにと作られた。ちなみに転移魔法も元空間属性魔法であるが、“ボックス”の難易度とその難易度には雲泥の差がある。

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