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白銀の鳳蝶  作者: 祐多
第一章 学園編入
2/24

ギルド

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 “白銀の刀使い”が転移した先は、ギルド“月の光”本部内の自分の部屋の中であった。


 ギルドとは何か困ったこと──例えば「村の近くに強い魔物が現れて、今にも村に襲いかかってきそうである」、「病気の治療のための魔法薬に必要な材料になる植物が、魔物が大量に生息している場所にあって採りに行けない」等々といった問題が起こったときに依頼をすれば、それらを解決できる者と依頼人を結びつけてくれる機関である。

 依頼を受諾して達成した者には、あらかじめ依頼人からギルドに支払われていた依頼料が報酬として支払われ、その一部がギルドのものとなる。

 ちなみに、ギルドに所属していない、もしくは他のギルドに所属している場合でも、ギルドカードさえあればどこのギルドでも依頼を受けることが可能だ。


 ギルドはいくつも存在するが、“月の光”はその中でもっとも大規模で有名なギルドであり、“月の光”に所属する者の中でも一部の優秀な者で構成された零から七まである隊は、全てのギルドの隊の中で最も強いとされている。



 ──このギルド“月の光”の中では転移はできないように結界が張られているが、“白銀の刀使い”はそれをすり抜けて転移していた。勿論、真似できる者などいない行為であろう。



 モノトーンの落ち着いた自室には、生活感の欠片もない。セミダブルサイズのベッドと衣装箪笥に大きな本棚と小さな備え付けの棚しかない。隣には執務室があり扉で続いているが、こちらは寝泊まり用の部屋だ。もうひとつの扉は廊下と直接繋がっているが、“白銀の刀使い”の寝室に直接足を踏み入れる者など、本人以外ほとんどいない。

 “白銀の刀使い”は小さくと息を吐くと、フードをとりベッドに寝転がり、目を閉じる。疲れているが眠気はない。“白銀の刀使い”の睡眠時間は短く、普段寝るのは早くとも深夜零時だ。



 ──しばらくそうしていたが、“白銀の刀使い”はあるものを感じ取り、直ぐに目を開け椅子に腰掛け、フードを被り直そうとして、その必要がないことに気が付く。


 そして、次の瞬間、



「サキカ!!」



 ドアを乱暴に開け、一人の男と思われるフードで顔を隠した人物が、赤いマントをはためかせ、飛び込んできた。

 何故かはわからないが、ドアは勝手に閉まり、男は“白銀の刀使い”──サキカに抱き着く。──否、飛び付いた。



「ガイアですか……」



 サキカは呟くと、易々とガイアを避けた。当然、ガイアは勢いのままにベッドに飛び込む事になる。

 柔らかそうな音と共に、なぜか砂っぽい埃が舞った。その衝撃でフードがとれ、赤いマントの男──ガイアの男前な顔と鮮やかな紅髪があらわになる。



「どうしたの?」



 サキカが聞くとガイアは顔を上げ若干眉根を寄せて、綺麗な紅い目でサキカを見上げて抱き着いてきた。その顔は間違いなく整っているのだが、今は汗やら泥やらで悲惨なことになっていた。



「ちょっと今度は何があったの?  その前に学園は?」



 ガイアはサキカと違い、学園に通っている。現在の時刻は一時。まだ彼は授業中の筈である。



「今日はまだ春休みだ。……そんなことどうでもいい、心配した」



 ガイアのギルド服を見ると所々砂や泥で汚れており、ガイア自身も汗まみれである。どうやら、何処からかサキカが魔人と戦ったのを聞き付け、依頼を即行で終わらせて駆け付けたらしい。



「心配しなくても、怪我一つしてないよ。俺、これでもXランクなんだから……」



 サキカのギルドランクはX。──それは最強を意味するランク。

 ギルドランクとは、そもそも世界政府が作ったものであり、その人物の強さをランクで表したものである。下から順にF~A、AA、AAA、S、SS、SSS、Xとなっているが、Xランクはサキカ一人しかおらず、SSSランクも十二人しかいない。SSランクも少なく、Sランクでさえもぎりぎり四桁に届くような人数しかいないのだ。


 一人しかいない最高ランクを持つサキカは、最強と言われているのである。そんなサキカが、あのような中級魔人ごときに負けるわけがない。最も、最強と呼ばれるサキカだからこそ『ごとき』といえるのであって、あれらは本来は強いのだ。だが、サキカが負けるはずがないという事実は真であり、ガイアはサキカに関して心配性気味なだけである。


 それに今回は不本意ながら魔人と戦った。元来、サキカは自ら進んで戦うような好戦的な性格をしているわけではない。それどころか争いを好まず平和を望む、穏やかなといえるであろう性格をしている。

 サキカは別件の依頼であの森に出かけただけなのだ。中級魔人と戦ったのは、無論少女を助けるためで、好んで戦ったわけではない。



「それはわかってるが……」



 彼の口調は落ち着いているが、焦って駆けつけたのが彼の格好から伝わってきた。



 ──魔人と人間の間には古くから確執があり、それゆえに心配だったのだろう。



 サキカは苦笑しながらも、大人しく抱きつかれていることにした。サキカにとって彼は兄弟みたいなものなのだ。長年共に過ごした彼のこちらを心配する気持ちはわからなくもない。暫くしてようやく落ち着いたのか、ガイアは溜め息を吐いて離れた。



「あぁ、そうだ。伝えることがあるんだが……」



 ガイアが急に真面目な顔になり、サキカを見据える。一体何事だろうか。サキカも顔を引き締めた。


 

「ギルドマスターが呼んでるぞ?」



 ギルドマスターとは、ギルドで一番上の立場の者で、大抵はそのギルドを作った者か、その者の弟子や血縁関係のある者がなるものだ。



「……何でもっと早く言ってくれなかったの?」



 急用だったらどうするのだろうか。ベッドから立ち上がりながら尋ねる。



「サキカが心配でそれどころじゃなかった」



 ガイアの言い分に思わず溜息を吐きそうになり、何とか飲み込んだ。大丈夫だといっているのに、彼はいつもこうだ。いちいちこのようなことで溜息を吐いていたらきりが無い。



「……取り敢えず行くよ。 “転移”」



 サキカはギルドマスター室の前に転移した。しかし、なぜかガイアも、サキカの身体に触れて一緒に転移した。転移魔法は、術者の身体に触れると触れた者も魔法の影響範囲にはいるのだ。一人で転移するより多くの魔力を消費するが。



「……何でついて来たの?」


「俺も一緒に話を聞けって言われた」


「そう……。 何の話だろう」



 サキカは考えながらもドアをノックし、中にいる人物に声をかけた。



「マスター。“白銀の刀使い”と“紅蓮の破壊者”です」



 ──“紅蓮の破壊者”はガイアの二つ名である。ガイアは炎帝でもあり、世界で三番目に強いのだ。ちなみに二番目は中央の国の国王である。そして、ガイアはサキカの相棒のような存在であった。



「入って」



 艶やかな若い女性の声がそれに応えた。



「「失礼します」」



 サキカがドアを開け、 二人はギルドマスター室に入っていった。



「サキカ~~!!」



 ──ドアが閉まった途端、ギルドマスターのステラが抱き着いてくる。その衝撃でサキカのフードが外れ、銀の髪が首筋や額をくすぐった。



 ギルドマスターのステラは若い女性だ。いつも長い金髪を高い位置で一つに結わえている。少し大きな二重の金の目に長い睫毛はどこか艶美で、真っ赤な唇は挑発的なイメージを与える。それとモデルのようなボディラインとが相俟って、大人の魅力がある女性である。



「わ……マ、マスター」



 ステラはサキカの胸に顔を埋め、頬擦りをしてくる。サキカとガイアはいつものことに溜息を吐いた。



「マスターじゃなくて“母さん”でしょう?」



 むぅ、と唇を突き出すステラ。どう見ても二十代の女性であり母親という歳ではない。それもそのはず。サキカとは血の繋がりは無い。ステラはサキカの義母なのだ。



「…………か……母さん」



 羞恥から顔に熱が集まる。ステラはそれを聞くと満足気に笑い、サキカを放した。



「……で、話とは何ですか?」



 恐らく忘れられていただろうガイアが、口を開いた。



「あぁ、忘れるところだったわ。あのね、サキカに──」



 ステラが真面目な顔になり、サキカを見つめる。母親の顔からギルド“月の光”マスターのそれに、瞬時に切り替わったのがわかった。



「──サキカに、学園に入ってもらおうと思うの」


「「…………はい!?」」



 あまりの話の突飛さに、サキカとガイアは素っ頓狂な声を上げてしまった。



「だから、サキカに学園に入学してもらいたいの」


「な、何故ですか……?」



 驚きのあまり、口調が素のそれに戻ってしまった。

 今までサキカは、六歳という年齢から通うはずの学園というものに、無縁の生活を送っていた。幼い頃は通っていたこともあったが、ほんとうに一時期の話である。しかし、もう十六を迎える年齢になって、何故今更なのだろうか。


 ステラは穏やかに言葉を紡いだ。



「貴方にも青春時代というものを経験させてあげたくてね。今まで忙しくて行かせてあげれなかったけど、大分落ち着いてきたから。勿論ガイアと同じ学園のクラスになれるし、入学してくれないかしら?」



 ──学園は六歳から十八歳までの義務教育だが、特別な場合は通わなくても良い 。それは学園が大都市にしかなく、小さな村で暮らす子供や親と共に旅をする子供は、生活の中で生きる上で必要なことを学んでしまうからである。


 総帝などという立場にあるサキカは、その特例に当てはまるために、学園に通わなくてもよかったのだ。

 だが、サキカは普通な生活が送りたかった。普通の子供に憧れていた。──しかしながら、今までは事情がありそれができなかった。


  故にこの提案は、サキカに驚きと同時にそれ以上に喜びを与えたのだ。



「本当に……? 本当に、宜しいのですか、僕が学園に通っても……」


「ええ」



 ステラに笑いかけられて、その実感がじわじわと沸いてくる。思わず口元や頬が緩んだのを感じた。

 しかし、すぐに不安も生まれた。



「依頼とか任務はどうすればよいのですか……?」



 ──サキカには仕事というものが存在するのだ。



「暇なときにやってくれればいいわ。一、二年前に比べたら随分依頼の量が減ったし……夕方とか休日ならできるでしょう? だから貴方はそんなこと心配せずに学園に通いなさい」



 ステラの言葉にサキカは再び笑みを取り戻す。それなら安心して学園に通うことができる。



「有難う、……母さん」



 サキカは心からの笑みを浮かべて、ステラはそれを見て満足げに笑った。



「ただし、正体は知られないようにね」



 それは重々承知している。サキカは大きく頷いた。

 ステラは青いブレスレットを二つ、ポケットから取り出す。一目見ただけで、魔力に敏感なサキカは辺りの魔力の流れを感じとり、それが何であるかがだいたいわかってしまった。



「これは魔力封じの魔法具。通称、魔封具と呼ばれているものよ。……一つで大体魔力を百分の一に抑えれるわ」


「はい」



サキカはステラからブレスレットを受け取り、二つとも左腕につけた。



「…………まだ強すぎるわね」



 百分の一かける百分の一。つまり一万分の一の魔力でも、サキカは自分の体からAAランクの者程の魔力を感じた。


 実を言えば、ブレスレッドを付けていない状態でもサキカは常に魔力を十分の一に封印しており、おそらくはそれがなければ魔封具をつけることすらかなわなかっただろう。──サキカの魔力量は多すぎて、封印していなければ魔封具はつけた途端に壊れてしまう。


 ステラは先程のブレスレットとは色が異なる、白色の物を机の引き出しから取り出し、サキカに手渡す。ブレスレットに刻み込まれた魔方陣を読み取ると、これは魔力を五分の一に抑えるものだろうということがわかった。サキカは無言でそれを受け取り、左腕につけた。



「……これでもAランク下位ぐらいね」



 ステラが軽く溜息を吐いた。



「仕方がありませんよ。……僕はこれでもXランクですから」


「サキカの魔力量が多いのは、当たり前です」



 ──最強なのだから。



 今まではそれが理由で忙しく、学園に通えなかった。だが、戦争がおさまりつつある今は以前程忙しくは無くなり、通うことが出来る。

 そして、それが理由で今までの同年代の子供に関わることすら少なく、友人はガイアと二人の少年だけだった。



「……友人は、出来るでしょうか」



 無意識にポツリと呟く。



「ああ、すぐに出来る」



 独り言だったにもかかわらず、ガイアは答えてくれた。しかし、サキカの不安はなくならない。──化け物と呼ばれ、迫害されたあの頃のことを思えば思うほどに。



「……そう、だよね」



 しかし、ガイアを心配させたくはない。サキカはぎこちなく笑顔を作り、それをガイアに向けた。口を開いたステラの方に目を戻す。──僅かに表情を歪めた彼を見なかったことにして。



「さあ、明日から学園なんだから、今日は早く寝なさい。

 それと学園長には貴方の事を話しておいたから、学園に行ったら取り敢えず学園長室に行きなさい。二人とも入学式には出なくて良いそうだから。ガイア、案内お願いね」


「はい、分かりました」



 ガイアが軽く頷いて了解する。



「ガイア、宜しくね」


「ああ、勿論だ」



 サキカの言葉に、ガイアはどことなく嬉しそうな表情で何度も頷いてくれた。頼りになる親友である。



「さあ、早く自分の部屋に行きなさい」


「うん。……母さん、有難う。今宵も良い夢を」



 サキカはフードを被り直しドアを開ける。気障な台詞を言ってしまったと若干の後悔を抱きながらも。



「お休みなさい、マスター」



 ガイアもフードを被り直し、一礼して、サキカの後を追って出ていった。






×××××××××××××××××







 ドアが閉まり、ステラは一人きりになる。椅子に座り、背凭れに寄り掛かった。





「……楽しんで来なさいよ、サキカ。貴方はまだ、子供なのだから」





 沈黙の中に取り残されたステラの声は、 響くことすらなく消え失せた。





.

主人公 サキカ


長身の少年。ちなみに身長は180センチ。総帝という地位につき、ギルド“月の光”の零番隊隊長をしている。二つ名は“白銀の刀使い”。少し長い髪の色は銀で、瞳は深い蒼。容姿端麗で頭脳明晰。よく女性に間違えられるほどに中性的な容姿をしている。美人(男)であるが、普段顔を隠しているため自分の容姿に無頓着であり、同様の理由から鈍感である。年齢は16歳。属性は全ての普通属性と全ての進化・派属性と幾つかの特別属性というチートっぷりであるが、これには理由がある。得意な魔法の属性は氷と植物。ギルドランクはX、武器は主に刀。



ガイア・レントリア


主人公の親友であり、相棒である。身長は170センチ。炎帝であり、ギルド“月の光”一番隊隊長でもある。二つ名は“紅蓮の破壊者”。ギルドランクはSSS(学園ではB)。瞳、髪色共に鮮やかな紅で、髪の毛は短い。顔立ちは男前で、体つきもなかなかがっしりしている。弟的な存在であるサキカが大好きな、所謂ブラコン。武器は金に輝く鋼糸。



ステラ・メイリー


主人公の育ての親。金髪に金眼の妖艶な大人の美女。スタイルは所謂いわゆるボッキュンボンで、めりはりのきいた素晴らしいものである。少し厚めの唇が、なんとも艶やか。ギルド“月の光”のマスターであり、その実力は驚くべきほど強い。ギルドランクはSS、属性は水。



☆ギルド


ギルドについて:

仕事の仲介役をしている組織。国とは完全に隔離しており、大きなギルドには世界組織(五つある国を纏めている組織)での発言権もある。


“月の光”について:

世界で一番大きく有名なギルド。


ギルドカードについて:

ギルドで依頼を受ける上で必要なカード。名前からランクや所属等まであらゆることが明記されている。しかし、SSランク以上にもなると正体云々の様々な問題がおこることから、SSランク以上に限り本人が隠したい情報を非公開にできる。だが、隠しているという時点でSS以上のランクの持ち主であることがわかってしまうという欠点もある。

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