ep.32 ドロップ・リベレイション⑤
____空気を切り裂く音。
その音だけがそこにはあった。
ヒイラギの左頬に傷が入る。
「速いな。」
「あぁ、ちーとばかし厄介だなこりゃー。」
見えないわけではない。
しかし、捉えきれない。
オルトロスはこのフィールドに無数の乱気流をランダムな場所に作り、それを壁に見立てて高速移動しているようだった。
ひとつ、またひとつと、2人の傷が増えていく。
見えない刃に手を焼く2人。
「これじゃー埒があかねぇー。」
「ヒイラギぃ!一旦距離とるぞ!」
「ああ。」
2人が距離を取ろうとした瞬間。
『ヘルズ・ボルテックス!』
頭が割れるような高音。
オルトロスの二つの口から放たれた雷撃。
二つが一つとなりより強大な雷撃となる。
一瞬だった。
ヴァルカスの脇腹を掠めた。
「やりやがったな、犬。」
後逸した雷撃は街に張られた結界を直撃。
凄まじい音で結界の2/3が崩れ落ちる。
「なんて威力してやがる。」
「まともに喰らってたら生きてないな。ヴァルカス。」
「おめぇーもだろ。」
「俺なら掠りもしない。」
この状況でもまだ言い合える2人。
元通りとまでは行かないものの結界は直ぐに張り直されるのが確認できる。
直後、3つ目の神威が場を飲み込む。
その神威はオルトロスの初動を鈍らせた。
反射的に振り返るヒイラギとヴァルカス。
そこにはゆっくりと近づいて来たリリィがいた。
所々服は切れ、顔にもヒイラギ達が受けた攻撃と同様の傷が見られる。
そして、リリィはあの時の目をしていた。
神威の暴走。あの時と同じ。
「リリィ!!!」
ヴァルカスが叫ぶ。
我が子同然の少女が危険な所に足を踏み入れたのだ。
当然のことであろう。
「リリィ!お前、」
言いかけたヒイラギの言葉に被せる。
「2人とも!私は大丈夫ですです!!」
「それと、雫の場所は把握済みです。」
何故来た。と言おうとしているヴァルカスよりも先に口を開く。
「私はクリムゾン・グロリオサの支援魔導師です!」
「さぁ!片をつけるのですです!」
ふっ。と鼻で笑う2人。
「可愛い指揮官さんだ。」
先程のリリィの神威により判断が鈍っていたオルトロス。それにより初動が遅れたことがリリィにとっては好都合だった。
彼女は既に詠唱を始めていた。
「重力操作【グラビティ・ヌル】」
ズンっと地面が沈む。
オルトロスはそう思った。
『蝿が一匹増えた所で何が、、、、』
言葉が止まる。
この場の重力を支配して自身の速度を鈍らせる、オルトロスはそう思った。
しかし、支配されているのはオルトロス自身にかかる重力だった。
それに気付いた時には遅かった。
リリィは並列構築した重力操作を重ね始めた。
「【グラビティ・アインス】」
「【グラビティ・ツヴァイ】」
「【グラビティ・ドライ】」
「【グラビティ・フィーア】」
ズンっ。ズンっ。とオルトロスの体制が少しづつ崩れて行く。
『く、く、くそぉ!!!!!』
『なんだ!!!どーして!!!』
『あの小娘がぁ!!!』
叫びとは裏腹に全く身体の自由が効かないオルトロス。
「ヒイラギさん!お父さん!!」
「長くは持ちません!!」
歯を食いしばりながら詠唱を続ける。
「ああ!任せとけぇ!リリィ!!!」
全力で応えるヴァルカス。
「【グラビティ・フュンフ】」
ゆっくりと歩みを始めるヒイラギ。
その先にはウィルの亡骸があった。
「ウィル。借りるぞ。」
ヒイラギは傍にあった剣を手に取った。
二本の指で剣をなぞる。
「【レフ・ドゥラペスト】」
まるで剣が衣を纏うかのように白く輝く。
「【グラビティ・ゼックス】」
リリィの口元には血が滲む。
まだ戦闘経験の浅いリリィは己の限界と戦っているのであろう。
『まだだーー!!』
突如、上空に雷鳴が鳴り響く。
次の瞬間、無数の雷撃が降り注ぐ。
ヒイラギが剣を一振。
全てが相殺された。
「【グラビティ・ズィーベン】」
「ヒイラギさん、、、、、そろそろ、、、、」
「限界、、かも、、、ですです。」
「リリィ。お前の勝ちだ。」
また、笑う。
すぐにヒイラギはオルトロスに向け口を開く。
「オルトロス。お前の負けだ。」
また、笑う。先程とは違う顔で。
「【グラビティ!!!!】」
「【アハト!!!】」
その詠唱とともに2人は動いた。
「衝撃拳【ビッグ・バン】」
ヴァルカスの拳は左の頭を吹き飛ばした。
木っ端微塵に。
そしてヒイラギが右の頭を切り落とす。
ドサっ。重く嫌な音が響いた。
オルトロスの身体は地に落ちていく。
その音は4人の勝利を意味していた。
同時にリリィも倒れる。
慌てて駆け寄るヴァルカス。
「リリィ!おい!リリィ!」
「騒ぐな、ヴァルカス。」
「魔導を使い切っただけだ。」
「そうか。」
ホッと胸を撫で下ろす。
ヒイラギが拳を突き出す。
「ヴァルカス。約束は守ったぞ。」
「そうだな。」
再び2人の拳が交わる。
空には星空が広がっていた。
手が届きそうな星たちが彼らを祝福するかのように。
____誰かの呟く声がした。
その声には聞き馴染みがあった。
しかし、低く。悲しく。震えていた。
「なぁ、アニマ。」
「今日ばかりは、お前で良かったよ。。。」
物悲しく呟かれたその言葉は闇の中へと消えていった。
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