ep.1 ヒイラギ
___「そこからだったな、全部奪われたのは。」
暗く何も無い空間。
目の前には、かつて“自分だったもの”が立っている。
あれは、俺の身体だ。
だが、動かしているのは――俺じゃない。
________「【アハト!!!】」
詠唱とともに2人は動いた。
「衝撃拳【ビッグ・バン】」
ヴァルカスの拳は左の頭を吹き飛ばした。
木っ端微塵に。
そしてヒイラギが右の頭を切り落とす。
________遡ること......どれほどであろう。
そんなことも覚えていない。
ただ覚えているのはあの日の約束。
シブルクの街。
ギルドにチートスキルこそ無いものの、何とか異世界生活を謳歌しようとしている転生人。
どこのどの神の創造か、おじさんは転生先で男性とも女性ともとれない、とても抽象的な見た目の二十歳前後の冒険者。
桃色がかったその銀髪。
モテそうな気がしなくもないが
この世界では、いわゆる美男美女とやらはゴロゴロいる。
『ええ、見た目には感謝してますよ?
デブで?ハゲで?
しがないおじさんがこんなに綺麗な見た目になれたのだから。』
前世の癖で脳内で自分と会話をしている。
しかしながら、どこかうわの空。
「ヒイラギさん?
このクエストでよろしかったですか?」
ギルドの担当受付嬢が彼に問いかける。
宮下 俊紀。
彼はこの異世界で【ヒイラギ】と名乗っているようだ。
前世で花が好きだった彼らしいといえば彼らしい名前だ。
昔を思い出して、思い出に浸ってでもいたのだろうか。
思い出など無いくせに。
少しばかり思い出した気がするが。
「あ。ごめん!それでお願いします。」
我にもどった彼は矢継ぎ早にそう答える。
前世での死因はとても褒められたものでは無い。
誰かを助けたヒーローでもない。
病気に倒れた訳でもない。
酒に酔い、帰宅した自宅で酒と間違えて。
シャンプーを一気飲み。
なんて死因だ。
馬鹿げている。
「さてと、行きましょうかね。」
いつもの様に依頼をこなしていく日々。
受注されたクエスト。
───しかし彼は。
いつもこなしているクエストを安易に考えていた。
希望に満ちたこの異世界生活が一瞬にして。
音もなく。全てが奪われることを知らず。
ご拝読いただきありがとうございました。
長いかもしれませんが読んでみてください。




