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episode.2

 僕は長野県のとあるキャンプ場に訪れていた。友人にしつこく誘われたから仕方なく来ただけなのだが……ここの空気はなかなかどうして心地の良いものだった。


「知ってるか……? 翔也。ここの山、ずっと昔に人が死んでるらしいぜ?」


「お前……だから僕を誘ったのか」


 友人の名は唐沢からさわ龍斗りゅうと、中学からの付き合いだが高校、大学は別の道に進んでいる。それでもなお、こうして誘ってくれるのは嬉しいものではあるが……


 僕、田中翔也はそういう類のものには興味はないが、龍斗は昔からオカルトやホラー要素のあるものが大好きだった。


「でも人が死ぬなんてことは山じゃ少なくないだろ?」


「そりゃそうだけどな。この事故は不思議な点が多いのよ」


 龍斗曰く、この事故がそういった界隈で語られる理由は次の二つだ。


 一つ、母親と娘が同じ崖下で発見されたこと。その場所は普通に行動していれば辿り着かないところらしい。それゆえに母親が娘の霊に案内されたのではないか、と言われているのだとか。


 そしてもう一つ、事故の数ヶ月後、父親が行方不明になったこと。亡き家族の魂に連れ去られただのなんだの……


「馬鹿馬鹿しいな。世の中案外、偶然なんてものは起こりやすいものだよ。その父親だって死んだ確証はないんだろ? 人の命をネタにするもんじゃねぇよ」


「そりゃただの事故なら騒がねぇって。考えてもみろ。偶然子どもが崖に落ちて、偶然母親も同じ崖に落ちて、父親は精神が狂って失踪? あるもんかね……」


「そういうこともあるさ。とにかく、馬鹿なこと言ってねぇでテント張るぞ。怪談ならその後いくらでも聞いてやるから」


「お! それもそうだな!」


 気づいたときには日は沈んでおり、山の中は一切が闇に飲まれていた。街と違ってどこを見上げてもあるのは星の輝きのみ。しかし見渡せばいくつかのテントから弱い光は届いている。


 パチ……パチッ!


 赤く揺れる焚き火からは弾けるような音がした。熱がそよ風に乗って肌を焼く。眼球が乾くような感覚を覚えながら火を眺めていた。


「だからよ、ちょっとでいいから散策してみようぜ。肝試しってヤツよ」


「やらねぇよ。危険が過ぎる」


「……お前ってさ、幽霊は信じないくせにそういうの嫌いだよな。“根拠のないものに踊らされてたまるか”って言ってるくせによ」


「根拠がないからこそ、そういうのは警戒しろって言ってるんだよ。そもそもここは死人が出てるんだろ? あんま下手なことすんじゃねぇ」


 確かに、僕は幽霊や妖怪などは信じてはいない。そんなフィクションのようなものは。だが、“無い”と言い切れるような根拠もない。事実、そのフィクションに殺されている人だっているんだ。それがフィクションかどうかは別として……


「でもよ、事件現場の場所は調べてきたんだ。せっかく来たんだからそれくらい見たいじゃねぇか」


「そもそも安全じゃねぇだろ。朝か昼にしろ」


「分かってないなぁ。霊ってのは夜に出るもんだろ? 何が悲しくてわざわざ日中に行くのさ。安心しろ。事故現場で同じ事故を起こすほど馬鹿なことはしねぇよ」


「……」


 こうなった龍斗には何を言ってもムダだな。まぁ酒も飲んでないし心配する必要はなかろうが……


「僕はついて行かないけど、気をつけろよ? そもそもその……鈴井さん? 以外に死人は出てんのか?」


「どうだろうね? そこそこマイナーだからあんまり情報は出回らないんだよ」


 そんなもんなのかな。だがこの雰囲気、龍斗は大丈夫だ。暗闇のトンネルに行ったとき、町外れの廃屋に行ったとき、“ヤバい”ときは彼は分かりやすくビビっていた。だが今日は落ち着いて見える。


 霊感とでも言うのかな。龍斗はそういうものには鋭いんだ。だから大丈夫だ。


 僕達は念のため酒は飲まず、バーベキューをしながらその日を終えた。どんなふざけた会話をしても、夜空はいつまでも静かに輝いていた。月光は僕達を見守っていた。

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