あの夏、私たちは一度死んだ
あの時の入道雲を、忘れることはないだろう。
小春とは中学からの仲だ。クラスも2回一緒で、帰り道が一緒で、部活が一緒だった。
ようは、同じ生活圏を共にしていた。
だから仲良くなった訳ではないが、不思議と小春の側は居心地がいい。
「うーみー!」
小春がスクールバックを持って、私の方に来た。 小春のスクールバッグの、キャラ物のストラップたちが無造作に跳ねる。小春が歩くと、ジャラジャラ鳴るのですぐ分かる。
「何見てるの?」
私がぼんやり眺めていた外を眺めながら、小春は外の陽光に目を細めた。
背伸びして言った。
「なんでもないよ」
立ち上がって、小春に並ぶ。
「早く帰ろう」
坂道を汗だくになりながら下る。二人でたわいない話をしていた。
蒸せるほど臭うアスファルトの焦げた匂い。
小春が俯いて、なんでもないような顔をして言った。
「私、もうすぐ転校しないと行けないんだ」
「えっ」
思わず隣にいる小春の顔をマジマジと見つめた。強張った顔をして小春は地面を見ていた。
次の言葉は震えていた。
「お、親が再婚して、それでひ、引っ越すことになったんだ」
私は思考が停止して、歩くのをやめてしまった。唇がひりつくような感じがして、何度も唾を飲みながら言った。
「い、いつ?引っ越しするの?」
「1ヶ月後…」
「そっか」
夕焼けの光がやけに眩しかった。
「そっかぁ」
カラスが遠くで鳴いていた。私たちはいつもみたく話さず、無言で帰路に着いた。
今日はごめんね。突然あんなこと言って
夕飯を食べ終えて自分の部屋に戻ると、小春からLINEが来ていた。
2時間前だった。この2時間、小春はどんな気持ちでいただろうか。
胸が痛くなった。小春がこんなこと言わなくてもいいのだ。
それでも寂しい気持ちがそれと同じくらい押し寄せてきて、私は涙が溢れたうさぎのかわいいスタンプを送った。
これから思い出いっぱいつくろうね!!
届いただろうか?文章では分からないこの気持ちが。小春も同じことを思っているのだろうか。分からない。でも、そうだと信じたい。
既読はすぐ着いた。
もちろん!!
それから私たちは、別れる日を忘れるように遊び回った。
箸が転んだだけで笑い、繁華街で何を買うでもなく店を回った。
スマホのカメラロールはどんどん思い出が募っていった。
遂にこの日が来た。
夏休み前日、帰り道の別れ際、私たちは離れがたくでずっと留まっていた。
「こ、こはる……」
私は小春の手首を握ってじっとした。目の前には宝石みたいな泪を流す小春がいた。
何も言えず俯く私に、小春は手首を握る手を優しく重ねた。
一雫、一雫、まるで氷柱から落ちる雫のように、腕を伝って涙が零れる。
もうどっちの涙かなんて分からないくらいに。
小春は言った。
「またね」
私はパッと顔を上げた。小春が小さく微笑んでいた。
「ぜったい、ぜったいだよ」
私は小春を強く抱きしめた。お互い痛いくらい抱きしめ合っていた。
「ぜったい…」
「うん!」
空を見上げれば、忌々しいほどの青空と大きな入道雲がまるで小春の門出を祝うかのように広がっていた。
私たちの友情は一度死ぬ。
引っ越した先でも、絆は続くとは限らない。
でも、今だけは信じたい。この気持ちはきっと、本物だと想うから。
この時の入道雲を、忘れることはないだろう。




