1話:〜22時の魔導決戦〜
――舞台は、通貨精霊が支配する異世界「マーケッタリア」。
主人公の少年ルキは、現世から異界に召喚された“秒スキャの勇者”。
彼に与えられた力は、「刻一刻と変動するマナチャートを読み取る異能」だった。
だがこの世界で待っていたのは、希望に満ちた冒険などではない。
待ち受けていたのは――毎晩22時、“魔導カット”の鐘とともに訪れる 殺し合いの儀式。
契約をめぐり、欲望と恐怖に駆られた者たちが最後の1ティックまで価格を争い、裏切り、蹴落とし合う。
目指すのは、ただひとつ。「利益」――そのためには、命すら手段にすぎない。
「この155.00という魔境を巡って、誰が生き残るのか……!」
マナの波が狂い出す刻限。
欲望が渦巻き、正気が失われ、すべてが裏返るタイムリミット。
この世界で正しさは報われず、情けは命取りになる。
残された選択肢は、ただひとつ。
狂気とともに相場に飛び込み、生き延びること。
これは、勇者という名を与えられた少年が
“契約”という名の呪いに喰われていく物語。
異界から来た少年・ルキは、薄暗い市場都市“ニューヨルク”の広場で、時を刻む魔鐘の音を聞いた。
「あと10秒でカットタイムが始まる――」
頭上の空に、マナレート155.00が赤く浮かび上がる。各派の魔導師が手を翳し、一斉に詠唱を始めた。
「この価格帯を支配する者が、明日の王になるのよ」
少女トレ子が不敵に笑う。闇ギルド《ヘッジファンド》に所属する彼女は、ルキを見据えながら囁いた。
「フフ、地獄へ、ようこそ♡」
魔鐘の最後の音が消えた瞬間――
空を満たす“マナ価格”の流れが、突如として凍ったように止まった。
155.00の座標が、まるで心臓のように脈打ち、周囲の価格帯を呑み込むように膨張してゆく。
「――始まったわね。魔道カット(オプションカット)」
トレ子が軽く呟くと、広場を囲む魔導師たちが同時に詠唱を放った。
青白い光が天へと伸び、赤く染まった155.00の焦点に収束する。
「……うわ、なんだこれ……!」
ルキの目の前で、空が割れた。
買い側と売り側の魔導師たちが放つ魔力が、空間を捻じ曲げ、価格を巡る綱引きを始める。
「見てなさい。価格ってのは、
時にこうやって引き寄せられるのよ――人間の意志と、欲望と、恐れによってね」
トレ子はチャート盤を空にかざした。
そこには、かすかに波打つ“力の流れ”――ルキには、まるで呼吸のような微細な揺れが見えた。
「これは……動いてる……? けど、全然読めない……!」
「当然よ。初見のアンタには、ただの嵐にしか見えないでしょうね。
でも、その中に――必ず“癖”があるのよ」
突如、空が鳴った。
雷光のような光がマナチャートを貫き、155.00にあった価格は一瞬、上へ――いや、下へ引き戻され、
そして――
ズンッ!
地響きのような振動とともに、価格は一気に156.23へ急沸した。
「ブレイク――買い側の勝ち、ね」
トレ子がにやりと笑う。
彼女の背後で、闇ギルドの旗が風に揺れていた。
「この世界じゃ、ただ見てるだけじゃ生き残れない。
チャートの声を聞きなさい、ルキ。感じ取るのよ、マナ価格の裏にある“意図”を」
広場に静寂が戻った。
ルキの掌には、初めて感じた“マナの逆流”の名残が、ぬるく残っていた。
次回予告
第2話:契約と行使 〜魔導カットの正体〜