第9話 「遺言」の真実と二人の未来
『愛する息子、ジルベールへ
この手紙を読んでいるということは
ちゃんと私の遺言通りにアネットちゃんと妻にしてくれたのね。
アネットちゃんは驚いたかしら?
どうしてって思っているかもね。
順を追って話すわ。
この文字を見ての通り、私は事故で手が思うように動かなくなった。
でも、きっとそんなことを知ったら、
ジルベール、あなたは心配して背負い込んでしまうでしょう?
お父様が亡くなって、私はふさぎ込んでしまった。
そんな時、私がいた別荘の前をある少女が通りがかったの。
赤い瞳でさらさらの赤茶色の髪。
きらきら輝く笑顔で子どもたちと遊んでいた。
すると、彼女は私に気づいて声をかけてくれたの。
「よかったら、お話しませんか?」って。
その少女はアネットと名乗ってくれた。
彼女がたまに訪れると私の心はワクワクしたわ。
もう生きる希望を失いかけていた私に
また楽しさを教えてくれたの。
その少女はとても字が綺麗だった。
だから、私は息子への手紙の代筆を依頼したの。
彼女は快く引き受けてくれて
一週間に一回私とお茶した後に丁寧に綴ってくれた。
「息子さんのこと大好きなんですね」
そういつも言ってくれたわね。
大好きよ。
でも、なかなか素直になれなくて
こんなひねくれた母親でごめんなさい。
お医者様にもう永くないと言われた時
アネットちゃんに最後の手紙を代筆してもらった。
「どこかお出かけですか?」
代筆は来月でいいわ、と言った私にそう尋ねてくれたわね。
ごめんなさいね
旅に出てくるなんて言い方をして。
あなたの悲しい顔を見たくなかったの。
それからジルベールへの遺書を書いた後
今、これを書いています。
アネットちゃん、あなたの旦那様を勝手に決めてしまってごめんなさい。
このことは全て国王陛下に伝えてあるから
二人はまだ正式に結婚をしていない状態よ。
二人が過ごしたこの一ヶ月で
あなたたちはどう感じたかしら?
うまく過ごせた?
この手紙を読んだら
あなたたちの未来を決めてほしいの。
私の感じた「縁」をあなたたちに贈るわ。
最後に、ジルベール。
何もしてあげられなくてごめんなさい。
あなたは背負い込みすぎるから
もっとゆっくり生きてほしい。
こんなことしてごめんなさい。
どんな形になっても
大好きなあなたたち二人の未来を
天国から見守ってるわ
では、旅に出てくるわね
ミスティア』
沈黙を破ったのは、彼の慟哭だった。
「母さん……う……ああ……あああああ!!!」
ジルベールの泣き叫ぶ声が響き渡った。
アネットはそんな彼の背中を優しくさすって、そして抱きしめる。
「ありがとう、お母さん……」
そうアネットは呟いた。
アネットとジルベールは二人きりでソファに座って肩を寄せ合っていた。
「君との出会いは、母から私への最期の贈り物だったのだな」
「はい、素敵な贈り物でした」
キャンドルの灯が揺らめく中、ジルベールは尋ねる。
「私は君を尊敬していて、そして……好きだ。努力を重ねるところも、素直なところも愛おしい。これからも傍にいたい。君はどうだろうか?」
アネットは一度目を閉じて考える。
そして、ゆっくりとその目は開かれた。
「私もジルベール様が好きです。あなたの妻にしてくださいませんか?」
母が繋いだ「遺言」は、二人を真実の愛へと導いた──。
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