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プロローグ

【アーカイブの始まり】

【日付:西暦3301年、夏の終わり】

【アーカイブ名:アナテマ】

【ミッション:リクルート】

【アーカイビストのコメント:世界が崩れたように感じるとき、星を見上げてみて。もしかしたら、君の旅はまだ始まったばかりなのかもしれない。】


挿絵(By みてみん)


森の静けさを破ったのは、枯れ葉の軋む音、葉っぱのざわめき、そして二つの重い息遣いだった。木々が次々と通り過ぎ、谷が平原に変わり、鈍い音を立てて顎が閉じ、何度も何度も、獲物を逃がしてしまっていた。牙を肉に突き立て、他人の犠牲で生き延びる――それが捕食者の宿命だ。空き地に飛び出したウサギは、革靴の間をすり抜け、荷車の下に潜り込んで、そのまま消えた。一方、狼は盾と槍の壁に迎えられた。獣は身を低くし、鼻を鳴らした。腹は空いていたが、本能が囁く:輝く牙で武装した、死んだ皮をまとったこの生き物は危険だ。狼の琥珀色の目が眉の下から険しい表情で光った。振り返ることなく、狼は数歩後退し、白い影のように森の中に消えた。

「でっけえ獣だな」、デリジャンスに座っている若い男がふんっと笑った。彼は深藍色のマントを身にまとい、縁に金色の模様が刺繍されていた。

「はっ、あれが獣か?笑っちゃうよ。今の獣は臆病だ、十年前とは大違いだ」キャラバンの主人のムレシュが、あくびをしながら手を振った。

「何の話ですか、ムレシュさん?」

「おいおい、魔法使いさん!」商人の眉が跳ね上がった。「町中の隅々では、触れ役たちが皆そのことについて叫んでたじゃないか!あんたどこの田舎から出てきたんだ?」

「高等魔法アカデミーで学んでました、本を読んでたんです」

「自分の国の歴史が知らない。本を読んだのは少ないだろ、まったく…」

「長い道のりです、人生経験豊かなムレシュさんの話を聞かせていただければ嬉しいです」、魔法使いは友好的な笑みを浮かべた。

まんまとお世辞に乗り、ムレシュは腰を落ち着け、シルバーコップにワインを注いだ。商人のデリジャンスは広々としており、車輪の上の家と言えた。コンパクトな寝室がいくつかあり、浴室、暖炉があり、柔らかい肘掛け椅子に座って話がしたくなっていた。このような贅沢は、裕福な市民と魔法使いギルドのメンバーだけが利用できた。キャラバンは首都ロフォスから帝国の北の国境に向かっていた。

「大戦の前は、半島を四人の領主が支配していた――これくらいは知ってるだろう?」

「はい」

「それで、それぞれが自分の領地を支配していたんだ:一人は北、一人は西、一人は東、そして一人は… あの忌々しい南だ。当時は、他人の領地に乗り込むには、護衛をたくさん雇わなければならず、金がいくらあっても足りなかった。森には人間の肉を求めるキメラがうじゃうじゃいたし、まともな市民の中に居場所のないならず者どもが、ゴキブリみたいにそこらじゅうをうろついていた!」

怒りに満ちた話のあまり喉が渇いたムレシュは、シルバーコップから喉を潤し、機械的に内ポケットに手を伸ばし、カードの束を探した。彼は有名なギャンブラーで、嫌な思い出を呼び起こす会話を中断して、カードゲームを始めたかったが、すぐに思いとどまった。目の前に魔法使いがいなければ、ムレシュはためらうことなく彼を丸裸にしただろう。一般の人々は知っていた――魔法の前では、どんな手品も役に立たないことを。

「大変だったんですね」、魔法使いは頷き、商人に話を続けるように促した。

「ああ、その通りだ…」

カードの束を取り出す抱負を完全に諦め、キャラバンの主人は続けた:

「森の恐怖にうんざりした北の領主は、残りの三人の領主に協力して、危険な人ならざる化け物を根絶やしにするように提案したが、無駄だった。西の領主だけが応じたんだ」

「まさか、他の者たちは恐れたのですか?」

「いや…ほら、あれを見ろ」

商人はキャラバンに同行していた傭兵を指差した。赤毛のがっしりした男で、青い目と手入れのされていない長いひげを生やしていた。かなりの筋肉があり、まるで皮膚の下に鋼鉄の棒が束ねられているかのようだった。

「東の生まれだ」、ムレシュは説明した。「十人分の力があり、怒り狂えば鬼神も泣かしめる。勇敢な者を探しているなら、東に向かうといい。だが彼らは陸地よりも水を愛し、海を故郷としている。海は彼らを養い、服を着せてくれる。彼らは森に入ることを拒んだんだ」

「では、南は?」

魔法使いの質問に、商人は顔をしかめた。ワインで口をすすぎ、窓の外に唾を吐き捨てた。

「不信心なことだが…奴らは皆、悪魔だ!もし奴らが地中に一度に落ちてくれれば、他の者たちはもっと楽に呼吸できるだろう」

「ムレシュさん、あなたは何度も南の者たちを罵っていますが…」

「当然だ!魔法使いよ、はっきり言っておくが、南の者たちはあなたたちよりも悪い。褒め言葉だと思ってくれ。魔法使いはこれらの蛇に比べれば聖人だ」

魔法使いは不思議そうに首を傾げた。

「化け物を倒す代わりに、彼らと抱き合うような人間をどう思いますか?」

「驚きますね」

「はあ…」、商人は失望したように手を振った。「あなたたち魔法使いは、いつも何でも知りたがり、新しいものに興味があるんだ。南はひどい場所で、毒と悪臭に満ちている。そこの住人は、この悪臭の中で生きることができる。もちろん、その忍耐力には敬意を表するが、この醜悪に生きているから、彼らは化け物と変わらない:肌はオリーブ色で、目は真っ黒で、光もない。それに、どれほど狡猾で嘘つきか…」

ムレシュは窓の外に顔を向け、気分はすっかり悪くなった。数分後、商人は白髪交じりの黒い口ひげに向かってぶつぶつ言った。

「『南に生まれるのは不幸、そこに住み続けるのは狂気』とはよく言ったものだ」

「ということは、平和には終わらなかったのですね?」

「大戦が始まったって言ったんだよ」

商人は話を続けるのを嫌がったが、退屈よりましだった。窓の外の緑は、退屈を紛らわせるには弱すぎた。また新しいシルバーコップを空にし、ムレシュは魔法使いに曇った目を向けた。

「我々北の者は、生涯、化け物と戦い、決して屈しなかった。それは領主の曽祖父の遺言だ。北の領主は東と南の拒否を聞き、すぐに悟った―あいつらと戦わなければならないと。彼は自分の兵士と西の兵士に向かって言った:『化け物の横暴に気づかない者、あるいはさらに悪いことに、彼らと平和に暮らす者は、人間と呼ばれるに値しない!』と。まず東を攻撃することにした。激しい戦いになり、多くの者が命を落とした…」

ムレシュは考え込み、唇を噛みしめた。魔法使いは窓の外を見て、赤毛の戦士をよく見ようとした。

「ああ、厳しい目つきですね。彼と戦うどころか、口論することさえ恐ろしいです」

「その通りだ!」商人は頷いた。「重労働と冷たい風が、彼らを鍛え上げた。彼らの歩兵は、半島で最強だ!敵は鋼鉄で我々を迎え撃ち、一寸の土地も故郷のように守り抜いた!」

肘掛けを拳で叩きつけ、キャラバンの主人は顔をしかめ、恐る恐る肩を動かした。矢の傷跡は、今でも彼を苦しめていた。

「冬でなければ、我々は屈しなかっただろう…!東の者は要塞に隠れ、我々を容赦ない風に晒した。戦場は空っぽになった」

ムレシュのその言葉の後、魔法使いは、商人の右手の薬指が半分ないことに気づいた。凍傷の後遺症だった。

「戦争は春まで延期されたのですか?」

「そうしたかった…まさか南の蛇が介入するとは誰も思わなかった。真冬に海から攻撃を仕掛けてきたんだ、この悪党め。弱った我々と東の者を、一度に倒そうとしたんだ。朝、雪のカーテンの向こうから黒い斜めの帆が現れた時、勇敢な心さえも震えた。彼らの船は海岸に近づき、弦が鳴り響き、矢の雨が降った。東は日が沈む前に陥落した」

ムレシュは、彼の悪夢に時々浮かび上がる光景をできるだけ鮮明に伝えようと、最後の言葉をほとんど囁き声で言った。

「船から降りると、敵は我々に向かってきた。南の者の矢からは盾で隠れることはできない。当たれば爆発し、緑色の霧を放出し、次の瞬間には同胞がもう血を吐きながら地面に倒れている。ただ死を待つしかない無力感、昨日まで未来の夢を語り合っていた人々が次々と死んでいく…忌まわしい。なあ、魔法使い、君は奇跡を信じるか?」

「そうとは言えない」

「だが、私は信じるようになった…信じざるを得なかった。我々が地面に身を寄せ、息を殺していると、長いマントを着た人影が何事もなかったかのように通り過ぎた。あれはテンボウノカタだった」

「魔法使いギルドのグランドマスターですか?」

「北は同盟者を選ぶのがうまい」、脂ぎったランプの薄暗い光が、嫌な笑みを浮かべた商人の顔を照らし出した。「ああ、魔法は強い。まるで他に何も必要ないかのように…」

「『高位の力の使者、魔法使いたる支配者が戦場に降り立ち、悪を払う』」魔法使いは『魔法の歴史』の一節を引用した。

答える代わりに、商人は一握りのクラッカーを口に放り込み、頷いた。

「私には、この話は誇張されすぎていて、信じられないように思えます」

「全部本当だ…!」、ムレシュは突然叫び、相手にパンくずを浴びせた。「テンボウノカタは、現れると手を振っただけで、すべての毒が消えた…」

ムレシュは、まるで世界のすべてを知っているかのような、人生経験豊富な人物という印象を与えたが、魔法について話し始めると、彼が魔法に全くの素人であることが明らかになった。

「血の鳥の話も本当ですか?」

「はっ、お前ならそれを見たかっただろうな!大戦では、樽に詰めれば天まで届く塔になるほどの血が流された。あなたのギルドリーダーは、この血を利用し、それを支配し、巨大な犬ほどの大きさの恐ろしい深紅の鳥々に変えたんだ。我々がまばたきをする間もなく、これらの生き物は空を覆い隠した。彼らは鋼鉄も矢も恐れず、敵に飛びかかり、地面に倒し、死ぬまでつつき続けた…!」

キャラバンの主人は、音を真似ようと身振り手振りを交えて熱心に語った。彼の話はすぐに、下手な吟遊詩人の怖いおとぎ話のようになった。魔法使いの顔の冷静な仮面は、浮かび上がる笑顔で割れそうになった。

「信じてくれ、魔法使いよ、私は生きている誰にも、あなたのグランドマスターと敵対してほしくない。悪魔たちが放つあの飢えと怒り…マジで異世界のものだ」

「魔法が戦争に終止符を打ったんですね」魔法使いは要約した。

「そうだ、そうだ、想像できるか?!あなたたち魔法使いは、無関心な人々で、世俗的なことは外物で、手を差し伸べることさえ嫌がる。だから、テンボウノカタが個人的に戦場に現れた時、誰でもが驚いたんだ」

「ムレシュさん、お話ありがとうございました」魔法使いは丁寧に頭を下げ、胸に手を当てた。「本ではこんなことは読めませんから」

「歴史は勝者が書くんだ。だから、お前は黙ってろ、分かったか?老兵がお前に語ったことはおかしいかもしれんぞ。神は一人、玉座も一つ…」

「そして、我々はひざまずくことを厭わない」魔法使いは商人の言葉を締めくくった。


***

五日目の夕方、キャラバンは帝国の最北端に到着した。木の車輪が粗い石畳の上でガタガタと音を立て、馬車とデリジャンスが村で唯一の宿屋を取り囲んだ。疲れ果てた旅の後、人々は腹を満たして眠りたかった。魔法使いはムレシュの後について外に出た。

「馬を馬小屋へ!荷物を降ろせ!文句はなしだ!お前たちは今からどんちゃん騒ぎに行くんだろうが、私は夜明けまで注文の対応だ!さっさと動け!」商人は命令し始めた。

「ここは空気が美味しいですね」魔法使いは夏のそよ風に乗って運ばれてきた暖かい針葉樹の香りを胸いっぱいに吸い込みながら言った。

「当然だ、地元の者は家畜を飼っていないからな。みすぼらしい鶏小屋さえ持っている者がいればもう奇跡だ」キャラバンの主人は手を広げた。

「いくらお支払いすればいいですか?」

「忘れろ、魔法使い。お前はいいやつだ、ベテランの旅を楽しくしてくれた。この二十AUR【1】をもらっても、私には何もならない」

「ありがとうございます、ムレシュさんもいい人です」魔法使いは控えめに頭を下げた。

商人は思わず微笑み返した。金髪の魔法使いには、畏敬の念と絶対的な信頼を抱かせる何かがあり、彼は心を開きたくなった。

「それで、アカデミーの卒業生は、なぜこんな寂れた場所に惹かれたんだ?」

「ここに魔法の達人が住んでいると聞いたので、挨拶に伺いたいのです」

「正しく聞いたんだ。シンリノコは私の最高の顧客で、彼のためだけにここに来るんだ。まさか、尊敬すべき巨匠が住む場所と食事を提供しするとでも?」

シンリノコは、希望するすべての人に無料で魔法を教えていたのは事実だが、学生は自分で自分を養わなければならなかったのも事実だった。それが彼の教育方針だった。商人は目を細めた:若い魔法使いは、完璧な服を着ていたが、荷物の包みも財布も持っていなかった。一文無しでこんな遠くまで行くということは、どこにも行かないと同じだ。

「お会いできてよかったです」魔法使いは答える代わりに言い、ムレシュの痛む肩を叩いた。

矢の傷跡は、不注意な動きをする度に激しい痛みを引き起こし、キャラバンの主人は思わず目を強く閉じたが、すぐに痛みが全くないことに気づいた。商人はショックを受けて目を開けたが、魔法使いはすでに近づいてくる薄明かりの中に姿を消した。

怪我のため、ムレシュはもはや剣を振ることができなくなり、領主にとって役に立たなくなった。彼は軍事作戦に参加した報酬を費やして、自身の貿易事業を開始しなければならなかった。魔法使いギルドの医師のサービスは安くはなく、彼の卑しい仕事のおかげで、貯蓄完了はもはや近かったが…

肩を触ると、ムレシュは息を呑んだ。古い傷跡が全く残っていなかったからだ。


【1】 AUR - ランパラの通貨単位

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