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何時の時代もえっらい人は現物を見せないと納得しないのだ。


当日数日間の着替えが終わった私は

馬車へ婚約者様にエスコートされながら乗り込むのだ。

4人利用の馬車には私と婚約者様以外に私の容姿を整える為に付きそう、

侍女とその護衛も乗り込む事になる。

入場に関しては腐っても公爵家。

その家紋の付いた家の馬車を止められる事なく入場する事が出来る。

後は謁見の時間まで用意されている待合室で待つだけなのだが、

その間も私の容姿はギリギリまで調整されるのだった。

それで交渉が少しでも有利に進むのならそれで構わない。

幾らだって着飾ってやる。


「今回からこれも必要になったから」


そう言いながら侍女に運ばせていた「化粧道具」の中に入っている。

2つの髪飾りを頭に取り付けられたのだ。

その髪飾りはいわゆる片側は実家の家族から送られる髪飾りで、

もう片方は嫁ぎ先の家が用意する髪飾り。

当然意味は婚約済みであり、王家の許可も得ていると言う証である。

ただし学園で使う「玩具」ではなくて、

公爵家が用意した家格あった正式な物だった。

同時にもう一つ用意されていた物がある。

それは未来の夫となる人が妻に送る護身用の短剣である。

受け取って身に着けた時点で、婚儀を上げていなくとも実質夫婦であると言う、

証明であり証となる物だった。

夜会や正式な場において殺傷力のある貴婦人や令嬢が持ち込める唯一の物。

さり気にこの「短剣」は鍵付きであり、

その鍵は今身に着けている貞操帯と共有であり夫以外に体を許す前に、

鞘の開封で鍵を壊し自害すると言う純潔を守りたい高貴なお方が考えた物らしい。

鍵が無くなれば死して純潔を守れるとかなんとかで。

世の令嬢達は愛を感じられて安心できるおめでたい奴がほどんどみたいなのだ。

それでもこの鍵と短剣の存在は、別の事を私に教えてくれる。

こんな短剣と共通の鍵を持つ短剣の鞘がある時点で昔王家と家臣との間で、

やっばい男と女の関係になった前例があるって事だろう。

それも高貴な者と平民とかそういった類の表沙汰に出来ない厄介な奴。

それを公爵令嬢にまで適応している辺り令嬢が親に内緒で…

ってのが解りやすい問題であり、血が残ったやらかしである事は明白で、

その影響が未だ残してあるのだからこの国の風紀もお察しなのだ。

ああ、年齢制限付きの「乙女ゲーム」も発売されたって事だったから、

その余波かもしれないわ。

そのとても「アダルティー」な意味合いが強い短剣を私は控室で、

婚約者様から私に与えるという意味は、

自身のパートナーを変える気が無いと言う事の意思表示。

しかも王族に見られると言う事は婚姻の許可が取り消しとなる事を、

「絶対に反故にしない。取り消させない」という意思表示でもある。

生家と嫁ぎ先の家紋入りの「道具」には深い意味があり、

それを持たされ周囲に見える所に示す事で不用意な争いや、

誤解を生まないようにする為の物なのだとのこと。

一見合法的で納得しそうな意味もあるのだけど、

結局の所上位爵位を持つ人間が問題を「知らなくて」と言い訳をして、

問題を起こしまくった副産物に過ぎないって事なのだ。

爵位が高めれば高いほど「知らなかった」「気付かなかった」でしらを切る。

その言い訳をさせない為に上位貴族が気付かなかったと言わせない為の、

ルール作りも捗ったと言う事だろうね。

公爵令嬢にこのルールを充て嵌める必要があると言う事は昔問題を、

起したのは考えるまでも無い。

王族って事でしょ。

それで国内貴族の求心力が弱まり…。

隣国の侵攻から目を背けようと必死になっている部分も多岐に渡りある。

身に着けさせられる規律の中には語られない事実が多岐に渡って眠っている。

けれどそのルールを守っている間は文句は付けられない。

便利な物は多いのだ。

その代り死ぬほど苦しくて痛くて気絶しそうにはなるけれどね。

私の立場を主張できる物は何でも用意される。

頭の髪飾りは既に仕上げられた髪形に合わせて着替えの時に、

髪に編み込んで取り付けられた、あっても貧相にならないけれど、

あると華やぐ髪飾りに合体させるようにして取り付ける証が用意されていた。

婚約者様の手によって直々にパチンパチンと公爵家の髪飾りが嵌め込まれる。

そして短剣も当然の様にカーテシーをした時に一番目立つ位置に、

スカートの中心に用意されている光物の台座にその短剣の鞘を、

パチンと嵌め込むのだ。

当然スカートの銀細工等もそうやって「取り付ける」事が、

出来る様になっている物で短剣が取り付いていなくとも目立たず、

けれど取り付けられているのなら主張は激しくなる。

見えないなんて言わせない所に取り付けられているのだ。

この男尊女屈の世界で私が自由に立ち振る舞う事が許されているのは、

当然婚約者様の意向が大きく働いている。

私がヒロインのお口に扇子を突っ込んで王子の前で悪態をついても、

何も言われず動けるのも婚約者様が私の立ち振る舞いを容認して、

くれているからである。

けれどそれは婚約者様の持つ加護範囲内の出来事で、

これから会う王族には全く効かない威光なのだ。

これだけ北2家の加護があると主張する物を身に着けても予断は許されない。

それが私達が敬愛したくない「王族」と言うこの国の絶対権力の象徴なのである。

私達に手をさしだす事はせず、ただ権力だけはあるからいう事を聞かせられる。

その立場は実行力を削がれても王族だからバカに出来ないのだ。

だからこそ私は完璧な公爵令嬢でいる事を体を痛めつけても求められるのだ。



「君との間をなかった事にはさせない。

さぁ、行こうか」

「はい」


けれどその婚約者様の言葉を聞いても、

令嬢としてここまで無理をしなければ私を使い続けるのは、

大変だと言う言葉しか私には出て来ないのだ。

どうか早い段階で別の相応しい令嬢を貰い受けるべきと言う考えは消えない。

歩き出した婚約者様の後ろを「淑女」と王族に面会するために、

定められたお腹に手を当てて背筋を正して一定の距離で、

婚約者様について行く事になるのだ。

「婚約者」である以上まだ婚約者様の隣に並び立つ事は許されていない。

全身が軋む矯正具に重たいドレスで背筋を正して歩くのは、

涙が零れそうになる位、痛いし呼吸も苦しいが、

それもまた「つけいられる事」になるからともかく笑顔で。

何事も無い様にしながらついて行く。

僅かな距離である筈なのだがそれがこのドレスを着ているだけで、

長距離を全速力で走る様な苦しさを覚えるのだ。

近いけれど遠いその先にある国王陛下のいる玉座の間に衛兵に案内されながら。

歩く速度は案内する近衛兵が決める。

その歩みは中途半端に早いのだ。

王族を待たせるなと言わんばかりのその「速足」にはげんなりするも、

それも私がぼろを出す事を望まれているからに他ならない。

やがて空間は開かれ大広間のような場所に案内され、

威厳たっぷりな玉座の間には国王陛下と王妃殿下が玉座に座り、

その近くには宰相。

そして家臣団が扇状に広がってこちらを見ていた。

反対側にはあのヒロインから「因縁を付けられていた公爵令嬢」そして、

一応、あの場にいた王子様も当然いらっしゃる。

最後に見た事もない格好からすれば男爵家の夫婦?っぽい奴等もいる。

その隣にはその男爵家の令嬢?かな。

定位置に婚約者様が止り、膝を付いて頭を垂れれば私もそれに習って、

腰を落とし座りスカートを美しく広げながら頭を下げる。

沈黙が場を包み込み国王陛下が言葉をかけてくるのだ。


「よく来たな表を上げよ」


その言葉を合図に頭を上げれば、

そのまま婚約者様と国王陛下の間で話し合いが始まってしまうのだ。

そしてその話合いが終わるまで私は婚約者様の後ろで、

じっと待つ時間が始まる。


婚約者様は当然公爵家2家の代表として話を進める事になる。

その緊張感がピリピリと伝わってくるのだ。

昨今の国境線の戦況。

そして領内の状況。

最後に支援のありようをどうするのかをよどみなく話し続ける。


「戦況は、膠着状態なのだな?」

「何を持って膠着状態と仰っているのか解りかねます」

「うん?被害は出ていないのだろう?」

「いいえ軽微なれど綻びが見られる所も多々あります」


報告書は当然王家にも届いている。

そして当然の様に読まれてもいる事は国王陛下の言葉からも推察できる。

だが、しかしそれでも納得できないと言うかしたくないのであろう。

婚約者様から「都合の良い言葉」を求めている事が良く解る。


「ならこれ以上の支援は必要ないですな」

「ああ。戦費の負担が大きくなりすぎている」

「うむ一時的ではあるが膠着状態ならそれで良しとするべきだな」


ギリギリの膠着状態という事にしてしまえば、

これ以上支援金を支払わずに済むという考えが見て取れる。

国王陛下もその判断を何とか取り付けたいと言う事なのだが。

隣国との戦況は私が思っている以上にギリギリのバランスの上で保たれている。

それを何とか否定したい王国側は、

婚約者様が良い返事をする事だけしか許さない。


「…本当にそうお思いで?

国王陛下、私達北の2家は出来る事を出来る範囲で出来る所までしか、

行動致しませんが、それで宜しいですね?」

「うむ出来る所までやれれば問題なかろう」

「…解りました」


本当に国王陛下は解ったのだろうかと私は首をかしげたくなる。

ただ…

婚約者様は「出来る所までしかしない」と言った時点で、

私達北の2家が取る行動はもう決まった様な物だ。

今ある領地を守る事はそれだけで負担になっている。

つまり防衛しやすい所まで後退するべき時期が来ていると言う事だ。

どの道その場を守るだけで負荷となる領地が多岐にわたり存在する。

それを整理し領地の一部を切り捨て防衛線を再構築すれば、

戦況は今以上に安定させられる。

ただし、領地の破棄は王家の許可がいる事も確か。

公爵家とはいえ、その領地は王族によって「統治する権利」を与えられている。

と言った言い方が正しいのだ。

その領地を無断で奪われると言う事が「貴族」のプライドとして、

認められないのは確かであり、私達北の2家はその領地を失わない様に、

努力し続けるしかなかったのだ。

婚約者様の出来る所までしかやらないと言う事は「防衛線」も、

同じ様に領地を失ってでも効率化すると言う事は当然含まれている。

何も生み出せず荒れるだけの大地を防衛するだけ無駄なのだ。

これまでの事そしてこれからの事を考えながら、言葉を選ぶ婚約者様。

だたそんな言葉遊びの中に含まれる未来の行動の容認すら、

今しか生きていない「統治能力の弱体化した王家」には関係ないのだろう。

でなければヒロインの甘い言葉に引きずられる王家の王子の立ち振る舞いも、

説明がつかない「緩さ」なのだから。


今の国境線上の問題や、戦局なんて王家はあまり気にしないみたいだった。

だからだろうね。

戦争は存在しないと言いたい位に王国軍の事には触れないのだから。

膠着したのだから支援金は出さない。そして軍も必要ない。領軍で賄え。

そう暗に宣言してその代価に「何とかする事を許す」と言う事を、

意識的か無意識下で「国王陛下」は宣言されたのだから。

乙女ゲームでは北の2家で構築した防衛網が突破される大侵攻まであと6年。

防衛力が強化できたとしてもヒロインがいようがいまいが、

宮廷抗争は確実に起きると「確約」されたような物だった。

大侵攻の引き金は王国に付け入るスキがあると思われ、

隣国に「勝てる」と思わせたから始まったのだ。

今から3年後、ヒロインが学園を卒業する時が運命の分岐点だと、

思っていたのは大きな間違いで、

「既に」今から戦争に向かっての動きが始まっていると言う証明に他ならない。

私達の世代が宮廷で働き始め、国境の戦況が危ういと知った、

悪役令嬢として仕立て上げられる「南の公爵令嬢」が、

色々な支援を国を無視して北に支援するから、

宮廷抗争激化の引き金となるのだ。

国王は「現在」戦況膠着を玉虫色の回答で「何もしない事を」選んだのだ。

それがどんな意味を持っているのか国王は解っていながら動かない。

…もう王家に期待するのは「無駄」なのだろう。

解っていた事だけれど、それでも悔しいなぁ…

乙女ゲームと同じ様に「悪化」し続ける戦局を見続けることになるのか…

そんな思案を巡らせていると話題は大きく「どうでも良い事」に切り替わる。

これ以上国境の様子を聞きたくないと言わんばかりに。


「さてそなたの「婚約者(私)」は一人の令嬢を拉致したようだな?」

「拉致とは人聞きの悪い。

少々おせっかいを焼いただけでございます」

「ほう?無理矢理喋れない様にした後、強引に連れ去った報告が来たのだが?」


それは明らかに私を呼び出した理由で、

その話題になった瞬間、「並んでいた」見知らぬ男爵家の三人組は、

明かに私を睨みつけて来ていたのだった。

もうその行動だけでその男爵夫妻が、

私が連れて帰った「ヒロイン」の両親であることを疑う余地はない。

ぽそりと聞こえる様に私に言うのだ。


「どうして私達の可愛い子が…」

「学園でお話しただけなのに」

「北の下種な公爵令嬢がっ!」


その瞬間私が呼び出された瞬間を正しく理解しなくてはいけなかった。

それはこの国が戦争を考えたくないと言う現実。

その現実を見なくていい為だったら「男爵家」さえ呼び出すのだ。

チラリと男爵家を見る婚約者様。

ここで私が強引に連れて帰った非を認めて謝罪させることだって、

婚約者様が望まれるのなら私はするつもりでいたのだけれど。

その方がこの騒ぎを収束出来て、また戦争の話題に戻れるから。


「…仮にそうだったとしても、何か問題なのでしょうか?」


それは「何の問題があったのか」を逆に王族に問い質したのだ。

変な話ではあるがそもそも「拉致」ではないのだ。

高位貴族が下位貴族を「自宅の屋敷に招いただけ」なのだ。

それがどんなに強硬な手段であったとしても「公爵家」と言う爵位の高さと、

後から行われる「言い訳」で、問題とされないのが厳しい階級社会なのだ。

つまりあのヒロインを拉致同然に連れて帰ったのは問題行動なのであるが、

それは同じ階級でしか「認められない」でなければ貴族でいる事を許されない。

貴族になると言う事は上の階級に問答無用で従わされると言う事なのだ。


「いいや。ただ不用意なトラブルは色々と問題を巻き起こすからな。

例えば他家の不興を買って「支援金」が減る可能性もありえなくはない」


王族と言う更に上の立場から「口撃」する材料となりえたから、

この場でヒロインである男爵令嬢を連れ去った事を「可哀そうな事」として、

取りなした結果、私は呼び出されたと言う事なのだろう。

大きくため息をつきたくなるが、私は無表情で笑顔を顔に張り付ける。

謁見の時間で都合の悪い事を聞きたくないがためにこんな小細工をと、

考えない事もないがそんな事を考えても始まらない。


「左様でございますが…

では陛下は、婚約者を持つ私が王子の婚約者である南の公爵家の令嬢を、

口説いても構わないと?」


それは宮廷工作をして、王宮内を騒がせる事を容認するのかと言う、

婚約者様からの明確な問いだった。

これを認めるのなら、認めて貰えるのであれば違う方向で、

北の2家は未来が見えてくる事になるのだから。

もちろん王家としてその宮廷秩序を乱す事を容認できるはずがない。


「ぬ、そんな事は言っておらん。

王家と公爵家の婚姻は余が決めた事であり、

周知の事実を知りながら口説くとは…ありえぬ」

「そうですか。

なら何も問題はないでしょうから良かったです。

我が婚約者は婚約関係が発表されているその王子と南の公爵令嬢の間に、

割って入ろうとした令嬢を諫めて連れて帰り「貴族の「立場」が解るまで」

根気よく教えて差し上げるだけなのです。

国王陛下の求めた婚姻関係に邪魔が入らない様に整理しただけでございます」


元はと言えばヒロインに心を引きずられた王子が原因なのであるが、

傍にいる王子はその事を理解しないでいる様で何とも複座な気分になる。

これも一つのハニートラップとして学んで戴ければ良いのではと思う所もあるが。

国王陛下としては自身の判断にケチを付けられたとみるかもしれない。

だからこそ婚約者様の「正しい国を維持する論理」に従わないといけないのだ。

「そうか。そうだな」言いながら納得する事にした国王陛下に、

当然噛みつく者が現れた。

この婚約者様と国王陛下の間に入る事が一応?許された存在で、

勿論王子なのだ。


「父上それは違う!

私はただ学園の指針である平等に従って皆を平等に接しようとしただけです!

婚約がどうのと言う話ではありません!」


当然その叫び声の様な異論に男爵夫妻は大喜びで顔を向けていた。

これで娘が助かると思っているのか私には解らないが。

あの時軽くとも学園の唱える「平等」の意味をお教えして差し上げたと言うのに、

彼は鳥頭なのか既に忘れているのかもしれない。

婚約者様はもう終わらせたくてたまらない様な雰囲気で、

躊躇う事もなく大きく落胆のため息を漏らさずにはいられない。

当然その事に王子はムッとしていただけではなく、

この場が王城と言う事で「無礼講」ではないと言わんばかりに、

我が婚約者様を睨みつけていていたのだが、

それすらも婚約者様は憐みの返答をするしかないのだった。


「では、あの時王子殿下に話しかけてきたあの少女を、

どうするおつもりだったです?」

「え?

そ、それは男爵令嬢として未熟だった彼女を導いて…」

「導いてどうするのですか?囲って第2婦人でもしましたか?」

「違う!」

「では何だと言うのです?」

「私は学園の模範となる行動を取ろうとしただけだ!」

「…それは皆平等に扱うと言うアレですか?」

「そうだ!」

「…ああそれなら、本当に平等に扱ってくれる我が領地にある、

学園に通ってから仰っていただけると有り難いのですが?」

「何故そうなる?話が違うだろう!」

「学園の言う平等の指針は「階級社会における平等」の指針ですよ。

身分を平等に扱う訳じゃない。そして平等とは

―階級にあった役目を平等に果たせ―

と言う事では無かったでしょうか?」


そうとどのつまりこう言う事だ

平等の指す意味が違う。

ヒロインは転生前の世界の故郷で言う一般的な平等を口にしていた。

それはセンセーショナルな考え方かもしれないが。

そんな考え方をしていたら国が潰れる。

この国は平等じゃないから成り立っているのだ。

その事を是とする国で皆平等なんて発想は生まれない。

この国の指し示す「平等」を実行するだけだ。

その考えでヒロインの両親はかなり際どい思考をヒロインに植え付けられて、

いるのかもしれない。

ただそのヒロインの未来的思考は「上手くやれば」大きな利益も男爵家に、

もたらせる事は確かで、爵位無視でヒロインの理論の果てに、

「王子と結婚」出来たらそれは素晴らしい利益と結果だろうけれどね。


「爵位に見合った「平等」の責任を果たせ」がこの国の平等なのである。


みーんな平等で仲良しだね!

なんて一言も書いてないなのだ。

私の場合で例えるのであれば、


「公爵令嬢なのだからその「立場」にあった責任を「平等」に果たせ」


と言う意味で、その爵位にあった物を…

物凄く苦しくて痛いこのドレスを嫌がらずに着ると言う意味である。

そして王族を敬いその言葉に耳を傾けて「都合の良い返事」を求められるのだ。

立場と役割から逃げられないと言う事でこの平等を改変する事は当然許されない。

そしてこの「平等」という意味をはき違える事が無い様に、


令嬢や令息達は教育として叩きこまれるのだ。

選民意識と言う事なかれ。

この教育が出来ていなければ「王家」に仕えると言う、

この政治提携の崩壊につながるのから。

だからこそヒロインの口にする「平等」は認められないし、

認める必要が無い。

アレは「乙女ゲーム」だから許され寛容だった王子が容認したから成立したのだ。

その平等の意味をすり替える前に「叩きつぶした」私は王子にとっては、

敵となりうる存在なのだ。

本来この王子を諫める事を行うのは王子の婚約者である南の公爵令嬢なのだが。

あのシーンで婚約者様に許可を戴けてしまった私は、

その場面をぶち壊し乙女ゲームを始めさせなかった。

たぶん王子はあのあと「平等」とかいう言葉をすり替えられ、

ヒロインに染まっていくのだろう。

その裏で王宮を必死に支える公爵令嬢の事を無視して。

革新的な考えで未来を語れるヒロインは確かに「王子」を変えられた。

その考え方を聞いた時点で「平等」が素晴らしい物だと勝手に思い込み、

これから宮廷抗争の火種として3年かけて爆薬(危ない思想)を、

その脳みそに溜め込むのだろう。

婚約者様に今一度「平等」の意味を教えられる王子の表情に、

余裕はなく自身の立場すら忘れていたようなそぶりすら見せるのだ。

国王陛下に今一度話しかけられる王子に余裕の表情はない。

まして婚約者様と国王陛下の会話に割って入ったのだ。

その果てにその基礎の基礎の部分を、忘れていたなんて当然許されないし、

「忘れた」なんて言わせて貰えない。


「…王子よ?まさか忘れていた訳ではあるまい?」

「あ、いえ、はい、忘れておりません…」


もうそれ以上言える反論はないのだ。

行ったら自身の立場すら危うくなる。

そもそも階級社会の最上位である王族のしかも王子なんて立場はまさしく、

平等の正反対にいる張本人であるのだ。

その本人が平等だと騒いだ瞬間「階級社会」は崩れ去り、

その優位な既得権益を全て失う事になるのだがその事を理解出来ているのか?

当然王位を継ぐ後継者争いからは平等なんて社会的秩序を乱す考えの、

危ない思想を持つ人が階級社会のトップに立つなんて恐ろしくて考えられない。

果てに残された立場のない王子は、

果たして生きていて良いと判断してもらえるか私には解らない。

けれど気にする事も面倒ではあるがこの王子が動けば私の婚約者様も、

動かない訳には行かないのだから面倒な事なのだ。

婚約者様は言い切るのだ。


「親元で教育できなかった「平等」と騒ぐ令嬢を教育してあげるのです…

感謝こそされ「返せ」等と言われたりはしないと思いますが?」


男爵は目を逸らすしかなかった。

そして何も返答を返せない。

返したらその瞬間「平等」と言う階級社会を否定する考えを認める事になり、

男爵夫妻とヒロイン含む娘達も爵位返上の上、平等に平民に落とされるのだ。

私に嫌味を履いていた男爵夫妻は息をひそめ、笑顔を此方に向けるしかない。


「なら私の婚約者の行った事は善意の行動で何の問題もないですね」

「うむ…」


これで謁見は終り私と婚約者様は無事に帰る事が出来ると思っていた。

私自身この下らない茶番劇に思う所はあれど…

それでもここで終わってくれるなら後は一礼をして、

帰るだけとなるはずだったのだ。

そう結論付けられた舞台に立ちふさがるのは勿論王子であり…

王子は「イカレタ」頭で叫ぶのだった。

妄想ここに極まれり、完全に教育を間違えたとしか言えない言葉が、

王子から飛び出すのだ。


「そうか!解った!解ってしまいましたよ!

国王陛下…北の2家の言う提案は、全て虚言です。

私を貶める為だったのです!

上手くいっていない北部地方の財政が悪化し続けているのは、

隣国の侵攻ではなく無能な2家が王家に支援を求める為に言った

虚言の戦争なのです!

戦争は実は起きていないのですよ!

危うく騙される所でした!」


起死回生の暴言。

和やかな国王陛下との語らいで終わりを告げる所だった、

会場に響き渡るその理解不能な論理の下にたどり着いた暴言の中には、

彼の未来が吹っ飛ぶ言葉しか含まれていないのだから笑えない。


「だってそうでしょう?今私達の前にいる公爵家の二人に、

戦った跡は見えず、そして何よりそのお揃いで作られた衣装は、

まるで夫婦の様な扱いではないですか!

まだお二人の両親はご存命だと言うのにです!

それでいてまるで夫婦の様な装いをして!」

「黙れ…」

「そうだ違いました、彼等は2の公爵家を効率よく支配して、

我が王家を転覆する事が目的だったのだ!

それがバレるのが嫌だから男爵令嬢を連れ去り、

私に汚点を付けようとしたのです。

父上!いいえ国王陛下!この陰謀を阻止するのには、

今しかありません!」

「黙れと言っている!」

「黙りません!黙る必要が私にはないのです!

今ここで私のたどり着いた真実を語らなくて何時語ると言うのです!」


もうあらゆる意味でっめちゃくちゃな理論の誕生は、

もはや手の施しようがない。

ただその理論を展開する理由も解りたくないが解ってしまう。

その暴言はお父様とお母さまがここにいない理由を汚し続ける。

あの血まみれで戦う前戦の戦いが全て嘘だと?

のうのうと生きて来たこの王子は言うのか?


「戦火にさらされている様な「家」の令嬢が、

こんな豪華なドレスを見に纏って私達の前に立てる訳がない!」


…は?

この目の前の男は何を言った?

何故私が着せられている物を成金娘が着飾った姿とでも言いたいのか?

ピクリと動く私に反応してすかさず婚約者様振り向いて私を強く抱きしめるのだ。

もう…

もう限界だった。

何故ここまで言われ放題で我慢し続けなくてはならないのか。

私には理解出来ない。

耳元でささやかれる婚約者の落ち着いた言葉。


「落ち着け。

今取り乱したら全てが終わる。

今までの我慢が無駄になる」


俯きそして、周囲に顔を見られない様に扇子で顔を隠す。

解っている。

何の為にこんな拷問器具を着て我慢しているのか。

それは一重に王国の支援を辞めさせない事が私達の求めるべき事で…

その為なら私達はどれだけの暴言にさらされても耐えなくてはいけない。

そうしなければ「前線」でより多くの私兵が死ぬのだ。

戦うには良い剣良い防具は必須で、それがあったとしても私の副官は、

哨戒任務に旅だったのだ。

ここは、何もせず、そのまま一例をして下がるだけ。

それだけでいい。

国王陛下との会話は終わったのだから。


「国王陛下…

私達はこれにて下がらせていただいても宜しいでようか。

私の婚約者は「気分がすぐれない」様なのです」

「う、む。大事にせよ」

「ほら父上!奴等は言い返す事も出来ないのです!

私の言っている事は正しかった!

奴等は金の亡者です!」

「お前はっ!」



もう暴言を聞かせないと言わんばかりにそのまま婚約者様は、

私の体を出口へと向け手を引いて引き始めたのだ。

それだけで王子は喜び始め勝ちを宣言し始めるのだ。

けれどそんな事は関係なく、いや目の前にいたあの王族は一体何なのだ?

何故アレを言う事が許される?

アイツが経っている場所こそ私達が守っている究極の安全の場所だと言うのに、

その場所に立つアイツが安全だけを享受して「戦争」を否定するのか?

その事が許されるのか?

婚約者様に腕を引かれ歩き始めようと足を動かした瞬間…


「逃げるのか成金令嬢!」


その言葉がトリガーだった。

成金だってなんだって構わない。

私が無理矢理来ている公爵令嬢用の「ドレス」が似合っていようが、

いまいが関係なかったのだ。

ただ、この言葉を長かけるこの男(王子)は何を言っているのか?

そしてそれを止めようと動かない周囲の人間も…


「今」現在進行形で起きている国境で文字通り命を張って戦っている、

兵士達にその言葉を履けるのか?

結局こいつらは現実として戦争を把握できていないのではないのか?

着飾ってもバカにされ、その事で上げ足を取られるのであれば、

こんな苦しいドレスを着る必要だってないのに…

いやっそうじゃない。

戦争が嘘と言うのであれば、現在に起きているその戦争の証拠を見せてやる。

婚約者様に掴まれた腕を振りほどき、

私は体に強烈な苦しみを与える事に耐えながら体を急激に捻って、

もう一度玉座の方をふりむいたのだ。

そして、顔を隠していた扇子を腰のベルトのホルダーに差し戻すと、

思い切り王子を睨みつけるのだ。

ふっざけんな。


「な、なんだよ…」


それだけで、も怯む王子であったが私は止まらない。

そのまま利き腕でスカートに取り付けられた婚約者様から頂いた、

自害用の短剣をさやから強引に引き抜いたのだ。

バキンと大きな音を立てて鞘に差し込んであった鍵は砕け散り、

そのまま引き出した短剣を王子へと向けたのだ。

その瞬間お王族の周りにはわらわらと兵士が集まり…

そして私の短剣から王子を守るために兵士達が配備されていくのである。

所謂厳戒態勢って奴なのだが、兵士達も私が短剣を構えた程度で何ができるのか、

疑問に思いつつも大切な王族を守るために此方に剣先を向けるのだ。

感情のままに指し抜いた短剣。

この短剣を使って王子を黙らせたいなんて思わない。


「王子戦争は起きていない私達の狂言と言うのですね?」

「そ、そうだよぅ。

だってそうなんだから…私は間違った事は…」


その非を認めない妄言に対して私は手首に嵌められたブレスレットの下に、

その短剣をザックリと突き立てるのだ、剣の扱いは馴れたもの。

しかも握っているには短剣だ。

扱いを間違える事など無い。

そのまま肘に向かって短剣を引き落とし、私の右腕を締め上げて、

綺麗な肌の下地を作り上げていた小手のような物を固定していた革紐を、

ブチブチと切り裂いたのだ。

更に肘の周囲に短剣の剣先をねじり込む。

そのままぐるりと弾くようにねじってやればロンググロー分の内側、

私の擬似肌として見せる腕全体を覆っている小手が緩むのだ。

鞘に短刀を戻して、私は息苦しいながらも声を張り上げる。


「よく見るがいい。私が戦い続けた証が「ここ」にある!」


切込みを入れたロンググローブをビリビリと破き、

その下にある凸凹の素肌を綺麗に見せる為の小手の様な物を引き抜けば、

その下から現れるのは私が5年間、駆けずり廻り泥と血にまみれて戦った、

証である「傷だらけの素肌」なのだ。

この傷が私が5年間「炭鉱のカナリア」をやって来た証拠であり、

剣を握り相手を殺して来た証でもある。


「王子の言う戦いが「嘘」であるならこの腕に余すことなくついた、

私の持つ「傷」は一体どうやって付いたのと言うのかっ?

私が国境で5年間戦っていた時間は全て嘘だと言うのかっ?

腕の傷などごく一部に過ぎない。

全てを聞きたいのなら婚約者様に聞くがいいっ!

婚約者様は私の体中に付いた傷をすべて見ている。

知っている。

私はっ!

私はこの傷がある限り隣国が侵攻を諦めたなんて思わないっ

剣を握り隣国の兵士を切り殺した事も忘れない。

私の周囲で戦った者がっ、死んでいった者が、

全て嘘だったなんて認めてやるものか!」


突き出した腕に未だ残る剣の切り傷や焼けただれた跡。

それがある限り私は戦争があったとそして現在継続中であることを忘れない。

私の令嬢らしからぬ腕を見て一部の近衛兵は剣を揺らす。

まるで「気持ち悪い物」を見せつけられたと言わんばかりに。


「王子の考える私達の言っている事が支援させる為の嘘だと言うのであれば、

そうで構わない。

だったら北の領地に来るがいい。

安全なのだろう?

国境付近に張り付き争のない場所と言ったその地で生活をしてみるがいい…

一カ月もたたないうちに現実を隣国が教えてくれるでしょうよ…

さぁ「戦争」は嘘なのでしょう?王子?

宣言したのだから国境線に一番近い町(前哨基地)まで兵士を連れてでも良い。

長期休暇として遊びにいらして下さい。

…いいや「今」戦争がないと宣言したのだ!逃げずに「来い!」」


王族が言った言葉だ。

もう嘘でもなんでもいい。

前戦にこの王子を連れ出す。

そこで現実を知って死ぬが良い。

「あ、いやちがぅ」とか呟くように言葉を放つ王子は明らかに動揺していた。

だがそんな事は関係ない。

もう、王子からつぎの言葉が出て来ないのだ。

私の傷だらけの腕はそれなりにインパクトがあったらしい。

敵をいなし退けた誤魔化せない「現実」を見せるその令嬢らしからぬ腕の傷は、

本来大切にされるべき高い爵位を持つ「公爵家の令嬢」の腕としてはありえない。

あってはならない傷つき方なのだから仕方がない。

屋敷の中で蝶よ花よと愛でられ愛らしくそして美しく磨き上げられ、

両親によって嫁ぎ先が決まり、その嫁ぎ先へも嫁ぐ前に当然支援もされて、

何一つ問題なく嫁ぎ先に迎え入れられる様に取り計られるのが「当然」である、

「公爵令嬢」の腕に「傷などあるはずがない」のだ。

だが、現実に私の腕を含む体は傷だらけ。

信じられないほどにボロボロで戦場を知らない兵士達なら目を背けて、

見たくないと思えるほどに。

片腕をさらした効果は絶大だった。

その場にいた令嬢と王妃は私の見せた「現実」からその証拠から逃げられない。

その日その瞬間…

王城で革命が起きたのだ。

「乙女ゲームの定番」攻略対象の第1王子と第2王子の王位継承権にも、

影響が出る大きな騒動となるのだ。

けれど、今そのシナリオとか王位継承権とか私にはどうでも良い事だった。

王家の血筋が潰えようと知った事か。

その騒動が起きたから。

北の戦場に変化せざるをえない。

未だ戦況は2家の公爵家によって支えられているのだが、

けれど確実に戦場に大きな変化が訪れる事になってしまった。

全員が私の言葉にたじろぎ何も言えない玉座の間で、

冷静に私の婚約者様は動き始め自身の首に巻き付けているスカーフを取ると、

私が切り裂いた片腕の傷をそのスカーフを巻き付けて結んで、

傷が見えない様にしたのだ。

無茶をするなと言わんばかりに。

私の曝した汚点を隠す様に動いてくれたのだった。


「…国王陛下。

我が婚約者の腕がここまでになった経緯も当然知っておりますね?」

「う、うむ…」

「この場にいた全員が我が婚約者の腕を見たのです。

見てしまった事実は消せませんし…

この傷だらけの腕を見て、まだ国境は平和で武力衝突はないなどと、

しらを切りとおすのであれば、こちらにも考えがあるのです」


そのまま私を背中に隠すと、その先の交渉権は全て婚約者様の物。

私はやってしまったと思いながら婚約者様の結んでくれた腕のスカーフを、

擦りながらそのまま婚約者様の背中におでこを付けて震えていた。

だが、そんな私を叱るでもなく婚約者様はは話し続ける。


「…違いますね。

ここには南の公爵家もいた事ですし。

見てしまった以上王家と公爵家は王国としてご決断戴きたい。

選択肢は二つです。

王子の妄言を「真実」として信じるのなら私達は戦う意味を失います。

敵などいないのですからね。

なので全力でこの王都まで領民を連れて撤退させて戴く。

もう我々は自身の為にしか血を流さない」


当然なのだ。

だって敵はいないのでしょう?

だったらより豊かな生活をする為に今の土地を放棄して、

王都付近に根拠地を構えて自活するだけで良いじゃないかと言う事なのだ。

広い土地にまばらにいる領民を集めて王都付近に大きな町を構えるだけで良い。

その街を守るだけだったら精鋭を揃えるだけで事足りるのだ。

小規模な街を守るだけなら今の戦力で賄える。

王家や他の貴族からの支援だって要らない。

北の2家だけでやっていけるのだ。


「もう一つは自身の嘘に従って王子にはその「嘘」を貫き通していただきたい。

今回の王子の言動は流石に無かった事には出来ませんから…

彼自身が宣言した戦争が嘘だと言うのであれば、

国境に王族が来て暮らしていてもおかしくないでしょう?

私達が最前戦としている町で行われている戦闘はきっと幻想でしょうから、

そこで王子には生活していただきたい。

期限は、そうですね「王子の言った言葉が現実と合致するまで」ですね。

少なくとも言った言葉に責任を持って戴かなくてはね…

それで今まで通りできる範囲で国境を守りましょう。

さて、何方を選択なさいますか?国王陛下」


それは王子の前戦配備と言う事。

今まで王族が「逃げて来た」隣国との戦争の最前線に「王家」が、

立つと言う事なのだ。

曖昧で事なかれな対応は当然できない。

更に言うのであれば支援しなければ、

前線配備される王子は文字通りに死ぬのだ。


何方を選択しても私達の基本方針と結果は変わらない。

どの道このまま国が参戦しないのであれば北の公爵家は押され負けるのだ。

だから撤退できるための場所を作ると言う。

その為に王都に砦を作ったのだから。

数年来で考えていた「広域撤退行動」の最終到達地点は王都なのだ。

ここまで撤退されたら王国として戦わざるを得ないと言う事になる。

目を背けたくとも敵が目の前にいるのだ。

その恐怖を王家も味わってみるがいい。

だからこそ婚約者様は出来る所までしか戦わないとさっき話したのだ。

王子の暴走によってこれから考えていた事が、

思った以上に早くなるだけではなくなるだろうが、それでも王家の参戦は、

国境付近のいざこざではないと認める事になる。

婚約者様の選択肢を選ばず別の回答をする事は当然許される。

けれどその言葉を言ってしまえば自動的に王都へと撤退すると言う、

選択肢になってしまう事に気付いている王は、

そこまで愚王になれなかったらしい。

違うかな。

王都に敵が迫る事は耐えられない。

国王陛下自身が危険な目にあう事は嫌だと言う事なんだろう。

自身が危ない目にあう位なら、

血を分けた息子でも前線に送れると言う意味なのかもしれない。

国王陛下の決断は沈黙を保つ時間はそんなに長くなかった。

その短い時間に「見切り」を付けられたのだろう。


「王子の言葉を誠として、国境の町に移住させる…。

今すぐにだ」

「そんな!嘘でしょう父上?」

「ではその馬車の従者は此方で用意しましょう」

「…解った」

「待ってくれ!こ、国王陛下!」


急転直下の出来事だった。

「旅行」や「一時滞在」ではない。

移住となれば意味合いが変わってくる。

けれど王から零れた言葉に一番驚いたのは王子だろう。

いきなり前線の町で過ごす事になってしまった王子は困惑するしかない。

だた、流石に解っているのだろう。

全てを嘘と言い「 北」の公爵家を敵に回して時点で北は本気で戦闘を辞めると。

王都への進撃を阻止する事を何もしてくれなくなると。

それは無防備な王都が明確な被害を被ると言う事であり、

「救済の日」が行われたらどれだけの人が連れ攫われるのか解らない。

王子の反論は全て切り捨てられ国王の考えがどうであったかは解らず。

ただ前線も町へと送られるのだ。

それが王子が北の公爵令嬢を口撃した代償だのだ。

曖昧で明確な回答を避け王家を戦場から遠ざける玉虫色だった戦略はその、

王族の会談上で言われた、遠ざけられるべき王子の言動によって破壊されたのだ。

言葉のやり取りで済まされない「本物」の物的証拠である。

公爵令嬢の腕を見てしまった時点で王家はごまかせない。

だからこそ、書類を中心とした「報告書」と「未熟な公爵令息」で場を濁し続けた。

両公爵家のお父様方が登城してしまえばごまかしは効かない。

戦争に対して話を聞かなくてはいけなくなるのだから。

ただその場に置いて「戦争の証拠」として私の体は王家にとって認識してはいた。

けれどそれを公式な場で「見せる事」は令嬢としてプライドが許さないと、

思われていた節もあった。

だからその証拠を晒せないし王家としても証拠として見せられるとは、

考えていなかっただろう。

公爵令嬢としての価値がゴミ屑に落ちる事になるのだから。

けれど私は見せてしまった。

そして体中に傷があるとも宣言した。

婚約者様は全て知っていると。

彼に聞けばいいと。

それは重い。

「公爵令嬢」として十数年育ててきた令嬢の価値がゼロになるのだから。

それは私が婚約破棄されたとしたらもう再婚約は無理と言う意味でもある。

それだけ私個人にはもう価値がない。

私の事はともかく、王子の移住についての話は止まらない。


「陛下?町での生活にならいくら温情はをかけても構いません。

我々は王子を手助け致しませんので。

…どういうことかお判りですね?」

「全て用意せよと言うのか?」

「その通りです。だって「戦争は嘘」なのでしょう?」


一気に積み上がる王家の前戦への配備と言う現実。

このチャンスを無駄にする婚約者様では無かったのだ。

公式な謁見の間で言ってしまった王子の妄言は、

ひたすらに北の2家を支援する王家へ口撃する、

材料となってしまっていたのだった。

もう王子は逃げられない。

そして言った事は王族であるが故取り消せないのだ。

私達が大人として扱われる様に、あの場にいた王子も当然大人として、

その言葉に責任を持ちその言葉の代価を払い続けることになるのだ。

次々と決められていく王子の待遇。

それは王家が王子の命を守る為の物を全て用意すると言う結論しか、

現れないし止まらない。

軽口から始まった地獄への扉は容赦なく開かれ、

そして王子を国境へと連れていく。

王子でなければ許されただろう。

だが彼は王子だから逃げられない。

本当に命を懸けて戦う戦場に送り出されるのだ。

でなければ「私が素肌をさらさせる原因を作った」王子を婚約者様は、

許せないし許すつもりもないと言いたげだったのだ。


それから謁見の間から私は控室へと戻されると連れて来ていた騎士に、

護衛されながら破いてしまったグローブと、変わりの地肌用の小手を、

屋敷から運んで着てもらい切り裂いた腕を修復する時間が、

始まってしまったのだった。

メイドと騎士も道具を運ぶついでに連れて来られ、

私の控室での警備を始める事になる。


「お肌には傷はありませんね」

「その位の手加減は出来るわ」

「ですが無茶はお止めください」

「戦ってできた私の傷が全て「嘘」だって宣言されたら私でも怒るわ」

「それはそうかもしれないですが」


新しく地肌の小手をきつく革紐で腕に取り付けてブレスレットを外すと、

切り裂いたロンググローブをもう一度新しい物に交換して、

手首のブレスレットを締めるのだ。

元通りに戻された腕はまた重くそして締めすぎて痺れる様に痛む我慢の時間が、

戻ってくるのだった。

腰のいったん引き抜いて壊れてしまった護身用の短刀も、

鍵も鞘に短剣を嵌め込めばカチャリと音を立てて鞘に収まり、

更にカチンと新しい鍵を使って鞘から取れない様に鍵をかけるのだ。

そうやってドレスの乱れを整えられた私に「お屋敷に帰る」なんて事は、

当然許されるはずもなく手直しが終わればその報告を聞きつけた婚約者様が、

私を迎えに来るのだ。

城の中で呼んだ護衛を引き連れていても一番安全な場所は婚約者様の、

後ろであり極力後について歩く事が求められる。

控室で手直しをされている間に状況は動き、

王子近衛兵が結成され辺境の国境で、

王子の代りに死ぬ覚悟を決めているみたいだった。

何でもいいけれどね。

結局帰るのはもう少し後になるとかで、

私と婚約者様はこれから出立する事が急遽決まってしまった王子様に対して、

良い意見を与える為のアドバイザーとして、

これから急遽開かれる事になってしまった会議に参加を要請されたらしい。

婚約者様はその会議が始まる前に「王子」と直接素敵な会話をして、

注意事項(死ぬ準備)を聞き入れて魔封じの道具を嵌められたあと護送用の、

外からしか開けられない馬車に放り込まれて出発を待っていた。

家の家令が用意した御車に引き連れられて前線の町で生活する事が、

本当に決まってしまったのだ。

あの暴言は許されないという事もあったのだけれど、

それ以上に婚約者様には引っかかる事がある様で、

今回の登城はただでは帰らない事になってしまったのだとかなんとか。

その上に丁度いてしまった南の2公爵家の所為で、

事態は更に重たい方向に傾くのだ。

王家は踏んではいけない婚約者様の尾を踏み抜いて、

そして誤魔化せない爆弾を爆発させた事態は、

王家を含む4公爵家で緊急会議を開くと言う事態へと発展していたのだった。


主人公の公爵令嬢が自身の手袋を引き裂いて、

その下にある傷だらけの素肌をさらし


「これを見ても戦争が無いと言えるのか?」


と叫ぶシーンが書きたかったのです。

その為にここまで書き上げました。

掻きたかったシーンに近づくにつれてスラスラと、

頭の中から出力されました。

取り敢えず書きたかったことは書けたので満足です。


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