ながいながぁい登城の為の準備?又は公爵令嬢のお着替えという名の苦難の時間の始まり。
連載終了まで毎日18時に更新します。
侯爵令嬢は乙女ゲームが戦争モノであることが許せない。
の登城前学園を休んでまで行われるお着替えの時間
公爵令嬢用のドレスを着るのに主人公は地獄の様に苦労する。
―婚約者を伴って登城せよ―
先日の男爵令嬢を拉致した事への釈明をしろ。
そんな事は決まっている礼儀のなっていなかった「男爵令嬢」を、
解らせ教育してあげる為に心優しい「私」が連れて帰って差し上げたのだ。
もちろん私がした事も婚約者様は理解しているし、
当然返さないと言う決断にも賛同して下さった。
「未来」を知っていると言う事もあるからだけれど。
けれど「誰」が納得いかないのか「王家」を通して通知された呼び出しを、
通じて解る事はただ一つ。
つまりあの時いた王子が国王陛下に陳情した以外にはありえない状況なのだ。
…どう考えているのか解らないが、なんだヒロインを守らなくてはと、
今更ながら考えたのか?
だとしても訳が分からない。
が…
突然の呼び出しによって私と婚約者様は当然対応を迫られる事になる。
基本的にこう言った事態となれば両親が先に呼び出される事になるが、
当然私と婚約者様の両親は「前線」を支える為には王都にはいない。
その為にその名代として私と婚約者様が王都に置いて親の名代として、
行動する事を「例外」で認められている。
というか認めざるを得なかった。
公爵家として両家のお父様は当然前線を支える為に力を尽している。
となれば当然領内の政を仕切るのは当然お母様方だ。
両親揃って余談の許さない領地を支え続けている。
王都に顔を出している暇なんてないのだ。
王国には勿論夜会のシーズンも当然あるがそんな事にかまけている暇はない。
一軍を指揮する大将として前線にいるだけで「隣国」に対する圧となるし、
実際その血筋上魔力は高く戦力として機能できてしまう。
両家の家令も当然戦えるが、公爵家の血筋には勝てないし、
ネームバリューと言う意味では本人がいなければ意味がない。
戦争をする時期が「生産工場」の所為で収穫の秋や侵攻が難しい冬であっても、
戦争をする時期なんてなく定期的に行われるために、
決して離れる事が出来ないのだ。
戦火が大きくなれば国境を離れられなくなりその現状を知る者の報告を、
耳にしなくなれば「戦争」が起きているだなんて当然国は考えない。
そう言った意味で戦いから離れたい見たくない南の面々は、
北の戦いの音「公爵家」の戦いを知る人を夜会に参加させないため人も、
私達に代理参加させる事を例外的に認めると言う事なのだ。
代理と言う立場であれば高い爵位を持っていても聞き流せる事も多くなる。
けれど代理だからと言って当然未熟者として扱ってくれるなんて事はなく、
私と婚約者様の失態はそのままお父様方の失敗とみなされる。
だからこそ私の婚約者様は色々な家に「呼び出される」のだ。
「失言」を取るために。
かといって訪問を断る訳にはいかないし支援をしてやっていると言う、
南側の貴族の態度は、そのままに「何とか」支援しなくても良いと、
婚約者様に言わせたいのだ。
けれど婚約者様の国境の現状を聞いて両親が夜会に参加しない所を見れば、
支援しない理由が無くなるのだ。
…そうであっても財政が厳しいと支援を止める所もあるのだけれど。
その厳しい財政も私達の「犠牲」の上に成り立っていると言う事に、
気付いていないのか気付きたくないのか解らん。
本来なら2家の問題だから私もついて行くべきなのだけれど、
公爵家と言う立場であるから同格の家からの呼び出しは基本ない。
そして格の違いと言う点で私は同行せず代理の婚約者様だから格下であり、
バランスを取っているから婚約者自ら「訪問」と言う形にしていて、
格上の公爵子息を「呼び出す事」を許しているのだ。
表向きの理由はであるが。
当然裏というか、もう一つのおおきすぎる理由があるのだ。
私が行く事によって「口撃」対象が増えてしまうと言う事もある。
どんなに「戦女神」とは言われた所で舞踏会で必要なのは「公爵令嬢」として、
立ち振る舞う事が求められる。
それは呼び出された話合いの場においても未来の「公爵夫人」としての、
立場を求められるのだ。
それは公爵夫人の着るドレスを着て行かねばならないと言う事であり、
今の私はその「公爵夫人」として振舞う為のドレスを着ると言う事は、
難しいのだ。文句を付けられない完璧な令嬢になるには、
物凄い準備に時間をかけなくてはいけないのだ。
中途半端に整えられた状態で会おうものならたとえ格下の伯爵家でさえ、
「おや、貴女の婚約者殿は令嬢として最低限の姿も出来ないのですな」
と話を切り出され逸らされ支援を取り付けると言う所になる前に、
私を散々詰って時間切れにして会談は打ち切りになってしまうのだ。
だから本当に必要とされない限り私は表に出ない様にしている。
…足を引っ張ると分かっているのにそれでも婚約者様は私を、
手放してくれないのだから変わり者だ。
けれど今回のこの「くだらない」男爵令嬢騒ぎで、
登城する事になった事は正直意外だった。
たかだか男爵令嬢の盛衰なのだ。
王族がそれを気にする理由がわからない。
けれど…
王家から届く正式な手紙であり、
名指しを私を連れてこいなんて言っている以上断れば、
行かない以上の不利を被ると言うのが家令と婚約者様の考えであり私も同感だ。
「登城しない訳にはいかないでしょうね…」
「そうだね。
準備頼めるかい?」
「はい」
「それじゃあ明日から「学園」は「休み」だね」
「そうですね」
登城の準備をする事になってしまった事はともかく。
婚約者様としては私が着飾るのは嬉しいらしい。
けれど私としては歪んだ体を一時的にでも正さなければいけない、
苦しい時間の始まりなのだ。
それはヒロインとは違った苦痛あふれる品々を身に着けて、
体を慣らす為の時間の始まりだった。
そうなれば私は学園を休み3日ほどかけて、登城の準備を済ませる事になるのだ。
僅か数時間の登城の為に私は文句を付けられない姿になる。
その為に体中のあちこちを捻じ曲げ括れさせ締め上げて、
ドレスアップするために、矯正具と言う名の拷問器具を体中に嵌め込むのだ。
痛いから嫌だ。
苦しいから嫌だ。
もっと楽な姿に。
そんな言葉は吐けない。
私が吐いたとしても周囲は気にしない。
それだけ「公爵令嬢」兼「2家の婚約者」と言う立場でいる内は、
役目を果たせなければ王家にいう事を聞かせられると言う、
現実を理解しない南の連中が命令するだけと言う辛い現実が待っている。
私が痛くて苦しい想いをするだけでそれが回避できるのなら、
いくら苦しい物だって構わない。
色々取り付けられた末苦痛あふれる公爵令嬢のドレスのお陰で、
私は柄にもなく淑女としてしか動けなくなるのだがそこも仕方がない。
しっかりと専用の扇子を握りしめて城へと向かう。
私の登城のお着替えには時間がかかる。
それは私が5年間命がけて戦った証でもあるのだ。
それを否定する事はできないし、あの時はそれが最善だったのだ。
が…専用のお部屋と用意された装具一式は見るだけでげんなりする。
けれどそうでもしなければ「形にならない」体はなのだ。
成長期に無理をしたツケは公爵夫人となるなら一生つきまとう因縁を、
私に残してくれやがりましたとさ。
何年も何年も時間をかけて歪みを取り治すしかないのだ。
ともかく骨盤の左右の高さが違う事。
当然背骨の歪みも正すため一層身に着けるのが苦痛な矯正具が用意され、
その上からドレスを美しく着る為の充て具一式。
そして既に婚約者様に跡を付けられているので、
乙女ではないが婚約者様以外の男性を受け入れないと言う意思表示で、
魔法の鍵付きの頑丈な貞操帯などなど。
それら一式を用意して、数日間かけて体を美しい形に無理矢理捻じ曲げるのだ。
それから当然の様に絶食当然の生活が始まる。
お腹に入った内容物を外に極力出して少しでも腰を細くして、
極限まで形を修正できるようにして美しく仕上げるのだ。
私の腰は筋肉質なだけならまだ良かったのだ。
けれど切り傷と一部の「修繕」の影響で美しい括れを作る事は実質不可能。
もちろん普通の公爵令嬢なら成長期合わせて体を矯正するだけのこと。
それだけ。本当にただコルセットを締めてドレスを着るだけで様に出来る。
婚約者様に断られる為に何の矯正もせずに着たドレスの時を思い出す。
アレは酷い。
ボディラインをただでさえ見せつける形となる令嬢用のドレスを見ただけで、
ねじ曲がった体を認識せずにはいられない。
私のお腹周辺は変形している事をまざまざと見せつけられた。
鏡に映る自身の体をこれほど歪んでいるのかと、
美しくない物をより汚く見せる様に令嬢のドレスは創られているのだと、
感心したりもした。
美しく広げるスカートを押し出すパニエはその歪に曲がり高さが違う骨盤を、
更に強調する形で乗せられたスカートを広げるのだ。
誰が見てもスカートが傾いている。
そして体に密着する形でその形を見せるバスクは容赦なく胸から、
首にかけて横に倒れ傾きを取っている私の背骨とのズレを強調するのだ。
私の楽な格好は右肩が自然と高くなる位置なのだ。
利き腕をより効果的に力を入れ動かすために、
筋肉の付き方が左右で歪になり生き延びるため致命傷を避け守るために、
犠牲にした守りの左腕はそれだけで幾度となく、切り付けられ剣先に、
肉を抉られた事も数えきれないほどある。
その為に攻撃の右腕は筋力として厚くなり、防御を担当した、
左腕は防御として腕を硬質化する強化魔法の影響で魔術回路の発達が著しい。
役目が違う二本の腕は当然5年間の間にそれはそれは片腕は筋肉質に。
もう片方は密度の高い魔法を使える固い魔術回路を含んだ、
外皮を纏う形となったのだ。
なので育ち方が違う両腕はその体への付け根から影響を受け、
最終的にはその重さが左右の腕で違う事から当然それを支える背骨も、
まっすぐにはならなかったのだ。
その影響は先も述べた通り左右対称で作られるバスクを身に着けると、
左右の胸が体の真ん中を通らない形になってしまっている。
正面を向いているはずなのに上半身は前を向いていなくて若干、
左側を向いている様に見えるのだ。
それでいて顔は前を向いているその歪さ。
当然刺され切られた柔らかい腹部は碌な治療を受けなかったために、
火傷と治った傷で凸凹でその凸凹を余すことなくバスクは見せつけるのだ。
今でも思う。
よくこんなボロボロの体を見ても婚約者様は動揺もせず。
私を傷物に出来たものだと。
お持ち帰りされ「愛された」時の激しさは…
うん、なんだ。
容赦なかったが、私の存在を確認するように全身くまなく撫でられた事は、
嬉しかったのかもしれない。
5年間のカナリアとしての活動した結果。
私の体を令嬢にするにはもうどうしようもなく、
けれど王族や貴族共に付け入れられない体に仕上げる為に、
正に凶悪な拷問器具と化した矯正具を身に着ければ、
何とか公爵令嬢になれる体であることは別の意味で喜ばしい事なのかもしれない。
ここまでしなくてはいけないけれどすれば公爵令嬢としての役目は、
果たせると考えればギリギリセーフで喜ばしいと前向きに考えるしかない。
何度だって後悔はしていないと言えるが、
登城して王族にあうのなら絶対に着る事を求められる「専用」の、
ドレスに対して拒否反応が出てもおかしくはないレベル。
それでも格好がつかなければ「呼び出し」で一方的に詰られるだけなのだ。
美しくなくたっていいの。容姿は重要じゃないのよ!
なんて口が裂けても言えない。
口撃の対象としてその「姿」は容赦なく対象で格好の餌食となるのだから。
だから王家の人間の前に立つためにどんな無理をしても
「ドレスは美しく着なくてはいけない」のだ。
侍女とメイド10人掛かりで2日後の登城に向けて準備を始めるのには、
それを行わないと「話合い」に出来ないのだから仕方がない。
事宮廷で会う令嬢達の優しい容姿に関する言葉は「悪魔の言葉」なのだ。
例えば、
「もう少しコルセットを緩めても良いのではないかしら?
貴女は細過ぎよ」
その言葉を信じて緩めようものなら、次に会った時には、
「随分太間しくなったのねぇ」
などと普通に言われるのが常識なのがこの世界なのだ。
なので絶対に妥協は許されない。
いつも身に着けている制服下の矯正具が可愛くなるレベルで用意されている、
革と金属で作られた下着達を丁寧に体に取り付けていくのだ。
それは勿論体の自由を奪う事だけれど、淑女として優美に動ければいい。
何かあった時は婚約者様にお任せする。
それ位の気概で身に着けるしかないのだ。
例えるなら全身にギプスを嵌め込む様な作業が始まる。
朝の食事も流動食に変更されて、
起きて粗相を終わらせたら専用に用意された、
登城まですごす部屋に連れて行かれ文字通り
「侍女とメイドにその身をゆだねる」のだ。
部屋には私がこれから身に着ける物が大量に置かれ、
足の踏み場もないほどである。
何枚も重ね着して、歪んだ体を徹底的に隠すのだ。
「お嬢様、宜しいですね?」
「…ええ始めて頂戴」
全然宜しくないが宜しいと言わないといけない。
これから苦痛の時間が始まり登城が終わってこの部屋に戻ってくるまで、
脱げない拷問器具の取り付け時間の始まりである。
言い変えるのであればドⅯでない限り避けたいレベルの装具なのだ。
スルリと取り回され背中で固定される腰を覆う一応「コルセット」と、
名づけられた素肌の上に直接取り付ける胴回りの装具。
それは腰に乗りお腹周りを完全に覆い腕の付け根まである私専用に用意された、
下着の様な別の何か。
当然その矯正力は半端なくその装具単体で自立できるほど固く出来ている。
下着と言うのは名ばかりで「美しい形」に作られた中身のない体に見えるのだ。
薄く硬く作るためにその皮で出来た装具の一部には、
薄く作った鉄を挟み込んでいる。
その固すぎる「コルセット」はメイド達の手によって強引に背中側を開かれると、
私の腰に宛がわれるのだ。
そしてゆっくりとその手を離されると物凄い矯正が始まる。
体が押しつぶされ強引に形が変わり始めるのだ。
それだけで超強力な洗濯ばさみに挟まれているかのような気分になる。
当然その取り付けられたコルセットの背中で更に革紐を使って、
このコルセットの形を整え更に胸当てと繋げるようにして肩を整える、
下地を作り上げるのだ。
そしてそれに繋がる首の充て具。
股の間を通して骨盤をガッチリ固定する骨盤矯正具とその付け根に繫がる、
太腿と同じ長さのベルトを思い切り締め上げられればゴギゴギと音を鳴らして、
骨がズレ撓りながら体中が美しくなり始めるのだが、
当然タダで済むはずはなく、全身が引きつり激痛が走るのだ。
全身を抓られ圧迫される感覚がまた辛い。
コキンコキンと取り付けられた革の装具の形に体が合わさられていく。
それは背骨あたりからコッコッコッコッコッと音を立てて骨がズレで、
コルセットや革の胸当てに付けられた矯正具の定位置に納まるまで、
体が歪みを取る様に変形して締められ続けるのだ。
どう考えても骨が軋んでいるのが解るがその歪んだ骨の形を、
美しい骨の型に外側から変形させようとするのだから痛くない訳がない。
胴体の形をある程度合わせ込みと言う名の私がギリギリ耐えられるまでの、
「形」まで締め上げ首を起点とした骨盤までが真っすぐになる様に、
極力力を込めて嵌め込むのだ。
無理矢理吐き出される息と同時に膨らまない胸周り。
「あっぁあ…」
「まだです。我慢してくださいませ」
当然メイド達は手を止めない。
そこには「北の公爵家の公爵令嬢を妥協なく作る」という使命があるのだから。
私の価値を最低限作り上げると言う目的が果たされるまで、
メイド達も当然私に手心を加えて優しく装具の締め上げを緩めるなんて考えは、
当然ないし、あってはならないのだ。
その時点で浅くしか呼吸が出来なくなる私は脱ぐまでその息苦しさに、
耐えることになり涙目になるが直ぐにその涙は拭き取られ、
私の「調整」がやっと始められるのだ。
ガチガチに固めてコルセットと胸当てで作り出した真っすぐな背筋に、
合わせる様に腰の骨盤の形を矯正するベルトを付け骨盤の傾きを確認するのだ。
当然利き足を酷使した結果左右の足の筋力も付き方も違ってしまっている。
なので、そこから左右の足の長さがズレているのを修正する為に、
太腿をベルトで締め上げて嵌め込み、
片足の太腿は強引に引き延ばされ逆の足は押し込まれる形を取らされて、
膝の高さを同じにする作業が始まるのだ。
当然下半身からベルトが軋むギシギシと言う音と共に引っ張られ、
関節が外れる様な突っ張った感触が太腿からして来るのだ…
当然痛み腕を伸ばそうとしてしまうのをメイドに止められるのだ。
「もう少しで…もう少しで揃いますから…」
そう言いながらぐりぐりと引っ張られる足はメイド達には聞こえていないが、
ブチブチと何かが切れる音が体の中ならしているのだった…
それもまた規定値に収めるのが精一杯なのだ。
ただそれでも「調整」は限界まで詰める事になる。
一番上のドレスを着てふんわりと広がる「スカート」がこの調整を怠ると、
斜めになるのだ。
もちろん、着た直後は綺麗だけれど「歩いて玉座の間」等についたころ、
その小さなズレからスカートは形を崩す事になり「乱れた」格好となる。
そうなればまたスカートが曲がっているとか、
貴族のスタイルを決める「王妃様」に最悪な事に言われるのだ。
「体が汚い」と。
それは婚約者様を口撃する一手となるから両足の調整は欠かせない。
そして足の長さの調整しきれない分は履く事になるハイヒールで調整され、
綺麗な調整された下半身が作られるのだ。
それに合わせて今度は骨盤背骨を真っすぐにして、
足と胴体が真っすぐになる様に腰回りの調整を行うのだ。
胴体の傾きを修正して両肩の高さを揃える為に、
胸当てとして付けた物に太いベルトと、
肩に充て具を巻いて左右の高さをベルトの締め上げで調節して、
肩の高さを揃えるのだ。
とはいえ剣を振るう為に鍛えていた私の両肩は筋肉質で、
気持ち撫で肩程度位の角度しかない。
肩の角度はドレスの美しさに関わってくるのでたとえ動かせなくなっても、
極力肩を下げさせて押さえつけて形にするのだ。
そうやって調整した後少し休憩して体が慣れて来たら…
もう一度肩と足の位置を調節するのを繰り返すのだ。
装具が体に馴染み体に張り付いて各体の部位が型に嵌め込まれた様に、
骨の軋む音すら聞こえなくなり動かなくなるまで続けられるのだ。
当然脂汗が噴き出る様な痛みと苦しさで倒れ込みそうに何度もなる。
けれど辞める事は許されない。
時間をかけてゆっくりゆっくりと何度だって調整をするのである。
少しでも体が慣れて来たら更に締め上げるのを繰り返し、
鏡の前に立ってメイドと侍女が納得するまで調整を繰り返す。
途中で私は体を動かして捻ったり曲げたりして、
体に矯正具が張り付いているかを確認され歪みが戻らないかも見られる。
ともかく矯正具を体に馴染ませるのだ。
私がきつくて動けなければメイドと侍女が体を動かして、
強制具から軋む音がなくなるまで続けられる。
もうこの時点で私は全身あらゆる所が痛くてたまらない。
直ぐにでも脱ぎたい状態になっているのだ。
けれどこの「理想の骨格」を持つ事がドレスを美しく崩さず着続ける条件なのだ。
身に着けた時に美しいのは当たり前。
何時間着用しても姿が乱れない事。
その土台を体に求められる事は「貴族令嬢」として平等に求められる事なのだ。
条件を満たせなければ発言権はなく「可笑しな令嬢」として話は聞いて貰えない。
それを我慢して痛いながら矯正具一式の取り付けが終わったら次が待っている。
当然傷だらけの体と特に私の両腕と両足は拙い事故治癒魔法の所為で凸凹なのだ。
それを隠すために手首から肘までと二の腕にカバーをかける様に、
厚い動物の皮で作った充て具とベルトを巻き付けるのだ。
これも肌に食い込むレベルで取り付けて段差をなくして、
両腕を滑らかになる様にすると同時に腕の太さを両腕で揃える為に調整が、
何度となく繰り返し行われる。
頭から足先までを真っすぐに整えた影響で、
体の左右の違いが目立つようになっているのだ。
その長さはともかく太さは著しく違う様に見える。
そして体の中心が揃うからこそ目立つ差異を減らさない訳にはいかない。
揃え整えなければ、その上から光沢のあるロンググローブを付けると、
変な模様が出てしまうのだ。
光沢のある生地を使われるといくら刺繍を施しても、
光加減で凸凹が見えてしまう。
その見える凸凹を隠すために腕に取り付ける皮の外皮もどきは、
内側にコルセットを締める時の様に細かく革紐を交差させながら、
腕に丁寧にズレない様に圧着させるのだ。
手首が動かせなくなる勢いで手の付け根から固定して極力違和感を消すのだ。
そうして段差をなくして最後にその交差した革紐を隠すために、
手首から肩の付け根まである腕に張り付く白いアームカバーもどきを、
肩まで引きあげて紐を隠して美しい揃った両腕を作るのだ。
手首には大き目のブレスレットを嵌めて外皮としてつけた皮と腕との段差も、
当然解らない様に隠せる様にしてある。
両腕から始まったそう言った傷を隠す充て具は、
当然全身にくまなく取り付けられるのだ。
骨格を修正できたとしてもその上についている肉付きがおかしければ、
体のバランスは悪く見えてしまうのだから。
ガチガチに締め上げられ固定された胴体の左右のバランスを取るために、
鏡の前に立って侍女とメイドが必死になって充て具の厚さを調節して、
整える作業が永遠と終わらず続けられる。
ともかく腰回りの調整はシビアで体を削る事が出来ない以上、矯正具の上に
盛り付ける必要があるのだが、ただでさね普段ねじ曲がっている体を、
真っ直ぐにした上に捻じれを解消した体の腰回りは、
左右で括れ方が大きく違ってしまっているが何としてでも左右を揃えないと、
上に身に着けるバスクが歪み縫い付けられている対称に作られた刺繍が、
明かに歪んで汚く見えてしまうのだ。
一番わかりやすく目立つために腰回りは妥協が一切許されない。
ともかく一か所修正すれば、別の所が汚く見えると言う奴で時間をかけて、
その違和感を消していくしかないのだ…
そうやって体の下地が完成すればその上から私の肌の色に合わせた、
現代的に表現するのであればダイビングする時に身に着ける、
袖のないダイビングスーツみたいな形のものを人肌に似せた皮で作って、
その中に無理矢理体を押し込むのだ。
背中側で細かく同色の革紐で編み込みながら形を作れば「体」が出来上がる。
もう締め付けがきつすぎて通気性が無いから暑くて意識を保てない位で…
大抵これを着せられた時にはがっくりしている。
だがここまでやってやっと文句を言われない公爵令嬢の「体」となれるのだ。
と言うかここまでやらないといけないのが私の体なのである。
もちろんドレスは着ていない素肌をさらしている様な形だけれど…
もはや小刻みにしか息は出来ないし異常な締め上げと通気性皆無の暑さは、
拷問レベルで蒸されるのだ。
けれど一日がかりで行うドレスを着る為に下地作業はこれでやっと終りとなる。
後はその擬似肌を保護するためにゆったりとしたメイド服を一時的に着て、
体全体にクッションを宛がわれて寸胴になって長い休憩時間を取るのだ。
体がこの暑さと締め上げになれるまでドレスは着られないし、
なにより、ここまでされた私はぐったりしてしまって立っていられない。
「お嬢様…大丈夫ですか?」
大丈夫の訳がない。
が、もう修正も何もできないし耐えるしかないのだ。
その日はそこまでやって眠るのだ。
一日掛かりの調整。
異常な締め上げと全身抓られたような痛みのうえ、
筋肉が痙攣してきそうな状態で寝れる訳が無いのだが、
それでも寝なくてはいけない。
部屋に用意されているベッドはこの矯正具に合わせて用意された特別な物。
普通のベッドより柔らかくて体が沈み過ぎる位じゃないと苦しいのだ。
丸まった形にしない寝返りを打つ事も自分で出来なくて更に体が痛くなる。
まるで布団を巻き付けている状態で苦しさを紛らわすのだ。
体が宙に浮いてく感覚になって来て、楽になり気分がふんわりとしてきたら、
僅かな流動食と水を飲んでどうにか気を紛らわして眠るのだ。
着せ替え人形になった気分に浸れるが…
それを喜べるわけがない。
体全体が重く風邪をひいたかのような怠さが襲って来るのだ。
楽になれる方法はないから時間がすぎて体が慣れるのを待つ時間が過ぎていく。
一晩かけて眠った次の日の朝起こされるとそれなりに体が楽になっている。
それは締め付けが弱くなったわけではなく体側が慣れて来たにすぎないのだ。
けれど準備が終わった訳じゃない。
そして、余計な所を動かさない事に慣らされた体で、
用意されている未来の公爵夫人用のドレス…
それはこの国に4家しかない他の追従を許さない「公爵家」に相応しい、
出来上がりをしている笑われない為のドレスを着る…
違うかな。
体に取り付けるのだ。
つまり王妃様の隣に並んでも問題のない猛烈に着飾り重たいドレスと言う事だ。
簡易で着せられていたメイド服を脱がされればドレスを着る時間が始まる。
面白い事に矯正具で固められ肌色のダイビングスーツで覆われた体は、
その立場状「素肌」とされるのだ。
なのでこの上から更にコルセットやロングブラを身に着け、
貞操帯を付けてドレスを形作らなくていけないというルールらしい。
矯正具を使う「反則」を容認する代わりに、
それ位身に付けて重たくなれって事らしいのだ。
なので私は肘上まである刺繡とフリルの大量に縫い付けられた、
靴下を履いて股には淑女の嗜み?貞操帯を身に着け鍵を当然かけられる。
バスンと一風変わった音を立てながら私に用意されている貞操帯は体に張り付き、
国王陛下の定めた相手が出来るまで独身の令嬢が登城する場合は、
その貞操帯の鍵は国が管理する事になるのだ。
まぁ変な血筋を作らないように管理するための物なのだろうが、
身に着けさせられる側としてはたまらない。
私の貞操帯の鍵は当然婚約者様が管理している。
そうやって乙女(?ではないが)の秘密を作り上げると、
今度はその上からフリルたっぷりのズロースを履いて、
靴下のフリルに隠されたリボンを絡めて一体化すれば、
下半身は素敵なフリルまみれ。
更に上半身は立派な刺繍が施されたロングブラを身に着け、
コルセットを巻くとなんとロングブラとコルセットが、
一体化して一枚の下着の様に見えるのだ。
わぁとっても素敵ね!なんて思わん。
だからどうした的な感じだがそれが「淑女の嗜み」なのだそうだ。
下着も高級品を使う事が正しいとされる令嬢にはそれ相応の物を身に付けろと。
どうせ見えないのにね。
その上から部位ごとに分かれているドレスを組み立てる様に身に着けていくのだ。
クッソ重たいスカートを広げるパニエと言う名の布の塊を腰に固定されて、
その上からふんわりと広がるフリルとドレープに光物が縫い付けられた、
スカートを被せる様に頭から体を通してパニエに乗せるのだ。
身に着けさえられると腰にズシリと響く重さで、
同時に足元がまったく見えなくなる厄介な時間の始まりだった。
動く事を考えられていない逃げる事も出来ない、
着せ替え人形でただ美しくあるだけの、
「令嬢」としての装いをしているなぁとしみじみ思う瞬間だった。
ある意味私としては怖い瞬間でもなる。
矯正具も貞操帯も自身では外せないが、
それでも身を守るために敵から逃げる事が許されるのだ。
けれどこのスカートを取り付けられてしまうと「逃げる事」自体ができない。
裏路地で小道に入って敵から身を隠す事も大きく広がるスカートでは、
目立ちすぎて当然出来ず逃走ルートである小窓から抜け出す事も叶わない。
護衛は付けられるし「守られる側」なのだから当然それで問題はない。
けれど体はまだ「逃げ方」を覚えているのだ。
最後の最後。
命を繋ぐために足掻ける事がどれだけ心強いことなのか…
それを知ってしまっている身としては「令嬢」としての役割が無ければ、
決して身に付けたくない物の数々なのであるが…
私がこの立場から逃げられる可能性は今の所皆無の様である。
ドレスは高貴なお方が着る物になればなるほど「着る」のではなくて、
「作る」と言った方が正しくなってくる。
腰の位置を決定したら太い糸でズレない様に、
スカートは腰にガッチリ食いついたパニエに縫い付けてしまうのだ。
当然整った形を崩さない様にする為であり乱さない様にする為だ。
固定する事によって腰に汚い皴が出来ない為であるらしい。
そうしたら次はバスクを胸へと宛てられて背中側で縫い付けていくのだ。
当然胸の形に合わせて調整されながら縫い合わされる上半身のバスクには、
鬼の様に細かい刺繍が施され美しく腰の括れを演出している。
私がどこの誰なのかを表す認識票として令嬢として認識される為なのだ。
既に婚約者がいる私は肌を晒す必要はない。
その為に大人しめのデザインとなると言う理由の下、
バスクの胸上から首までを隠せる様につくられているのだった。
それは腕を通して背中側で閉じられる形で作られていて、
縫い合わせが終わればピンと張って皴のない状態になるのだが…
普通の令嬢は胸上は開けてデコルデを美しく見せるが、
私の体でそんな美しいデコルデは作れないから当然の処置である。
それから光沢のある刺繍のされたロンググローブに腕を通して、
肩の部分でずれ落ちて来ない様に固定されると、
一応ドレスとしては身に着けた事になる。
後はアクセサリーを身に着け夜会にあった扇子を持てば完璧なのだ。
世の男爵令嬢や伯爵令嬢、侯爵令嬢まではそれで許される。
けれど公爵令嬢となると明確な区別が入るのだ。
公爵令嬢として別途用意されている物があり、
それを身に着けることが義務とされている。
今度はバスクに張り付くサイズで作られた、
公爵令嬢と言う立場を表すダブルの袖付きのベストもどきの衣装。
その2列に並んだボタンには綺麗なチェーンが掛けられて光を乱反射させていた。
短く付けられた袖は10cm程度しかなくけれどその袖には公爵家の「家紋」が、
刺繍されている。
公爵令嬢として周囲に直に気づかせる為の物で、
当然背中にも刺繍が施されている物なのだ。
…つまりこのベストを着て会場にいたら、だれが見ても「北の公爵令嬢」と、
見間違えられることなく認識される物なのだ。
令嬢としての嗜みとしてこれも用意されている。
更にその上に腕の太さに合わせた袖を持つハイネックのボレロの様な物。
肩に無駄に長いスカーフと言うか…帯?の様な物がついているのだ。
これも私の今の立場として用意された物が作られ用意されている。
もちろんボレロもどきとベストもどきと手では意味が違う。
ボレロは胸上から首下までの上半身を綺麗に全て覆い隠し、
矯正具として見える部分を全てドレスの下に押し込んで、
気になる所を見えない様にしてくれる。
けれどこのボレロは私の「経歴」を示す物となっていると同時に、
令嬢としてではなく「公爵夫人」としての証としても使われる物なのだ。
本来なら私はベストを身に着けて置けば事足りるのだけれど、
婚約者様によって用意されているボレロを身に着けていると言う事は、
「婚約者様の公爵夫人」と言う肩書もついて来る。
ボレロは婚約者様の家の者としての「立場」も当然示す物となるのだ。
ボレロの前面に縫い付けられている大きく並んだボタンには。
普通なら公爵令嬢の証である家紋が片方のボタンには彫りこまれ、
令嬢時代はそのボレロはベストと同じ意味を持つだけなのだ。
けれどもう片方のボタンには「未来の嫁ぎ先」の家紋が彫りこまれると、
意味が変わる。
…当然の様に私の大きなボタンは両方とも両家の家紋が彫りこまれている。
令嬢と言う立場なのに両家の家紋は例外的に彫りこみ済み。
本来なら挙式を上げてから彫りこまれるこの「礼儀」さえ、
私の場合は先行して行われていた。
そしてその二つのボタンは両家の両親から渡される銀細工の施された、
短い鎖で繋がれて両家の両親が認めている事を表す物となるのだ…
―このドレスを着ている公爵令嬢は既に嫁ぎ先も決まっている―
―両家両親ともこの関係を公認済みである―
―誰も手を出すな―
そう主張させる為の物となっているのだった。
そしてボレロのパフスリーブは大き目に作られ、当然大きく作ってあるのは、
嫁ぎ先の家の家紋が刺繍されるからである。
その根元には二の腕を彩る銀細工が施されたリングがあるのだが、
それも左右違った両家の母親からの贈り物としてデザインされる物。
これも袖を通したと二の腕の所でバチンと嵌め込まれて、
皴一つない大きなパフスリーブを支える支点となり、
家紋を支えるデザインを施されて頑丈に作られている。
背中だけ長く作られた部分には私の家の家紋ではなくて、
婚約者様の家の家紋が大きく縫い付けられ、
これも本来なら嫁いだ後で縫い付けられるというルールがあるが、
それも縫い付け済み。
大きく重ねて作られた襟の縁取りも光沢のある銀細工で、
飾り付けをさえているのだった。
その襟の下からボレロに前後に垂れ下がる光沢のある幅広のスカーフ状布を、
胸前で左右で交差させてそれぞれの脇の下を通し背中側で結び目を作り、
背中を彩るのだ。
当然その布を結び付ける部分もボレロの背中には用意されている。
くるりと一周胸周りは彩られ重ね着していない腰は相対的に細く見え…
その反面ボレロとベストを身に着けた胸周りは大きく見えて威厳を出していた。
それでも最後にお腹周りの折角くびれている部分には、
格式にあった白いベルトを取りまわす。
当然それには扇子を留めておくためのホルダーと家紋が付けられている物だ。
そうやって全部装具として身に着ける物を身に着けると、
凄まじい重量が体にのしかかってくる…
けれどこれで国が求める「私」の立場を表す「ドレス」を、
身に着けたとみなされるのだ。
体のバランスは変わり全身は痛む。
結婚して本当に公爵夫人として振舞う事になれば、
当然この姿で毎日を過ごさなくてはいけなくなるのだ。
未来を考えると逃げたしたくなるのだが…
いまだ婚約者様を説得する言葉が出て来ない。
「お綺麗ですよ。お嬢様…」
「ここまで我慢して綺麗でなかったら涙を流すだけじゃ済まないわ…」
「よく御辛抱なさっていますよ。褒めて差し上げます」
「あ、ありがとう?」
鏡の中の姿を見ても立派に御令嬢となっているのだから…
これ以上無理はさせないでほしい。
けれど私の苦しみを解っているし、
それ以上にこの登城する為の無謀な準備をやり遂げるメイドと侍女に、
私は感謝するしかない。
私の恥は北の2家の戦局をいくらだって不利に出来るのだから。
やっとの想いで身に着けたドレスを綺麗な状態を維持するために、
コートの様に前留めするドレスカバーに袖を通すのだ。
ふんわりと包み込まれドレスを守るための物であり…
大き目に作られたそれは袖を通すのに苦労しない大きさで出来ていて、
手首や首元胴体などにサイズを絞れる巾着袋の紐のようなリボンが、
各所に取り付けられているのだった。
城につくまでの僅かな間ですら汚れを付けない為の処置であり、
まるでプレゼントにラッピングするみたいな形なのである。
ドレスカバーはそう言う物として作られているから仕方がないのだが、
「私がプレゼントよ!」って言えそうなほどリボンが巻き付けられるのだ。
婚約者様の為にラッピングされる私と考えるとなんだか可笑しな気分である。
いくつものリボンを結ぶ作業もそれなりにかかり大変なのだが、
侍女やメイド達はそのカバーのリボンさえ整えるのだ。
それでやっとドレスの準備は終わりまた休憩に入れるのだが…
当然ドレスの出来に合わせた仕上げが待っている。
髪形のセットである。
基本こればっかりは「量」の問題もあり縛りはないのだけれど、
その左右には学生がトラブルを起こしたために着用が義務付けされた、
髪飾りを左右に取り付けられる様な台座が髪に巻き付けられて、
取り付けられる様になっているのだった。
あとはドレスに合わせた化粧を施され、
王族の面会ギリギリまで化粧の修正をするという時間が始まるのだ。
極限の締め上げで体は物を食べる事を拒み、水を少し飲んだ状態で、
私は首の周りにファーを巻かれると、待合用に作られた、
ドレスを支える椅子に座らせて貰える。
正直座る事も苦しい事ではあるが立ったままではドレスが重すぎて辛く、
まだ座った方がマシなのだ。
あとは婚約者様がお部屋にお迎えに来て下さるのを待つだけなのである。
けれどその待つ時間も数分程度。
椅子に腰かけた私の髪の毛を弄るメイドの手は、
婚約者様が来るまで決して止まらない。
ギリギリまで時間をかけて磨き上げられる侍女とメイドの力作は、
公爵夫人として求められる美を完全にクリアーさせる為に本当にギリギリまで、
調整し続けたいから終わりがないのだ。
なので「お迎えの時間が」タイムリミットとしてやってくる。
キィと扉が開く音がすれば、婚約者様が私を迎えに部屋へと入ってくるのだ。
とはいえドレスカバーの下に着飾った姿は隠してしまっている状態なのだが。
それでも婚約者様は私を褒めるのだ。
「…うん着飾った君は一段と綺麗だよ」
「ありがとうございます」
婚約者様の格好も私とお揃いで…
ただしその着替えは女性の様に厳密に決められた衣装ではないから。
準備の時間は下手すれば1時間かからずに終わってしまう。
その辺りに不公平感を感じつつも時間は無駄に出来ないのだ。
今回もこうやって着せられた「ドレス」はいつも準備の時間を、
ギリギリまで使って侍女とメイド達はあーでもない。こーでもないと粘ったのだ。
ともかく準備は出来た。
後は王城の控室でドレスカバーを脱ぐだけ…
そう思いながらドレスを着せられた目的を果たすべく、
私は婚約者様の伸ばした腕に手を伸ばす。
長い長い行きたくもない登城時間が始まるのである。