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何時の時代も見たくない物にはカバーがかけられる。

連載終了まで毎日18時設定で更新します。

大きく堅牢に作り上げられたお屋敷は敵の侵入を許さず、

そして同時に脱出を困難にする物となる。

王都に立つ建物としてはとても優美で美しく聳え立つ新生のお屋敷と言う名の、

砦は当然これからのこの国の行末を考えて作られた物だ。

極力「国」から掛けられる圧力があったとしても耐える事が出来る様に、

苦心して作り上げられたそのお屋敷を見ても「国王陛下」率いる王国の、

乙女ゲームを支えている攻略対象者や、その登場人物は呪われているかのように、

戦争が起きるという事を信じないし認めない。

現に攻め入られて私と婚約者様の領地は血を流しながら、

その侵攻を撃退し続けているというのに。

王都の連中は「愛が足りない」とか私達からすれば、

「バカじゃねえのか?頭湧いてんじゃねえの?」

という素晴らしくド、ストレートな回答をお返ししてあげるのだ。

この数年。王都の学園に入学するまでにお父様と私と婚約者様で、

それはそれは緻密な防衛計画を敷きながら領内を発展させる努力を進めて来た。

ともかく南側の勢力に頼る事…

言い変えれば経済的に頭を押さえつけられている状況を打開するために、

努力をし続けたのだ。

食料自給率を上げ生産性を向上させる事をお父様と婚約者様は必死に行って、

隣国からの防衛しながらも何とか領内を安定させるに至ったのだ。

それでもゲームのシナリオを変えられたとは思えない。

南側の領地は敵じゃないけれど味方でもないのだ。

国内問題なのに国は絶対に動かない。

だって王家自身が安全な南側にいるしその南の既得権益を守れば、

王家は安泰なんだもの。

貴族同士の争いには事なかれ主義を貫いて、

そして自身が不利に動きそうになれば北側にそのしわ寄せを背負わせて、

自身は安全な南側で悠々自適な国家運営をし続けるのだ。

この国の北側はいわゆる戦争の為のバトルフィールド程度にしか思われていない。

それでも荒らされ続けるその現状を国家として容認できてしまえるからこそ、

現状は変わって来なかったのだ。

「乙女ゲーム」の舞台として女の子が憧れる様な綺麗な箱庭を作り続け、

そして最終局面では国家存亡の危機を迎えて大団円と言うエピソードを、

再現できる舞台は未だ残り続けているしこの先も本筋的には変わらない。

だって王家は変えない為の理由付けなら何だって出来るのだから。

既に私と婚約者様のお屋敷は「国」に裏切られる事すら前提に、

行動しなくてはいけない。

それでも堅牢な堀と高い塀に囲まれた砦は私と婚約者様が「安全」と思える、

場所として出来上がっている。


跳ね橋式の橋を渡り、そのまま馬車で砦…じゃなかった。

敷地内にあるお屋敷のエントランスに馬車を直付けされれば、

私はようやく王都の我が家へと帰ってくる事が出来たのだ。


「おかえりなさいませお嬢様。

無事「腫瘍」の摘出には成功したみたいで…

わたくし達としては嬉しい限りです」

「ええ。何時からでも使える様に用意しておいたお部屋に、

素敵なお友達を招待してあげて頂戴な」

「畏まりました」


婚約者様の家令はハンドアクションだけをすると、

体格の良い女性騎士が手際よくヒロインを馬車から引きずり下ろすのだ。


「ぐっくぅ…」


馬車の中で色々と「世界」の事を教えてあげたというのにその態度は、

当然変わらない。

コチラを睨みつけ私が何をしたって言うのよぉ!

と叫び散らかしたいのか素敵な暴言をしてくれそうな感じだった。

まぁそうでもしないと「ヒロイン」なんて、

やっていられないのかもしれんけど。

表向きは


―楽しい学園生活にドキドキハラハラの国を巻き込んでの大恋愛―


だものね。

自分を中心とした成り上がりのシンデレラストーリーの初めの一歩で躓いた。

これから攻略対象者に愛されて楽しい学園生活が始まろうとしていたのだから。

まだ攻略対象者を篭絡してすらいないのに。

「まだ何もしてないでしょ!」

ただのヒロインならそう主張したい理由も解かる。

けれど私の前にいたのは中身が「転生者」のヒロインだった。

未来を知るから意気揚々とヒロインのセリフを吐いて王子様に近づいた時点で、

私の決断は下されているのだ。

ヒロインが何を言っても認めない。何を言っても終りなのだ。

気付いていないのか気付かなかったのか?

どっちだって構わないけれど私と言うイレギュラー因子がいた時点で、

国の在り方は変わっていた。

学園はもう一つある。

国の雰囲気も甘ったるい感じだけではなくて、

それなりにピリピリした地域がある事を感じ取っていたはずだ。

しかも言うのであれば男爵家の隠し子なのだ。

だからよくあるパターンで、

平民に優しくてぇそれで心優しい彼女は皆に愛されてぇ。

町の中でひときわ大人気の天真爛漫な少女なのぉ~。

って奴だ。


はぁ?

そんな天真爛漫でいられるほどアンタの育った町は豊かで、

優しい奴等しかいない様な場所だったのかよ?

そうやって問い質したくなる。

そりゃおまえ父親の男爵が大枚叩いてお前の周囲の環境だけ、

良くしていたに決まっているだろうが。

この国は2面性を持っているのだから。

「皆」に優しい国なんかじゃない事は解りきっている。

そんなに優しければ婚約者様とお父様は言うまでもなく、

その「優しさ」とやらで救われていなきゃおかしいんだよ。

人知れず可愛い娘の為に手を回していたからヒロインの周囲は必要以上に、

綺麗な環境を作られていたにすぎないのだ。

その一部の素敵なヒロインの為の綺麗な区画を用意する為にどれだけの、

苦しさを抱え込むのかは一歩町を出て、

別の町へと繋がる道の路肩を見るだけでその鱗片が真実が見えてくる。

男爵家としてその屋敷を構えるおひざ元の町はそりゃ綺麗でしょうよ。

その綺麗な街を維持するための豊かさを手に入れる為に、

広大な土地を所有して耕して占有して利益を上げているのだ。

「誰にも荒らされる事のない土地」を持っているからこその豊かさ。

そしてそこからあぶれた者を決して受け入れない潔癖さが、

ヒロイン周辺の豊かさの正体なのだから。

絶対に受け入れないからこそ作れる豊かさと平和・安全だけを享受し、

その代価として国を守るための支援は最低限すらしないのだ。

少なくともお父様と婚約者様の領地は自力で立ち上がるまで、

なんの支援も受けられなかった。

そして素晴らしい手口で良い訳だけをする。

領都へと繋がる道にたむろする行き先を失った人々に、

何も与えず何も教えずたた悦に浸るだけの「施し」だけをして私達は、

義理は果たしたと言わんばかりに放置する。

なんの解決策も提示せず領地の周辺に金をばら撒いただけでやり過ごすのだ。

それでも「足りる」訳が無いのだ。

たりてたまるかと声を大にして言いたい。

最後に残されたはじき出された彼等が行きつく先が、

お父様と婚約者様の土地なのだ。

そこで傭兵として日々の最低限の糧を手に入れてその日暮らしの生活をする。

その連鎖すら止めようとしない。

兵士が補充できるのなら良いじゃないかなんて思う訳がない。

盾にすら使えないのだ。

ただ死体の山を築き上げるだけになる。

ある日突然兵士になりたいと言って来た人が敵と対等に戦える兵士になるまで…

どれだけの時間がかかるのかすら理解できない。

豊かで楽しい王都と学園のしわ寄せは私と婚約者様の領地に降りかかっている。

そう言った「町から去る」脱落した人々だってヒロインは見ているはずなのだ。

それを見てみないふりをし続けたのはヒロインでしょう?

綺麗な物だけを見てそれ以外から目を背け続けていたヒロインが、

今更何を言っても私は信じない。

少なくとも私が戦い始めてから王都の学園に入学するまでに、

幾ら高くても食料を高値で買わされ続けていた北の2領はここ数年で、

食料自給率を急激に上げた。

その所為で南の食料生産と言う意味では商品はだぶついて、

価格が落ちて売れなくなり景気が悪化していたはずなのだ。

北の2領が食料の購入量を劇的減らしたのだからね。

ヒロインが住んでいた町も景気が悪くなって

「町を去らなくてはいけない」人が多かったはずなのだ。

市井で生活していたのなら、他人事として見ていられる余裕はなかったはず。

けれど実際の彼女はどうだ?何も見ず天真爛漫であり続けた。

それは男爵が自分を拾い上げると知っていたから。

ただ迎えに来てくれるのを待っていただけなのだ。

結局彼女は「何も見ていない」ただ「きゃは♡」と言って可愛がられただけ。

そして乙女ゲームを楽しもうとしていだのだから。

私は今まで遊び続けていた彼女に現実を教え説得するなんてするつもりはないし、

「知らなかったのよ」なんて言い訳を聞くつもりも当然ないのだ。

彼女に求めるのはこれから隣国の貴族に嫁ぐために、

血の滲むような努力ではなくて、実際に血を流す努力をして貰うのだ。

隣国の貴族生活は「乙女ゲーム」の影響がない分容赦ない。

余裕が我が国以上にないと言った方が正しい。

彼等の産業の一部には傭兵稼業があるくらいの国なのだ。

生きる為に戦う事。それが当然の国なのだ。

それ故隣国の軍はシビアなのだ。

圧力をかけて斬る崩せるのであれば直ぐにでも奪い取ろうとする。

物理的にかすめ取る事にたけてしまっている隣国と対等にやり合うのなら、

それは双方に血を流す事が当然の成り行きだったのだと思う。

その行き過ぎた力の示し方があるから隣国は強いのだ。

更に言うのであればびっくりするほど「女性」に人権がない国なのだ。

人権?何それ美味しいの?がデフォの国なのだから当然と言えば当然なのだ。

毎年減る分の命は、生まれてくる分の命で相殺されるみたいだから…


とはいえ?乙女ゲームをベースにした時代背景が設定されて、

ガチの軍至上主義の国家でもなければこんな事にはなっていない。

隣国に交渉という選択肢はない。

お父様の領土と婚約者様の領土に侵入する敵軍が狙う一番の獲物は、

未来の兵士を生産できる人々なのだから、質が悪すぎる。

労働資源として奴隷にするか、未来の労働者を生産する仕事が、

隣国には用意されているのだから選択肢はないのだ。

力を示し続けなければ滅ぼされる。

弱みを見せたら攻め込まれる。

そんな極端な国として成立しているのだから仕方がない。

極端な方針を持つ国でもなければ宮廷抗争の真っただ中で国が乱れたと、

思われた瞬間に攻めてきたりはしないけどね…

結局最初から最後まで「乙女ゲーム」の素敵な舞台装置として、

「設定」された隣国は最悪の存在としてヒロインが学園からいなくなっても、

存在が無くなる訳じゃないのだから。


まだ「学園」からヒロインが引きずり降ろされただけ。

学園内で貴族同士で「楽しいマウントの取り合い」をしようものなら、

それがきっかけて「宮廷抗争」に発展する事だって考えられる。

だからヒロインの確保はまだしなくてはいけない事の第一歩に過ぎないのだ。

卒業後私と婚約者様が結婚をして「一つの公爵家」となって、

北からの侵攻を迎撃して抑え込んだとしてもこの緊迫状態は解消されない。

南側でぬくぬくしている奴等が隣国と対峙しようと思わない限り、

私の戦いは終われなくなってしまったのだった。

未来の公爵夫人として婚約者様の隣に立つ事が決まっているからこそ、

今度はその宮廷抗争という、厄介な問題から逃げられないのだ。


ヒロインという厄介事を「躾ける」準備が終わった私が、

彼女に求める事はだた一つ、ヒロインのステータスが足りなくて、

宮廷抗争編には行けず隣国が侵攻をしてくる事を遅らせる為の、

ハニートラップとして隣国に嫁いで文字通りに体を使って侵攻を止め、

悪役令嬢が時間を稼いだようにヒロインも侵攻までの時間を稼ぐ事なのだ。

優秀に成長して隣国の上層部を操り支配下に置いてもよし。

それが出来ないなら文字通りに体を使って侵攻をベッドの上で止めれば良い。

どちらだって構わない。

時間が稼げないのなら、そのまま逝ってくれれば面倒もないしね。

これからヒロインが受けるのが教育なのか躾なのか性技なのか…

学園を卒業するまで三年間あるのだからどれになったとしても、

一つぐらい仕込めるでしょうよ。

…疲れた。

そのまま用意された自室に戻り「着替える事」にしたのだが。


「着替えたいわ」

「我慢してくださいませ」

「…そう」


学園を早退した私はまだ今日のノルマと言うか体を矯正する癖がつく、

時間がまだ終わっていなかった。

遅れている「矯正」を出来るだけ早く行わないといけない私は、

その点においてはどの令嬢より苦労していると思う。

学園の制服は嫌味なほどに「体のライン」を出して「可愛い女の子」を、

演出する誰がも着たいと思える素敵なデザイン…なのだ。

そこに貴族と言う特性上、家格によってカスタマイズする事が許される。

高貴な家の女性ほど肌をさらす訳に行かないし「扇子」を持つ事は、

貴族令嬢の義務とされているし、

令息には家紋の入った短剣か騎士爵家なら普通の剣の携帯も許されている。

勿論刃は潰された模擬剣ではあるのだが、女子男子関係なく、

腰に帯剣用のベルトを巻くか、扇子用のベルトを巻き付けている。

スカートの長さや肩のパフスリーブもある程度融通が効くようで、

悪役令嬢の制服は長いスカートにデカイパフスリーブ付きのダブルのジャケット。

そして金細工の施されている太いベルトに特殊な加工と言うか、

校則スレスレの家紋をバックルの形に加工して、

どの家の令嬢なのかをしつこく主張するベルトを腰に巻いているのだ。

平等(笑)を歌う学園としては家格を主張する目立つものは禁止とされているが、

それもベルトのバックルであるから問題ないと容認されているのだ。

まぁ偉そうに見える様にカスタマイズ?と言う名の、

一品物に改修されているのが普通なのだ。

それだけで「何が気持ちを一つにする為に同じ物を着る」なんて校則が、

形骸化しているのかが解る事だけれど、貴族と言い免罪符で押し通せるのだから、

上位貴族にとって素晴らしく都合の良い学園だとは思うのだ。

と言うかそう言った「免罪符」が無ければヒロインが求めるご都合主義満載の、

薔薇の花弁が敷き詰められた部屋でヒロインに向かって攻略対象者が、


「君の色で部屋を彩ってみたのさ!」


とかできやしない。

やってもらえる立場としては「まぁ!とっても素敵!」と喜べることだけれど、

あれだけの薔薇を用意するだけでは無くて、

それをバラして部屋を彩る作業がどれだけ大変かを考えると、

「周囲」のお付きは地獄を見た事は考えるまでもない。

もちろん家格に合わせて使用人を引き連れて歩く事も容認されるのだから、

何が平等なのだ?と何度でも考えてさてくれる素敵な学園だ。

まぁ…そう言った使用人やメイドがいなければ「ご都合主義」の素敵な空間が、

出来ないのだから乙女ゲームとしては仕方ないのだろうけどね。

んで、その場で抜剣して愛を囁く攻略対象者と、

その抜剣を包み込むように扇子を充てるという礼儀?が、

深い二人の愛を確かめるイベントの一部なのだから凄まじい。

あーほんと、平等って?団結力を高める制服って?いったい何なんだろう?

というイベントが「ヒロイン」がいなくても行われるのがこの学園なのだ。

その高貴(笑)心を育むとか何とかな良し悪しはともかく、

私の制服も規格を守り公爵家として相応しい様にカスタマイズしている。

クソでかいファーが先端についた扇子を所持する事は、

公爵令嬢として義務でありそれに合わせた扇子を所持して固定する為の、

ふっといベルトを腰に巻かないといけない。

貴族令嬢と令息に許された権利は、平民の生徒にまねできない様に、

そのベルトの幅と太さも何やら規格がある様で本当に余計な事ばかり、

この国では決まっていくみたいだった。

つまるところ腰に巻き付ける帯剣用のベルト一本でその人物の家格が、

解る様にしているって事なのだ。俺の方が身分が〇〇だから、

オメーラ間違えんじゃねえと無言で周囲を威圧する為のベルトでもある訳なのよ。

生徒同士が平等だなんて口先だけの出任せてあることが良く解る。

一昨年くらいだったか?女生徒の髪飾りには婚約者がいる事を示す物を、

身に着ける事が決まったとかで…

原因は「学園内で模擬剣を使った決闘騒ぎ」で、その原因は、

婚約者がいる事を黙っていた事だとか何とか…。

婚約者のいる男子生徒は無言で婚約者を束縛する権利がありそうだよ、

この学園の出鱈目に作られた校則にはね。

付き合っていられないわ…

と思いながらも、私の髪飾りは当然の様に用意された婚約者様から頂いた、

髪飾りと言う名の宝石の嵌め込まれたサークレットの着用が義務なのだ。

さっさと学園を辞めて故郷に帰りたいと思うのだが、

私は立たされた立場状それを許して貰う事は出来ない事は確定している。

しなくちゃいけない。


「両家の為に生きる事。

それ即ち王都で他の貴族との関係を円満な物にして、

良い関係を手に入れて侵攻して来た時に支援をして貰えるようにする事」


なのだ…

その第一歩として攻略対象者とは素敵なご学友となる事が私には求められるのだ。

公爵家として見下されない恰好をして宮廷内で発言権を得る。

そして爵位の低い者や平民の後ろ盾になったりして信頼を得る。

そうして派閥を纏め上げ下の家格の者達を率いる事が、

私の役割である未来の公爵夫人として求められるこれからの生き方なのである。

前線で剣を振るう事はもう求められない。

それはもうなんていうか…

婚約者様には申し訳ないが離縁してでも新しい人を見つけるべきだと、

強く説得したい事だった。


「何を言っているんだい?

私にこれだけ苦労をさせて私を置いて自分だけ「逃げる」だなんて許さないよ。

君以外を妻として迎え入れるつもりはないし、

私達の領地は君と私がいるから成り立つのだからね。

1人だけ先に楽隠居だなんて考えてはいけないよ。

もしも逃げたとしてもちゃんと捕まえてあげるから安心していいよ」


私を膝の上に乗せてぎゅっと抱きしめながら、

だれーにも聞かれない様にしながら耳元で囁いて、

頭を撫でてくる辺り本気なのだろう。

それは安心して良いのか悪いのか解らない婚約者様からのお返事だった。

ここまで気に入られる理由は解らないが、

一応私が転生していてこの世界に近しい世界と思われる知識を、

何故か持っているという事は伝えてある。

そこから考えられる予言めいた未来予測も当然婚約者様には伝えてあるのだ。

彼が私の言葉を、「未来」を信じるか信じないかは私が考える事じゃない。

私の目的は故郷であるお父様の領地を守る事。

その為に協力関係としてともに戦ってくれそうな隣の領地の息子に、


「先の事教えておくからあとよろしく~」


みたいなつもりだったのだが。

私は隣接する公爵家の御子息様の婚約者に納まってしまったのだった。


なんでやねん?


私達が結婚しないで各々の領地として独立し続けるのだとしても、

お父様の領地を継ぐのは私の弟となる。

結局ある程度時間が経って来れば私は領地の運営から外れざるを得ない。

その立場を失うのは確定的なのだ。

私が領制に口出ししても怒られなかったし、ある程度の融通が効いたのは、

あくまで私の我儘をお父様が許してくれたからにすぎないのだ。

お父様が引退して弟が領制を引き継いだら私が口を出すことはしないし、

それ以上に出来ない。

弟のアドバイザーは自動的にお父様が行うし何かを実行する権限は、

当然の様に失う立場なのだ。

なので、後は一兵士として領地の最前線で戦う位の自由しかないだろうし。

それが出来なくなれば何処か静かな所で、

余生を過ごす事くらいしか考えていなかった。

決定権がない以上適当に時間を消費して生きる以外の選択肢はないから。

私だけが都合よく生き延び続けられるなんて幸運が続くとは思えないからね。

それだけ見たくもない血の泥の中で五年間戦ったのだ。

その代価は払えたと思うのだ。

生き残ってどうせ傷だらけの体しか持たない私は舞踏会では、

当然役に立たない姿なのだから。

…婚約者さえ出来なければ無事に学園を卒業して、

後は実家の領地でご奉仕活動(前線警備ともいう)して、

それが出来なくなったら後は後進に任せて楽隠居かその前に、

何処かの戦いで…という夢のプラン?は、儚く砕け散ったのだ。

それが統合される領地の公爵家の公爵夫人となるなんてメンド…

いや、大変光栄な事なのだが…

公爵令嬢として振舞うのは私はかーなーりー無理がある。

ほとんどの御令嬢は例外なく学園に来るまでに「磨かれて」来るのだ。

それはもう言葉通り、

おめめぱっちり。

ツルツルもちもちお肌なのだ。

が…

当然その両方とも私にはない。

それ以上に致命的なのはほとんどの令嬢達が、

制服の下に色々身に着けているって事なのだ。

学園は通過点に過ぎずその先にある社交場で少しでも優位に立つために、

家の総力を挙げて「磨き上げられる」のが貴族令嬢と言う奴なのだろうね。

幼少期の頃からコルセットは当然として、侍女やメイドに美しく成長するように、

矯正された「美」を持っている。

私はその大変重要な時期に剣を握り前線で血まみれになっているのだから、

その差は入学した時点で大きな差となっている。

更に言えば切り付けられ、無理矢理応急処置して生き延びた弊害で、

柔らかいお腹周りがボコボコなのは前にも語った通り。

けれど自身の小ささをカバーするために魔力を使って筋力を強化し、

大剣を片手で振るい続けた私の体は、それはそれはものすっごーく、

偏って成長したのは言うまでもない。

そのバカでかく重たい剣を支え続けた、体は剣の重量を支える為に、

歪に成長した事は言うまでもない。

結論から言うと曲がっているのだ。

左右の肩の高さが違う。

最大限の努力をして筋力強化も魔法を酷使し続けた弊害だろね。

利き腕である右腕が敵を殺しやすい様に体の重心位置が変わったのだ。

右腕を効率よく突き出して伸ばせる様に成長した五年間生き延びた成果なのだ。

そして腰の括れ方もそれを支える様に当然違う。

腕や太腿とかに残っている傷なんて些細なものレベルで、

私の背骨は歪んだのだ。

なるだろうなと思いつつ、それでも今を生き延びる事を優先した結果で、

安定して敵を殺れる様になるまで、周囲にはひた隠しにしたのだ。

そしてその結果医師の診断によると成長期に無理をした弊害と言われ、

戦場で拙い魔法で無理矢理治療した結果なのだそうだ。

私としては後悔はしていないし後悔していたら死んでいるから、

それ以上選択肢はない。

だからこそ…


私が婚約してから両家の両親と婚約者に大量に用意された物がある。


それはドレスを美しく着る為の矯正具と革の充て具一式だ。

普通のコルセットとドレスでは当然体中にある傷だらけの体は隠せない。

それ以前に左右の肩の高さを揃えて背骨を真っ直ぐにする為の、

矯正具を身に着けて生活させられる羽目になった。

それから専属の侍女とメイドを両家から宛がわれ、

私の体をマシにする矯正が始まったのだ。

私は制服の下に太腿から始まり腰には固すぎるコルセット、

肩と胸にキツイ充てを充てて締め上げそれらを繋いで、

公爵令嬢として「正しい立ち姿」に体がなる様にして、

無理矢理美しい形を作っているのだ。

その上に皮膚のように見える充て具を付けて傷も徹底的に隠している。

そこまでしなくちゃいけない公爵令嬢なのだ。

婚約するまでは両軍の男性将校が着る軍服を私のサイズに手直ししただけの、

ゆったりとした服装をしていたから、体が曲がっている事に気付かされる事は、

無かったのだけれど、この学園の公爵令嬢用の女生徒の制服は、

嫌でも体のラインが出てしまうから、矯正具なして制服を着ようものなら、

左右の肩の高さから始まって、可笑しなくらいに曲がった体を、

大衆に見せびらかす事になる。

流石にそれでは公爵令嬢としての体面を保てないので、

どれだけ付け心地が悪くて体が痛くなっても、

制服の下の矯正具と偽物の素肌は身に付けない訳にはいかなのだ。

婚約者様もさっさと次を見つけてほしいのだが…

そんな訳で制服の下には体を矯正する矯正具を身に着けての生活が、

楽なはずはなく、さりとてその矯正具から逃げる事は、

未来の公爵夫人として許されない。

少なくとも南の令嬢達とそん色のないドレスを着られる様にならなくては、

いけない。

いけないと分かっているけれど…

外したいなぁ…

肌は引きつって抓られた様に痛いし、戦闘する時の様な全身を強引に、

引き延ばす様な無理な動きは当然させて貰えない。

キチリと矯正具はしなり歪みに合わされた体を強引に正して、

歪みが体を通して矯正具が軋む様な音がして、

頑丈に作られた矯正具は私を「おしとやか」にするのだ。

婚約者様傷物にした事許すし気にしないから婚約解消したいなぁ…

なんて考えてしまうのだが、


「君は逃げないでしょ」


謎の信頼を婚約者様から勝ち得てしまっている所為で、

傍を離れる事が出来なことも確かで。

ともかく私はその日からヒロインの成長を眺めつつ、

ヒロインがいなくなっても続けられる「学園」で行われる、

乙女ゲームの進捗を気にしながら日常を過ごす事になるのだった。

戦争の軍事バランスは崩れ、

それでも侵攻は絶対に終わらない。

この国を隣国が諦められない理由も解るのだ。

解るがさりとてその気持ちを汲んで自身の愛する領地の領民が、

不幸になる事は当然許せない。

さて、愛しの婚約者様は今日はどうするのでしょうかね?


「南の公爵家と非公式な面会が叶うらしいです」

「また遊ばれるのかしら?」

「どうでしょうか、

このまま遊ばれ続けるのならそろそろ我が君も暴れてしまいそうです」

「仕方ない事よ。

話して解らないのならぶん殴ってでも理解させる事がこの国では、

必要な事の様だから」

「左様でございますか」

「ええ。

殴られれば現実を少しでも理解できるでしょうよ。

交渉に応じてやっているこちらの寛大さにね」

「そうでございますな」



そう、私の婚約者様はまだ交渉のテーブルについてあげているのだ。

私達が前線で防衛戦を続けているからこそ、のうのうと王都での交渉なんて、

お遊戯が出来ている事にこの国の南の連中は何時気付くのか?

本当に気づかずに数年後にやってくる隣国の大侵攻に、

耐えられると思っているのか?

はたまた侵攻自体ありえないと思っているのか…

どっちとなるのでしょうね?

ああ、侵攻してきた敵の将軍に交渉をしたいと言って前線で、

命の尊さでも説くつもりなのかしらね?

振り下ろされ剣を前にして避ける事無く激痛が走り血をダバダバと流しながら、

説得し続けれたら、信じてやらない事もないし、

そいつとだったら私でも交渉できそうだわ。

数時間後には一方的にしか言葉を交わせなくなった私の意見を丸呑みしてくれる、

物言わぬ素敵な交渉人となってくれそうだものね。

ともすれば一人の時間を有効に使わなくてはいけない。


「執務室に行くわ。資料を纏める時間を頂戴」

「畏まりました。

と、言いたかったのですが申し訳ありません。

「手直し」をしたい様です」


それは家令の後ろにいたメイド達が必死に家令に訴えていたみたいだった。

それは私の矯正具を締め直すという意味なのだ。

気付けば、思い切り塗り上げた扇子を握る腕によって全体的に胸周りが、

歪んで左右の肩の高さがまたずれ込んでいたのだった。

体の左右のバランスを取るために各所に設置されたベルトを「調整」して、

私の体は強く矯正をかけている。

馬車に座っている時なら解らないけれど、立っていると自然と、

体がバランスを取ってしまうから肩の高さのズレは大きく目立つのだ。

それが、何時も私を見ているのメイドや侍女なら当然気になってしまう。


「解った。

やって頂戴」


言うが否や、無数の手が伸ばされると、

制服に取り付けられている隠しポケットに、

手を突っ込まれて何かを引っ張られるのだ。

キシリと皮が軋む音がして体のバランスが変わっていく。

そうすると体が更に強く矯正され多少の息苦しさと痛みも感じるのだ。

調整はほんとに息苦しくなるだけだから何度も止めたいと思う事がある。

けれど今はまだ公爵夫人と言う役目から降りる目途が立たない。

何とか「マシな体になる事」を願ってその調整を受け入れる。

「手直し」は何処でもできる様に作られている。

この特別に作られた制服も恨めしい。


どうして婚約破棄を受け入れてくれないのか解らないが…。

お父様も婚約者様の家臣団に加わる形で、

婚約者様の家がお父様の領地を飲み込むという形でも良いはずなのだ。

より良き未来を。

私もお父様も「領地が繁栄」する事しか望んでいない。

家の存続は二の次で既に違う方法を模索し続けていたのだから。

弟も婚約者様の家臣団に加われるのならそのまま部下となる事も了承できる。

そうする事が出来るだけの種はお父様と一緒に撒いたのだ。

後は自然と領地同士の交流を深めていけば婚約者様なら、

普通に領地を発展させて育てていけるだろうとも考えていたのに。

どうしてこうなった?


「何をなさるので?」

「婚約者様が目を通す前の資料を。

彼の判断が必要かどうかの判断と優劣付けだけやっておきます。

…また溜めているでしょう?」

「それは良い事です。未来の奥様として旦那様を補佐して戴けて、

わたくしとしても嬉しい限りです」

「…お世辞はいいから、早く彼の側近を呼び戻してあげて」

「そうですなぁ未来の奥様が、未来の旦那様をよりやる気にして差し上げれば、

わたくしとしても考えない事はないのですが?」

「十分やる気にさせているでしょう?」

「まだまだなのです。

もっとわたくし達を安心させる意味でも愛をふかめて下さいませ」

「…そのうちにね。

と言うよりもせめて学園を卒業するまでは待ってちょうだい」

「…期待しておりますよ」


…言うまでもないが、世継ぎを作れと暗に言って来ているのだ。

流石にそれはないでしょう?

学園でもっといい人が見つかるかもしれないでしょうがとは言わない。

それを言ったら私の部屋がまた素敵な夫婦のお部屋になってしまうから。

傷物にされてはいるが、あくまで私は「婚約者」なのだ。

何時か不備や心変わりがあれば、

解消は何時だって出来るししてあげるつもりなのだ。

一応家名の違う別の家の人間なのだから今の所屋敷のでは別室にして貰っている。

けれど、私は何度もこの家令から失言を取られ色々な物を、

自室に運び込まれ、持ち出されててしまっているのだ。

学習用の机は執務室に運び出されて「みらいのだんなさま」の近くに設置され、

1人用だったベッドは二人が眠っても全く問題のない、

大きなベッドへと変えられている。

失言する度外堀が埋まっていくみたいで複雑な気分なのである。

せめて卒業するまでは公爵令嬢でいたいと思うのだ。

学園で若奥様と言われるのだけは避けたいのである。


本当に…

本当にどうしてこうなった!?



ちょっとした設定


テキトーに考えて勢いで書き進めてきましたが…

キャラクターにちゃんとした名前を与えないと途中で行き詰ります。

特に別の作品を書いていて世代交代がものすげー難しい事が解りました。

長く続けられる作品として、再度名前をキャラクターに与えて書き直すが…

それともさらに適当に書いてあと数話で終わらすか悩み中。

個人的に世代交代して物語を進めるとかやって見たくて、

別の物語で「あ丁度良いな」って思って構成を考えましたが、

名前が無いと無理ですね。

誰の事を書いているのか解らなくなります。

既に「婚約者」が主人公にも当てはまる言葉となってしまっていますから。

「主人公の婚約者」と「婚約者と呼ばれる主人公」担っていますから。

訳が分からなくなります。



婚約者様の事


主人公は乙女ゲームのキャラクター基準で「お顔」は、

公爵家の令嬢として問題ないくらいに綺麗ですが体はボロボロです。

単純に婚約者様は主人公の公爵令嬢の生き様に惚れたのですが、

公爵令嬢基準でなくともこの世界でそれはただのバーサーカーなのです。

しかし、幼少の頃の「誰かが死ぬもの」と言うセリフを覚えていて、

それが婚約者様には「気高い貴族」に見えてしまいました。

そしてその所為で他の貴族令嬢が「幼く」見えてしまって、

相手に見る事が出来なくなってしまったのです。

更に

「信じる信じないは好きにすればいい」

と言いながら教えてしまった避けられない戦争と言う未来。

その未来を回避するために共に歩いてくれそうな令嬢は、

彼女しかいなかったのです。

婚約者の中で未だ彼女は将来生涯を通して共に戦ってくれる最高の存在であり、

あの昔の飲み会で部下達に言われていた「戦女神」という言葉が、

婚約者の心と耳に焼き付いて忘れられません。

そして役目を果たすために努力を惜しまない公爵令嬢を、

手放せる訳が無いのでした。


当の本人はカナリアとしての役目を終えたから、

引退する予定だったのですけれどね。

お父様からのお褒めの言葉を戴いているし、

もう後は隠居できるぅっ!と喜んでいた所にですからねぇ。


世界観として舞台装置として形作られてしまった「乙女ゲーム」の設定の裏に、

避けられない戦争が待っている未来があるのです。

回避するらな、王国戦闘に立って隣国と対峙する必要があるのです。

ですが王家は動くのでしょうか?

宮廷抗争は「ヒロイン」が原因の一端でしたが、

ヒロインがいなくなったとしても「抗争」を起こそうとする人は、

いたり?いなかったり?

とまぁ不安定な国なのですよ。

「乙女ゲームのシナリオ」が再現できるバックグラウンドが、

「乙女ゲーム」が無くなったから消える訳じゃないですからね。

侵略戦争を諦めない隣国は無くなりませんし。

結局宮廷抗争編が始まれば戦争を止められません。

ヒロインは公爵令嬢が「調教」して仕上げに「躾」てあげれば、開戦を、

遅らせる事が出来るので、彼女の華々しい未来は変わりません。

敵国に嫁がされるという事はそう言う事なので。

結末は脱出できないと見せしめとなるでしょう。

そして隣国から脱出できるかどうかは、

公爵令嬢の躾にかかっているのでしょうね。

いやー結構長編として書けそうです。

書く時間があるかどうかは別の問題ですが。

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― 新着の感想 ―
[一言] 制服こみの帽子にして色違いにした上で 帽子を譲る=婚約者を譲るって文化にしてもネタになりそう
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