上の者は無理を押し付けてくるが当然受け入れられる時期は過ぎている。
連載終了まで毎日18時に更新します。
実の所私は王子がどれだけ戦えるか知らないし知るつもりもない。
当然であるが国境に人質として張り付けて、その結果送られて来る、
王子を守るための戦力にしか興味はないのだ。
婚約者様だってほぼほぼそのつもりだろう。
王子単体にはさして興味となりえる所はない。
ただ王国を存続させる為の駒としては血統上それなりに使えるのかもしれない。
国境付近の町で暮らす様になった瞬間、王子の存在価値なんてその程度なのだ。
同時に命を投げ捨てる捨て駒。
どう呼ぼうと構わないがそうできる理由はあるのだから仕方がない。
これ以上失言を言って傷口を広げる事が無い様に処分してしまった方が、
あとくされが無い事も確かなのだ。
あの王子一人に拘る必要が無い。
国王陛下の後を継げる後継者はまだまだ「いる」と言う事であると同時に、
未だその後継者とする王太子は決定していないのだ。
今までの定石と言う事であれば当然であるが「南」の公爵家に認められる事。
それだけなのだ。
そこに「北」は含まれない。
南の2家が認めさえしてくれればこの国の半分は手中に収めたようなものだし。
そして経済と国家運営と言う2つを抑え込んでしまえば「北」の要求など、
どうとでも出来ると言う目論見が通用していた。
南で稼いで豊かになった分と防衛線を続ける以上ろくな経済活動が出来ない、
北を相手取り支援と言う名の下、商品にならない物を売りつけられたとしても、
商品を選ぶ選択肢のない「北」は、
どんなにひどい物でも買わざるを得ない状態にしていると言ってもいいのだ。
決を採るなんて言ったとしても王家と南の2票で計3票となり、
北が何を要求しても通らない。
そして「ある物」だけで対処しろと言い続けたからこそこの偏った国と、
犠牲を強いられ続ける北と言う国家内での致命的な格差が完成したのだ。
南の豊かさは完全に北の犠牲の元に成り立っていると同時に、
北の公爵家が統合した事により「票」も当然であるが一票減るのだ。
同時にそれは王家と対立した時に南が更に有利となると言う事であり、
そうなれば北に大公爵家が出来たとしても南は脅威と思わず、
当然「王家」の立場としても、御しやすくなったとしか考えない。
そこで行われている命のやりとりは無視で来たのだから。
そして今回婚約を結んでいた南の公爵家は今現在進行形でこの戦争に、
引きずり込まれようとしている。
南の2家の公爵令嬢もまた「王子達」と婚約している。
よくある第1王子が駄目になったから継承権を破棄されて、
妃教育を受けて来た婚約者は第2王子と再度婚約を結ぶ。
みたいな形は、この場合は生まれない。
南の2家は当然の事として第一王子と第2王子に対して、
一人ずつ婚約者を宛がっているのだ。
これから続く国家の繁栄も既存のルールを世襲して南の公爵家と王家だけで、
国家運営を決めてしまえる体制を作り続ける為の処置なのである。
こうして南と王家は絆を強め更に北に対して、
強くあたれ従わせる下準備を作っているのだ。
だからこそ出来るそして許されると王子は勘違いできる今回の結果なのだが。
今回その一角を支えるはずだった王子が前線に行く事が決まった。
ズブズブだった王家と公爵家との関係があるからこそ、
当然婚約者として繋がった公爵家を王家が逃がすはずもなく、
きっと支援を要求されるのでしょうよ。
ただしその支援が南の公爵家の経済規模に相応しい物ではなくて、
婚約者として繋がりがあるから程度に抑えたいと言う考えが透けて見える。
「失言をしたのは「王家」なのだ。こちらに迷惑をかけるんじゃない」
「あんたたちの娘が婚約者としてちゃんと王子を抑えられなかったのだ。
しっかりした娘を用意できなかった責任を公爵家も果たせよ」
ま、あ、言葉にすればそんな応酬が続く事になるのだろうさ。
相当怒られた事だけは確かなのだろうね。
これからも権力の中枢にいられると思っていたのに。
現実は爪弾きまではいかないだろうけれど血縁があるからと。
無理をすれば押し通せたはずの部分がもれなく無くなったと考えられ、
確かな権益が削られたのだから。
それ所か娘一人を無駄にしたと思ったらこの失態が残した結果による、
損実は大きすぎるのかもしれないけどね。
南の公爵令嬢の1人としては王子を抑えられなかった不満をぶつける相手は、
あの時学園でヒロインを無理矢理連れて行った、
私にしかないとでも言いたいのだろう。
もういいじゃん諦めなさいな。
そして形だけでも諦めて支援位してやれよ。
お前らにとってははした金だろ?
私に文句を言いに来るのだって遅すぎるんだよ。
やるなら登城する前に連絡していれば少しは変わったかもしれないけれど、
どうせそんな考えだって無かったんでしょう?
そもそもあの程度で揺さぶられる様な関係しか築けていなかったのが原因だとは、
考えられないんだろうか?
「で、殿下は既に立派に生きていらっしゃいます!
ですから、わざわざ国境付近の町へ行く必要はないのです!
その事は「北の公爵令嬢」である貴女なら分るでしょう?」
全然理解できない。
アレが立派なら失言はしないし当然墓穴を掘って私に腕を晒させるような、
致命的なミスをした上に婚約者様の気分を害するような事は言うはずがない。
あ、そうか。
間違った。
忘れていたわ。
前提条件として、たいした事だとは思われない「存在」でしかないのか。
「代理」であると言う上に私はあくまで婚約者様の「おまけ」に過ぎないのだ。
悲痛に上げる叫び声は純粋にこれから南の公爵令嬢に待っている、
「王子」と言う物に乗っかった「権力」が消失し、
抱え込む「負債」を嫌がっているのか。
これから婚約解消も出来ず、
そして次のパートナーは見つからない。
そう考えれば公爵令嬢としての価値は暴落し最悪?となるのか、
解らんが、下級貴族に嫁ぐ事になると考えれば、
ちょっと泥が付いたかもしれないけれど戦地から引き戻せるか、
それか「今」私が王子からの謝罪を受け入れて婚約者様と共に「無かった事」に、
する事が出来れば今までと同じでいられるのだから。
…そんな事させると思われている辺りが、「南」なのだろうけれどねぇ。
「私の腕や体に付いている傷は実は嘘なのよ。
ちょっとした悪戯だったのよ、ごめんなさいね」
とでも言わせたいのだろうが?
そして言って貰えると思っているから国境に行かなくていいのだと…
そう流れを変えたくて…
ただまた婚約者様の腕に力が入るのだ。
それはふざけた提案に対する苛立ちであると言う意味と、
-会話を辞めさせたい-
という合図であり「現実を知らない奴」との会話を続けるなと言う、
意味でもあるのだ。
もちろん、このままこの茶番劇を続ければ「私」絞め落とされて、
-疲れて眠ってしまう様に意識を失う事になる-
会話の相手がいなくなれば当然であるけれどこの対談は中断して終わり。
後は婚約者様が一言。
「済まない。
寝てしまったみたいだ。
続きはまた今度に願いたい。
お帰り頂こう」
なーんて言って話は終わってしまう。
けれどおそらく「次」は与えられない。
学園では専用の「護衛」が増え私の友好関係として相応しくないと、
婚約者様が判断すれば当然同じ学園に通っているとしても、
話す機会は奪われる事になるのだから。
それが南のやって来た「派閥」の作成であり、
学園時代から作られる力関係を考慮した派閥と既得権益が出来上がらなければ、
乙女ゲームは成り立たない。
ヒロインは天真爛漫でいる事が出来ないのだ。
ちょっと目に掛けて貰う所から徐々に始まり次に特別扱いが始まり、
間違えた平等によって素敵な仲間が出来て注意する者もいなくなる。
その作り上げた取り巻きと言う名の派閥に思う存分平等を広めて、
貴族社会の基盤をぶっ壊すトリガーを作り学園を悪役として立ち振る舞った、
「南の公爵令嬢」を排除する準備が出来上がる。
そう、考えていたのだけれど、考えてみれば悪役令嬢となる人なのだ。
その根底にねじ曲がった「独占欲」を持っていても可笑しくはないのか。
公爵令嬢としてこれからヒロインと戦うはずだった悪役となる素養の、
原因は過剰な束縛から来るのじゃないのかと言う証明なのかもしれない。
それでも「公爵令嬢」と一国の「王族」なのだから、
邪魔者がいなければ、その関係は妥協と打算の果てに、
上手くいく事に限り素敵な関係ともなりえたのかもしれない。
それを私が考えても仕方がない事なのだが。
けれど令嬢の慌てようと、乱れようを眺めながらじっとしている私に、
加わり続ける婚約者様の「力」は全然緩まない。
私を気絶させこの下らない会話を終わらせようと動いているのだ。
ちょ、ちょっと待ってほしい。
ちょっと現実を私の事を教えてあげる時間位作らせてほしい。
そう思って私は力が加わり始めているお腹に回された手をポンポンと叩くのだ。
何度か叩いた事で腕にかかる力は緩んで楽になる。
返答しても良いと言うお許しと同時に脇の下に手を差し込まれて少しだけ、
体をふわりと浮かせられるともう一度、
私をそのお膝の上にしっかりと乗せ直したのだ。
首に回して上半身を支えていた胸周りの腕からは解放されて、
その代り対話の姿勢を取るのだが同時に婚約者様の膝に置いていた手を、
包み込まれる様にしながら婚約者様の両腕は、
私の手をぎゅっと被せる様に包み込んで動かせなくされたのだ。
私以上に婚約者様はイラついているらしい。
これ以上私に会話をさせたくない。
反論するのなら一回だけにしろと言う意味でもあった。
解っているしもとよりそのつもりなのだ。
婚約者様は、カウチの背凭れに体を預けてふんぞり返る様な形を取り、
私の背中か体を離すのだが、当然両腕しっかりと固定された腰回りはそのままで、
手は婚約者様に包み込まれたまま。
そんな姿をせられる「南の公爵令嬢」は私を睨むのだ。
おいおい辞めてくれぃ。
これ以上婚約者様を刺激しないでほしい。
な、なんとか婚約者様の苛立ちを抑える為に私は反論する方法を、
変える必要が出て来てしまっていた。
婚約者様は当然であるが私が「素肌」を晒す事を良く思っていない。
あの時場の勢いで切り裂いた腕のカバーをそそくさと隠す婚約者様の表情は、
明かな怒りと悲しみを見せていたのだから。
そりゃ婚約者がその価値を下げるような事をして将来が不利になる事をしたのだ。
怒らない方がおかしくて不思議な状態だったのだ。
ここでもう一度「あの腕」を見せたら一発で令嬢にはお帰り戴けるが、
その瞬間私は絞め落とされる事が確定したのだ。
腰の腕にかかる強さを考慮しながら別の方法でこの場を切り抜けざるを、
えなくなってしまった。
「ね、ねえ貴女?
少し勘違いしているみたいだから聞くのだけれど…
どうして私の所に「お願い」に来ているの?」
「え?」
ここは話の起点である、「私が腕を晒した」事から、
別の所に移すしかなくなる。
でないと私が締め落とされる。
それは当然であるが婚約者様に好きにされると言う事。
意識もなくお屋敷に戻ってしまったらまた「既成事実」が一つ積み上がる。
-意識のない私を心配して離れる事ができず-
-当然目が離せないから一人でベッドに寝かせる訳にはいかない-
-せっかく整えた体を乱したのだから、これ以上乱される事をしたら許さない-
なんて言って一緒にベッドインする事が確定事項となる最悪な自体が待っている。
危ない事をする私から目が離せないなんて言われて夜一人で眠る事を、
許されなくなると私のあってないような公爵令嬢としての自由?な生活は、
また一歩進んでしまって公爵夫人の生活を強いられる様になる。
学園の在学中に結婚式を挙げる事になって夫婦となる未来も見えてくる。
在学中に結婚式を挙げられないなんて事は暗黙のルールにしか過ぎず、
何時だって破る事が出来るのだ。
結婚に関する年齢制限?そんな物はない。
女の子の日が来て世継が作れるのであれば、
公爵夫人としての役割は最低限ではあるが出来ると考えられ周囲が熱狂的に、
後押しすれば当然出来てしまうのだ。
これ以上婚約者様を刺激するなと叫びたくなる。
もう南の公爵令嬢の自業自得と思ってもらってお帰り戴かないと、
私の未来がマッハでヤバイ。
「だって、私は礼儀を解っていなかった「あの子」を、
連れ出した時に言ったわ。
よく話し合いなさいって。
そして理解し合えば今日「私」はここにいなかったはずなのですよ?
ワザワザ呼ばれたから「私」は婚約者様と一緒に登城する事になったのだから。
呼び出したのは当然誰なのか解っているでしょう?」
「そ、それは…」
誰が私を呼び出す手紙を書かせる要因を作ったのかは解らない。
けれど、あのヒロインの男爵一家と南の公爵家と王家が都合よく、
現在の国境からの支援を潰せる失言を取りたかったからに他ならない。
事実は私には解らないが、ともかくその結果「腕を晒す事になった」のだ。
呼ばれなければこんな事になっていないと言い張るしかないでしょう?
それなら婚約者様も私の体に関する事じゃないから何も怒らないし怒れない。
緩んだままの婚約者様の腕チラリとみて納得してくれたのか、
締め付けが無くて私はホッとしていた。
少なくとも整えられていた雰囲気は「私」を引き合いに出して、
何とか全てを擦り付け責任転嫁の為の断罪を出来る形を取りたかったのだ。
けれどその手が私に届く前に婚約者様が私に取り付こうとする手を跳ねのけた。
結果私は呼び出されたのにも関わらず、責任追及の場において、
一言もしゃべる必要が無かったである。
王子と公爵家と王家はあの場違いな場所にいたヒロインの男爵家?に、
だまされたかそれとも多額の金かなんかを積んで、
腫物の様に扱わなくてはいけない国境の戦いからから逃げる為の口実として。
可哀そうな「私(笑)」を誤魔化せない傷と言う「爆弾」を抱えている私は、
遠ざけておくべき事であり、あの時王子が何も言わなければ、
王子が「勘違い」をしただけで「済んだ」のだ。
けれど王子はそれが出来なかった。
我慢が出来なかった為の哀れな結末なのだ。
その伴侶に責任が無いなんて勿論許されない。
「私」を使って「婚約者様」を追い込もうとした彼女達と考えれば、
当然の反撃の結果なのだと思うのだが?
何故自分達だけ自分達が掲げていた口撃材料から逃げられると思ったのか。
結局繋がりを断ち切れず引きずられた南の公爵令嬢はたったそれだけの言葉で、
私と婚約者様に責任を擦り付ける方法を失ったのだった。
そうすると今度は止めを刺してやれと言わんばかりに、
私の型腕を婚約者様が支える。
私の責任転嫁?の方針が気に入ったのか背凭れから起き上がって、
私をもう一度包み込むように抱き占めるのだ。
当然その行動は私が「愛されている事」を見せつける為の行為であり、
婚約者様は無言で南の公爵令嬢を見つめ圧をかけ始める。
それは、無言の宣言であり南の公爵令嬢を追い詰める行為なのだった。
―大切にされる様な事をお前は王子にしてやったのか?―
―俺は大切に「私」に大切にされているから「我儘」を許しているのだ―
―お前は王子を大切にしていたのか?―
―王子をアクセサリーか何かと勘違いしていなかったか?―
そう。
一番の上位者である婚約者様は休憩時間とはいえ、
この場を取り仕切る事が許される立場。
故に言うまでもなく私達の会話を断ち切り南の公爵令嬢を追い出す事も、
当然であるが許されるのだ。
代理とは言いえ同格の家の御令嬢ともなれば勿論婚約者様の方が立場は上。
公爵閣下本人でないなら当然強気にも出られる。
当然であるが婚約者様は南の令嬢に、
明確な苛立ちを覚えている事だけは確かなのだ。
そして何より自身の責任を私に転嫁しようと足掻くその姿は気に入らない。
お腹を支えられながら、私の型腕を自身の腕に乗せるような形とらせながら、
婚約者様の詰め寄りは更に強靭な物となっていく。
その腕は私が切り裂いてその傷だらけを素肌を晒した腕である。
もう一度新しいロンググローブと多種多様に取り付けられお色直しされた腕は、
それだけで私の腕の酷さを隠すのに苦労した痕跡を見せる事になる。
言うまでもないが取り付けられまくった装具はそれ相応に私の腕を太く演出する。
か弱い南の公爵令嬢からすれば私の腕の太さはほとんど婚約者様の腕と同じ太さ。
それが何を意味しているのか理解しろと追わんばかり私の腕を支えているのだ。
―お前らがぬくぬくとお上品な生活に興じていられるのは―
―俺の婚約者が命を懸けて戦った結果なのだ―
―それすら理解できないのか?―
決して言葉は喋らない。
けれど婚約者様は語るのだ。
―ぬくぬくと暮らしたいのならそれに代わる代価を支払え―
―愚痴を言いに来るなど許しはしない―
今まで辺境で守らせて来た事を事実と認めたのだ。
それを取り消す事など許さない。
だた…
それだけなのだ。
確かに修繕され綺麗に整えられた私の腕。
それを婚約者様に支えられながら私は言葉を選ぶ。
ここで何も言わずに帰ればまだ私は何も聞かなかった事にする。
そのつもりで言うのだ。
「見せるべきではなかった。
この綺麗に作りこまれた腕の下に何があるのかを。
けれど、それを見せなければいけない言葉を使ったのは王子。
私は自身の価値が無くなろうとも「この現実」だけは否定する事を、
絶対に許さない」
「あ…あ…」
ガタガタと今までとはちがった震えを見せながら、
それでも南の公爵令嬢は私の腕に…
そのもう一度取り付けられた「うわべだけ」が綺麗になった腕に触る。
手ではない。
切り裂いて見せた傷だらけの腕に触りながら彼女は呟くのだ。
「つめ、たい…」
何重にも巻き付けて固い装具の下に取り付けられた腕が、
体温を外に漏らすなんて事はしないのは当然であり、
その温かさを感じる事の出来ない固い体でさえ私の婚約者様は、
不満を決して漏らさない。
そして何も言わずに抱きしめてくれるのだ。
稀有な存在だとは思う。
けれど同時に感謝せずにはいられない。
だからこそ、ちゃんとしたパートナーを見つけ立派に社交場を歩くべき人なのだ。
婚約者様は。
私になんて構っていないで相応しくきっと支えてくれる女性がいるはすなのだ。
「この冷たさが「私が戦い続けた証」であるのですよ。
私の令嬢としてはボロボロの体に価値はありません。
ですが、南の公爵令嬢?
この体を否定する事はこの体を元に戻す事が出来ない様に、
私をここまで生かしてくれた人が「いなかった事」にされる事は許さない。
貴女がそれだけ王子を必要としても私からお目こぼしはありません」
「そんな…」
ここで「そんな」と言えるから、根底にある上位者だから許されると言う、
考えを捨てられないのでしょうね。
その事に少々イラつきながら。
南の公爵令嬢は私の腕をぎゅっと掴もうとして…
その縋りつかれた腕を支えていた婚約者様はそれが不快だったのだろう。
一瞬で力を抜いて婚約者様の腕に乗っていただけの私の腕を力を抜いて、
ストンと下に腕一本分だけだけれど落としたのだ。
当然ギュと掴んで離さないつもりだった南の公爵令嬢は、
縋りついたその腕に猛烈な重みを感じてずるりと私に纏わりつかせていた、
その腕を手放してしまうのだが、不用意にかかったその腕の重さを感じ取り、
彼女は目を見開くしかなかった様なのだが…
これ以上何も言わずに帰ってもらいたいと言う願いは崩れ去り、
彼女は言ってはいけない事を口にしてしまうのである。
「重い…」
それは私を膝の上に乗せている婚約者様にとっての禁句である。
ギリリっと、歯を櫛縛り嫌な音が頭の上から聞こえてくる。
なんで?今ここでこの言葉を零すのか…
「余計な事、言ってくれやがるのだ」と、
考えた時にはもう遅かった。
「重い」は完全に禁句別の意味で禁句なのだ。
私が普通の令嬢となるべく取り付けられる物はすさまじい量であり、
それは重いでは済まされない部分でもある。
カナリアをやって体を鍛えていたからこそ歪んだ部分もあるが、
その「重さ」は、私が必死に生き延びた証拠でもある。
婚約者様にとってその「重い」は、言うまでもなく、
私が生死を掛けて戦った理由は当然であるが公爵家の中で、
使える「物」が自身しかなかったからであり「そうさせた」のは、
目の前にいる公爵令嬢の両親と王家なのだ。
よくある「女の子は軽いのよ?」と言うアレな部分もあるが、
それは些細な言葉だが、同時に究極に屈辱的な言葉と婚約者様は捉えるのだ。
何により、「その原因の一端」である南の公爵令嬢にこの言葉を言われる事は、
「私」が許しても婚約者様は当然許せない。
「その程度で「重い」などど言っているから、
殿下に愛想を突かれたのだと何故解らない?」
「ちがっ!そんな事!」
「私の婚約者は何故「重い」のかそれすら解らず言葉にするのだ。
理解出来る頭は持っていないのかも知れんが…
それならそれで構わん。
だが私の婚約者を侮辱した事を私は絶対忘れない」
なんて?どうして?
そんな表情を浮かべるだけの彼女に婚約者様は容赦なく詰め寄るのだ。
駄目だって!ただのか弱い?かどうか知らんが令嬢に、
そんな迫力のある声で話しかけたらビビるって!
案の定、苛立って話される婚約者様の言葉に怖気づいた南の公爵令嬢は、
何も言えずに黙るしかなかったのだ。
「話にならん。さっさとお引き取り願おう。
そして叶うならばこれ以降必要な場以外でお会いする事はご遠慮願いたい」
そう言うと同時に婚約者様は私を抱き上げて、
そのまま少し離れた場所にある別のソファに自身が座ると、
膝の上に私を乗せ直すのだ。
南の公爵令嬢はただただその姿を見送る事しか出来ない。
そして令嬢に背を向ける形を見せ会話を続ける事はもうないと、
婚約者様は無言で証明するのだ。
「あ、あの…」
「お帰り戴こう。
これ以上話す意味はない」
「で、でも…」
それでも諦められない。
自身の未来の為に縋りつく事を辞めない南の公爵令嬢を、
婚約者様は完全に無視を決め込むのである。
「お、お父様に、お父様に怒られちゃう…」
その言葉が全てを台無しにする言葉であり、
更に婚約者様にとって引けないキーワードとなる事を気付けない。
最悪の言葉だって事に。
南の公爵令嬢の言いた「お父様」という言葉によって、
あのさっきまで開かれていた会議で決定した事に対して、
まだ逃げようとしていたと言う事をを証明した様な物であり、
本格的に王子の国境の町での生活の支援がやばい事になると言う…
前触れにしか感じられず、これは娘を使った責任転嫁と北への支援を、
むしり取ろうとする考えが透けてくるのだ…
王家からの支援を南の公爵家は少なくとも婚約者だったから逃げられない。
その支援を最小限に減らす為の悪あがきとして都合よく派遣されたのが、
公爵令嬢だって言っている様な物なのだ。
未来の王妃となる女性と言えどもこれが限界と言う事だったのか…
それとも公爵家としてこれから躾けるつもりだったのか。
私には解らないけれど…
「取り巻き」という支援?(外部頭脳)が無ければそれも叶わないのかもしれない。
目の前で見せつけられる「未来の悪役令嬢候補」は少なくとも、
これから作られる事になるのだろうとしみじみ思ったのであるが、
ただ…
既に婚約者様は私と南の公爵令嬢との会話を許す事はなく、
南の公爵令嬢も連れて来ていたメイドに促されて、
悲しきかな部屋から強制退場する羽目になったのだ。
「―馬鹿にしやがって」
退場して家の者だけになった婚約者様の口から零れ落ちる言葉。
結局代理に過ぎず王家と公爵家で決めた取り決めでさえ、
何とか無かった事にしようと娘を使って説得と言う名の責任転嫁をする。
それだけ「代理」と言う立場から「軽んじられる」会議しか、
出来ていない苛立ちにも聞こえてくるのだった。
そんな事は決してなく未来の北の2家を代表する家の主となるべく、
努力し時の権力者とやり合っている婚約者様は立派だ。
十分評価できるし、決して南と王家に負けていない。
いる訳がない。
それでも王家は正式な立場でないと言う事を理由に「代理」だからと、
言い訳をして婚約者様の発言を潰すのだ…
それでも、
「貴方はよくやっています。
それは…私が一番理解しています。
今はまだ耐える時なのでしょう…」
「もう、十分耐えた。
耐えたはずだ。やっと、やっとお前が自身を犠牲にして…
王家を引きずり出すチャンスを掴んだんだ…
それを、取り消しになんてさせないっ!させてたまるかっ!」
「…そう、ですね」
思いの外、私が腕を晒した事は周囲と言うより婚約者様に、
ダメージを与えていたらしい。
う、うーんそれは予想外。
想定していなかった事なので純粋にどうするか悩むのであるが…
南の公爵令嬢は帰ったのだ。
もう王城に用はない。
ここではいつまでも落ち着けないし、
「帰りましょう。
お屋敷に。
そこで落ち着いて休めば、きっと良い案も浮かびましょう?」
「そうだな…」
ともかくお疲れ気味の私達はそのまま屋敷に帰るべく、
帰り支度を始めるのだった。
とは言っても支度が必要なのは私だけなのだが。
来た時と同じ様にドレスカバーを着せられると、
各所をリボンで絞って固定される。
一層の重さと息苦しさを感じるが私のその姿を見て婚約者様が落ち着くのだ。
「帰る」という「明確な姿」になった事によって安心感を得たのか。
私の前を歩きながらその手は後ろに回して私の手を引くように差し出してくる。
その手に両手を乗せる様にすれば私の手は優しく包み込まれ、
私に歩調を合せる様にしながらゆっくりと歩き始めるのだ。
そうして婚約者様に私はなけなしの体力を使って後ろを付いていくのである。
だがその帰りの通路の途中で今度は別の刺客が待っていたのだ…
今思えばちょっと考えればわかる事で、
流石に南の公爵令嬢程度で態度が変わる訳がない事も、
当然理解しているはずなのだ。
そして今回の決定を一番覆したいのは言うまでもなく国王陛下の隣で、
ほとんど発言する事が出来なかった人物。
かわいい「ムチュコタン」を危険な国境に連れていかれるなんて当然許せない。
だから当然であるが一番嫌なタイミングで待っていたのである。
「確定事項」として強制的に出会う様に仕向けて。
つまるとこと「偶然」になる様にして出会いに来たのである。
さっさと帰って休みたい私達の前に。
思考が鈍って失言をしやすい一番面倒なタイミングで上げ足を取って、
今日の出来事を無かった事にする為に国王が動かした最後の「駒」なのだ。
そう王妃様である。
「あら…偶然ね今日はとても良い会議だったわね」
満面の笑みで話しかけてくるその王妃様の行動は、
もはや面倒くさいを通りこしてありえないのだった。
明かに不機嫌になる婚約者様。
私を引いていた手は、自然と放され深いお辞儀をする事になる。
当然私も婚約者様に合わせてカーテシーをする事になるのだった。
もう少しで楽に帰れた所だったのにものの見事に、
足止めをされる事になったのであるが…。
少なくとも婚約者様は笑って応対するのだ。
逆に言えば王家には後がないと言う証明であるのだから。
満を持して登場した会いたくもない最悪の存在は、
悠々と私達に近づいてきたのだ。
当然であるが廊下の角でばったりと出会うと言うよくある場面。
それを作るためだけに色々と装いすら変えるのだからようやるわ。
この場に合わせて現れた王妃様。
普通ならここにいる訳がないのだ。
謁見も終わったし緊急会議もした。
だからその結果を責任ある立場の人間として、
国王陛下と共に王子に伝えるはずだし今どこにいやがるのか解らんが、
外側から鍵が掛けられるであろう馬車に乗せられた王子に覚悟と言う、
準備をさせる為にも、最後の涙なしでは語れない悲痛(笑)ばお別れを、
していなくてはいけない場面じゃなかろうか?
…ああ、だから馬車~馬車寄せのこのルートにいても可笑しくはなく…
私と同じようにドレスカバを身に着けているとでも言いたいのだろう。
けれど組織が改変されてそれを許可を出したり、なんやらしなければいけない、
これから大変になる王族の皆様方の片腕であらせられる?
王妃様がここにいられる時間があるはずがないのだが。
偶然を装って入るが王妃様の行動ルートにここは絶対に組み込まれない場所。
最後の王子との語らいを済ませたのならさっさと自室に戻って、
国王陛下の手伝いをする時間でしょうよ。
王妃様は多忙なのだからその多忙な方がいていい場所ではないのだ。
無理にでも着替えたその姿は会議に出席した時とは違う姿であり、
少なくとも王子と最後の語らいをする為に着替えた訳ではない。
場を区切って仕切り直しをしたいと言う事がありありと姿だった。
当然王妃様に相応しい格好をしているのは当たり前で、
私の身に着けているドレスカバーに合わせた装いをワザとしている。
出掛ける予定など無いはずなのにね。
それは婚約者様に言い訳をさせない為。
自身の婚約者と近しい姿なのだから私の姿を理由に帰る事は許さない。
と言う表明であるのだ。
だからこそ南の公爵令嬢で時間を稼いで着替えたのだろう。
私達を帰らせない為に。
そしてワザとであるが「偶然」と言う形をとれば上位者である事を理由に、
談笑に持ち込めると言うせこい手ではあるが確実に対話する場を用意できる。
ここまでして今日私達を返したくない理由は、
今日を逃せば当然であるが会う機会は一気に無くなるのだから無理もする。
特に「私」は一線を引いて本当に婚約者様が旦那様になった後でなければ、
合うことは叶わなくなる。
理由は多々あるが、何より婚約者様が合せたがらない事は確かで、
合った所で対話にならない事が解っているから、
当然私が王妃様と二人で話すなんて事は婚約者様が許さない。
少し考えればわかる事なのだが何としてでも渡りを付けて、
王妃様は「私」に謝っておかなければいけないのである。
それは私が王子を許せる理由を増やすと言う意味であるのだが。
この「許せる理由」は言い方を変えれば感情は抜きにして、
契約の様に条件が揃えば都合の様に許した事になると言う意味なのだ。
王子を許す事理由が出来れば北の都合は関係なして「国境の危険な町」から、
王子が帰れる可能性が広がるのだから。
それは元鞘に戻り来ただけ。
国境の戦いを。
国防を北にもう一度丸投げにして任せる事に他ならない。
逆に言えば王妃様はもう令嬢として立ち振る舞う事が難しくなったと判定して、
婚約者様に私を切り捨てる事を望み始めたと言う事に他ならない。
未来の北の公爵夫人と言う肩書が無くなるだけでも、一緒に王子の失言も。
無かった事にするつもりなのだろう。
一時の間違いと言う言い訳も通りやすくなる。
だからこそ今私が許す理由をなんとしてでも作るのだ。
強制的に許させて王子を国境の町から戻す事為の「餌」をね。
でなければこんな無謀なスケジュールで動いて偶然を作ったりしない。
王国として完璧が求められる王妃様の姿は「それでも」乱れが各所に見える。
時間が無かった事による妥協なのだろうが…
その妥協をする事を許さずネチネチ、ネチネチと嫌味を言って来るいつもの、
余裕はないみたいだけれど…
その事を気にする余裕がないのだから仕方がない。
そこにいるのは王妃ではなく、自身が成功すればまだ王子を救えると考える、
愚かなただし母親としては正しい姿なのかもしれない。
だからと言って、私が王子が前線の平和な町で暮らす事を辞めさせる理由には、
なりはしないのだが。
それでも工面した時間をやりくりして、
この場に待機する為に「南の公爵令嬢」に時間稼ぎをさせた。
それが南の令嬢の役割で急いで準備したのが丸わかりなのは戴けないが、
王妃自身だったら許されると言う事なのだろうか?
随分とルールが緩く再設定されたみたいであるが、
それを許す必要は私達にはない。
既に休憩スペースで帰り支度を済ませている私を伴っている以上、
婚約者様は会話も軽く済ませたいと考えている事は言うまでもないが、
それすらさせない姿をしているのだからたまらない。
「ええ。良い会議だったので今日は失礼させて戴きます」
婚約者様の返答も軽い物にして…
そして「それでは失礼します」とだけ言って去るつもりだったのだが、
当然それを許す王妃様ではないのである。
「今日はもう遅いから休息が取れる客間を用意したのよ。
明日はもっと今日の会議の内容を詰めるべきだと思うの。
是非参加して戴けないかしら?」
「いいえ。
私の助言は全て終わっております。
後は王家と南の2家での具体的なお話でしかありません。
ただの「代理」はいるだけで、邪魔となるでしょう」
「あら?そんな事はないから安心して。
現場の生の意見は貴重な物だもの…
「警備」はそれなりの物を用意してあげたいのよ。
だから、ね?」
それは明らかに北を戦力としてその後ろ側で「警備」する事を望む意見だった。
当然そんな事を許すつもりはなく、そもそも前線で厳しい戦いをしている、
北2家に王族を守る余裕などありはしない。
全て却下された事を一から王妃は忘れ知らないふりをして
再提案しているにすぎないのだ。
良い返事など一つとして出来る物はなく国境を守る2公爵家は当然であるが、
王子を守るつもりなどさらさらない。
王子は名目上「平和な国境」に行くのだ。
その建前だからこそ王家とその王子の命を守りたい公爵家?は、
これから湯水の様に人と資産を消費して王子を守るのだ。
「すれば宜しいでしょう。
護衛がどうなるのかは解りませんが輸送完了までの警備の人員は、
既に手配しています「安全な国境までの旅」は保証いたします。
明日責任を持って国境までお連れするので、
その先どうするかはお任せします」
「で、ですから…その警備を…兵士をどうすれば良いのか、
それを教える役目があるでしょう?」
「はい。なので、全て隠さず教えております。
どれだけ兵士が犠牲になりながら国境を支えているか。
包み隠さず報告書として提出したのですから、後は有効にご活用ください」
「そ、そうよ。で、でも、今の情報が必要なのよ?
分るでしょう?」
「はいですから「今」の状況は先程の緊急会議でお教えいたしました。
もうこれ以上お伝えする必要はありません」
「でも…でも何か、何かあるはずです!
あらなければあの子は…どうか、どうかお教えください!」
何とか対談に引きずり込みたい。
王子にとって地獄へと続くノンストップのハイウェイは既に完成している。
あとはその道を走る馬車に乗って国境に行くだけでいいのだ。
婚約者様の用意した護衛は優秀だからちゃんと前線の町までの命は保証される。
婚約者様の王妃様を見る目は変わらない。
そしてもう婚約者様からは何も出て来ない。
それでも諦められないのが母親と言う立場なのだ。
そのターゲットは私に写るしかないのだが…
相当焦っているのか婚約者様を王妃自らの力で押しのけて、
私の前に立ったのだ。
「そ、そうよ貴女も!アナタも王家を支える公爵家として…
そして、次代の王妃の相談役として抜擢してあげます!」
それに何の意味があるのか解らない。
と言うか解りたくない。
それは先程まで私達が帰る時間を遅らせて時間稼ぎをした南の公爵令嬢を、
これから私が支えろと言う意味にしか聞こえない。
教育を失敗した王子夫婦?を私が、導けとでも言いたそうだった。
何故そこまでせにゃならん。
大体後継者ではないのだ「王太子」でないのだから未来は解らない。
解りたくもない。
私は…
私はこの王子と南の公爵令嬢を守る意味を見出せない。
今この場を切り抜ける為に必死に色々考えている事は解る。
けれど、こちらが痛みに耐え、涙を流しながら助けを求めた時期に、
この王家は何をしてくれた?
何もしていないのだ…
「王妃様…私達は何時だって貴女が守りたい人と同じ様な人を、
失いながら国境を守り続けていました。
その間、王国と南の2公爵家は何をしていたのですか?」
「当然国を守るために努力し続けました。
だから北の2家が統合する事を許したのですよ。
必死に隣国からの圧を弱める為に抗議文書も作りました!
王家としてやれるべき事はやり続けていましたよ!」
そう、言葉にすれば、
隣国に抗議してそして北の2家が防衛がしやすくなるための、
統合をやむなしとして許可した。
かなり苦しい判断だったとでも言いたいのだろう。
けれど王家も南の2家も何一つ失っていない。
見せ掛けの受け取られる事のないと分かっているただの親書を書き、
それを相手に手渡すのではなく、この国境の地に置いて来るだけ。
そして、難色を示した北の2家の統合を許したのは、
防衛で削られ過ぎて2家にしないと防衛ラインが苦しいからである。
王家と南の2家から戦力を送りたくないからの代案に過ぎないのだ。
当然「許可した」「手紙を書いただけ」なのだ。
何も失っていない。
何も失わずただ言葉を濁し続けたからこそ、
私も婚約者様も…北の2家は一丸となって戦わざるを得なかった。
前世の知識と言う反則技を使って効率的に侵攻を潰せたからこそ、
僅かに稼ぎ出せた時間。
それを使って兵士を訓練しなんとか戦えるようにしたのだ。
何一つ王家も南の公爵家も支援してくれていない。
それで、自身の大切な人が危ないから支援代などと片腹痛い。
「そうですね。
(ただ)許可を出し(受け取られず意味のない)親書を出すだけで良いのですね。
それなら私も王妃様に習わせていただきます」
「え、違う!違うのよ!」
当然私は必死に親書とやらを書いて、王子にいる周りの護衛が、
勝手に行動する事を許す許可を与えてほしいと言う手紙を書くだけなのだ。
当然、その手紙の意味を理解している婚約者様は、笑ってこっちを見てくれる。
「私も婚約者様の心に響く親書を作り許可を戴けるように努力します」
何の意味もない手紙をただ婚約者様に一通書くだけで、
やるべき事はやった事になるのだろうから安い物だ。
その言葉の意味と自身の言動の結果を照らし合わせれば、
何も起こらない事が確約された事になる。
どうして自身の意見だけが友好的に捉えられると考え続けられたのか。
上位者だからと胡坐をかいていれば当然こうなるでしょうよ…
そこにへたり込んだ王妃様は美しくその廊下にスカートを広げて天井を見上げる。
「そんな…そんな事…」
「その貴女が必死になっている姿で南と王家が真面目に支援をしていたなら…
私の大切な…
傍で一緒に戦ってくれた人は今でも私の傍にいてくれたでしょうね」
「これから、これからはそうします!」
「そうですね。
これからは手の届かない国境の町で健やかな暮らしを、
王子にさせたいのであればそうして差し上げると良いでしょう。
私も婚約者様も国境の町で支援を受ける王子の邪魔はしませんよ。
私達は「許可」して差し上げます」
「あ…ああぁ…そん…な…」
その姿は息子の将来を憂うしかない母親が絶望に打ちひしがれる姿だった。
けれどそれが許されるだけ王妃様は贅沢なのだとしか私には見えない。
この人はただ国王陛下の後ろでのうのうと生きて来ただけ。
そして王子を自由に育て失敗しただけ。
その間私と婚約者様が血に泥になりながら戦っていた時期に、
楽しくあそんでただ手紙を書いていただけ。
もう、何もかも遅いのだ。
そして落ちてきた王子が無傷で這い上がる事を許せる訳が無い。
何度だってあの国境と言う地獄に叩き落とし、
死ぬことで王家が激高して戦うのであれば、
そのまま開戦させるだけなのだ。
時間はどのみちない。
大侵攻が6年後に迫っている事にすら気付けなかった王家に、
何一つ期待する事はなく、
私は結局王妃も南と王家だけで国家運営をしていくつもりだったのだと、
再確認する事しか出来なかった…
「王子のご武運と、王家の王子の対する多大な支援を期待しております」
それだけ言うと立つ事も出来ず泣き崩れる王妃にもう一度カーテシーをして、
私は、婚約者様の後ろの定位置に付くのだ。
此方を振り向くことなく差し出されるその手に両手を乗せると、
キュッと掴まれ、私は歩き出すのだ。
そのまま振り返る事なく歩き続ける婚約者様と一緒に馬車に乗ると、
私は馬車の中でもう一度婚約者様の膝の上に乗り、
カウチに座っていたような形取るのだ。
揺れても大丈夫な様にがっしりと抱きかかえられた私は屋敷に戻る束の間の間。
婚約者様の膝の上で令嬢らしからぬ楽な格好で意識を飛ばして眠るのである。




