08.キッチンスタッフ 《後編》
華型大学の敷地面積は大きい。
大通りに面していて、そこから下るように進むと
主要駅がある。
その付近に、飲屋街があって
大きめのビルの4階にバイト先があった。
ふふん、なんか、バイト先って響き・・・
いかにも大学生だ。
「テンチョー、連れてきたよ」
「うーい!」
髭面で南国出身と言った顔の濃さ。
これがこの店の店長だった。
いわゆるチェーン店の雇われ店長である。
「ま、幕間張子です」
「ういうい!声あげてっ!元気ないよー!」
私は初っ端から、帰りたくなった。
無理だ。このタイプの人は。
「ちょっと店長。マクちゃんはそんなタイプじゃないですよ」
「ああん?そうかい?それもまたヨシだな!」
意外にも寛容さがある店長。
腕を組み、人差し指をトントントンとして
私を見た店長は一言。
「よし、じゃあ。キッチンやってみろ」
そう言うわけで私はチェーン店のユニフォームを
身に纏って、包丁を持ってキッチンにいる。
「まずは刺身を切ってみろ」
美味しくなさそうな魚の切れ端を
当分するだけのお仕事。
包丁を入れる。
こんなもの、自炊している私には
ちょちょいのちょいだった。
「うん。いいね」
店長が褒めてくれる。
その後、色々教わった。
サラダの作り方とか。
それ以外の料理は昇華が作ったものを
盛り付ける担当だ。
パターンを覚えて
その通りに盛り付ける。
キッチンにはそのやり方が画像付きで書かれているから
間違いなく、その通りに作れる。
ネギをひとつまみして、乗せる。
マヨネーズを斜めに乗せていく。
輪切りの唐辛子を入れる。
単純な作業だ。
「よし、じゃあ、来週からよろしくな」
「マクちゃん。私はこのままバイトだから、ここで」
たった2時間だけ。
私は人生初のアルバイトをした。
昇華が場の雰囲気を良くしてくれたし
店長は温かい目で見守ってくれた。
達成感。
嬉しい気持ちでエレベーターに乗る。
降りようと開いた扉に男が現れた。
私と同じぐらいの人間で、この人もバイトの人なのだと
察した。
「あれ、貴方は・・・下村さんの紹介の?」
「あ、はい・・・」
「俺もここでバイトしてんだ。よろしくね」
銀髪マッシュ。ブカブカの白のロングTシャツ。
タイト目の黒いズボン。
韓流アイドルには、ギリいないレベルの顔面偏差値。
「よろしくお願いします」
「うん。一緒にシフト入るの楽しみだね!」
そう言って、銀髪は去っていく。
一緒にシフト入るの楽しみ・・・
ふふふ、私の人生、好調なのかな?
あっ、エレベーター行っちゃった。