07.キッチンスタッフ 《前編》
私の悪い癖。
何日経っても、後悔が頭をぐるぐると回る。
悪い癖。
サークル活動は週1で、
今日はこの前の活動から2日後の金曜日。
コンビニ店員になりきった即興芝居。
その時のことが、何度もリフレインしている。
ああすればよかったとか
こうすべきだったとか。
それにしても、櫻子は経験者だとしても
茂木くんはあんな演技をするのは
恥ずかしくないのだろうか。
彼も初心者だったはずだけど
いきなりアドリブで劇をやれって言われて
ああやって飲み込めるのは、素直にすごいなって
思った。
「おはよー、マクちゃん」
昇華が目の前に現れる。
大学の講義室、最前列の、その後ろの列から
彼女は話しかけてきた。
ペンを持つ指先は真っ赤なネイルが色付いていて
私には出来ないな、なんて思ってしまう。
「おは・・・」
そうだ。敬語で。
「おはよう、昇華」
「こっちきなよ」
そう言われて、私の定位置は最前列から
1列後ろになった。
「順調?」
昇華の言葉は難しい。
何が順調?大学生活?サークル活動?
いや。どっちにしたって。
「昇華のお陰で、頑張れたことがあったよ」
「何それ何それ」
興味津々の昇華。
講義は始まっていて、私たちは小声だ。
「即興の芝居でね」
「エチュード?」
「うん。初めてやったんだけど」
「うんうん」
「勇気出して、演じることできた」
「いいじゃん」
「緊張して、声小さかったと思うけど。出来たんだ」
「マク。それ。私関係ある?」
「うーん・・・説明が難しいんだ」
「ま、いいよ」
普通に、会話してる。
しかも、講義中に。
高校の時の私じゃ、信じられない。
やっぱり、昇華のおかげ。
彼女が私の世界を広げている。
「ところでさ、マクはバイトとかするの?」
「今のところは・・・」
「へぇ〜」
「し、昇華は?」
「私はね、居酒屋でバイトしてる。人足りないからさ、マクちゃんもどうかなって」
「えっ・・・」
そこで即答できないのが
私の悪いところ。
だって私、バイトした事ないし。
居酒屋って事は、接客業だよね。
そんなの私には・・・
「小銭稼ぎだと思ってさー、やってみない?」
「うう・・・」
「人前、苦手なんでしょ?接客業とか、チャレンジしてもいいと思うなぁ」
こんなにも手を差し伸べてくれる人が
そう言うのなら、拒否する理由は無い。
でも、踏み出せない。
私は、いつもそうだ。
きっとこうやっていつも・・・
機会を逃してきたんだ。
変わりたいんだ。
変わって、昇華みたいに明るくなって。
彼氏作って・・・
乙女の純情を捧げる。
「うん、やる」
「待ってましたぁ!」と昇華が大声で言うから
講義室の注目の的になってしまった。
私の耳が赤くなる。