02.スタートダッシュ 《中編》
私の通う大学の敷地は
結構広い。
講義棟から歩いて5分はかかる。
サークル棟の3階。
そこに演劇サークルがあった。
辞めようかなって
何度も考えた。
何をやりたいかも考えてなかった。
でも、私にチラシを配ってくれた
あの人みたいになりたい。
そんな気持ちが芽生えた。
凄く緊張しながら、私は
ドアをノックする。
扉を開くと
大きいとは言えない部室に
10人ぐらいのメンバーがいた。
そこには、私の憧れの人はいない。
「入部希望?」
お!男が!
話しかけてきた!
「あああ、あの!はい!そうです!」
こうして、
何も知らぬまま
入部を希望してしまった。
私たちはサークル棟から
ぞろぞろと移動して
ダンスレッスンをするような
鏡張りのトレーニングルームと呼ばれる場所に
集まる。
「うーっす、じゃあ、劇団ファンクションの説明をすっぞー」
周りを見渡す。
部員は30人ぐらいいるみたいだ。
女子の数が多い。20人ぐらいいる。
サークル内の活動は3組に分かれるらしい。
なんやかんやで色々決められて
私は〝チーム転がる石〟という
なんとも言えない所に配属されることになった。
チーム同士で固まりをつくる。
チーム転がる石も
体育座りで輪を作る。
「じゃ、1人ずつ、自己紹介よろしく」
先輩が自己紹介を促す。
私の苦手なイベントだ。
自己紹介。
私は自分を出したくはない。
自分が嫌いだから。
勉強は頑張ってきたとしても
この大学にいる人は
皆等しく勉強を頑張ってきた。
だから、私には誇れるものの無いし
コミュニケーション能力もない。
可愛くもないから・・・
自分の自己紹介の事が頭を巡って
他人の話が入ってこない。
同じ1年生は4人いる。
うち、男は1人だけ。
どうしてみんな・・・普通に自己紹介出来るんだろう。
私には無理。
私の番が来る。
体育座りの皆の前で
立ち上がるだけで緊張する。
「ままま・・・幕間張子ですっ!」
い、言えた!
自分の名前!
しーん。
静まり返る輪の中。
それで?それで?
皆が名前の次に喋ることを
期待している。
そのプレッシャーが
私にとっては辛い。
顔の頬が笑っている。
涙目になっていく。
嫌だ、逃げ出したい。
「演劇はやってたの?」
チーム転石のリーダーが
私に助け舟をよこしてきた。
「やったこと、無いです!」
しーん。
「演者希望?裏方希望?」
演劇の世界は
演者だけで創られるわけではない。
裏方の人がいて成り立つ世界なのだと
さっき説明していた。
その問いかけに対して私は・・・
「こ、こんな感じで人前に出るのが苦手で」
たった9人の前で
顔の筋肉が揺れて
涙が出てくる私には
裏方がお似合いだ。
「・・・だから、その・・・自分を変えたくて、舞台に立ってみたいです!」
だから、変わらなくちゃ。
拍手が起きた。
たった9人からの拍手。