16.ハート柄のパンツ 《前編》
私はとても緊張していた。
今日はアルバイトの日。
なんやかんやでこれで4回目だ。
そして、そこでついに、彼とシフトが一緒になるのだ。
銀髪マッシュの男。
楠田くん。
私と同い年でフリーター。
大学生ではないらしい。
それだけが私の持ち得ている情報。
彼はホールスタッフで
私はキッチンスタッフだから
バイト中はあまり接点がない。
会話をするとしても、
休憩室だけだ。
私はバイト開始の30分前に到着し
準備をしていると、彼は5分前に現れた。
何故かそこで幻滅してしまう私。
あまりにも憧れを抱いてしまっていたからなのだろうか。
ギリギリに来るなんてあり得ない!
そう思った。
「おはよう、あれ、新しく入った人だよね?」
若干忘れられてない!?私!?
「ままま、幕間張子です!」
「うーい、よろしく」
そう言いながら楠田くんは
私が同じ休憩室にいると言うのに
その場で着替え出した。
別に裸になっているわけではない。
羽織っていたジャケットを脱いで
制服の上を着て・・・
そのまま直ぐにカチャカチャと音を立てて
ベルトを外し、ズボンを下ろした。
ハートの柄が散りばめられた
正直悪趣味なボクサーパンツと
白い脚がお目見えする。
「あっ、なんかごめん」
「いや、あれです、大丈夫です」
「いや見過ぎじゃね?」
「すみません!」
着替え終えた彼は
丸い小さな椅子に座った。
私とは少し距離のある場所で煙草を吸い始めた。
[補足しよう! 楠田は張子と同じく18歳である!未成年の煙草、ダメ!絶対!]
タバコを吸うなんて
ダメなヤツだ。私は思った。
黄色いフニャフニャのタバコの箱を握りつぶして
ゴミ箱にポイ、と入れる。
「幕間さんってあれに似てるね、あの人」
突然、煙草を吸いながら
楠田くんは芸能人の名前を出してきた。
正直、それが誰なのか分からない。
「えー。知らないの?」
「ごめんなさい、そういうの疎くて」
「え?趣味とかあるの?」
・・・ああ。
この人に期待していたのに。
やり辛い。
遅刻してきて、煙草吸って
突然、人の顔を他の誰かに喩える
がつがつと趣味を聞いたりしてくる。
どう頑張っても、この人の型にはハマらない。
趣味は?と聞かれると。
漫画アニメお笑い。
そういう答えしかない。
でも・・・このタイプの人間に
それが通用するのか分からない。
「漫画。漫画」
何故か2回言う私。
「え?マジ?俺も漫画好きなんだけど」
そりゃ、みんな、好きでしょ!漫画!
楠田くんが出してきた具体的な作品名は
超一流漫画雑誌に掲載されている
海賊漫画や鬼退治漫画、サッカー漫画。
つまりはメジャー作品ばかりだった。
それすらも、私の型にはハマらない。
私は二流の月刊漫画誌の連載作品が好きだ。
もちろん、メジャー作品も抑えてるけれど
マイナーと呼ばれる類が好きだからだ。
「やべぇっ!バイトの時間じゃん!行こ!」
3分ほど遅刻した。
私はその一瞬の会話で、楠田くんとの
可能性を早々に諦めてしまった。




