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Flag.04「修学旅行中にゲームしたことを後悔して何が悪い!」

「さて、修学旅行最終日!」

 今日も今日とて、恋愛ゲームを攻略するわよ。いよいよ本命ルートの攻略ね!

「こっちの方はまさに海って感じね、ラパンオーシャンって言うくらいだし」

 修学旅行最終日は、ラパンオーシャン。昨日のラパンランドのマイナーチェンジ的なテーマパーク。

「そんなこと、関係ないけどね」

 どこにいようが、私はゲームをするのみ。場所なんて関係が無いわ。

「でも、この雰囲気は嫌いじゃないわね」

 昨日のラパンランドは、典型的な遊園地って感じだったけれど、こっちの方は大人の休日的な、そんな雰囲気を感じるわ。

「これなら回るのも、悪くは……」

 いや、いまさら何を言っているのよ。私は修学旅行の残りの時間を全てゲームに充てると、そう決意したはずよ。


プルルルル……プルルルル……


「……もしもし」

恵蘭(けいらん)、どうかした?」

 後輩の恵蘭からの連絡が入る。

「……お土産、今日くれるとは思わなかったので」

「早いに越したことないでしょ?」

「……幡ヶ谷(はたがや)さん、大変ですね。昨日の今日で」

「それが彼の仕事だもの、仕方が無いわ」

 早朝、恵蘭へのお土産を運転手に渡して、届けさせたんだけど……流石にやりすぎだったかしら。

「……いや、そこまでする必要無いですよね?」

「それが専属運転手の性というものだわ」

 やってしまった以上は気にしても仕方が無い、わよね。

「……職務範囲、越えていると思うんですが」

「そんなことよりも、体調の方は大丈夫なの?」

「……この時間に電話を掛けることができている事実から、察してください」

「まだ治っていないのね、昨日届けた薬は飲んだの?」

「……飲みましたよ」

「そう、それなら安静にしていなさい」

「……今日も夢の国で、ゲームをするんですか?」

「当たり前でしょ?」

「……いや、当たり前ではないと思いますけど」

「恵蘭、また構ってほしいわけ?」

「……そういうわけではないです」

「構ってほしいなら、素直に言いなさいよ。少しくらいは構ってあげるから」

「……昨日の初台(はつだい)先輩の話を、詳しく聞かせてください」

「初台さんがどうかした?」

「……昨日、言っていましたよね?」

「想い人さんと夢の国巡りをしている件?」

「……ええ」

「恵蘭から初台さんの話題が出るなんて、思わなかったわ」

 二人とも、メンヘラ気質という点では似ていると思うけれど、そんなこと気にするほどの接点なんてあったかしら。

「……そんなことは良いんです」

「答えるのは別に構わないんだけど……」

 まあ、ここは一応確認しておきましょう。

「……では、教えてください」

「どうしてあなたが、初台さんのことを気にするの?」

「……気にしていません」

「いや、気にしていなきゃ聞いてこないでしょ?」

「それは……」

 しばらく、恵蘭の沈黙が続く。

「聞き方を変えましょうか。これを話すことで、恵蘭にどういうメリットがあるわけ?」

「……別に、無いですけれど」

「流石に、人の恋路について事細かに話す気は無いわ。どうしてもという必要性があるなら、別だけどね」

 まあ、話せと言われても話せるほど情報持っていないというのもあるけれど……

「……単に、世間話の範疇です」

「世間話ねえ、どうにも釈然としないわ」

「……相手の人、私の部の先輩なんですよ」

「相手の人?」

「……西ヶ原(にしがはら)先輩です」

「あら、そうだったのね」

 確か恵蘭が所属しているのって、新聞部だったわね。西ヶ原君も新聞部員だったのね。

「……初台先輩とは特に縁は無いですけど、お相手の西ヶ原先輩とは縁があります」

「それで、世間話ってわけね?」

「……はい、それで少し気になっただけです」

「そう、それなら話してもいいかもね」

 そういう前提がある以上は、世間話の範疇かもしれないわ。

「でも、恋愛に興味ないとか、昨日言っていたわよね?」

「……他に話題が見つからないだけです」

「まあ、それならそれでいいわ」

 早く恵蘭を満足させて、すぐにゲームに向かいたいところね。細かいところを気にしていたらキリが無いわ。

「どんな様子と言われても困るけれど、浮かれている感じはあったわね」

「……浮かれている?」

「泊まっている部屋が同室なんだけど、昨日帰ってきてからの初台さんは、それはもう浮かれている感じがしたわ」

「……話を、聞いたんですか?」

「いいえ、その件について話をしたということは無いわ、こっちから聞く理由も無いし」

「……そうですか」

「私が傍から見た感想よ。明らかに彼女、昨日何か良いことがあった感じね」

「……そんなの、傍から見て分かるんですか?」

「あの娘、分かりやすいもの。感情がすぐに顔に出るし」

「……そうですか」

 本人は、上手く隠しているつもりなんでしょうけど、それ自体が分かりやすさを際立てているのよね。

「詳しくと言われても、私が話せるのはその程度の内容よ。実際に何があったかまでは、私は知らない。少なくとも、昨日彼女はあなたの先輩の西ヶ原君と夢の国を回って、その中で何か良いことがあった。多分、そういうことでしょ?」

「……分かりました。ありがとうございます」

「他に、何か話したいことはある?」

「……いえ」

「それじゃあ……」

 よし、ようやっと最終ルートの攻略へ……

「……ありがとう、ございます」

「え?」

「……お薬と、お土産」

「ふふっ……」

 全く、何を言うのかと思えば……

「それを言いたくて、連絡してきたの?」

「いや、それは……まあ……」

「あら、恵蘭にしてはやたらと素直ね」

「……人間として、当然のことです」

「ふふっ、それはそうね」

「……それでは、失礼します」

「ええ、お大事にね」


プー……プー……プー……プー……


「なんだ、そういうことね」

 恵蘭が初台さんのことを気にするなんて、違和感しかなかったけれど、お礼を言うまでの話題探しと考えれば、釈然とするわね。

「話題が他に見つからなかったというのも、そういうことね」

 恋愛に興味が無いはずの恵蘭が恋愛話をする点も変だと感じたけど、今ならそこまでおかしいとも思わないわ。

「さて、スッキリしたところで、ゲームスタートよ!」

 本ゲームの新ヒロイン、矢野口(やのくち)権莎(ごんさ)ルートの始まりね!


       ※ ※ ※


「好き! 大好き!」

 権莎、やっぱり可愛すぎるでしょ、これは正真正銘、真のメインヒロインよね。

「やっぱり、権莎あってのこの作品よねえ」

 何よりも、王道の金髪ヒロインというのが最高。金髪は正義なのよ。

「しかも、気立てが良くて慎ましい!」

 権莎は古典的に、主人公に尽くしてくれる。これほど優しい女の子はいないわ!

「ねえ、あのお姉ちゃん一人で何してるの?」

「しっ……近付いたらダメよ!」

「どういうことお?」

 全く、平日というのに子連れで夢の国に来ているんじゃないわよ。

「とにかく行くわよ!」

「うん!」

 全く、余計なノイズが入ってしまったわ。

「ノイズと言えば……」

 やっぱり、気のせいじゃなかったのね……

神楽坂(かぐらざか)……なんとか……」

 初台さんの友人の、神楽坂何とかさん。改めてゲームをプレイしたけれど、やっぱり……

「あれ、天然ものなのかしら……」

 彼女は金髪と碧眼を持っている。その姿はまさに、権莎の生き写しと言っても過言ではない。

「そのうち、話すこともあるのかしら……」

 見た目が似ているくらいだし、中身ももしかしたら、権莎に似ているのかもしれないわ。

「こっちから話し掛けるのは、抵抗があるけれど……」

 彼女が権莎の生き写しなのだとしたら、お近づきになりたいという感情が無いとも言えない。

「そのうち、関わることもあるのかしらね」

 初台さんとの関わりもあるし、割と現実的な話よね。

「いけない、私は何を考えて……」

 生徒会での繋がりを、私的な欲望を満たすことに利用するだなんて、職権濫用だわ……

「でも、見た感じも慎ましさはありそうなのよね」

 いつでも笑顔な気がするし、朗らかな雰囲気は纏っているわ。

「ん、あれは……」

 初台さんと、西ヶ原君ね。

「やっぱり、二人きりなのね」

 昨日、神楽坂何とかさんを含めた三人で回っていたの、何だったのかしら。

「しかし上手くやってるわねえ、青春って感じ」

 これはご機嫌にもなるわけね。我が世の春みたいな笑顔をしているもの。

「私は、いつも通りなのよね……」

 夢の国に来てまで、趣味に時間を費やしている。これでは、家にいるのと何も変わらない。

「場所が変われば、気分も変わると思ったけれど……」

 結局は一人の世界。ただ、この場に身を置いているだけの話。

「ゲームはまあ、面白いけれど……」

 これじゃあ、恵蘭と話をしている時の方が、よほど楽しいわ。

「はあ、楽しいけれど、つまらないわね……」

 私らしくもないけれど、人恋しさのようなものを感じているのは事実。

「自分で選んだ選択だったのは確かだけれど……」

 私の選択、間違いだったのかしらね。

「まあ、今更ではあるんだけれど……」

 ゲームなんていつだってできるのに対して、高校の修学旅行は唯一の行事。それを私は……

「後悔先に立たず、だけれどね……」

 全く、我ながらバカなことをしたものだわ。

「最初から、分かっていたじゃないの……」

 そう、そんなことは最初から理解していた。それでもなお、その愚かな衝動を抑えることができなかった。

「いや、愚かだなんて思っていないんでしょうね」

 修学旅行に限らず、こういうことは初めてではない。愚かだと分かっていることを、何故だか抑えることができない。

「夜更かしでゲームとか……」

 そう、むしろ愚かとされることに価値を見出して、あえて愚かな選択をしているのかもしれないわ。

「どうしたら、止められるのかしら……」

 まあ、こういう悩みは私だけに限らないんでしょう。ソシャゲの課金なんかもそうなんでしょうし、酒タバコ、ギャンブルなんかも同じような理屈よね。

「人間って、どうしようもない存在だわ」

 模範的に生きようとするほどに、非生産的な欲望は膨らんでしまう。人間である以上、これを死ぬまで背負うしかないのかしら。

「まあ、考えるだけ無駄ね……」

 今回の修学旅行での時間の無駄遣いを、未然に抑止できたとはどうしても思えない。もう一度過去に戻っても、私は同じ選択をしたような気がする。

「終わったことは、どうにもならないわよね……」

 修学旅行も、残り半日。失った時間が戻ってくるわけではないわ。

「まあ、それでも半日あるわ」

 もはや修学旅行に関しては負債だらけという様相だけれど、全てが終わったというわけでもないわよね。

「……あれ、あの娘」

 初台さん、私の存在に気が付いたようね、一人でこっちに向かってくるわ。

「……逃げようかしら」

 せっかく楽しい時間なんでしょうし、私なんかに絡みに来るんじゃないわよ。


トコ……トコ……トコ……


「副会長、奇遇ですね」

「同じ園内なんだし、奇遇も何もないでしょ?」

「それもそうですね」

「……戻りなさいよ」

「え?」

「楽しんでいる最中なんでしょ? 私なんかに構っている暇があるの?」

「まあ、そうなんですが……」

「……楽しい?」

「え?」

「想い人さんとの修学旅行、楽しい?」

 私、どうしてこんなこと聞いているのかしら。

「ええ、楽しいです。凄く」

「そう、だったら……」

 早く、西ヶ原君の所に……

「でもなんでしょうね、地に足が付いている感じがしないんですよ」

「……地に足?」

「はい、こんなに幸せなことがあって、良いのかなって……」

「贅沢な悩み、してるわね」

「……贅沢、ですか?」

「そう、そんなこと考えないで、素直に楽しめばいいでしょ?」

「地に足が付いていること、したくなっちゃって……」

「……どういうこと?」

「副会長とはいつもお話してますし、安心できるかなって……」

 こちとら、地に足付き過ぎてる選択をして後悔しているってのに……

「考え過ぎよ、早く戻りなさい」

「まあ、そうですね……」

 でも、初台さんには初台さんなりの不安みたいなものがあるのね。

「楽しんでね、初台さん」

「はい!」


スタ……スタ……スタ……

 

「完璧な選択なんて、無いってことね」

  初台さんのように、究極的に模範的な選択をしていても、完璧な満足が得られるというわけでもない。

「考え過ぎは、私の方ね」

 今更無理に軌道修正したところで、きっと欲しいものは手に入らない。

「ゲーム、再開しようかしら」

 ここまで来た以上、最後まで突き詰めた方が良いわよね。

「でも、ただプレイしたんじゃ、本当に無駄だわ……」

 意味なんて無いと分かっているけれど、この二日間、私が貴重な時間を浪費したことに、なんらかの意味を持たせたい。

「まあ、いつも通りで良いわよね」

 帰ったら、プレイした感想をブログの記事に起こしましょうか。

「さて……」

 私の修学旅行は、ここから始まるのよ!


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