第89話 どエルフさんと女性向けサービス
「なんで止めるんだモーラさん!! せっかくいいところだったじゃないか!!」
「そうだ、心通わせる名シーンだっただろう、この小娘が!!」
「男同士でそんなことしてどうすんのよ!! 気持ち悪いだけでしょう!!」
うぐ、と、黙ったのはドワーフ。
たしかにそうかもしれんと彼は今更ではあるが、事態のおかしさに顔色を曇らせた。
しかし、頑固で知られるドワーフが納得したところで、それでも食い下がってくるのが男戦士である。
「君がそれを言うのかモーラさん!! 男同士で裸でいちゃいちゃする本が好きなくせに!!」
「なぁっ!? ちょっと、それは今は関係ないでしょう!!」
男同士でいちゃいや、と、わけのわからない感じに首をかしげるワンコ教授。
その耳を、そっと女修道士が覆って、二人の痴話喧嘩をフォローした。
「特にいがみ合っていた敵同士で一方が捕虜になって――『戦場に居る時からお前ばかり見ていた』『貴様』『どうして俺がお前を捕虜にしたと思う。俺のこの気持ちがわかるか』――とかいう展開から、男同士で抱き合うのが好きなんだろう!!」
「ぎゃぁあああっ!! なんであんた、それを!!」
「そのページだけめちゃくちゃ手垢がついていたからな!!」
なんでそんなところだけ頭が回るのよ、と、女エルフが絶望した顔をする。
だが、へこんでもいられない。
というかそういう場合でもないのだ。
きっと唇を強く結ぶと、女エルフは男戦士を睨みつけた。
「いいことティト、一度しか言わないからよく聞きなさい」
いつになく気迫のこもった女エルフの表情。男戦士も思わず攻めの姿勢から一転して尻ごんで黙り込んだ。
すぅ、と、息を吸い込んで、女エルフが叫ぶ。
「現実と理想は違うのよ!! 現実に、男同士で抱き合ってるところなんて、見たってちっとも面白くないのよ!!」
「なっ、なんだってぇっ!?」
「よしんば、アンタたちがそりゃもう目が覚めるような美少年・美青年だったとしましょう、それならね、少しくらい私の中でもありかなって、そういう気分にもなるでしょうよ!! でもね、汚いおっさん二人がきゃっきゃうふふ乳繰り合ったって、こちとらまったくうれしくないのよ!! 逆よ、逆に気分が冷めるのよ!!」
汚いおっさんって、と、男戦士とドワーフが絶望に顔をゆがめる。
二人とも、確かにいい歳なのは間違いない。
まだぎりぎり、なんとか、そういうナイスダンディ的な路線で、狙いないこともないかもしれないが――。
「なるほど、モーラさん的には、ロマンスグレー系のお話はナシなんですね。流石ですねどエルフさん、さすがです」
女エルフには女エルフのこだわりがあるのだ。
耳をふさがれて何が何やらという感じのワンコ教授をよそに、女エルフの腐女子としてのこだわりを前に、女修道士はうなづいたのだった。
「うぅっ、汚いおっさんって、ひどい――」
「ワシら見た目はこんなだけど、心は乙女なのに。あんまりじゃぁ――」
「そういう要らんセリフが興を余計に削ぐのよ!! やるならやるで、ちゃんと勉強してからこい、このノンケおやじどもが!!」




