第794話 ど男騎士さんとミッテル九傑
『さて、そんな訳で、すみませんティトさん。いろいろとご心配をおかけしてしまって』
「そんなことはない!! コウイチ、俺はまた君と会うことができてうれしいよ。きっと、ハンスもここにいたならば、同じように喜んでくれただろう!!」
「だぞぉ!! そうなんだぞぉ!! よく、よく生きていてくれたんだぞぉ!!」
「ほんとびっくりするわよね。けど、それよりなにより驚いたのは、コウイチくんがミッテル九傑の一人だったってことよね」
あははと苦笑いをする魔性少年。
その笑顔と反応から悪気がないのも伝わってくる。
おそらく、彼が自分がそれであると気が付いたのは、こうなってから――彼らの一族の始祖である「鉄人二八 ゴウ」と精神を統一してからのことなのだろう。
よもや自分が再び蘇ることになるだなんて、微塵も考えていなかった。
魔性少年の笑顔の底には、そんな戸惑いが紛れている。
それを見抜いて――というよりもあらかじめ聞かされていた女エルフ。
彼女は再会もそこそこに話題をミッテル九傑について逸らすのだった。
「さて、ここにミッテル九傑が三人揃ったわけだけれど。結構ごろごろいるものね」
視線の先。
冷ややかな瞳を向けられたのは、九傑の二人。
店主と暗殺者である。
二人はそういうやり取りに慣れた感じで、同じように後ろ襟を掻いた。
「……まぁ、ミッテルさまは人類に対して友好的な神だからな。使徒の数も、この世界で最も信仰されている海母神よりも多いくらいだ。たぶん、九柱の中で最も多く使途を抱えているんじゃないかな」
「つっても、俺たちのような戦を生業とするような奴らばかりだがな。戦神ミッテルの名は伊達じゃないぜ」
戦神ミッテル。
信仰するものに勇気と力を、勝利と栄光をもたらすと言われる戦神。
荒神であり、その信徒には戦士や傭兵などのきな臭い仕事をするものが多い。人々の融和と安寧を解く教会――海母神と比べればその信仰者はそう多くない。
しかしながら、争いごとは人間の生きる上での常であり、多くのものが避けては通れないものである。
「だぞ。戦神ミッテルの信者の数はそう多くないんだぞ。けれど、彼らを祀る祭殿は、実は教会よりも多いと言われているんだぞ」
「……本当なのそれ?」
「本当です。教会側でも調査しましたが、ミッテルを祀っている祭殿は、私たちが構えている教会の数よりはるかに多い。しかもそれらは、組織だったものではなく、主にその祭殿がある地域の住民たちの善意によって機能しています」
ワンコ教授の知識を、法王が補足する。
恒常的な神への信仰と、一時的な神への信仰は分離して人々の中に存在している。まぁ、分からない話ではないと女エルフも納得した。
しかし、戦神に民が祈るのかと、女エルフがごちる。
「そこまで勝ちたいものがあるのかしらね。世も末ってもんよね」
「いや、そんなこともない。人が生きる限り争いは起きる。些細な物事も、よく観察してみれば闘争だったりする。勝利を願うことはおかしなことじゃない」
「ティト」
「いざという時に、ここぞという時に、神の力を借りたいと思うのは弱さではない。それは一種の自分に対する誓約のようなものだ。別に、戦闘狂でなくっても、人生にはどうしても負けられない瞬間というものが存在する。海母神マーチはその点、世界平和を説くものであるから、個人の勝利を願いにくい側面がある」
「そのような民の心の隙間を縫って、戦神ミッテル信仰というのは成立しているんですよモーラさん」
この中で、最も戦神に近い立場にある男騎士。
そして、また法王がそれを補足する。
そういうものかしらねと、ちょっと拗ねた反応をしたのは、やはり女エルフがエルフたる所以。祀るべき神を持たず、自然と共に生きる彼らには、いまひとつその人間たちの心理が分からなかったのだ。
ただ。
「どうしても勝ちたいってのは分かるわね」
先ほど、からくり娘と激戦を終えたばかりの女エルフには、勝負にこだわる気持ちだけは分かった。どうしても譲れないものがある。そのために、戦わねばならないものがあるというのは、彼女も嫌と言うほど思い知っていた。
なんとなくだけど理解できた気がするわと女エルフ。
そんな彼女の前に、三人の使徒が揃って肩を並べる。
「と言う訳でだ、俺たちはそんな風に頼られるミッテル様に代わって、この世界にあまねく戦う者たちに、それとなく力を与えているって訳だ」
「明恥政府の戦いみたいな大規模な戦闘に介入することは少ないけどな」
『僕――ゴウに至っては、こうして深海に棲む少数種族の保護という、非常にニッチな仕事をしている訳ですが。まぁ、とにかくそういう訳です』
ミッテル九傑。
禿修験者により明らかになった、戦神の使徒たちは――思った以上に人間たちに対して優しい、そして、頼りになる存在らしかった。
そして彼らを率いる神もまた、意外と人情味があるのかもしれない。
そんなことを女エルフは思って、一人納得するのだった。
「俺たちはいつだって、未来を切り開こうとする者たちの味方ってことさ」
「そういうことじゃ。まぁ、ミッテル九傑もといミッテル様は今回の魔神殺しについては、肯定的じゃ。九名全員との謁見が協力の条件というのはあるが、それでも応援しとるきいのう」
「……あ、その九名のことなんだけれど」
女エルフ。
ここで、ふと、かねてより気になっていたことを切り出した。
それはそう、いま、こうして再会した、魔性少年も知っていること。
かつて、彼らが攻略した塔の最上階にて、彼らを待っていた試練にして罠。
ミッテル九傑第一席に座る男――コウメイについてだった。




