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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第七章 異世界ウワキツ格付けチェック
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第772話 ど青年騎士さんと譲れない思い

 からくり侍と道化師が激突するその横で、剣を交える影が二つ。

 余人の介入を許さない、抜き差しならない気配を放ちつつ、武器を振り回しているのは、青年騎士と元中央大陸連邦共和国第三騎士団長。


 かつて、同じ騎士団に所属し、同じ理念を抱いて戦ったはずの彼ら二人は、故郷より遠く離れた海の果てで、今は違えた思いを籠めて剣を振るいあっていた。


 裂帛の気合を背負って、男騎士より盗んだ必殺――我流バイスラッシュを放つのは青年騎士。落雷の如き、上段からの強烈な打ち付けは、肥大した元第三騎士団長の腕を切り飛ばす。


 しかしながら、既に相手は異形に身をやつしている。


 腕の一つがなんというものか。

 即座にその筋肉の束を再生させれば、第三騎士団長は振り切って隙のできた青年騎士に向かって、残された方の腕を振るう。大樹の幹の如き剛腕が潮風を裂いてうなりをあげれば、青年騎士の側面を襲った。


 これに、青年騎士、合わせて腰の斧をあてがい防御する。


 騎士団で習う行儀剣法ではない。

 それは、咄嗟の危機に彼の身体が自然と動いた、彼の中に芽生えつつある戦士としての本能的な動作だった。


 これに目を剥いたのは第三騎士団長。


 その驚き、逃さず。


「逆、バイスラッシュ!!」


 下から斬り上げるバイスラッシュを青年騎士は放った。

 男騎士よりも知恵のある青年騎士である。

 技の理解も早ければ、応用も早い。


 すぐさま、切り上げの一撃にもバイスラッシュの術利を使えると踏んだ彼は、渾身の力を籠めて剣を天に向かって突き上げた。


 下段からの攻撃というのは、基本的に重力に逆らうため、威力に劣る。

 しかしながら、バイスラッシュはその重力を受けてなお、全てを断つ渾身の一太刀である。


 地より立ち昇った間欠泉か、はたまたマグマか。

 爆発したその一撃は、元第三騎士団長の、太ももを切り上げて、更にその腰を引き裂いて逆袈裟に引き裂いた。


 異形の元第三騎士団長。

 けれども、痛覚がない訳ではない。

 絶叫が、海の果てまで木霊する。


「ロイ、ドォオオオ!!」


「ヴァイス騎士団長ォオオ!!」


 崩れた身体を急速に再生させる元第三騎士団長。

 しかし、肉スライムであるにしても、彼の身体は散々に斬りつけられて、重篤なダメージを負っていた。


 回復は、既に間に合わない。


 咄嗟、元第三騎士団長が繰り出したのは。

 長年、彼が使い込んできた剣による攻撃。


 騎馬隊を率いる第三騎士団長は、いかなる姿勢からでも攻撃を繰り出すことができるよう、変幻自在の剣術を体得していた。


 まるで、爬虫類のようにその刀身を揺らして、元第三騎士団長の太刀筋が、青年騎士の首元へと迫る。


 冥府魔道に落ちようとも、かつて騎士としての道を歩んだ男である。

 そして、武芸の道を歩んだ者である。


 剣閃煌めく。


 一撃に魂を込めて、自分の命運を託して、今、元第三騎士団長は、その一刀を練りだした。


 間違いなく、それは目の前の戦士のすべてを籠めた一撃であった。

 これを凌ぐは、意思だけではままならない、決意だけでは足りない。確かな戦士としての技術と力、これで相手を凌駕しなくてはならない。


 はたして、青年騎士。


「……浅いです!! 団長!!」


 繰り出したのは、その膨張した筋肉の腕を弾いた手斧。

 青年騎士は、あえて、刃でそれを受けるのではなく、斧でそれを絡め取って地に叩き落した。


 青年騎士の技量が、第三騎士団長を上回った。

 騎士としては、まだ、彼は遠く及ばない。


 ただ、戦を知る者――戦士としての技量が、第三騎士団を上回ったのだ。


 青年騎士ロイド。

 彼は、ここに騎士としてではなく、戦士としての自分をついに見出した。


 斧を捨てて、全身全霊を籠めての一撃。

 バイスラッシュ。


 もはや、目の前の元騎士団長に再生するだけの力がないのは分かっている。

 これが正真正銘、彼を絶命せしめる一撃となるだろう。


 情けなどない。

 戸惑いもない。


 戦士として、少しの隙も油断もなく、全身全霊を持って必殺の太刀を繰り出す。

 彼のバイスラッシュは、すわ、稲妻のように鳴いて、元第三騎士団長を、真っ二つに引き裂いたのだった。


 か、は、と、異形と化した元第三騎士団長が絶命の息を吐く。

 同時に――その表情に、諦めと、人間としての理性が戻った。


「ロイ、ド……」


「ヴァイス騎士団長」


「俺、は、どこ、で、道を、まち、がえ、た……?」


 再生能力を失った肉スライムの身体が崩壊を始める。

 みるみると、灰となって崩れていくかつての上司の姿に、青年騎士は何を思うか。一条の泪を流して、彼は、その散り際に応えるのだった。


 かくして、青年騎士と元第三騎士団長。

 その因縁の戦いが、ここに幕を下ろした。


「ヴァイス騎士団長。貴方の屍を越えて、僕は行きます」


 そして、青年騎士は強くなった。


 男としても、戦士としても。

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