第771話 どからくり侍さんと強襲する道化たち
道化師ジェレミィの攻撃はなんともトリッキー極まりないものであった。
小さいからくり人形の兵団を操りながら、彼女は同時に、さまざまな眷属を使役して、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムへと迫った。
天を舞う木造りの大鳥。
透明な多くの触手を持つ海魔。
錻力で出来た兵士。
そして、人を惑わす魔笛。
魔笛の瘴気に当てられて前後不覚になった船員たちが同士討ちを始める。
それを止めるべく、割って入って当身で昏倒させるのはからくり侍。
名指しされ、敵意を向けられてからこっち、彼女は道化師ジェレミィとの死闘にかかずらわっていた。
「ふふっ、やってくれますねコンゴウ。なかなか、流石に七人の始まりの原器の中で、最古と呼ばれるだけはある!!」
「……黙れ!! 暗黒神の走狗よ!! 貴様たちの神が犯した大罪、我らは決して忘れぬぞ!! 人のための大地を穢したその罪、必ず償わさせる!!」
からくり侍。
体の中に仕込まれた暗器を総動員して、道化師に迫る。
まるで節足動物のようなからくりの一撃。
人体の動きをまるで無視した、嵐のような斬撃が、月面の道化に向かって飛ぶ。
しかし。
だがしかし。
それを軽やかに、まるで舞うようにして避けてみせる道化師。
からくり侍と同じく、彼女も人外なのだろうか。そう思わせるような異様な動きで翻弄すると、道化はまた魔笛を鳴らすのであった。
その魔性の響きに当てられて、ざわめきたつ仲間たち。
ちっと機械仕掛けの舌を弾いてコンゴウ、再び仲間たちを助けに走る。健気よのうとその背中をあざ笑って道化、今度は海中から大鎌を取り出した。
赤い三日月のような不気味な光をまとった鎌。
おそらくではあるが、暗黒神の加護を受けているであろうそれを握りしめるや、まるで旗か何かのように、上下左右自由自在に振り回してみせては、彼女はその先端をからくり娘へと向ける。
さて、仕上げとばかりに、狙いすましたその時。
ふとその表情が翳る。
視線はからくり娘――コンゴウと呼ばれた女の肩へと向かっている。
幾たびの刃合わせでほつれたその服は、ものの見事にはだけており、木目でこそあったが乙女の肌を露出させていた。
しかしその肩には、異様な文様が刻まれている。
「ふむ、コンゴウ――貴様!!」
構えた鎌を放り投げる、道化師、それまでの人を食ったような攻撃をどこにやったか、素早くからくり侍に肉薄すると、彼女の肩に憑りついた。
なんとか仲間たちを昏倒させていたからくり侍だが、その突然の強襲に目を剥くのはやむかたなし。
そして、道化はからくり娘の背中でせせら笑う。
「この模様間違いない!! くははっ!! なんとなんと、暗黒神さまも性質が悪い!! まさか神代よりこのような、外法を施していたとは!!」
「なっ、何がおかしい!! 外法だと!!」
「気づいていないようですねコンゴウ――いえ、より、正確に申し上げましょう」
セブンカースの者。
その単語を聞いた瞬間、からくり侍の身体に、電撃のようなモノがピンと奔った。彼女の身体を貫くように、彼女の知らない力が駆け巡った。
それは彼女を造りたもうた、破壊神よりもたらされた力ではない。
さりとて、目の前の道化師と同じ、暗黒神の力でもない。
得体のしれない力。
しかし、この世に害為すための力。
その力が突然に、自分の身の内に沸き起こったことに、戦慄するよりも早く、月面の道化がからくり侍に耳打ちした。
「知らぬようならば教えてやろう、哀れな原初の神々、その源流が奈辺にあるかを。ライダーン。破壊を司るお前の主神が、いったい誰の眷属であったかを」
「……ふざけるな!! ライダーンさまは、この世界を支える六つの神が一柱!! 眷属だなどと、そんな」
と、そこまで言いかけて、あることにからくり娘は気が付いた。
確かに、破壊神ライダーンはこの世界の神として、眷属神としては知られていない。けれども、そのような立ち位置にある神を、彼女は二柱知っている。
この世界の、北の果てと南の果てを守るモノ。
二人のアリスト。
彼らは創造神――海母神マーチと同列に語られる偉大なる原初の神、オッサムの眷属神ではなかった。
どうして、創造神オッサムの眷属が二人だけだと思ったのか。
そのような伝承が他になかったからなのか。
最も、神代に近い存在であるからくり娘はその時、自分が神の兵器として作られながら、肝心のことを知らぬことに気が付いた。
もしや、暗黒神とは――。
「さてさて、そうとなってしまっては、壊してしまうのはもったいない。有効利用させていただきますよ、ライダーンの使徒にして、この世界を裏返す七つの原罪」
「……やめろ!!」
「コンゴウ、貴方に刻まれた宿禍は――」




