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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第七章 異世界ウワキツ格付けチェック
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第758話 ど男騎士さんと先走り男汁

「えぇーい!! どっちもドキドキの方向性が違うわぁ!! この小娘ども!!」


「「ぐわぁーっ!!」」


 男騎士、たまりかねた感じで、女エルフと赤バニからくり娘を弾き飛ばす。

 ドキドキする心というか、うちに溜まったコスモというか、そういうものを爆発させた男騎士は、女二人を軽々と空に吹き飛ばした。


「くそっ、火事場の馬鹿力か!!」


「いや、待て、BBAモーラマン!! あの構えを見ろ!!」


 すわ男騎士。


 セコンドとしてリングの脇に構えていた魔剣の柄に足をかけると、彼は人間独楽のようにその上でバランスを取り立ち尽くしている。


 きりりとした男らしい顔。

 そのあまりの男っぷりに、ほうと女二人、うっとりとした顔をしてしまったのは仕方ない。


 しかし、既に世界は劇画調に侵されている。


 うっとりしたその顔は、祟山暗〇子(〇しちゃる)のそれであった。


「モーラさん!! そして、アシガラ!! 二人ともなんというか、乙女心をどこに置いてきてしまったんだ!! もはや行き遅れアラサー属性でもなんでもない!! ただのキワモノコメディリリーフじゃないか!!」


「誰が|キワモノコメディディリリーフ《不細工です〇》か!!」


「誰が|キワモノコメディリリーフ《鈴木智〇子》か!!」


 どちらもどちらも黄金期を代表する不細工キャラクター。

 今では女性読者も増えたことから、そういう表現もできなくなってしまったが、そういうはずれキャラに好かれたくないのに好かれてしまうというシチュエーションは、ある種の物語のテンプレートであった。


 そう、まさしく男騎士の今の気持ちはそれ。


「お前たちのようなヒロインがいるか!!」


「「ひどいわ!! おんどりゃぁっ!! 乙女心を弄ぶとはふとどき千万!! こうなったら既成事実《〇しちゃる》を造って、強引にゴールインよ!!」」


 マッスルシスターズ。


 ここに女エルフと赤バニからくり娘、即席チームを結成する。

 ぐっと手を取り合うと、二人がかりで男騎士へと特攻する。


 なんとい阿吽の呼吸。

 まるで彼女たちは、生まれ落ちてからずっと一緒の姉妹のように、自然な動きで連携をとると、男騎士に肉薄した。


 再び、男騎士の身体が宙を舞う。

 抱えて飛ぶ女エルフに、宙から舞い降りる赤バニからくり娘。

 繰り出すそれは間違いなく、伝説のタッグ技。


「喰らえ、これぞモテにモテないアラスリ――いや、アラインフィニットシスターズの必殺ホールド!!」


「妙技!! 凸凹ドッキングー!!」


【妙技 凸凹ドッキング: テトリスでこううまいこと連鎖する感じのアレ。凸が良い感じに入って綺麗に二列消える爽快な奴である。別に深い意味はない。本当に深い意味はない。凸にも、凹にも、なんの意味もないのだ。凹と凹で凸を挟むという構図から、本来なら凹凸凹ドッキングではないのかという感じもしないでもないが、そういうのじゃないのだ。本当。許して】


 決まった。


 男騎士、暁に死す。

 そう思われたその時。

 ぬるり、男騎士は女エルフの万力の如き締め付けからどうやったのか滑り抜けると、リングの上を転がったのだった。


 これはいったい何が起こったのか。

 戦慄する、アラフィフインフィニットシスターズ。しかし、その答えは――男騎士を掴んでいた女エルフの手の中に既にあった。


 そう、ぬるりテラめくその液体は間違いない――。


「これはまさか!!」


「先走り――男汁!!」


「ふんっ!! 甘いわ、このズベタどもがぁっ!!」


 男騎士が着地したその先には大きな桶。

 そこには、なみなみと注がれた男汁という名の――機械油が注がれていたのだった。そう、男汁とは機械油。工業系の男が流す汗と涙、そして――本人たちは決してそれが男の勲章とか思っていない、極めて不快なにおいのする何かであった。


 ぶっちゃけめっちゃ臭い。(経験者談)


 駆動部に差して潤滑するその液体のなんともいえぬまったりとした匂いにむっと顔をしかめたのもつかの間である。

 男騎士が胡坐をかいている桶の下で、紅蓮の炎が燃え上がる。


「モーラさん!! そしてアシガラ!! お前たちがそう来るなば、こちらにも防衛の準備ありだ!!」


「なんですってダーリン!!」


「まさか、ティト、貴方!!」


「みさらせ、これが男の塾名物――機械油風呂じゃぁーっ!!」


 そう言って、男騎士は機械油煮えたぎる桶で、自分の身を護るのだった。

 行き遅れ女たちからその貞操を守るために、自らの身をたくのであった。


 そこまでの覚悟。

 そこまでの意地。

 まさしく、男の中の男である。


 男騎士、いや、漢騎士である。


「……ティトェ、お前はいったいなんと戦っているって言うんだ」


 もう、てんやわんやのしっちゃかめっちゃかであった。

 いったい、彼らは何と戦っているのだろうか。


 昼の海に、アホウドリが虚しく鳴いた。

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