第750話 どセーラー戦隊さんたちとどアシガラさん
「んもーっ!! 失礼しちゃうなぁ!! 可憐なレディを捕まえて、ウワキツとかちょっと酷くなぁい!! 確かに私は兵器かもしれないけれど、心はレディ、体はボンキュッボンなんだから!! あ、自分でボンキュッボンって言っちゃった!!」
「モロゾフ!!」
「勝の旦那ァ!!」
勝がいきなり血を吐いて倒れた。
老境に差し掛かった男である。
その老いた体に鞭打って、国のためにと出てきた彼だが、そんな無理がついにここに来て臨界点に達した。
ご老人にバニースーツはいささか刺激が強すぎた。
いや、ウワキツは刺激が強すぎた。
ちょっとマニアックな腰回りに、ちょっと重力に負け気味な胸周り。
更にタンドリーチキンみたいな太もも。
もはやその衣装を着るにはちょっと限界があるだろう。
溢れんばかりのウワキツ力が、バニースーツという凶器と合わさって視覚的に彼らに迫る。老眼。近くも遠くもかすんでよく見えない目にもそれは突き刺さった。
ウワキツ特攻。
それは、よほど強固な精神と、それを許容する広い心がなければ受け付けることのできない人類共通の精神攻撃。
共感性羞恥心をぶち抜く無慈悲の一撃。
あぁ、駄目ですダメです、そんなことをしては、人生の汚点になります的どうしようもない感。それがウワキツの本質であり、老若男女を問わずに発動される、いたたまれない空気の本質だったのだ。
そう、ウワキツとは、きつい格好をする人それ事態が問題なのではない。
見る者の精神的な脆弱さを突く、そういう一撃だったのだ。
「……あのおバ、お嬢さん、なんてタマしてやがるんだ。あのマニアックな体系であの格好をするだなんて」
「あっしらみたいな明らかに見た目NGな男連中ならいざ知らず、女として熟して腐りきる寸前でのあの暴挙。普通の精神構造をしていたらできるもんじゃねえ」
「待て皆!! 第二波が来るぞ!!」
その時、一陣の風が水面に吹き付ける。
穏やかな南洋の海に吹き付けた風は、水面を揺らすだけでなく更にそこから上昇気流に転じて、噴き上げるようにして彼らのセーラーに迫った。
すかさず手でセーラーのスカートを抑える次郎長たちであったが。
「いやぁーん!!」
「なっ、なにぃっ!! 内また防ぎだとォっ!!」
「それをやっていいのは大女優と本当にセーラー服が似合う年齢の女子のみ!! ネタでセーラー服を着ている人間がやっちゃいけないポーズ!!」
「しかも、着ているのはセーラーじゃなくてバニースーツ!! むーりー!!」
「まさか、この女――本気で着ているというのか!!」
再び襲い来るUWK値チェック。
めくるめく、ピピッドゥなアシガラのポーズ。
それを目の当たりにして、判定に失敗した、次郎長一味、謎の暗殺者、青年騎士、若船団長――もうほとんどの男たちが倒れた。
男だけではない。
女たちもだ。
「馬鹿な、女としての格が違う」
「お姉さまの燃え滾るようなウワキツ力三百歳にはない破壊力!! これが、本当に女として越えてはいけない一線を越えた者の力だというの!!」
「うぅっ、同じ海の上に生きる女として、庇ってやりたい所だけれど、庇ってやれないこのヤバさ。お願いだ、もうやめてくれぇ」
法王、新女王、女船長、次々に倒れる。
もはや死屍累々。
船員から名もなき観客に至るまで、多くの者たちが、アシガラの大人気ないバニースーツ姿に殺されていた。
悩殺させられていた。
まぁ、確かに悩殺だが、違う感じで悩ましく殺された。
おそるべきウワキツ力。
おそるべきアシガラ。
「あらあらぁー、皆どうしちゃったの。ちょっと刺激が強すぎちゃったかしら」
ちょっとどころの話ではない。
もう取り返しのつかないレベルの刺激の強さ。
大海原は一海里に渡って、広域のスタンを発生させるとはどういうことぞ。とにもかくにもアシガラは、おそろしい神造兵器に間違いなかった。
この精神攻撃に、耐え抜いたのは僅かに四人。
「皆!! くそっ、いったいどうしたというのだ、こんないきなりバタバタと倒れて!!」
「まったくだぜ!! そんなにバニースーツが怖いってのか!! なんでいアレくらい、俺だって着こなしてみせらぁ!!」
どエルフという相棒のおかげで、ウワキツに耐性のある男騎士。
そして、そんな彼と同じでウワキツに免疫のある変態店主。
「だぞ、みんな、何をそんなに慌てているんだぞ」
「ケティ殿。いや、そんな貴方でいてちょうだいと、きっとみんなが思っているでござるよ。とはいえ、やってくれたのう――」
ウワキツの意味さえも知らぬお子ちゃま脳のワンコ教授。
そして、目の前のウワキツ娘の素性を知る者。
同じ七人の最初の原器の一機にして、明恥政府の傀儡とされた、彼女たちと真っ向から戦うことを選んだからくり娘。
「あら、誰かと思えばコンゴウじゃない。こんな所で会うなんて偶然。びっくり」
「アシガラ!!」
男騎士側についたからくり娘、コンゴウであった。




