第75話 どエルフさんとシチュエーション
「くくくっ、とにかく、親分のために、そのちびっこエルフはいただくだにぃ」
「んがぁ!! 邪魔するなら女の子だからって容赦しないんだなぁっ!!」
ハーフオークの男がその緑色の腕を振り上げる。
ばしりとその大きな手のひらで板敷の床をたたきあげれば、まるで太鼓のように彼らの立っている場所が震える。
足元からの衝撃に体勢を崩す女エルフと女騎士。
と、そんな彼女たちに向かって、今度はダークエルフの男が手を向けた。
「超重力!!」
【魔法『超重力』:無属性魔法。対象にかかる重力を倍加させ行動を制限する。今日は重力がすごいのよ、今日は重力がすごいのよ】
女エルフたちの体を襲う強力な重力。
身軽がモットーのエルフ娘。だが、そのフットワークを完全に封じられて、彼女たちはその場に膝をついたのだった。
「ぐふふふ、いい眺めだにぃ。美女たちが跪いてる姿ってのは」
「んがぁっ!! むらむらしてくるんだなぁっ!!」
「くっ、貴様ら――」
女騎士を眺めてほくそ笑むダークエルフとオークのぶ男たち。
舌なめずりするその姿は、どう擁護しても、そういうゲームの絵面にしか見えはしない。
これはいよいよ、本当に、正真正銘、あの名セリフを使う時がきたか――。
そう思ったその時だ。
「や、やめろっ!! 私のようなぺちゃぱい、揉んでもつついても楽しくないぞ!!」
慌てて女騎士は自分の顔の前で手を振ると、涙を流していやいやをしだしたのだった。
凛々しさ、威厳、そんなものなどどこにもない――全身全霊全力の拒否のポーズ。
流石にこれにはぶ男たちの顔も、ゲームに出てくる凶悪キャラ顔から、すっかりと雑魚モンスター顔に戻っていた。
「そそ、そうだ、こっちのエルフの方がいいんじゃないか?」
「ちょっと、変な話を振らないでよ!!」
「女騎士は触手!! オークはエルフだろう!!」
「どっちもそんなに変わらないでしょ!!」
「黙れ!! 女騎士は大変なんだぞ!! 国が滅ぼされたら他国の兵に、森でオークと出会ったらオークに、宮廷魔術師は基本敵だし!!」
「そんなこと言ったらエルフなんて!! 奴隷商人につかまったり、儀式の生贄にされたり、あと、森でオークと出会ったらあれなんだから!!」
やはりどっちもオークと出会うとアレなのではないか。
先ほど結んだ友誼などすっかりとどこへやらである。
どんぐりの背比べ、低レベルな女騎士と女エルフのやり取りに、場が凍り付く。
なんの話だろうか、と、きょとんとする少女エルフをよそに、その後も二人はしょうもない罵りあいを続けた。
「ふんがぁ。なんか、色々とだいなしなんだなぁ」
「胸もなければ色気もないとか――お前ら、ほんとなんで女騎士とエルフなんてやってるだにぃ」
なんのためにだろうか。
罵りに罵りあって、身も心も疲れ果てた二人は、ふっとお互いの顔を見つめあった。
そこに居るのは哀れな女。
職業的にも種族的にもヒロインになる資格があるのに、今一つ、ここ一番で、そうなり切れない、哀れな娘たち。
「「くっ、殺せ!!」」
いまさら遅い。少女エルフを除いた、その場に居合わせた誰しもが、そう思ったのだった。




