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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第六章 燃えよティト!! 復讐のG幻流!!
724/814

第724話 ど男騎士さんと武士道

「……モーラさん」


「……ティト。おい、しっかりしろよぉ」


 ホウライ島の浜辺に揺蕩う幽鬼の姿が一つ。月影を受けて打ち寄せる白波。その波濤の中に愛しき人の姿を探す彼の瞳は正気のそれではない。


 なんとかレースの最中に正気を保った男騎士だが、やはり相棒の喪失は大きい。

 いや、相棒ではない。


 もはや女エルフは彼にとって、なくてはならない大切な伴侶であった。


 冒険者である。

 危ない仕事をしていれば、いずれそのような危機に陥ることはあるだろう。

 そんなことはぼんやりと彼も覚悟をしていた。


 けれども絶対にそんな辛い思いはさせないと、彼は固く決意していた。

 なんとしても彼女の身の安全は守ってみせると誓っていた。


 決意していたのに。

 誓っていたのに。


「守れなかった。俺はまた、大切な人を守ることができなかった。俺は、俺は」


「ティト、おい、しっかりしろよ!! お前までそんなになっちまったら、モーラちゃんが!!」


 言いかけて魔剣がはっと息を呑む。


 男騎士の瞳が泪に揺れている。

 月光を拾ったその冷たい滾りは、黒い相貌の中を濁流のように流れている。もはや男の顔ではない。悲嘆にくれる男騎士のその顔を、魔剣は見ていられなかった。


 こんなにも人間は脆いのか。


 いや、と、魔剣。


 自分もまた、彼と同じように大切な人を失った。

 失って、それを取り戻すために走り続けて、ついには人ならざる身にやつした。


 自分もまたその頃には彼のようではなかったのか。


 彼のように、心の中にぽっかりと空いてしまった洞を埋めることができず、悪鬼羅刹になり果てたのではなかった。


 今や、男騎士の後見人として、彼の冒険に同道することを決意したかつての英雄は、彼がまた自分と同じ道を歩もうとしていることに歯噛みする。

 肉体は滅び、剣にその魂を宿す身なれども、過酷としか言いようのない運命のいたずらに彼は天を恨んだ。


 そう――。


「ふざけんなよ。クソ神どもが。全員揃いも揃って性格の悪い。どうしてこんな真面目な奴に、世界の命運なんてたいそれたものを背負わせやがる。どうして人に世界を委ねるとこの世を去った癖に、中途半端に介入しやがる。魔神シリコーンはお前たちと同じ存在だろう。なんでその尻拭いを俺たちに求める」


 かつて、神の走狗として暗黒大陸へと乗り込み、導かれるままに剣を振るって魔女ペペロペを屠った。

 そんな伝説の勇者が吐き出す呪詛。


 神々への恨みごと。

 しかしそれは、激しく打ち付ける波音の中にかき消された。


 まるでそんな言葉に意味などないとばかりに。


 世界を救った大英雄も、この世を去った神々も、どうしようもできない流れがこの世界には渦巻いていた。

 そして、そんな残酷の渦の中に、男騎士は巻き込まれようとしていた。


「……モーラ、さん」


 ふらりと男騎士の脚が波を踏み抜く。

 遠浅の海に歩み出そうとした彼を見て、いかんと魔剣が瘴気を発する。


 やはり彼は正気ではない。

 今ここで、彼を死なせては、大海に消えた女エルフに申し訳がたたない。


 なんとしても彼だけは守らなければ。

 そう魔剣が思ったその時――。


「陸じゃ、陸じゃ、女子オナごじゃぁ!!」


「ふほほほ!! ついに島からの脱出に成功したでおじゃる!!」


 空気も読まずに野太い男の声がする。

 なんだお前、こんなこっちはシリアスをしているのに。そんな気持ちを込めて、男騎士と魔剣が視線をやる。

 するとそこには、ぼろい小舟に乗った侍と公家が居たのだった。


 両名。

 口調とは裏腹、見事なまでの爺であった。

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