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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第五章 からくり艦隊これくしょん
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第711話 ど破壊神さんといざと言う時の保険

「七晩の夜を焼き、大陸をこの世に生み出すために造られた我々は、その役目を失いました。そして、その権能を持ったまま、破壊神の手からそれぞれの神々にその身を委ねられたのです」


「……その身を委ねられた?」


「だぞ、それぞれの大陸毎に封印されたと解釈していいんだぞ?」


「はい。我らは神々の神殿の奥深くに封印され、必要に応じて彼らの使徒として動くことを運命づけられたのです。もっとも、それは神代の頃のみ。人の手にこの世界が委ねられてからというもの、我々はこの世界に干渉する権利を失いました」


 では、どうして彼女はこうして動いているのか。

 また、なぜ明恥政府は彼女の姉妹機である七体の最初の原器を手中に収めているのか。自由に動かしているのか。


 はずだったという言葉がからくり侍からすぐ出てくるのは、女エルフたちにも予想できた。そう、その封印はとある者の手により破られたのだ。


「神々が人と別れて後、我らは決して人に干渉することを許されず、各地の神殿の奥に秘蔵されていました。もはやこの世界に神の奇跡は必要ない。我らは永遠に、この世界に顕現することのない、忘れられた遺物となり果てたのです」


「……けれど、その封印を強引に暴いたモノがいる」


「はい。北極の大陸と南極の大陸、中央大陸と冥府島ラ・バウル。それぞれに封印されていた四体の最初の原器が起動したのです。神代の記録を持ち、神の力を欲するとある男の手によって」


「その男って言うのがまさか――」


「そうとも、明恥政府が誇る外交官にして魔術師。古代魔術を操り、現代政治の理を解し、独立独歩で覇道を行く男――外相ムッツリーニよ」


 ここでからくり侍に代わって言葉を掠め取ったのは、誰であろう意外な人物。


 男騎士たち、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムのメンバーとはまた別。

 威臨社ことこのレースの大本命であるチームを率いる男、勝海舟であった。


 またしても、いつぞや男騎士を襲った刺客がその隣には侍っている。

 杖を突いたよぼよぼの老人だが、肩から放たれる気迫は老境のそれではない。

 加えて、確かに怒りに震えていた。


「富国強壮だなんだといって、アイツはまたとんでもねえものを掘り起こしやがった。神造兵器なんてもんにたよるもんじゃねえ」


「勝どん」


「勝の兄貴!!」


「おう、おめえら邪魔するぜ。今日の戦いは後ろで視させてもらった。どうせこのレースに奴の事だから刺客を紛れ込ませていると思ったが、案の定だ。やれやれ、とんでもねえことをする。不肖の弟子たぁ、アイツのような奴を言うんだな」


「まったくぜよ、ガハハ」


 突然の好敵手の登場と話への合流。

 ますます、流れが分からなくなってくる中、男騎士は全肯定マシーンを続けて首を振る。分かっている感じを出しつつ、彼がまったく事態を分かっていないのを察した女エルフは、頼りにならない男騎士に代わって視線をからくり侍に向けた。


 そうなのと問いかけるその視線。

 頷くからくり侍。


「明恥政府外相ムッツリーニは、東の島国の国力強化のために、外遊と称して各国に封印されていた七人の最初の原器を収集していたのです。そして、私たちの身体の構造を基にして、無敵のからくり兵器の軍団を作り上げた」


「それがさっき戦った――」


「小野コマシスターズ」


「またの名を、からくり艦隊これくしょんだ。明恥政府内、軍部ではその名で少なくとも通っている。ったく、よりにもよって女子供の格好をした兵器を造るなんざ、アイツは侍の心ってのまで捨てちまったのかね。更に、柄にもなく色気なんか出しちまって。ほんとうにどうしようもない」


 待ってくれ、と、ここで男騎士が初めて声を挟む。


 ここまでの話の流れをなんとなくでしか理解していない彼だが、それでもひっかかるところがない訳ではなかった。そう、話を流し聞いているようでいて、実のところ巨視的に彼は今回の一件を眺めていた。


 外相ムッツリーニが、富国強壮のために彼女たちを復活させたのは分かる。

 だが、どうしてGTRに彼女たちを参加させる必要があるのか。

 そして、このような虐殺を繰り広げる必要があるのか。


「どうも手段と目的がかみ合わない。というより、目的がはっきりとしない。明恥政府外相ムッツリーニは、こんなことをして何がしたいんだ?」


「それについては、拙者よりも勝どのの方が詳しいかと」


 おうよと、まるでそのために来たんだぜという顔をする好々爺。

 東の島国のフィクサーにして、大顔役、かつての政府の要人は、どっかりと椅子に腰かけると、男騎士を真っすぐに見つめて微かにはにかんだ。


 上機嫌。

 ここにやって来た理由がなんなのか、疑いたくなるようなその顔つきに、またしても男騎士は混乱のるつぼに突き落とされた心地であった。


「いい顔をしてやがる。流石は良馬が惚れこんだ男だ」


「良馬?」


「なんじゃぁ、まだ分からんちか。たぁく、あいつもええ加減に堪忍して、名乗りゃぁええもんを。何をもったいぶっちょうじゃ」


「以蔵の。まぁ、アイツにはアイツの考えがある。なに、ムッツリーニよりろくでもねえが、しっかりと世界を見据えているのは間違いない。そりゃ、この世界の趨勢を一緒に見て来た、お前さんが一番よく知っとるだろう」


 そう言ってカッカッカと喉を鳴らす好々爺。


 好漢、勝海舟。


 そのさっぱりとした気風に、かしこまっていた男騎士は少し相好を崩す。


 はたしてこの老人が本当に、自分の命を狙ったのだろうか。

 そんな疑念さえ男騎士の中に湧いたほどだった。

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