第660話 ど男騎士さんと熱限界
【精霊魔法 生足チャーミングマーマン: 夏とJASRA〇を刺激する飛行魔法。風の精霊王の加護を受けた風のパンツ。その進化形態である風の帯を装備することにより使うことができる、選ばれし者のための選ばれし魔法である。この魔法を使うことにより、モノに乗らなくとも武空術よろしく空を飛ぶことができる。ただし、その際にはセクシーなポーズを取らなければならないという制約がある。まぁ、世の中、そんな上手い話がある訳ないってことですわな】
ふわりと北海傭兵団の船の上へと降り立つ黒帯の男――こと男騎士。
彼は背負っていた魔剣エロスを、もっこりとして輪郭が目立つ股間の前に突き立てて、ふっと不敵にほほ笑んだ。
その異様に――北海の荒くれどもが絶句する。
「へ、変態だ!!」
「海を裂いて現れた、凄腕の変態だ!!」
「なんてことだ、今まで戦場で出会ったどんな奴よりも――変態だ!!」
北海最強、幾多の戦場を駆け巡った傭兵たちをして、ナンバーワンの変態ぶり。変態無双、穴があったら即インサート。生足、チャーミング、マーマン。
信じられない光景がそこにはあった。
やりきったという顔をして額の汗をぬぐうのは男騎士である。
相変わらず、この男は知力も1ならば、羞恥心もない。
こんな格好をして海をかっ飛んでおいて、まったく気にした様子もない。
まさに生粋――生まれついての変態に違いなかった。
「いやはや、海上戦闘をするにあたって、いつものプレートメイルでは重いだろうなと危惧していたのだが、まさか、風の精霊王がこんなホットでワイルドでリミットな装備を提供してくれるとは。持つべきものは、頼りになる精霊王だな」
「おめーとモーラちゃんの精霊王はなんてーか別格だよな。風の精霊王は最強とか言われているんだっけ。いや、そんな変態装備を秒で用意するあたり、実際、たいしたもんだとおもうわ。たいしたへんたいだわ」
「はっはっは、そうだろうそうだろう。今度カイゲンにお礼を言わなくちゃな」
「いや、ほめとらんぞー」
いつものすっとこな会話を繰り広げる男騎士と魔剣。
変態的な姿の男が現れたかと思えば、今度は喋る剣である。
北の大陸でも魔剣の存在は知られているが、喋る剣とはこれいかに。あまりに異質な存在の連続した登場に、もはや北海の勇士たちも完全に肝を冷やしていた。
さらに、肝を冷やすような光景は続く。
「……なに!? 流氷!?」
突然、凪の海に氷が張ったかと思えば、そこを一目散にこちらに向かって駆けてくる影がある。
二つ。
いや、三つ。
重いプレートメイルを身に着けた青年騎士。
その肩に背負われているワンコ教授。
そして、彼らに半歩遅れて駆けてくるからくり侍である。
「だぞ!! ウェンディ!! 久しぶりに仕事をするんだぞ!!」
「まったくもう、こんな暑い場所に呼び出しておいて、言うに事欠いて海を凍らせろですって。精霊遣いの荒いご主人さまね。今の今まで忘れていたくせに」
「だぞ!! いいからいう事聞くんだぞ!! というか、そんな反抗的な態度だから、呼び出すのが嫌だったんだぞ!!」
「あら、学者さんなのに学がないのねケティちゃん。こういうの、どういうのか知らないのかしら。ツンデレって言うのよ、ツンデレ」
「だぞ!! そんなの要らないんだぞ!!」
「ケティさん静かに!! もうすぐ接敵します!!」
「ござるござる!! 久しぶりの戦闘に拙者の虎徹がうーずうずでござる!! ははっ、まさかレースが乱闘ありのなんでもあり、バーリートゥードゥなモノとは思いもよらなんだでござる!!」
ではお先と半歩遅れていたからくり侍が急激に足を速める。
流氷でできた道。
その少しばかり盛り上がった塊の上に足をかけると、水面が揺れるくらいの強さで彼女は跳躍した。
それと同時に、彼女の機械の身体がかたりかたりと唸りを上げる。
全身をしならせて動いた彼女の身体から出てきたのは、鋼の縄に結わえ付けられた武器である。
剣はもちろん、釜に分銅、縄手に棍棒。
さまざまな武器を展開させると、それらをまるで手足のごとく動かして、からくり侍はバイキングたちが居並ぶ船へと舞い降りる。
うわぁという叫び声が起こるよりも早く。十人近くのヴァイキング兵が意識を失って倒れていた。
「安心しろ、峰打ちでござる!!」
はたして、峰のある武器ばかりだっただろうか。
そんなことを確認する余地もなく殴られた感じがしないでもない。
不安になる青年騎士とワンコ教授。
しかしながら確かに倒れているヴァイキングたちは、どれも意識を失っているだけのように見えた。
峰で打ったかどうかは怪しいが、殺していないのは間違いないらしい。
「僕も行きます。ケティさん、すぐに安全な場所に隠れてください」
「だぞ」
「護衛は任せなさい。なんだかんだで、カイゲンやサッチーばかりにいい所をとられてばかりだからね。久しぶりに氷の精霊王の本領を発揮させてもらうわ」
紅海の洋上に突然吹きすさぶ吹雪。
たちどころにワンコ教授を守るように雪のドームができあがる。
ザ・カマクラ。
というより、イグルー。
分厚い氷の壁に守られた彼女は、透明になったその中から、男騎士に任せるんだぞという応援の視線を投げかけた。
それを受けて。
「さて、それではこちらも役者がそろったことだし」
「名乗りの一つでもあげさせてもらおうかねぇ。って所かティト」
その通りと、愛剣をきらりと輝かせて上段に構える。必勝、バイスラッシュの型に構えた男騎士は、目の前の若き船団長を睨み据えて歯を打ち鳴らした。
「中央大陸連邦共和国より来た!! えっと――?」
そういえば、レースの参加名なんだったけと頭を捻る男騎士。
ここに来てそんな小ボケかいと、場がしらける中。
「だぞ!! パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムなんだぞ!!」
わんこ教授が恥ずかしげもなく、その恥ずかしすぎる団名を叫んだのだった。




