第66話 どエルフさんと女騎士さん
眉に唾を塗りたくり、男戦士と女エルフは狐娘の幻術を見事に破ってみせた。
幻術を破られればあとはただの男と女。
「――のじゃぁ」
「――参りました」
木製の剣を陰険男の顎先に突きつける男戦士。
その隣では女エルフが、氷魔法で狐娘の足を闘技場の舞台に縫い付けていた。
戦闘不能は誰が見ても明白。
「決着ぅっ!! 勝ったのは、ティト選手とモーラ選手のどエルフペアぁっ!! 幻のお狐選手たちを見事に見きって、二回戦進出ぅっ!!」
すぐに決着の鐘が鳴る。
女エルフが氷の魔法を解くと、のじゃぁと泣きわめいて狐娘は、隣の男に抱きついた。怖かった、負けてしまったと、わめきながらすごすごと去っていく二人。
去り際にどうもお騒がせしましたと頭を下げた男。
終始不機嫌だった彼が、そういう顔をしたことが不思議だったのか、二人は面を喰らった。
「なんとか一回戦突破できたわね」
「意外と体力を消耗してしまったな。次の試合に響かなければいいが――」
男戦士達が舞台から降りるのと入れ替わりに、そこに上がったのは女騎士とその従士だ。対する相手は盗賊風の男女二人。
手にした木製のナイフでジャグリングをする相手に対して、女騎士は悠然と腕を組んで構えている。素人目には、なんて堂々とした態度だ、さぞや名のある騎士様に違いないだろう、と、映ったことだろう。
「ダメだな、彼女、アレは眼を開いたまま気絶してるぞ」
「――大丈夫なのそれって?」
しかし、見るものが見れば、彼女がビビっているのはまるわかりだった。
と、そんな彼女を守るように、従者の少年が槍を手にして前に出る。
「さぁ、来い、僕が相手だ!! 貴様らごとき、我が主の手を煩わせるほどの」
「――くっ、殺せ!!」
「まだ早いですよ!! 試合始まってないのに、なに言ってるんですか!!」
「す、すまん、ちょっと緊張してしまって」
大丈夫かしらと女エルフが額から汗を流す。
そんな中、無情にも試合開始を告げる鐘が鳴った。
試合は女騎士側が優勢でことが進んだ。
いや、正確に言うならば、女騎士の従士が盗賊風の男たちを圧倒していた。
四方八方から次々に繰り出されるナイフに寄る攻撃を、槍一つで自在にさばいて見せた従士の少年。その動きはよっぽど盗賊風の男女よりも早く、彼らが動く前にはそれを受ける体勢をすでに取っているという、実に見事なものだった。
その演舞の様な槍さばきに、男戦士を始めとした多くの戦士が感嘆する中――。
「いいぞ、やれ、そこだ!! あぁ、こらっ!! なにをぼけっとしているんだ、後ろからくるぞ!! あ、ちがう、前から、左――あれ、左ってどっちだっけ?」
舞台の端に仁王立ちして、従士の姿を眺めるばかりの女騎士。
彼女、なんなのかしら、と、失礼を承知で女エルフは口にしたのだった。
「騎士の格好しているのに、全然戦おうとしない。あの子に戦わせて自分は見てばかりって、ちょっとひどくない?」
「モーラさんだって、俺のことをさんざん働かせているじゃないか」
「私は魔法で色々と援護しているからいいじゃないのよ」
と、自分のことは棚にあげる女エルフ。
不満そうに彼女を見る男戦士の視線に、彼女はついと視線を逸した。
「魔法も使えて剣も振るう女エルフだっているというのに、モーラさんと来たら」
「ちょっと、使えるわよ剣くらい――果物ナイフだけど」
「ハァ、エロ知識と魔法知識しか取り柄の無い女エルフとか」
「ちょっと待て、なんでエロ知識を前に言った。おい、こら」
まるでそっちメインみたいに言うな。
ぷりぷりと怒る女エルフ。そんな彼女が眼を話したすきに、舞台では戦いの決着がついたのだった。
「勝負ありっ!! お見事、降り注ぐナイフの雨あられの中をかいくぐって、見事に敵の鳩尾に一発二発と叩き込むとは天晴だ!! 勝者は女騎士チームぅっ!!」




