第618話 どエルフさんとウィンウィンランドサガ
ここより東。
海の彼方にウィンウィンランドという土地がある。
そこには豊かな大地に森、穏やかな気候にきれいな水。およそ人間たちが生きていくのに必要な環境のすべてがある。
そして原住民。
スケベな入れ墨を体に彫った、オープンスケベな原住民たち。
性に対しても開放的な彼らは男も女もタフでワイルドでオープンでキワキワ。そしてトーテムなポールというとても硬くてごつごつとした、なんかこけし的なモノを信奉している。
ワイルドでホットなそんな奴らだ。
そう、この物語は、そんなホットでワイルドな原住民たちに会いに行く物語。
俺たちよりスケベな奴らに会いに行く物語。
ウィンウィンランド性――!!
「ちゃうわい!! なんやこの導入!! どないなっとんねん!! いきなりこれから新章はじまる言うのに、まったく関係あらへんやないかい!!」
「……何を騒いでいるんだ、モラフィン」
「誰がモラフィンじゃい!!」
ここは船の上。
遥か東の果てにある冥府島ラ・バウルへと向かう白百合女王国の海賊船。その甲板の上である。
風は良好、波は穏やか。積乱雲は見えず、鱗雲が来し方の西の空に浮かんでいる。白百合女王国から出発して三日が過ぎているが、まったく何の問題もない、順調な旅の途上であった。
そんな甲板の上に彼女たちが出てきたのは他でもない。
安全のためとはいえ、暗い船倉の中で過ごしていては息が詰まる。たまには日光を浴びてリフレッシュしないと健康に関わると、波が穏やかなタイミングを見計らって出てきたという訳である。
そして――。
気が付けば男騎士はプレートメイルから胸鎧だけになっていた。そして普段は生やしていない顎髭を生やしていた。心地頭の周りも寂しくなっている。後退した生え際と共にひっぱられたのか、どこか顔つきも鋭い。
なにより絵のタッチが今まで見たことないリアルな感じになっていた。
劇画調でもない。男〇風でもない。アキ〇の派生かと思わせて、独特の繊細さを思わせるタッチがそこにはあった。
いったいこの顔はなんなんだ。
女エルフがいつものポンチ絵でぽかんとする。
「まったく。海に出たくらいでなんだいはしゃいじゃって。お子ちゃまだねぇ」
「いや、はしゃいどらん。むしろはしゃいどるのはお前の方じゃろうがい」
「まぁいい。それより、あと三日で上陸だ。それまでにちゃんと準備をしておけよ。乱戦の中であっさりと死なれても興ざめだからなァ」
「いや、お前、割と過保護なところあるやないかい。なんやかんやで、私の危機には飛んできて助けてくれるそういう奴やろがい」
男騎士の禿げ上がった頭頂部に青筋が走る。
どうやら彼の触れてはいけない何かに触れてしまったらしい。
しかし、心底どうでもいい感じの顔で、女エルフは男騎士を見つめた。
男騎士がふぅと息を吸い込む。
「イヤな胸だな」
「うん?」
「こんなまな板のエルフがメインヒロインやってるなんてのはやっぱり許せ……ふぶぁ!!」
男騎士、無残にも女エルフに殴られる。
モラフィン・カルセヴニと化した女エルフはポンチ絵のままごきりごきりと拳を鳴らす。
直接攻撃力はてんでからきしのはずの女エルフ。今回は魔法少女にも殴裁定者にもなっていないはずだったが、握り締めた拳には異様な圧があった。
狂気の視線を男騎士に向ける女エルフ。
そんな彼女の背中に――。
「モラフィン、その拳でいったい何を殴るんだ」
「……リーケット!!」
現れたのは、またしても劇画でこそないが濃い顔の法王。
彼女は何かを悟った者のような澄んだ瞳をして女エルフを見据えていた。
胸を弄られることに怒り狂う女エルフに、憐みの視線を投げかけていた。
戸惑う、女エルフ。
男騎士を殴るために握り締められた手を、そっと法王はその指先で解く。それから硬くその掌を掴んで彼女は言う。そして、もう一つ空いた方の手で、女エルフの胸を触って言う。
ナチュラルなセクハラであった。
「いいかモラフィン。お前に胸などない。傷つけていい胸なんていないんだ」
「なんだその意味の分からん名言風の弄りは!!」
そしてまた発言もセクハラであった。
しばき倒すぞと手を振り上げようとする女エルフ。
しかし、その手は既にがっちりと固められている。
流石は法王。多くの人の心を読むのに長けた者。
割と簡単に手を挙げる女エルフの性格を熟知した、彼女なりの先手であった。
法王、そこはしたたかであった。
「暴力は振るわないんじゃなかったのか姉妹!!」
「エリィ!?」
そして更に事態をややっこしくするように新女王の声がする。
かつりかつりと歩み出てきた彼女は――またしても劇画調ではないがリアル志向の顔立ち。しかも、王族であることが信じられないほど、やぼったいものになっていた。
そして、胸は何故か三割増しで描写されていた。
「やろう姉妹!! 私たちで海の向こうに巨大な双丘を造るんだ!!」
「なんの話!?」
「私たちならできる!! 豊かなシリコーンが詰まった胸を造ることができる!! 海の向こうの新天地――魔嫁牡なら!!」
「だからなんの話!? 私たち、いったいこれから何をしにいく感じなの!? 目的が共有できてない気がしてならないんだけれど!?」
やろう姉妹。
やるのだモラフィン。
そんな感じに煽る新女王と法王。
今回のネタは本当によく分からない。いったい何がしたいんだ、これはどういう流れなんだと女エルフが枯れたため息を吐きだす。
そんな中――また、かたりと船室に続く扉が揺れる音がした。
残るパーティーメンバーはワンコ教授ただ一人。
「ちょっとケティ、こいつらになんか言ってやってよ……」
彼女もまたどうせ大変なことになっているのだろう。
そう思って女エルフが向けた視線の先には。
「うー!! わんわん!! わぉん!!」
「犬に!! なっとる!! がな!!」
完全にリアルな犬と化したワンコ教授が出迎えるのだった。
M字ハゲの胸鎧だけの男騎士。
やけに逞しい体つきになった法王。
やぼったい感じになった新女王。
そして、犬。ただただ犬。
パーティーメンバーの顔触れの変化に女エルフは悟った。
「あ、これ、たぶん夢落ち的な奴やな」
ここに来て、作者の高まるヴィンラン〇・サガ熱による、いつもの悪ふざけ。
それをすんなりと見抜いて夢落ちと断じるとは。
流石だなどエルフ、さすがだ。
という訳で、女エルフはさっそく自分の頬をつねる――前に。
「誰の胸を開拓するじゃこるぁあああっ!! 夢の中やと分かったら、容赦せんからなお前らぁあああああ!!」
水着でもないのに殴裁定者。
彼女は仲間に向かって殴り掛かっていくのだった。
女エルフが真の女エルフになる未来はまだまだ遠いようである。




