第589話 ど男騎士さんとど偽男騎士さん
ジューン山の北側。
山林を切り開いて造られた急ごしらえの山道。そこを逃げる兵達の中に男騎士と魔剣エロスの姿はあった。
見た目にはⅥ号戦隊サーバルちゃんとそう変わらない男騎士である。
逃走する梁山パークのメンバーたちを護衛しているという体であれば、その中に紛れ込むのは容易であった。
彼らの目的はただ一つ――。
「さてエロス。モーラさんたちは巧くやってくれているだろうか」
「どうかなぁ。まぁ、海母神マーチはモーラのことを気に入っているようだからな。相手がミッテルの使徒を名乗っていても、なんとかなるんじゃないだろうか」
「そう信じたい所だな」
「おうさ。俺たちはそれを信じて、もう一つの不安要素をぶっ潰しに行こう」
「あぁ。この梁山パークの中で頭領のあの男――コウソンショウに次いで危険な人物をなんとかしなくてはいけない。もし、彼女がコウソンショウと協力すれば、俺たちの策略が水泡に帰すことになるからな」
兵たちを守る素振りを見せながら、その中に人影を探す。
一目散に山を駆け降りる一団の中を、少しずつ少しずつ補足を緩めて流れから遅れていく。通り過ぎる人影の中に、目的の人物がいないかを探すためだ。
知力が上がった男騎士のその仕草はあくまで自然。
猪突猛進が持ち味。
なにかにつけて、直接的な解決をこれまで試みてきた男騎士。
だが、理性蒸発薬を服用した効果はまだ続いている。
虎の覆面の下でまさしく虎視眈々と眼を光らせて、彼はそれを探していた。
はたして、彼の探していた人物は、梁山泊リーダーによる一人殿が始まってからまもなくしてその姿を現した。
「くそっ!! なんということだ!! せっかく中央大陸連邦共和国からやって来たというのに、とんだ貧乏くじだ!!」
「悪いことってのはそうそうできないようになってるみたいね」
「真面目に冒険者をやっている方がまだ実入りがよかったですますわ」
「にゃー。そんな呑気言っている場合じゃないにゃ。このまま猫なのに犬死なんてまっぴらごめんだにゃぁ」
男騎士の視線が向かった先に居たのは間違いない。
偽男騎士である。
もはや自分たちの正体をおくびも隠す気がない。
どさくさに正体を取り繕う暇もないという方が正しいだろうか。
慌てふためき、真っ青な顔をして、多くの兵たちと共に山から下りようとする彼らに、男騎士はひっそりと近づいた。
そう。
男騎士と魔剣エロスが警戒しているのは偽男騎士――。
「待て、救国の大英雄ティントォ。この惨状を前にして、首領を残して逃げるというのか。貴様、それでも大英雄か?」
「なんだと!?」
振り返りざまの当身。
もはや問答を返す暇もなく、男騎士は手刀で男騎士の首筋を強打する。
すぐに、偽男騎士はその場に昏倒した。
取り巻きの巨乳エルフ、巨乳女僧侶、そして猫獣人がひぃっと声を上げる。
所詮は薄汚い火事場泥棒。男騎士たちの名を騙って美味しい目を見ようとする不逞の輩たちである。仲間意識もへったくれもない。
リーダー格の偽男騎士が倒れたというのに助けようともしない。彼女たちは、我先にと流れる人ごみのなかに紛れて、男騎士から逃げ去ってしまった。
これが通常の場であったなら、何をしているのだと男騎士が咎められることになっただろう。しかし、今は撤退の真っただ中。その混乱のさ中で、仲間に手をかけたとしても、それを咎めるような者はいない。
皆、逃げるのに精いっぱいである。
故に、偽男騎士の身体を担いで、山道の影に引きずり込む男騎士を咎める者は誰もいない。誰もそれに気が付いていても、何も言うことができないのであった。
「やれやれ、これではどちらが火事場泥棒かわからないな」
「なぁに、悪いのは先に騙りをやらかしたこいつらだよ。お前は何も気にすることなんかねえぜティト。大英雄は誰がなんというとお前なんだからな」
「お前にそう言われるとむず痒いな」
「お、賢くなってちょっと饒舌になったか。けど、反応はお前らしいな」
さてと木の根元に偽男騎士を降ろす。
そして男騎士が虎の覆面のまま彼を睨みつける。
男騎士の目的とは他でもない。
自分の名を騙り、梁山パークに加担したこの偽物を成敗する。
ではない。
「さて、ちょっと落ち着いて話をしようか。大英雄の愛刀さんよ」
「この男が大した男でないのは分かっている。だが、お前は別だ。聖刀トウカ。魔剣エロス――スコティの愛刀を自称するのはどういう魂胆だ。教えてもらうぞ」
拝み一刀。
男騎士の正中を断つような強烈な斬撃が刹那、虚空の中から繰り出される。
しかし男騎士。逞しい手でそれを無刀取り、刃を包み込むようにして止めてみせると、ぎろりと気迫のこもった視線で前方を睨んだ。
刀身を握り締める和装の美女の姿がそこに現れる。
まるでこの危機を楽しむような顔つきで、余裕に笑う彼女。バックステップで男騎士と偽男騎士から距離を取った、聖刀の化身は口元を隠してくつくつと笑った。
「流石ですティトさま。私の不意打ちを、こうも簡単に捌いてみせるとは。我が主が、持ち主として認めただけはある使い手」
「あーたぼうよ。こいつをそんじょそこいらの、名ばかり冒険者と思ってくれるな。器量が一つ違うんだよ」
「そう褒めてくれるなエロス。俺はしがない一介の冒険者に過ぎない」
「その謙虚さも含めてまさしく英雄。しかし、傍若無人で唯我独尊のスコティさまとそこまで気が合うというのもなかなか珍しい。意外ですわ、てっきり、お堅い人は嫌いかと思っておりましたのに」
「ほんと見てきたように言う奴だなてめえは」
「……うむ」
そう。
男騎士たちの狙いは他でもない。
聖刀トウカ。
摩訶不思議、男騎士たちの得体の知れない力を持ち、かつ、何かしらの陰謀を巡らしているだろう人外のモノであった。




