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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第六部第二章 勇者の名を騙るモノ
534/814

第534話 男騎士さんとバッタもん

 農耕馬から下馬したむくつけき筋肉だるま。

 男騎士を睨みつける視線は、少し下へと傾いている。

 身長はあきらかに男騎士より大きかった。


 装備が小綺麗であるということに目を瞑れば、歴戦の兵という風に見えなくもない体躯はしている。


 しかし、降りる時に何度も何度も、鐙から足を外し損ねるその姿は間抜け以外の何物でもない。

 既に女エルフたちは笑いを堪えるのにいっぱいいっぱいであった。


 いやむしろ、彼が連れてきた仲間たちもいっぱいいっぱいの顔をしていた。

 たわわな胸を抱えて、三人とも顔を真っ赤にして俯いていた。

 真面目な顔なのは男ばかりである。


「ふっ、この我に地に足を付けさせるとは、お主、なかなかやるな」


「やるなもなにも自分から降りたんじゃないか。というか、大丈夫だったか。馬から降りる時はもっとこう、誰かに手伝って貰ってだな。鎧を着ながらの騎乗は、なかなか玄人でも難しいものが」


「黙れ!! これが俺のやり方なのだ!!」


 おっとっと、おっとっとと、左右に揺れて青い顔をして馬を降りる。

 それを自分のスタイルだと豪語する男。


 間違いなく、精神面は強い。

 強いが。強がるところがそこかと、問いたくなるような強さである。


 これには、唯一真面目な顔をしていた男騎士までも顔を背けた。俯いて、すまないと暗い顔と声色で謝るのだった。


 会話が始まる前からこのトンチキ。

 どうすんだこれと女エルフが白んだ目を向ける中で、偽男騎士が口を開く。


「ふっ、知らぬのか。ここより北の地、中央連邦大陸首都リィンカーンにて、俺が暗黒大陸の将と戦ったという話を」


「……知らん」


「なにぃっ!?」


 だって戦っていたのは自分だから。


 男騎士はそんな想いをこめてむべもなく偽男騎士に言い放った。

 しかし言葉が足りていない。それが自分であるとは主張しない。そこまで押しの強い男でもないし、目の前の自分の名を騙る不届き者に、どうこうしようというつまらぬプライドを持ち合わせてもいなかった。


 こんな時にも真面目な男騎士である。


 無駄なプライドを彼は一切持ち合わせていなかった。

 これにはこの時まで、彼のことを色物騎士と思っていた法王も、おぉと少し感嘆の声色を漏らす。一方、彼のことをよく知る仲間たちは、まぁそうよねと、彼のにべもない言いぐさを笑って受け止めるのだった。


 対して――。


「ふははっ!! 冗談だろう!! 貴様、あの大陸全土を巻き込んだ、大戦を知らぬというのか!!」


 こちらも笑ってはいるが、偽男騎士が向けたのは嘲笑であった。

 もし彼が、その筋肉に見合う冒険者であったならば、この短いやり取りの間にも男騎士の力量を見抜いて、そんな笑いを引っ込めたことだろう。しかし、そんなことにも気が付かないほどに、彼は騎士として未熟だった。


 未熟な騎士は未熟な仲間を呼ぶ。


「君、本当に冒険者なの。あの大戦には、冒険者ギルドからも何人か戦士が派遣されていたのよ。そこそこの冒険者だったなら、声がかかっているはずだけれど」


「世間知らずですのますのね。おつむのほうが可哀そうな方でしたか。まぁ、そうでなければ馬も借りずに行軍なんてしませんか。おほほほ」


「にゃははは。貧乏冒険者にゃぁ。きっと大した仕事も回して貰えないのにゃ。冒険者として半人前の証拠なのにゃ」


「本物は本物を知る。器が知れるな」


 特大のブーメランを放ったことに気が付いていない偽男騎士たち。

 対してそれにいつも以上に白んだ目と表情をする女エルフ。


 もはやツッコむ気力も起きないわという感じに、のっぺりとした顔をする彼女。

 そんな彼女が見守る前で、男騎士がおほんと咳ばらいをした。


「では、本物の冒険者どのにお尋ねする。貴殿らはいったい、これから何をしに行くつもりなのか。ここより西には、暗黒大陸に蹂躙された白百合女王国があるのみ。そこで貴殿らはいったい何をするつもりなのか」


 そっと男騎士の手が剣の柄に載っていた。

 気が付いたのは、偽物の男騎士パーティにはいない。しかし、女エルフはもちろん、彼の仲間のパーティたちは、全員それに気が付いていた。


 火事場泥棒というのがある。

 この手の語りの手合いが、傾国の地に赴いてやることなど容易に想像がつく。

 自分たちの名を騙るのはともかくとして、それにより白百合女王国に危害を加えるつもりなのならば――。


「斬る? 斬っちゃう? ティト、こいつら斬っちゃう感じ?」


 偽の男騎士たちに聞こえないよう、男騎士の精神に対して魔剣エロスが直接呟いた。それに応えるように、男騎士が静かに顎先をしゃくったその時。


「それについては私がお答えしましょう」


 突然凛とした声が響いたかと思うと、その場にそれまで存在しなかった、純白の着物を身に纏った黒髪の麗人が現れていた。


 眠たげな眼は翡翠色。

 生気のない雪のような頬は、エルフよりも美しい。

 おもわずほうとため息が男騎士とエロスの口から洩れる中、うやうやしくその乙女は男騎士たちに頭を下げたのだった。


 偽物たちの中にあって唯一、本物を思わせる威厳ある風格を放つ彼女――。


「お初にお目にかかります。私は聖剣トウカ。勇者ティントォに仕える魔を断つ刃にして、かつて大英雄スコティに仕えしものです」


「はぁーーん!!??」


 思わず声をあげたのはそのかつての仕え主。

 今は自身も剣と化した、魔剣エロスことスコティ本人であった。

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