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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第六部第二章 勇者の名を騙るモノ
532/814

第532話 ど法王さんとはじめての野生の掟

「とにかく、貴方たち初めての冒険と野宿で疲れているでしょう。無理しちゃだめよこういう時は。素直に休んでおきなさい」


「そうだモーラさんの言う通りだ。白百合女王国はまだまだ先だ。ここで無駄に体力を消耗しても仕方ない。しっかり休んで明日からの旅程に備えるんだ」


 女エルフの言葉に男騎士が乗っかる。

 どエルフどエルフと突っかかった第一王女たちだったが、彼らの言っていることはごもっとも。実際問題、法王も第一王女もテントに入れば泥のように眠ってしまいそうなほどに疲れ果てていた。


 それでなくても、女エルフたちに強く出られては彼女たちも言い返せない。


「では、そうさせて貰うとしましょうか」


「ダメですよ。お姉さま、エッチなのはダメですからね。この作品は一応、KENZENおばか小説どエルフさんなんだから。本気の描写はNGなんですからね」


 いや、なによ、KENZENおばか小説ってと女エルフがあきれる。

 ちゃんとコンプライアンスを守ってくださいよ。そう吐き捨ててテントへと向かう第一王女。そんな彼女に引きずられるようにして法王もまたテントに消えた。


 しばらくして。

 ほうほうというミミズクの鳴く声に混じって、ぱちりぱちりと焚火のはぜる音が聞こえてくる。夜は深まり、若い男と女のひんやりとした息遣いが辺りには広がっていた。


 妹たちにからかわれたからだろうか。

 心なしか、女エルフの顔つきが強張っているような感じがする。

 焚火で沸かしたお湯をコップに注いでコーヒーを作る。まだまだ、辺りには獣の気配が満ちている。野営は難しい。それは、女エルフがこれまでの経験を通して実感していることだった。


 何度隣に座っている男騎士に助けられたことだろうか。

 寝ている間に、彼の身体が野犬の返り血にまみれていたことなど数度ではない。もちろんその度に、何度も彼女は声を荒げて男騎士を諫めてきたのだが――。


「今じゃこうして、一緒に夜営の番をするくらいになれた。まぁ、それでよしとしましょう」


「ん、なにか言ったか、モーラさん?」


「うぅん。なにも」


 女エルフがずずりとコーヒーを啜って目を天に向ける。

 都市の光も喧騒も遠いそこには、満点の星空と切り散らかしたフェルトのような雲が広がっているのだった。


 少し女エルフが男騎士との間の距離を詰める。

 察して男戦士もまた、そわそわとした感じでその身体を寄せた。


 ちょうど肩がぶつかり合うような距離。

 お互い、星を見ながら隣に座る者の手を探しあう。


 ふっと女エルフの細い指先が男騎士の指先を撫でた時だ――。


「モーラさん」


「んんッ? なっ、なにティト!? どうかしたかしら!?」


 突然男騎士が声をかけたことに明らかに挙動不審な反応を女エルフが返した。思わず彼の手に重ねた白い指先さえもはらりはらりとその場から闇の中に舞う。

 しかし、そんな蝶のように逃げた彼女の手を追って、男戦士はその指を伸ばす。

 握りしめたその手を引いて、男戦士は静かに目を閉じた。


 女エルフの顔が少しだけ上気したのは、飲んでいるコーヒーのせいではない。

 目の前で煌々と燃えている焚火のせいでもなかった。


 お互いの息遣いが闇に吸い込まれていく。それを感じ取れるような静かな時間が二人に訪れる。先にその沈黙を破ったのは男騎士の方だった。


「シコりん救出の旅。そして、神々との謁見のこの旅だが、絶対に成功させてみせよう」


「……もうちょっと、ムードを考えてよ」


「ムード?」


「もうっ、そういう所よアンタ」


 パーティメンバーも寝静まり、やっと訪れた二人っきりの時間。

 確かに大切な宿命を前に気負っているのは分かるのだけれど、もう少し自分たちの関係を大切にしてくれてもいいんじゃないだろうか。


 けれども強く握りしめる男騎士の手の温かさに。


「ふふっ。けど、アンタらしいわね」


「モーラさん?」


 女エルフは温かい笑みをこぼしたのだった。


 その時。

 突然。

 テントの中から。


「んんっ!? 犬の鳴き声ですかね!?」


「もう!? 流れ牛がこの辺りにも!!」


「だぞぉ……。ふぉーふぉー鳥が煩いんだぞ……」


 テントから這い出るお邪魔虫たちが。

 咄嗟、女エルフが誤魔化そうと男戦士を投げ飛ばす。がっちりホールドした手を大きく振り回して、彼の身体を翻させると、薪割りのように地面に叩きつけた。


 南無。

 男騎士の口から白い魂がほぅと抜ける。

 そんな彼を前にして、女エルフが顔を赤らめさせる。


「お姉さま!! いったいティトさんに向かって何を!!」


「まさか、悪霊にでも取りつかれていたのですか!! でしたら私が浄化魔法を!!」


「違うから!! ちょっと……ちょっと柔道の練習をしてただけだから!!」


「「……寝技ですか!?」」


「違うわ!!」


 安定のどエルフツッコミを受けながら、いいからとっとと寝なさいと腕を振り上げる女エルフ。そんな彼女の隣で。


「いいムードとみせかけて、突然放つ不意打ちの一本背負い。流石だなどエルフさん、さすがだ」


 男戦士は薄れゆく意識で呟いた。

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