第51話 どエルフさんと抱き枕
「はい、それじゃ、灯り消すわよ」
「分かったんだぞ」
「あぁ、問題ない」
壁に据えつけられている魔法ランプ。
かぶさっているカバーの縁をすっと撫でて、部屋の灯りを女エルフが消す。
月明かりが差し込んでくる出窓。
そこからの光を頼りにワンコ教授が待つベットへと向かうと、女エルフは布団の中へともぐりこんだ。
「こうやって人と一緒に寝るのは久しぶりだぞ」
「いい歳した大人がちょっと恥ずかしいわね」
はっ、と、暗闇の中で、何かに気づいた顔をしたワンコ教授。
「こ、これは違うんだぞ!! ベッドがないから仕方なくなんだぞ!!」
なんて、今更な言い訳をする。
はいはい仕方なくだね、と、言いながら女エルフはワンコ教授に手を回した。
むっ、と、反射的に抵抗はしたが、それをワンコ教授は受け止める。
布団の中、二人は母と娘のように、抱き合うようにして目を閉じた。
「むぅ、なんだか本当に子供になったみたいで、恥ずかしいんだぞ」
「あははは、なに言っちゃってるの」
「もっとも、僕のお母様はモーラより柔らかかったけど」
「悪うござんしたね、包容力がなくって」
もそもそと布団の中で丸くなる狗族の娘。
人に抱かれて眠ることで安心したのだろうか、少し女エルフが目を離した隙に、彼女はすっかりと寝息を立てていた。
すよすより。
可愛らしい寝息が女エルフの鼻先をくすぐる。
たまらないわね、と、軽く犬耳をつついてあげると、ワンコ教授はくすぐったそうに顔をあからめたのだった。
「だ、駄目だわ。可愛すぎる。ぎゅってしたい」
と、その時、空気が凍る音を確かに聞いた。
暗闇の中、隣のベッドに目を凝らすと、そこには。
暗闇の中に瞳を輝かせて、そして、戦慄の表情を浮べた、男戦士の顔があった。
「モーラさん、どうしたんだ、そんな邪悪な微笑を浮べて――。はっ、まさか、君は男も女も両方いける、バイエルフだったのか!?」
女エルフが黙る。
沈黙する。
いつもだったら、違うに決まっているでしょう、と、すぐにツッコミを返す彼女であったが、今日はただただ黙って男戦士の顔を眺めていた。
しばらくして。
「ぐぅ」
目を見開いた男戦士の鼻から、ちょうちんが出てきた。
「寝言か――」
男戦士はたびたび、夢の中でも女エルフをどエルフ扱いすることがある。
最初はそのたびにツッコミを入れていたかのじょであったが、流石にもう慣れてしまったのだった。
「あぁ、そんな小さい子までいけるなんて。君は、この世のすべてのエロを識る、バイエルフローリだというのか!!」
「勝手にいってなさいよ、もう」
そういって、宣言どおり女エルフは腕の中のワンコ教授を抱きとめたのだった。
「あぁん、やわっこい、もふい、幸せ――」
「ううん、お母様、くすぐったいんだぞぉ」
「流石だなどエルフさん、さすがだ」
かくして冒険者三人の夜は更けていくのだった。




