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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第五部第九章 過去を越える時
488/814

第488話 ど店主さんとどうでもいい過去

 店主は男戦士たちが冒険の拠点としている街に産まれた。


 彼の両親はしがない薬の行商人であった。

 街の大店から委託されて、家々や、街から離れた村を巡って薬を売ってはその上がりの幾らかを受け取っていた。


 もちろん完全歩合制。

 故に彼の両親は必死に足を動かして金を稼いだ。

 しかしそれでもやはり寄る辺なき身である。


 家もなく、金もなく、自由もない。

 あるのはただ家族に対する愛だけ。

 それで腹は膨れなかったが、身に押し寄せる不幸を和らげることだけはできた。


 店主の子供時代はひもじさと忍耐、そして、子供らしさの欠片も経験する暇がない忙しさと共に過ぎ去っていった。彼はすぐに家業を手伝うようになり、父について薬籠を担いで、村を回るようになっていった。


 子供らしい笑顔というのは自然と身に付くものだ。

 だが彼の場合は違った。その無垢な笑顔は大人を油断させるために、必然的に身に付けなければならない技術だった。

 彼は卑屈に、そして、歪んで、人間として成長していった――。


 そんな彼が十歳になった頃だ。


 彼は父に頼まれて、夕飯のパンを買いにパン屋に行った。

 その帰りでのことであった。


 たまたま、通り過ぎた路地裏の奥に爆発魔法が響いた。

 彼はその音に気が付いたのだ。


 店主少年はおとなしい男だった。

 しかしながら、年相応の好奇心も持ち合わせていた。

 その街には不釣り合いな音の正体がなんだったのか。気になって、彼は路地裏を進んだ。饐えた匂いがする場所だった。かび臭く、ネズミたちが駆けずり回り、糞尿が路傍に転がっているような袋小路であった。


 そこの行き止まりに、爆発魔法により焼け焦がれた女エルフの姿があった。

 俯せになって倒れる金髪の女エルフ。その剥き出しになった肩には街の二大盗賊ギルドのタトゥー。彼女がその構成員であることは少年店主にもすぐに分かった。


 一瞬迷ったが、彼の中にある抑えがたい衝動が、それをやれと囁いた。


 大丈夫お姉さんと、彼は倒れる女エルフに近づいた。

 体中を焦がされて、ずたぼろの肌を晒し、荒い息遣いをするエルフの女は、確かにまだ意識があった。そして、お願いどうか、仲間を呼んでと少年に懇願した。

 手を握り締めて哀願する女エルフ――。


 その華のようにたおやかな指先が触れた瞬間。


 店主は初めて絶頂した。

 下品な言い方をしてしまうと勃起していた。


 ふふっ。

 彼はまるで静かに生きたいサラリーマンのように笑って、それから哀願して手を握って来たエルフに、任せてくださいよと言ったのだった。すぐに彼は盗賊ギルドに走った。そして頭目にいきさつを話して彼女の命を助けた。


 女エルフは盗賊ギルドの頭目の愛妾だった。


 彼女の命を救ったことで、店主一家は流浪の身から脱することができた。

 女エルフは命を救ってくれた少年とその家族を決して侮ったり蔑んだりせず、一人の人間として敬意をもって接した。まつろわぬ民だった店主一家を、一人の人間として尊重した。人としての尊厳を与えた。


 しかし、どうでもよかった。


 もう店主にとって、人間扱いがどうとかこうとかどうでもよかった。


 流石に盗賊ギルドの愛妾だけあっていい肉付きをしていた。

 胸もバインバインだった。尻もむちっむちだった。脚のラインも絶妙であり、とにもかくにもどちゃシコであった。もはや、少しの言い訳もいできぬほどに、どシコいエルフだった。どっちかって言うと、どエルフという言葉は彼女の方が似合いそうなくらい、スケベスケベ、もうほんとスケベな体付きのエルフだった。


 そしてこの時から、店主は密かに憧れるようになったのだ。

 そう、異世界転生者が、一途なヒロインにあこがれるように。

 店主はドスケベ熟女エルフ(ムッチムッチ)にあこがれるようになったのだ。


 バーン。


「この店主・ジョバーナには夢がある!! どエルフになることだ!!」


「なんでじゃーい!!」


 マフィアのボスの愛妾ではない貧相な方の女エルフがツッコんだ。

 幻の彼女が現れたと思うとすかさず彼にツッコんだ。

 体はどエルフではないが、心はこってこってのどエルフだった。


 それはそれで、店主としては悪いモノではなかった。

 そう、悪いモノではなかった。


 大きくっても、小さくっても、むしろなくっても、それはそれでエルフはよい。


 そして店主はまた一つ、自分の殻を破ったのだった。

 熟女エルフは豊満に限る。そんなことを思っていた自分を乗り越えたのだった。


「え!? これで試練終わり!?」


 終わりであった。

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