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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第五部第九章 過去を越える時
482/814

第482話 どエルフさんと繰り返す日常

「だっからよぉ、昔馴染みなんだからさ、少しくらい回復薬の調合代まけてくれよ。お前、俺がかつかつでやってるの知ってるだろう。いいじゃねぇか、庭で大量に薬草取れるんだからさぁ。ていうか、なんでそんなに大量に作ってんのよ、売る訳でもねえのに」


「魔法の修練に必要なの!! 別に、アンタのために作ってるんじゃないんだからね!! これでも昔馴染みのよしみで、しぶしぶ分けてあげてるんだから!!」


「んだよその言いぐさ。ホントお前は昔っから、可愛げがないっていうか、なんていうか」


「可愛げがないのはアンタの方でしょ!! 本当にもう、一緒に冒険していた頃から生意気だったけれど、ここ最近歳くってからそれに磨きがかかってきたわね!!」


「ほっとけ!!」


 義母がなにやら男と言い争っている。

 一回目の繰り返しの時にも訪れた赤毛のその男は、いかにも冒険者らしいむさくるしい顔つきと、どこかで見たことのある形状をした剣を持っていた。

 声色もどこが懐かしい。

 だが、女エルフにはそれについて深く考える余裕はなかった。


 より正確には、彼女には、それよりも優先して確認しなくてはいけないことがあった。


 養母たちの問答から遠く離れて子供部屋。

 義妹の第一王女と共に、昨日の巻き戻しを思い起こしながら、女エルフは首をひねった。一体、これはどういうことなのだろうか。明晰な頭脳を持つ彼女にも、昨夜――と言っていいのだろうか――起こった時間の巻き戻しに、明確な答えを付会することは、どうにも難しかった。


 ため息をこぼす幼女二人。

 養母が男との話し合いに夢中で、こちらにかまっていないのが幸いであった。もしそんな表情を見られていれば、妙な疑いをもたれていたことだろう。


 第一王女がおずおずと口を開く。


「違いましたね。養母のセレヴィさんのペペロペ化は、お義姉様の超えなくてはならない過去とは、また別のことだったのでしょうか」


「そんなはずないわ!! だって私は、養母おかあさんの影を追ってここまで来たのよ!! なのに、どうして――それが超えなくてはいけないものだというなら、どうしてこの場に私は飛ばされたのよ!!」


「落ち着いてくださいお義姉さま!!」


 女エルフたちに与えられた二段ベット。実際の過去では、彼女が寝ていたのは一人用のベッドである。第一王女の介入により、微妙な変化が過去の超えなければいけない瞬間とはいえ発生していた。その下のベッドに飛び込んで、羽毛の詰まったそれをバタバタと叩いて暴れたくる。


 巻き戻りからこっち、どうしてそうなったのか、納得のできないまま考え続けた女エルフはもはや限界に来ていた。何度も義妹と話し合い、問答を繰り返してきたその頭は、ついに思考を停止する状況までに至っていた。

 合理的に説明できる繰り返しではない。

 超えなければいけない過去とは、養母をみすみすと魔女ペペロペの手中に落としてしまったことではなかったのか。自分の予想した試練との相違。その食い違いの差を認識することができず、女エルフは悔しそうにベッドのシーツを掻きむしった。


「お義姉さま。そんなことをしたら、ベッドがダメになっちやいますよ」


「駄目になったらまたペペロペの暴れん棒を触れればいいだけじゃない!! それで繰り返すんでしょう、この世界は!!」


「何を自棄になっているんです!! らしくないですよ、お義姉さま!!」


 ほっといてよと叫ぶ女エルフ。

 いつもはどエルフかましたりウワキツかましたりしても毅然としている彼女だが、今回ばかりは精神的に限界のようだった。そんな彼女が見ていられず、力なく第一王女が視線を逸らした。


 部屋の外ではまだ養母が男と二人して話し込んでいる。

 昔馴染みという言葉が聞こえた気がしたが、どうにも二人は因縁浅はかならぬような感じであった。もっとも、男の方は人間で、エルフと同じ時間を生きられそうにないことは間違いなかったが。


「ほら!! さっさと出て行きなさいよ!! この冒険狂!!」


「うっせーなぁー!! ったく、久しぶりに元気にしているかと様子を見に来てやったのに、なんだよその言いぐさはよう!! あぁ、やだやだ、これだから可愛げのない年増のエルフちゃんは困るぜ!!」


「だ、れ、が、年増、ですって、このアホー!!」


 どこかで見たようなやり取りを繰り広げる女エルフの養母と男。

 火炎魔法を食らわされて、ちりちりの髪の毛になったその男は、それでもけろりとした顔をして、彼女たちの家から去って行ったのだった。


 扉を閉めた養母が、はぁと息を吐きだす。

 それから――女エルフたちの視線があるにも関わらず、彼女は胸の前に手を当てて、桃色にその白い頬を赤らめたのだった。


 あきらかに、彼女のその表情は、恋する女のそれだった。

 部外者だからだろう。いくらか客観的にその様子を見ていた第一王女が、はわわと口元を手で隠してベッドの上の女エルフに声をかけた。


「お義姉さま、あの方はいったい誰なんですか?」


「……さぁ、知らない。私も初めて見るわ」


「けど、この世界はお義姉さまの記憶をもとに構築された世界なんですよね?」


「そうよそのはずよ。けど、試練の内容が予想外な時点で、なんか変なのがまぎれこんでるんじゃないの。もう、分かんないわよ、いやになるわ」


 ベッドに顔を沈めながら答える女エルフ。

 そうしてまた、彼女たちは、日常の中に埋没していくことになるのだった。

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