第462話 どエルフさんと生ワカメ
ついに降臨者として覚醒した女エルフ。
巨大なサザエの上に乗りながら、彼女は自分の足元にびっちりと生い茂った、緑色のワカメを操って、不敵に夜の浜辺にたたずんでいた。
それまで、一方的に女エルフに迫っていた異世界漂流者の少女。
しかしながらその拳は今や、次々と影から現れる、多くのワカメ触手によって囚われて、少しも女エルフに届かなくなっていた。
ダーティファイトにダーティファイトで返す。
前回の魔法少女勝負では、奇跡の逆転ファイター、肉的展開で決着をつけた女エルフであったが、今回は割と汚いやり方で勝負を取りに来た。
というよりも――。
「あらあらぁ!! さっきまでの余裕はどうしたのかしらぁ!! 貴方がこの世界の主人公じゃなかったのかしらぁ!! うふふっ、惰弱惰弱!! ついでに貧弱ぅ!! こんにゃくぅ!!」
「ってめぇ、ふざけやがって!!」
「ふざけてませーん。圧倒的な力に酔いしれているだけでぇす。あぁん、もう、これだから若いだけが取り柄の女ってのは嫌なのよね。すぐ、自分の優位性が失われたと知ると、狼狽えちゃうんだからぁ。女磨きをちゃんとしない罰なのに。ふふっ、ほんと、三百歳も超えているのに、可愛くってごめーんね。てへぺろー」
若干、壊れ気味であった。
やけっぱち。あるいはウワキツに精神が耐えかねたのか。
普段の女エルフなら、絶対に口にしないだろうその台詞に、彼女のパーティメンバーはもとより、合流した隊長たちも思った。
――ウワキツ(深刻)と。
「モーラさん。もしかして、相当溜まっていたんでしょうか。降臨者になったとはいえ、いきなりあんな感じにキャラまで崩壊するなんて」
「だぞ。いくら何でもキャラの軸がブレブレなんだぞ」
「恥じらいエルフでウワキツを気にしてるのがお姉さまのいい所なのに。あんな、全力でモーラちゃん300歳やっちゃうお姉さまなんて、お姉さまであってお姉さまじゃないです。お姉さま、どうか、正気に戻って」
「まったくだぜ!! いやよいやよと言いながら、魔界天使《白スク水》着ちまうのがいいんじゃねえか!! なのに、あんなはっちゃけキャラになっちまったら――ただのラスボス!!」
「あぁ、ただのラスボスだぜ!! あんな年増に白スク水着せるくらいなら、ケティたんに着せるべきだと俺はおもうね!! まったく思うね!!」
「拙者、ウワキツにも一定の理解のある勇者。しかしながら、モーラ氏のウワキツは、なんというか、年甲斐がないというか、あんまりにも品がないというか……。とにかく、全世界のウワキツヒロインに謝ってほしいであります!!」
続々と集まっていくヘイトオブヘイト。
いつもだったらこの展開に諸手を挙げて喜んでいる店主さえも苦言を呈する有様である。それはもう、このトンチキドスケベとみせかけてただただ下ネタアドベンチャーが始まってから、初めてのことであった。
しかし、既に精神をやっちゃった、女エルフ。
「ほほほ、外野でなにやらうるさく言っているみたいだけれど、全然気にならないわ。むしろ、今の私は――この強力な全能感に最高にハイって感じよ!!」
そんな言葉で軽く流してしまうのだった。
だぞ、と、ワンコ教授が口ごもる。
女修道士がなんてことと口元を抑える。
第一王女がお姉さまと嗚咽をあげる。
しかし、しかし、ただ一人――。
「いいぞモーラさん!! その調子だ!! そんな感じで、君の中に溜まりに溜まっていたウワキツ力を高めて、黒歴史に残る瞬間を造り上げるんだ!!」
男戦士だけが全力で応援していた。
全力で、がんばれ、がんばれしていていた。
というのも男戦士的にこのシチュエーション――それほど悪いモノではなかったのだ。というか、いつも通りだった。
この度を過ぎてどエルフ過ぎる――作者もどうかと思う――白スク水にワカメ触手乱舞という絵面的にも最悪かつ展開的にも最悪な状況。それにも関わらず、男戦士は女エルフを受け入れていたのだった。
なぜか。
それは、それこそが彼にとって、パートナーへの信頼を示す態度だったから。
他の誰がなんと言おうと、自分だけは彼女の味方だ。
そう。
男戦士は、神に近づき、自我崩壊を起こしている女エルフさえも受け入れた。
それが男戦士の、パートナーへの愛情だったのだ。
「ほーらほらほら!! さっきから、全然ワカメさんが引きちぎれてないわよ!! そんなんじゃ、ヌチョヌチョの触手地獄わかめ味噌汁ENDまっしぐらよ!!」
「なんてマニアックなENDなんだ!! 流石だなどエルフさん、さすがだ!!」
「いい汁出てるでしょう!! 生ワカメのぬめり成分で、ぬっちょぬっちょのでろんでろんのローション要らずよ!! あははっ、みじめみじめ!! お味噌汁になっちゃえー!!」
「毎晩、お味噌汁を造ってくれてもいいぞ!! あわび汁でもかまわないぞ!! 流石だなモーラさん、さすがだ!!」
むしろ、そんな女エルフについていける、お前の方が流石だ。
あらためて、パートナーとしての絆に驚く、男戦士のパーティたち。
彼らは冷めた視線を女エルフから、握りこぶしを造って意気込む男戦士に向けて、暗い顔をするのだった。
「ほらぁ!! ほらぁ、ほらぁ!! もっとみじめに、無残に、いじきたなく、ワカメから抗ってみなさいよぉ!! 貴方の本気はそんなものなの!! そんな程度のヌチョリティで私に勝てると思ったのぉ!! 生意気な小娘ちゃぁん!!」
「悪落ちした前作ヒロインみたいだ!! 悪落ちして、敵の女幹部になってしまった、前作の女ヒロインみたいだ!! マニアックな属性を、こんな所でも突いてくるとは、さすがだなどエルフさん、さすがだ!!」
流石のどエルフ。
まさかの初代ではなく2ネタであった。




