第438話 どエルフさんとご注文は奴らですか
【前回のあらすじ】
ガシャーン!!
「はわわー、またやっちゃいましたー。ビク子ったらどじっ娘なんだから、てへり」
そう言って、ミニスカメイドに身を包んだ、隻眼無精髭に長髪の彼は――ロリリンガービク子。元は商隊の隊長。そして南の国の軍神に学んだ軍司という策略家である。とても似合わないロリロリ口調、おまけにパンツ――ブリーフ――まるだしのミニスカートであるが、残念ながら彼は変態ではなかった。
限りなくロリコンという名の紳士であり、自らロリメイドになる頭ピョンピョン野郎であった。そう、彼は、異世界漂流者と接触するために、あえてこのようなこっぱずかしい格好をしているのだ。
同じく、そんな彼の横でてきぱきと働くのは、青色――#0000FF――のゴシックな衣装に身を包んだメイド。細かいレースがあしらわれた仕立てのよい服を身に着け彼もまた男。しかし、男のはずなのに妙に色っぽい顔をしている、そしてその動作に説明のし難い理解不能な色気がある。
それは彼が生来の凝り性だから。そう、厨二病とは拘りの塊。彼の拘り、いわば厨二病患者としての矜持はメイドになることにおいても発揮された。
そうこの男の名を我々は知っている。
「でゅふふ!! ご主人様ァ!! ご注文はオムライスにハートですぞ!!」
そして、この限りなく気持ち悪い口調である。
この青いメイドこそは、ブルーディスティニーヨシコ。タナカの呪いをその身に受けて、気持ち悪いことになりながらも、ゴスロリメイドに身をやつした、中央大陸において最強クラスの魔法使い――雷限定――ヨシヲが変装した姿であった。
同じく、ビク子と共に異世界漂流者に接触するのがその目的だ。
目的のためなら手段を選ばない、自分が汚れ物になるのもいとわない。まさしく、ヨシヲは異世界転生者の鑑のような男であった。
彼が優雅にオムライスの上にハートマークを描いていく。静脈と動脈が描かれた無意味にクオリティの高いそれに、客が感嘆して絶句する。それを眺めて、ふふとヨシヲは不敵な笑顔を浮かべるのだった。
「私が、熟れに熟れた500歳エルフ!! ママみとバブみを体現する女!! エルフとオギャミティの限界に挑戦する熟女エルフ!! エルフィンガーティト子よぉ!!」
そして、もう恒例のエルフィンガーティト子である。
潜入となれば即女装。迷わず女装。女装するのに戸惑いも恥じらいもなければ、嬉々として変装する彼こそは、我らがどエルフさんの主人公男戦士であった。
今日も今日とて、その女装っぷりには迷いがない、恥じらいがない、そして、遠慮もない。ラテアートで東国に伝わる伝説のスポーツ、スッモウを描いた彼女は、それを豪快に客の前にたたきつけた。
バリン、割れる陶器のカップ。客もまた絶句。飛び散った陶器の破片とコーヒーを前にして、エルフィンガーティト子は腕を組むのだった。
そう、まるで――自分のようないいエルフの相手など、お前には三百年早いという感じに。傲岸不遜、大胆不敵、その自信はいったいどこからでてくるのか。三人の中では、一番スタンダードな英国風のメイド服に身を包んだ彼は、客に背中を向けると、できるキャリアウーマンみたいな、いっさい媚のない背中で席を離れたのだった。
オウ、彼ら、異世界漂流者のために集まったまことの漢たち。
いや、漢女たち。
世界の平和と、異世界からやって来た少女のためならば、たとえ火の中水の中、メイド服の中だって飛び込んで見せる。
まっことプロフェッショナルなメイド戦隊。
「ナイスメイド!!」
「グッドメイド!!」
「パーフェクトメイド!!」
目指すは異世界漂流者の少女の保護。
かくして、異世界漂流者捕獲のための、大いなる作戦の幕がここに上がった。
「オーシャンズ!!」
「いや!!」
「メイドズ3!!」
「やめい!!」
「ご注文は――」
「「「俺たちですか!?」」」
「絶対に違う!!」
いくらツッコミを入れても収まらない止まらない。
益荒男もおおいに結構ですけれど、この三人を会わせちゃいけなかった。混ぜるな危険な大馬鹿野郎たち。男戦士と隊長とヨシヲ。あんまりにも濃いメンツを取り揃えて、この物語はいったいどこへ向かおうとしているのか。そもそも、儀式魔法【漢祭り】も、こんなメンツで本当に大丈夫なんだろうか。
なんだかんだで大剣使いの奴が一番まともなんじゃないのか。どうして、こんな取り返しのつかないところまで話が進んでしまったのか。
書いている作者でさえ後悔が追い付かない。
予測不能のとんちき展開。
という感じで、今週もブッチギリでどうかしている、どエルフさんはじまります。
「ちょっと、ちょっと待って作者!!」
どうしましたかモーラさん。
「今、このタイミングで、言うのはどうかと思ったんだけれど――なんか今回あらすじ長くない!? なんていうか、あらすじなのに本来の更新文量の半分以上をもう使っているというか……いや、もうあらすじ芸で済まされるような状況じゃない気がするんだけれども」
いやだなモーラさん、馬鹿なこと言わないでくださいよ。
僕だってね、WEB小説十年選手なんですよ。十年やっているのに、書籍化の打診が一度もかからないとはこれいかにとか思いますけど、そこはそれ。ちゃんと文章の更新量をコントロールするくらいのことはできますよ。嫌だなぁほんと。
ほら心配しなくても、これこの通り、ちょうど文章量現時点で、ルビを含めて――2300文字。
あっ、あかん!!
「あかん!! じゃないわよ!! どうすんのよ!!」
どどど、どうしよう、このままだと本編が始まらない、始められない。
あらすじ芸が楽しいからっていくらなんでも調子に乗り過ぎた。えぇい、これもどエルフさんの罠か。
おのれ、理解者と思わせて、作者を嵌めるとは、なんという策士。
隊長や女軍師にも勝るとも劣らぬ智謀ではないか。やるな小娘。
「やるなじゃないわよ!! それより、とっとと本編!! 本編!!」
そうですね、とにかく、急いで本編始まります。
◇ ◇ ◇ ◇
「という訳で」
「あたちたち三人を」
「雇わないでござるか!! でゅふふふっ!!」
「……帰れぇ!!」
男戦士たちはメイド喫茶から追い出された。
「終わったァー!!」




