第411話 ど男戦士さんと捕らわれの大剣使い
首都、オッパイオの目抜き通り。
暗黒大陸の魔の手が迫っているとは、とても思えぬ賑わいを見せるその場所を、男戦士たちは歩いていた。
転移魔法に失敗したこともある。
女修道士とワンコ教授は別行動、ことの経緯を伝えるべく教会の方へと移動していた。
そして、男戦士と女エルフといえば。
「ハンスは歴戦の冒険者。この街に居るのならば、おそらく冒険者ギルドに出入りしていることだろう」
「そこでハンスの居場所を聞き出すってことね」
「うまく見つかるといいんですけど――そのハンスさん、冒険者なんですよね?」
不安な顔をしたのは第一王女である。
女エルフにぴったりとくっつき、腕を組んで歩く彼女は、信頼する姉に問いかけるような視線を向けた。
単純な問いだったので、えぇ、と答える女エルフ。
しかしながら、答えてから女エルフは気がついた。
第一王女が何を心配しているかに。
「そっか。冒険者なら、また、何か冒険に出ている可能性もあるわね」
「いや、それはないだろう」
怪訝に歪んだ女エルフの顔に、微笑みかけるように男戦士が言う。
虚を突かれた彼女は、男戦士の言葉にどうしてとすぐに問い返す。
「リーナス自由騎士団への連絡を頼んだのは俺だ。ハンスは暗黒大陸の危機を知っている。そして、それに助成すると約束してくれた」
「勝手に冒険を受けるようなことはしないってこと?」
「こっちの甘い期待にはなるがな。ただ、ハンスはモーラさんも知っているとおりとても義理堅い男だ。これから起こることを見越し、きっと行動してくれるはず」
「随分と信頼しているわね――あれ?」
その時、女エルフの視線が、ちょっと奇妙なものを捉えた。
わたわたと慌てふためく金髪の少女が、目抜き通りから直結している都一番の広間に居たのだ。ただそれだけなら気にも留めない。しかし、そのちまっこいくせに底の知れない性格の悪さがにじみ出ている顔に、女エルフは見覚えがあった。
あれはそう。
大剣使いと共に、リーナス自由騎士団への使いを頼んだ女の子。
そして稀代の大ペテン師。
「ヤミ!?」
「……おっ!? おぉ!! モーラに、ティト!! よかったちょうどいい所に来たのじゃ!!」
金髪少女こと――大法力のヤミであった。
彼女は女エルフの呼び声に答えて、すぐに彼女たちの方を振り返った。
そして、今にも泣きだしそうだったその相貌を、ほろりと崩すと、広場から男戦士たちの方へと駆けてきた。
さきほどまでそのペテンで使っていただろう舞台も、お金を入れるのに使っていただろう籠も放り出してという、なんとも慌てた様子で。
これはどうしたことだろう。
そもそも彼女は大剣使いと一緒だったのではないか。
というか、またこの厄介な娘に振り回されるのか。
男戦士たちは、金髪少女の行動に、言葉にできないうすら寒さを覚えた。
「いったいどうしたのよヤミ」
「ペテンに失敗したのか。お前らしくもない」
「そんな訳ないのじゃ!! 妾の大法力は本物ぞ!! 万に一つも失敗することなぞあり得ぬ!! 今日も興行は大成功であったわ!!」
にょほほほと笑う金髪少女。
さきほど慌てて男戦士たちの方に駆け寄って来たのは、いったいなんだったのだろうかという、そんな感じの笑い声にますます彼らは顔をしかめた。
ではいったい何が問題なのか。
何がいったいちょうどいいのか。
大検使いの不在。おそらくそれに関係あることだとは察しがつく――。
だが、話を聞かないことには分からない。
とりあえず、男戦士は金髪少女の肩に手をかけた。
「まずは、無事にリーナス自由騎士団への使いを果たしてくれてありがとう。君とハンスのおかげで、なんとかリーナス自由騎士団は、連邦騎士団と合流することができた」
「にょほほ、お安い御用という奴なのじゃ」
「それでだ――引き続き、ハンスに用があるんだが。彼はどこに」
「そう!! それなのじゃ!!」
はっと、何かを思い起こしたように、金髪少女が驚いた顔をする。
そしてそれまでの尊大ぶりをどこかにやって、また慌てふためきだすのだった。
「大変なのじゃ!! まさかあんな怖い奴が、やってくるとは思わなかったのじゃ!! 妾は情けないことに、ハンスのことを見ていることしかできなかったのじゃ!!」
「どういうこと?」
「ハンスが、何か妙な奴らに目でもつけられたのか?」
冒険者稼業をしていれば、恨みを買うのは珍しいことではない。
冒険とはなにも、ダンジョンを潜ったり、モンスターを狩ったりするだけではない。冒険者ギルドに依頼される仕事は――時に人に危害を加えたり、不利益を与えるものだったりする。そういう仕事をすれば、当然のように恨みは買う。
それでなくても面子が大切な仕事だ。
街のゴロツキと喧嘩などしょっちゅうである。
しかしハンスがそんなのに後れを取るとは思えない。
彼は男戦士も認める、歴戦の戦士なのだから。
だが――。
「連れていかれてしまったのじゃ!! リザードマンに!!」
「「リザードマン!?」」
それが亜人種であれば、話は別であった。




