第407話 ど男戦士さんとエルフの幼名
「フェラリア、そして、その相棒のティトよ。身内とあればもはやこのキングエルフに迷いはない。暗黒大陸侵略への助力、きっと約束しよう」
「あぁ、頼りにしているぞ、義兄さん!!」
「だから、その呼び方やめなさいよ!! 名前で呼べばいいでしょ!!」
「……そういえば、キングエルフさん、本当の名前はなんというんですか?」
女修道士が空気も読まずにそんなことを尋ねた。
どうせろくでもない名前よ、と、女エルフが吐き捨てる。
自分の名前が放送コードギリギリだからって、そんな言い方はないんじゃなかろうかと、男戦士を筆頭に仲間たちが苦笑いを浮かべた。
そんな彼女をさておいてキングエルフは女修道士の問いに答えた。
「ふむ、私の名か」
「はい。モーラさんの本当の名前も分かったので、キングエルフさんの本当の名前も教えて貰ってもいいのかなと」
「キングエルフでいいじゃない。というか、どうせろくでもない名前に違いないわ」
「ひどいなフェラリア。そんなことはないぞ。私の真の名は、チ〇……」
「うぉい!! 割と本気で卑猥そうな名前!!」
伏字がかかるやすぐに女エルフがキングエルフの言葉を遮った。
流石の早業。
それは、数々のセクハラ展開に慣れ切った、女エルフの悲しき性であった。
しかし、話を止められた男戦士一行は、そんな彼女になんで止めたのかという視線を無慈悲に送る。
いつだってそう。
セクハラする方は無自覚なのだ。
「まだ最後まで聞いていないのに、卑猥と断じるなんて――モーラさん失礼ですよ!!」
「そうだ!! チ〇で始まり、ギスハーンで終わるかもしれないじゃないか!! どうするんだ!! それが放送コードに引っかかるなら、北方石鹸島先生の新作だって地上波で放送できなくなるじゃないか!! 問題発言だ!!」
「お前の発言の方がよっぽど問題じゃい!! まず北方先生に謝れ!!」
常識的に考えて、チ〇の響きで始まって、卑猥で終わらない訳がない。
女エルフの判断は妥当だった。
実際、チ〇ギスハーンで、騒いだ人も多いのではないだろうか。
オルドシステム!!
「うぉい!! 地の文!! あらすじでもないのに荒ぶるな!!」
とまぁ、そんな小ネタはさておき。
「だぞ、人の名前を聞いておいて、最後まで聞かないなんて失礼なんだぞ」
「そうですよお姉さま。それに、もしかすると、それがあったかーって感じの名前かもしれませんよ。お姉さまの本当の名前だって、まぁ、ちょっとギリギリ伏字を使わなくってもいい名前じゃないですか」
「……そうかも知れないけれど」
聞いてみましょう。
そう女修道士たちが女エルフに迫る。
絶対にこれダメな奴だと思うんだけれどな。
そんな不安を顔に滲ませつつ、女エルフは溜息を吐き出した。
そしてしぶしぶという感じに仲間たちの主張に従うことにしたのだった。
もちろん、ダメな時は、おもいっきり、容赦なく、ツッコむつもりで。
「で? 兄さん、貴方の名前はなんていうの?」
「ふむ。まぁ、その、なんだ。あまり大した名前ではないのだが」
「名前に大したもなにもないでしょ」
「名はチ〇包、字は金玉という」
「まさかの!! 中華風!!」
言いながら女エルフの顔が凍り付いた。
まさか、チ〇から始まり――そこからさらに卑猥に展開するとは思っていなかったのだ。そう、チ〇ポリオとか、チ〇コルフとか、その程度で終わると思っていたのだ。
それが、チ〇包。
あまつさえ、字が金玉である。
下ネタの国士無双がエルフの森に吹き乱れた。
「ちなみに、チ〇の字は常用漢字ではないため表記できない!! 申し訳ない!! 書ければ、少しくらいは卑猥さが減るのだが――申し訳ない!!」
「なんでじゃぁい!! 明らかに名前の属する文化圏が違うやんけ!!」
文化圏の違いとか言わない。
そう、この作品は異世界ファンタジー。
ファンタジーはなんでもありなのである。
そもそもこの作品は、西洋ファンタジーとも、中華ファンタジーとも、明言していないから、どうだって調理のしようがあるのだ。それに気がつかぬとは――まだまだだな、どエルフさん、まだまだだ。
「なんでもありにも程度があるわ!!」
「チ〇包……なんて強そうな名前なんだ!!」
「よかった……まだ、名は古チ〇、字は全羅とかじゃないだけ、全然マシですね!!」
「少しもマシじゃないわよ!!」
「親は最初はチ〇チ〇チ〇チ〇にしようとしていたと聞いた。意味は『共感性に溢れたWEB小説』らしいが――そっちの方がよかったか?」
「ろくでもない!! 親がろくでもなさすぎる!!」
自分の親のネーミングセンスに女エルフは絶望した。
それでも、流石に『チ〇チ〇チ〇チ〇』をつけなかったのだけは――最後に欠片程度の理性は持ち合わせていたのだなと、女エルフも思った。
ただ。
「流石だなどエルフさんの親、さすがだ」
「うがぁーーっ!!!!」
やはり、どエルフの血について否定することは免れなかった。




