第402話 どエルフさんと人類を舐めるな
「ゲロッゲロゲロッ!! 一方的ではないか、我がケロン特選隊は!!」
「DEATH!! さっきから、まったく手も足も出てないDEATH!!」
「人間――どうやら我々の動きについてこれないようだな!!」
「背中が煤けて見えるぜぇっ!!」
「……人間とエルフの戦士よ、お前たちの力はこの程度か!?」
まさしく猛攻。
ケロン特選隊のイブの構え。その術中に見事にはまったことにより、男戦士とキングエルフは一方的に攻撃を受けていた。
一度でも優利に戦闘が流れると、なかなかそこから状況を覆すのは難しい。
個人戦闘の定石。それは常に相手の先を読み、制することにある。
それに失敗した時点で、男戦士たちが窮地に陥るのは仕方なかった。
「……くっ」
「……なんという素早さ!! まさしく風の奔流のようだ!!」
「ゲロッゲロゲロ!! たとえ我らトカゲ人間、普通の人間やエルフより非力で小さいのは仕方ない!! しかし、掴まらなければ、捉えられなければ、五分に戦うことができるということ!! まさに強きこと風の如し!!」
「……ティト!!」
一方的に攻撃を受け続ける男戦士とキングエルフ。
まったく反撃の目が見えない、二人のそんな様子に女エルフは手を組んで、はらはらとした視線を送った。
魔法で支援をしてやりたい。
そんな場面だが、ケロン特選隊の動きが素早過ぎて手出しができない。
女修道士もそうだ。回復魔法や支援魔法をかけたいところだが、四方八方天地無用跳梁跋扈するケロン特選隊にさえぎられて何もできない。
このまま手をこまねいて、みすみす何もできないのか。
女エルフと女修道士がふざけるのも忘れて男戦士たちを見守る。
そんな中――。
「大丈夫、あの二人を信じるんだぞ」
唯一、冷静にワンコ教授が言った。
そうだ信じるのだ、自分たちのリーダーを。
男戦士はいつだって、自分たちのピンチをその腕一つで救ってきたではないか。
キングエルフはともかく。
男戦士ならきっとどうにかこの状況を覆してくれる。
この程度のことでみすみす敵にやられる男戦士ではない。
女エルフの目に光が戻る。
陰っていた表情に自信が戻り、彼女は手を振り上げた。
「ティト!! なにやってるのよ!! そんなトカゲども、ちゃっちゃとおっぱらっちゃいなさいよ!! アンタなら楽勝でしょ!!」
「……くっ、簡単に言ってくれるな、モーラさん」
だが。
そう呟いて、男戦士は剣を持たない左手を虚空に向かって伸ばした。
それは刹那――ケロン特選隊の動きよりも素早い、不可視の一手だった。
「グェッ!?」
「……まずは一匹!!」
男戦士の目がケロン特選隊の動きを追い始めた。
彼はトカゲ人間のしっぽではなく、足をがっちりとホールドすると、どっせいと声を上げて捕まえたそれを地面にたたきつけた。
鬼をその身に宿した男。その力任せの一撃である。
たたきつけた場所に大きなクレーターが出来上がったかと思うと――そこに、サイバイ〇ンにやられたヤ〇チャのように、トカゲ人間が白目を剥いて倒れた。
どうでもいいがそのトカゲ人間は――三倍速そうな赤色をしていた。
「ギ、咬ませ犬!!」
「おのれ、最も戦闘力のある咬ませ犬先輩を先に潰すとは――やるDEATH!!」
「コワッ……まぁ、奴がやられるのは予定調和」
「一匹倒した所で、この攻撃が終わる……ギョギョッ!?」
驚きの声を上げたのは影の薄いトカゲ人間。
「残念、二匹だ!!」
男戦士ばかりに気を取られていたケロン特選隊。その背後で、キングエルフが体勢を立て直し、仲間が倒された衝撃に揺れる彼らの一匹を捕まえていた。
男戦士が作ったクレーター、そこに向かって影の薄いトカゲ人間を投げ込むと。
「エルフリアン柔術!! 尻餅突き!!」
その尻を容赦なく彼らの上に押し付けて叩き潰したのだった。
ぐぇえぇ。
トカゲ人間の断末魔が響く。
「ふっ、どうやら」
「数の優位については埋まったようだな、ケロン特選隊とやら」
男戦士とキングエルフが背中を合わせて言う。
この男たちは危険だ。残されたケロン特選隊のメンバーが息を呑んだ。
反面、女エルフたち。
やはり、男戦士である、頼りになる――と、ほっと胸を撫でおろしたのだった。
「……ただ、まぁ、格好だけはなんとかならないのかしらね」
「二人は……!!」
「パンイチ……!!」
いい展開の上に格好つけている。
だがが、この二人――パンツ(褌)一つであった。
こんな最高に締まらない絵面はたしてあるだろうか。
「……あと、タイトルの伏線回収忘れてる!!」
あっ、いっけねー。
まぁいいか。
「俺たちを、読者《人類》を……!!」
「舐めるなァ……ッ!!」
「舐めてるのはアンタたちでしょ!?」




