第391話 ど風の精霊王さんと合格
「どうだ!!」
「これが私たちの日常よ!!」
やり切った、自分たちの力を全部出し切った。そんな感じで意気込む女エルフと男戦士。二人はどや顔を風の精霊王へと向けると、先ほどまでの小芝居からは到底感じられない親しさで肩を組んだ。
ナイスコンビネーションである。
相棒の文字が肩に浮かんで見えるナイスコンビネーションである。
そして、まったく一部の隙もなく見事などエルフテンプレである。
あまりにも見事な流れに――あれ、今壮大な暗黒大陸編の途中だったんだよなこれと、書いている作者も驚いたくらいである。
見事、まさしく天丼小説の面目躍如なネタであった。
しかし――。
「え? ラブコメ? え? えぇっ?」
風の精霊王は困惑の極みという表情をドヤ顔をする男戦士と女エルフに向けた。
あれである。
需要と供給がマッチしていなかった時の顔である。
お客が真に求めていたものと、提出されたものが違った顔である。
しかし、男戦士と女エルフはやり切った顔を決して崩さなかった。
「これが俺たちの日常」
「そう、これが私たちの日常」
「……日常の間違いじゃないかのう?」
「「間違いじゃない!! こういう感じなんだし、お互い納得してるのだから問題ないんだ!!」ないのよ!!」
「……えぇ、納得してるんだ」
驚愕の事実。どエルフ弄りは同意の上でのことであった。
マッチポンプ。男戦士と女エルフは、そういうのこみこみの関係だったのだ。
――もちろんそんな訳はない。
「いや、エルフ弄りを認めた訳じゃないわよ。弄られるのが好きって訳じゃないし、できることならやめて欲しいし、正直言ってハラスメントだとは思ってる」
「エルフハラスメント――エルハラだな。深刻な社会問題だ」
「けどね、それでもこのアホと一緒に冒険したいから、私は一緒に居るのよ!!」
「モーラさん!!」
肩を抱き合い見つめあう男戦士と女エルフ。
愛があれば多少の弄り弄られくらい我慢できる。
とまぁ、そういう話である。
間違いなく、ラブコメであった。
いびつではあるがラブコメであった。
それにしても、ともすれば愛の告白ともとれなくもないその発言に、二人の顔はてれてれと見る間に赤く染まり上がっていく。
そう、横で見ている風の精霊王――カイゲンのことなど眼中にない。
そんなくらいの勢いで。
「まぁ、店主の前ではアレだけれど、ぶっちゃけティトの前だけなら――あぶない水着を着てあげても悪い気はしないわよ」
「俺も、店主の前ではアレだけれど、モーラさんの前でなら全装備を解除したって――構わないかなと思っているよ」
「ティト」
「モーラさん」
そう言って二人がよく分からない勢いで抱き合おうとしたその時であった。
――ゴパァ。
溢れかえるような音と共に、風の精霊王カイゲンの口から白い粉が噴出した。
いや、口からだけではない。
「鼻から!? いや、耳からも!?」
「むき出しになった乳首!! それに目からも!!」
「うわぁ、しかも――とても口に出しては言えない前と後の穴からも!!」
「いったいこの白い粉はなんなの!!」
「……砂糖じゃよ」
風の精霊王がそう呟く。
訳が分からないという感じに首をかしげる男戦士と女エルフ。その前で――まるで体中から砂糖を噴出しているとは思えない流暢な口ぶりで風の精霊王は語った。
「お主らのイチャコラっぷりに耐えかねて、ワシの体内のブドウ糖が一斉に噴出したのじゃ。すまんのう、年甲斐もなくみっともない姿をさらしてしまって」
「……え、いや」
「……みっともないというか」
「砂糖を吐くのはしょっちゅうじゃが、体中の穴という穴からブドウ糖レベルで噴き出すのは――生まれてはじめてじゃよ。やれやれ、まったく、やれやれじゃ」
そう言いながらも、風の精霊王の体から砂糖が噴出するのは止まらない。
イチャコラから一転。
固まった男戦士と女エルフだったが――ようやく彼らは我に返ると当初の目的を思い出したのだった。
そう、彼がイチャコラに反応して砂糖を吐いたということは。
ラブコメに当てられたということは。
「……もしかして!!」
「……それじゃぁ!!」
「小芝居の内容がラブコメかどうかは一考の余地がある。じゃがのう、お主らが先ほどワシの前で見せたやり取りは――まぎれもなくラブコメであったわ!!」
合格。
そんな言葉と共に真っ白だった世界が崩れていく。
先ほどまで閉じられていた男戦士の背中にある扉が開いた。かと思うと、生温かい風が吹きつけてくる。そしてようやく、男戦士たちは自分たちが、風の精霊王の試練に打ち勝ったのだと確信した。
「やっ……」
「……たぁっ!!」
男戦士と女エルフが抱き合って微笑みあう。
同時に、また風の精霊王の穴という穴からブドウ糖が噴出したのであった。
――なんちゅう光景だ。




