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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第四部第三章 リーナス自由騎士団
327/814

第327話 どからくり侍さんと山賊

 山道を行く男戦士たち一行。

 ふと、先頭を行く男戦士がその歩みを止めた。


「ふぎゃぁ!!」


 あまりに突然彼が立ち止まったものだから、その後ろをぴったり歩いていた女エルフが鼻を彼の背中にぶつける。

 赤くなった鼻先を擦りながら、彼女は男戦士の背中を睨みつけた。


「もう、どうしたのよティト?」


「しっ、モーラさん、静かに――」


 ちょうどそこは街道の曲がり角になっている場所。

 九十度という急な角度で道が折り返しており、切り立った崖が壁となって先が見えなくなっているような場所だった。

 その陰を見据えて、男戦士が眉を寄せる。


「曲がり角の向こう側に人の気配を感じる」


「……うそ」


「おそらく山賊だ。すぐに戦闘準備を……」


 言うが早いか、男戦士の真横の壁を蹴って、からくり侍が駆け出していた。壁走り、重力なんてものをまるっきり無視して、切り立った崖を駆けて行った彼女は、九十度曲がったそこを折れて陰へと消えた。


 はたして――。


「うわぁ、なんだこいつ!!」


「横から来るぞ気をつけろ!!」


「いやぁ、やぁ、やめて――おかーちゃーん!!」


「せっかくだから俺は逃げることを選――クリムゾン!!」


 阿鼻叫喚、情けのない山賊たちの声が山道に木霊した。

 だぞぉと、ワンコ教授が怯えた感じに肩を震わせ、まぁ、と、女修道士シスターが青い顔をする。青年騎士も、あっけにとられて目を丸める中、男戦士と女エルフはやれやれと嘆息した。


 冒険をしていれば、山賊に出会うことなどしょっちゅうである。

 それに対して備えをしていない訳ではないし、不意打ちを喰らうような後れを取るほど彼らも初心者ではない。


 いつものように淡々と処理するつもりだったのだが。


「機先を制されたな」


「というか、嬉々として駆け出して行ったわね」


「戦闘狂という奴でしょうか」


「怖いんだぞ。びっくりしたんだぞ」


「くっ、騎士である私が、本来ならば前に出て戦うべき所を、情けない――。ティトさん、今からでも助太刀に行って問題ないでしょうか!?」


「終わったでござるよー」


 などと、やり取りをしている間に、崖の向こうからひょっこりと血塗れのからくり侍が姿を現した。


 うへぇとその姿に男戦士たちがうんざりとした声を上げる。


「いやぁ、大したことない奴らでござった。数は少ないし装備も適当、動きも悪いし――素人相手に武器ちらつかせて強請るタイプの盗賊という奴でござるな」


「だからってアンタもうちょっと加減してあげなさいよ」


「盗賊に人権なしでござる。いやぁ、久しぶりに人が斬れて、拙者満足」


 ちらりと、崖の向こうを覗いた女エルフ。

 さぁとその顔が青くなると、口元を抑えて男戦士の方に戻って来た。彼の背中に寄りかかり、うぇえぇと、吐かないながらも声を上げる。


 どうしたでござると悪ぶる素振りも見せずに言うからくり侍。

 なんであんたそんなけろっとしてられるのと、睨みを利かせて女エルフは叫んだ。


 別に冒険者をしていれば、盗賊に襲われることは普通だ――とはさっきも言った。

 そして、斬ったはったの殺し合いになるのも普通だ。


 なのに初心な反応をするのはどうしてか――。

 もちろん原因は、心配そうな顔をして女エルフの肩に手を載せている男戦士だ。


「おめえさん、盗賊相手にも情けかけてんのか?」


「いや、まぁ、できるだけ穏便に事が済むようにとは思っている」


「長い目で見たらエルフの嬢ちゃんたちの為にはならんぞ」


 魔剣の問いかけに、面目ないと頭を掻く男戦士。

 そう、この手の厄介事の露払いを担ってきたのは男戦士である。彼は、その卓越した戦士技能で、やんごとなく――少なくとも女エルフたちにショックを与えないような――山賊退治をしてきたのだ。


 もちろん、彼女たちの目の無いところでは、まったく容赦はしないが。


 どうでござるかとない胸を張るからくり侍。

 一瞬にして山賊たちを退治した自分の手腕を褒めて欲しそうに、笑顔を男戦士に向けている。

 だが、男戦士の顔は渋い。


 崖の向こうを見るまでもないという感じで、彼はからくり侍を眺めて言った。


「まず、返り血を浴び過ぎだ。血と言うのは見た目はもとより衛生上よくない。あまり浴びないように、また、出さないように戦うのが一流の戦士というもの」


「……むむっ、なんだか綺麗ごとにござる。ティトどのは、実戦主義ではなかったのでござるか?」


「一夜限りの戦場ならばそれも止む無し。だが、ここは旅路の途中だ。これからもその血濡れた衣服で行動するのか。実戦とは、そういう自分が置かれている環境をよく判断して、最適な行動を選ぶことにある」


 口をへの字に曲げて唸るからくり侍。

 一方で青年騎士は、流石ですティト殿と、その後ろで握りこぶしを造っていた。


「人を斬ることならオークでもできる。もう少し、落ち着け、センリ」


「……ござるぅ」


「まぁ、そうは言っても助かった。君のおかげで、余計な戦闘をしなくて済んだ」


 そう言ってフォローしようとしたその時だ……。


「きゃあぁあぁあぁあぁ!!!!」


 突然崖の向こうから女性の叫び声が木霊した。


 死体を見てか。

 それとも、また違う危機か。

 なんにしてもやんごとない状態には違いない――。


「行くぞ、ロイド!! センリ!!」


「……はい!! ティトさん!!」


「ござる!!」


 かくして男戦士たちは、崖の向こうへと駆け出たのだった。

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