第324話 ど男戦士さんといざ山岳地方
かくして、連邦騎士団の本部から引き返してきた男戦士と青年騎士。
すぐにその入り口で彼らを出迎えたのは、仲間の女エルフたちだった。
「大丈夫だった、ティト?」
「あぁ。なんとか話は着いた」
「教会本部の方は?」
「それについても許可は取れた。悪いが、教会本部への案内を頼めるか、シコりん」
「任せてください」
そう言って、自慢のロッドを胸に当てる女修道士。
回復ポジション。いつもはどちらかと言えば、頼る側――守られる側の彼女である。そんな彼女だからだろうか、胸を張る姿にはいつにない気負いが感じられた。
それを横目に怪訝な顔をするのは――もちろん女エルフである。
「大丈夫なの? ちゃんと道案内できるの?」
「失礼な。私をなんだと思ってるんですか、モーラさん」
「教会本部とか言って、いかがわしい所に連れてったりしないわよね?」
「しませんよ!!」
いつもの意趣返し、という訳ではない。
これまでさんざんと煮え湯を飲まされてきた女エルフからすると、彼女の案内というのが純粋に不安だったのだ。
それだけではない。
彼女は教会内でも異端派に属している人間だ。そういう人間が、本部にすんなりと入れるのだろうか。そういう素直な疑問もそこにはあった。
だが、彼女以外に頼れる人間も居ない。
「心配しなくても、本部には何度か行ったことがありますから。どーんと大船に乗ったつもりで、案内を任せてくれて大丈夫ですよ」
「そう言われてもねぇ」
「それに……」
と、言いかけて、女修道士が黙り込んだ。
いえ、なんでもありませんと、急に言葉をなかったことにした彼女に、女エルフがますますと顔をしかめる。
何か隠し事をしているのはあきらかだ。
もしや、異端派で出入り禁止を喰らっているのではないか。
などという疑問が自然と湧いてしまう。
仲間に対してそういう思いを抱くのはどうかというもの。
だが、普段の行いが行いだ。
ついつい、女エルフが警戒するのは仕方なかった。
しかし、警戒したところでどうにもならない。
このまま真意も分からないまま、教会の言いなりになるほうが、よっぽど危険だ。
しかたないわねと溜息を吐き出し、どこか観念した風に女エルフが肩をすくめた。
「じゃぁ、道案内よろしくね、コーネリア」
「任せてください!! このコーネリア、無事に皆さんを教会本部まで案内してさしあげますよ!! 決してどエルフな目になぞ合わせませんから!!」
「なんじゃいどエルフな目って」
頼まれなくてもそんなものには会いたくない。
そんなツッコミを入れながらも、女エルフの表情は仲間を信頼する優しいモノへと変わっていた。その顔を見て、満足気に女修道士が笑う。
かくして、男戦士たちの次なる冒険の目的地は決まった。
「だぞ。教会本部があるのは、ここからちょっと北に行った【ササキエルの街】なんだぞ」
「ほう、【ササキエルの街】とは、なんだかちょっと不思議な響きの街でござるな」
「昔、佐々木という名前のエルフが住んでいたから、【ササキエルフの街】――だったんのですが、いろいろあってエルフが住まなくなり、【ササキエルの街】になったんです」
「ロイド、貴方もついてきてくれるの?」
「はい。団長から教会本部への護衛を申し付けられています。道中の安全はこの私めにお任せください」
「まぁ頼もしい」
やんややんやと談笑するパーティたち。
しかし、その話の輪の中に、男戦士が居ないことに女エルフはふと気がついた。
どうしたのだろうか。
何か不安なことでもあるのだろうかと、彼の方を向いて――彼女は一瞬で察した。
「……いかがわしい所、だって?」
そう、彼はいつもの顔をしていた。
女エルフを弄るときに見せる、あの、いつもの真面目くさった劇画調の顔を。
「世に男がいかがわしいと思う場所は数あれど、女がいかがわしいと感じるような場所はそうそうない。そんな所に連れて行かれるなんて――いったい君はこんな非常事態に何を考えているんだ、モーラさん!! 非常識だぞ!!」
「うん、話のたとえだから。というか、今更じゃない、そのツッコミ」
「尻で割り箸を割るようなお店か!! バニースーツを着ているお店か!! それともブーメランパンツを履いているようなお店なのか!!」
「どれでもないわい!! 具体的な例を出すな!! というかよく出て来るな、男の癖に!!」
「まさか――エルフに扮した男たちが出迎えてくれる、男エルフ倶楽部じゃないだろうな!?」
「どんな倶楽部よ」
「立ち去れ、ここはエルフの里。これ以上踏み込むつもりならば、貴様たちは森の怒りに触れるだろう――それが入店合図の男エルフ倶楽部で、ひとときの姫エルフ気分を楽しむつもりなのか!? そうなのかモーラさん!!」
「そんな店もシステムも聞いたことないわい!!」
「おぉ、庶民のエルフにはとても楽しめない、男エルフ倶楽部を、騎士団の経費で落として楽しもうなんて。なんて悪知恵の働くエルフなんだ。伊達に三百年生きていない。流石だなどエルフさん、さすがだ」
教会本部へ行くことよりも、相変わらずのこの男戦士を相手する方が不安だ。
これから旅立ちだというのに、火炎魔法を打とうかなと、女エルフは杖を力強く握りしめるのであった。




