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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第四部第二章 騎士団長就任要請
315/814

第315話 どエルフさんとトリキング

「しかし、久しぶりの徒歩での冒険となると、食料確保が面倒よね」


「だぞ。キャラバンにひっついてくと、その点は楽でよかったんだぞ」


「日持ちのする食材と言っても限られますからね」


「現地調達は冒険者の必須スキルでござる――おっ、照り焼き鳥の群れ、発見でござるよ」


 からくり侍の言葉に、いっせいに野に伏せる女エルフたち。

 その視線の先には――いつぞや出て来た照り焼き鳥の群れが、呑気な、そして、間抜けな顔をして、うろうろとしていた。


 さきほどの会話の通りだ。

 現在、男戦士パーティの女グループは、食料調達に街道から少し離れた草原の中を移動していた。ちょうど、照り焼き鳥などの、手ごろなたんぱく源がないかと思っていた所にこれ幸い、遭遇したという塩梅である。


 ちなみに男戦士たちは別行動。

 違う食料になるモンスターを探している。


「照り焼き鳥か。定番よね」


「卵の駆除もして、小銭稼ぎと行きましょうか、モーラさん」


「だぞ。お願いするんだぞ」


 破裂音一つで気絶する照り焼き鳥。

 その巣を見つけるために、女エルフはいつぞややったように【降雨スコール】の魔法を行使する。わにやに、照り焼き鳥の群れの上に暗い雲が集まったかと思うと、ざぁざぁと、音を立ててそれは彼らに降り注いだ。


 急いで――本人たちはいるつもりなのだが、傍目から見るとのろのろと――照り焼き鳥たちが自分たちの巣へと戻ろうと移動を始める。

 しめしめ、と、思いながらその後を追っていると、不意にからくり侍が前に出た。


 しっ、と、からくり侍は指先を唇の前に出して、小さく息を吐く。

 もたもたしていると照り焼き取りを見失う。だが、彼女が前に出て来たからには、何かしらの意図があるのだろう。

 女エルフたちが静かにそれに従うと――。


 ずしり、ずしり、と、やけに重量感のある音が地面に突然響いた。


「……なになに!? どういうことこれ!?」


「だぞ!! 地震なんだぞ!?」


「大地が怒っているのですか!?」


「違うでござるよ。あれを見るでござる」


 そう木製の指先を向けたからくり侍。

 綺麗に磨き上げられて、ささくれの一つだってない木目の指が捉えているのは――照り焼き鳥に違いなかった。


 しかし。

 姿形はそれだが、いささか、大きさが異なる。


 人間大、いや、それ以上はある、大きな大きな照り焼き鳥だ。


「……でかい!!」


「……でかいんだぞ!!」


「……すごく、大きいです」


「トリキングでござる」


【トリキング: 照り焼き鳥の上位モンスター。基本的には、大きくなっただけの照り焼き鳥である。その性質、その性格はなんら小さいものと変わらない。だが、体格が大きいため暴れられると厄介な相手でもある。また、巨大化に伴い、心臓も少しだけ強くなっているため、ちょっとやそっとの破裂音ではショック死しない。キングなスライム的ちょっと厄介なモンスターだ】


「この辺りは人通りが少ないから、あそこまで成長してしまったのでござろう」


「はぁ、躍起になってギルドが駆除する理由が、なんとなく分かった気がするわ」


「生態系の維持もですが、あんな大物にまで成長するなんて」


「……けど、食べ応えはありそうなんだぞ」


 思いがけず遭遇してしまった大物。

 呑気なことを言うワンコ教授はさておいて、どうする、と、女エルフたちが顔を見合わせた。


 だが――。


「よし!! 相手にとって不足なし!!」


「あ、ちょっと!?」


「トリキング!! いざ、尋常に勝負でござる!!」


 女エルフたちが作戦を練るより早く、からくり侍が単騎駆け、トリキングに向かって走り出した。

 こうなってしまってはもう仕方がない。


「あぁもう、面倒臭いわね……」


 女エルフたちは立ち上がると、すぐさまからくり侍の援護に回った。


◇ ◇ ◇ ◇


「それで、倒したはいいが、【降雨スコール】により濡れた足場で、泥だらけ」


「泥レス状態で帰って来たという訳ですか」


 男戦士と青年騎士を前に、茶色い姿で現れる女エルフたち。

 泥が頬にくっついて全ては見えないが、僅かに見える地肌は、いつになく紅潮しているようだった。

 女修道士シスターも、ワンコ教授もである。


 唯一、まったく気にしないという感じなのが、からくり侍。

 仕留めたトリキングの首を持ちながら、自慢げにぶいとその指先を男戦士たちに突き出すのだった。


「照り焼き鳥の捕獲だから、まずしくじることはないだろうと任せてみたけれど。そうか、トリキングがいたのでは仕方ないな」


「それにしても、どっかのバカが突撃しなけりゃ、もうちょっと楽だったわよ」


「むむむ、センリ殿、抜け駆けとはずるいですね。私もトリキングのような大物モンスターと戦えるものなら戦いたかった」


 とは、青年騎士。

 この惨状を見て、そんな言葉が出て来る辺り、どれだけ生真面目なのだろう。


 それに対して、はっはっはと、自慢げに笑って返すからくり侍。

 これだけ迷惑をかけておいて、彼女も能天気なものである。

 はぁ、と、女エルフの口からため息が漏れた。


「なんだか子守りの対象が増えて複雑な気分だわ」


「子守り? その胸で?」


「モーラさん? お子さんが居たんですか? その胸で?」


「だぞ? どうやっておっぱいあげてたんだぞモーラ、その胸で?」


 割とストレートな貧乳弄りに、女エルフの眉間に皺が寄る。

 顔の紅潮と違って、こちらは泥にまみれていてもよく分かった。


「そうよ、アンタらの子守りで、こっちがどれだけ苦労してると思ってんのよ!! このすっとこどっこいども!!」


 まぁ、三百年生きてるエルフからすれば、どうしても子守りになるのは仕方ない。

 流石だなどエルフさん、さすがだ。

 胸がなくて、いまいちバブみが足りないけど、立派なおかんキャラだな。


「あんたもじゃ地の文!! 最近、メタネタ多くないか!! 真面目にやれ!!」


 ……バブゥ。

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