第291話 どエルフさんと経営の行方
男戦士と店主を正座させる女エルフ。
そんな彼らを心配そうな目で見つめる少女エルフたち。
やりにくさを覚えながらも、そこはきっちりと女エルフも切り分けた。
きっぱりと、まず、悪ふざけが過ぎる、と、店主に向かって言い放つのだった。
「親代わりが必要なのは分かるけど、わざわざ女装する必要なんてないでしょ」
「いやしかし」
「単なるあんたの趣味よね?」
「……そんな、人を好んで女エルフの格好する変態みたいに!! 偏見だ!! 俺はただ、少女エルフちゃんたちのママになりたいと、心の底から思ったからこうしただけなんだ!!」
「だから、なんでそこでパパに行かないのかと」
はぁ、と、溜息を吐き出す女エルフ。
まぁ店主の奇行は今に始まったことでもない。
これ以上、叱ったところでどうにかなるものでもないだろう。
諦めたように女エルフは視線を伏せた。
問題は――。
「アンタも何を普通に迎合しているのよ」
「いや、なんかノリで」
男戦士の方であった。
なにをさも当然、息ぴったりに店主の言葉に迎合しているのか。
馬鹿じゃないの、と、男戦士を見る女エルフの目が告げていた。
これに面目ないと瞳を伏せる男戦士。
とはいえこっちは完全に女エルフの嫉妬。
それだけに、怒りの表現方法も幾分ストレートだし、荒っぽくもなる。
じろりと睨みながらも、頬を膨らませて不満げなその表情。直接睨まれている男戦士こそ顔を青ざめさせていたが、傍から見ている人間の目には微笑ましく映った。
その表情に、女修道士が思わず、くすりと口元を隠して笑う。
「笑い事じゃない!!」
「はいはい、分かってますよ。けど、つい……」
もう、と、女エルフが鼻を鳴らして女修道士の方を向く。
と、そんな様子を見て、もうお説教は終わりか、と、店主と男戦士が立ち上がる。
まだ終わってないわよと釘を刺そうとした女エルフを、すかさず、女修道士が口を塞いで止めた。
確かに、このままではいつまでたっても話が進まない。
女修道士の判断は妥当であった。
「ところで、冒険の首尾はどうだったんだ。無事に北の大エルフには会えたのか?」
「あぁ、なんとかな。北の大エルフには会うことができた。エルフ喫茶についてのアドバイスについても、ちゃんと貰えた」
「そうか!!」
で、なんと言っていた、と、店主がすかさず尋ねる。
それを得るための思いがけない冒険譚――白百合女王国での内乱から、バビブの塔でのコウメイとのやり取りなど――を話してやりたい所ではあった。
だが、そこは話の本質ではない。
話したい気持ちをぐっとこらえて、端的に、男戦士は北の大エルフから受けた啓示を店主に対して語ったのだった。
なるほど、と、頷く、店主。
「……巨乳のと貧乳のエルフか」
「エルフの進化の可能性には驚かされる。しかもカップはHが平均らしい」
「Hが平均、なんてどエルフな未来なんだ……」
いや、だが、待てよ、と、店主がふと首を傾げる。
どうしたとすぐに男戦士が彼に尋ねた。
ゆっくりとその視線は、女エルフに向かう。
まぁ、なんとなく視線が来るのではないか、と、話を聞きつつ予想していたということだろう。
特に驚いた様子もなく、その店主の視線を女エルフは受け入れた。
彼女も随分と図太くなったものだ。
まぁ、それはさておき。
「巨乳が現れた時、果たして、モーラはどエルフと言えるのだろうか」
「……肉体的な特徴だけがどエルフの要件ではない。それは当然言えるだろう」
「しかし、世のどエルフの大半が、巨乳になった未来において、やはり見た目のどスケベさも、どエルフたる重要な要因となってくるのでは?」
「エルフは、望んでどエルフになるのではない。どエルフにとって真に大切なのは、その精神性――いかにスケベなことに関心を持てるかということに尽きると思う」
唐突に始まったどエルフ談義。
燃やし方が足りなかったかな、と、また、女エルフが杖を構えた。
それを女修道士が、だからやめてくださいって、と、慌てて止める。
そんな女エルフをさておいて。
「エルフの革新と、どエルフの在り方はまた別者だ。そこは切り分けて考えるべきだろう。店主よ、お前ともあろうエルフメイトが、いささか物事の形ばかりに気を取られすぎではないだろうか」
「そうかもしれない。しかし、巨乳の可能性を、ティトよ、お前も軽視してはいないか」
「なに?」
「巨乳エルフになることで、よりいっそう、スケベの幅が広がる。そうなった時、貧乳のエルフでは、やはり太刀打ちできないのではないか?」
「……それならば、モーラさんが証明しているだろう。見ろ、この、平均サイズもない、少女エルフよりも劣るちっぱいを。そんな身でありながら、立派に彼女はどエルフを務めているじゃないか」
「務めとらんわーい!!」
なるほど、と、店主が納得すると同時に、二人は視線を女エルフの胸――少しのふくらみも感じさせない、まっ平らなそこ――へと向けたのだった。
流石だなどエルフさん、流石だ、と、呟くエルフアホ二人。
そんな彼らに再び炎の渦が躍りかかった。
弁解の余地など微塵もなく自業自得という奴である。




