第130話 どエルフさんとタトゥーの謎
流石に、戦士技能7の男戦士である。
戦い慣れたといっても、数の利で攻め立てるばかりの武装オークの集団など、ものの敵ではない。
瞬く間に彼らの身体を切り刻み、緑と赤色の肉塊へと変えていく男戦士。
その姿はまさしく鬼。
頭二つも違うであろう屈強なオークたちが、そのあまりに無残な光景に、膝を笑わせてその場にへたり込む。
血に塗れた男戦士はそんな相手にも容赦なく剣を振るうと、その首を刎ね飛ばしたのだった。
横を転がる仲間の首に、女オークが顔を青ざめさせる。
「くそっ!! どうしてこんな男一人に!!」
「動かない方がいいわよ。ティトだけじゃないんだからね、こっちは!!」
そう言って、女エルフが魔法の杖を女オークの首へと向ける。
杖の先には既に炎が立ち昇っている。少しでも、おかしな反応を見せれば、彼女の魔法が女オークの身体を焦がすことになるだろう。
完全に形勢は逆転していた。
おそらくちょこまかと動かれると一番厄介だろう女オーク。
男戦士が起こした混乱の中、虎視眈々と彼女を拘束するべく、すかさず女エルフは杖を拾って、反撃に転じてみせたのだった。
「――くそっ、殺しやがれ」
「そうはいかないわ。この中で、貴方が一番話が通じやすそうだからね」
ちょっと眠っていてもらうわよ、そう告げると、女エルフは催眠魔法を女オークへと向かって発したのだった。
すぐ、小麦色の髪を揺らすと、女オークはその場にまえのめりになって倒れ込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
死屍累々、オークたちの死体が折り重なった獣道より少し離れた場所。
小川で体にこびりついた血糊を落としながら、ふぅ、と、男戦士が息をついた。
その近くには、彼の服を魔法で洗っている女エルフだ。
「まったくもう。はらはらさせないでよね、ティト」
「すまない。俺としたことが、まだまだ修行が足りないな」
「私の応急処置が効いたのかしらね。なんにせよ、そこまで動けたらもう大丈夫ね」
「あぁ、もう、ビンビンさ!!」
「アンタほんと、生きてたからよかったけど、そういのやめなさいよ!!」
そういうのって、と、分かっていない顔をする男戦士。
おそらく、ピンピン、と言おうとして、濁ってしまったのだろう。
男戦士の馬鹿さ加減には、女エルフもよくよく知っている。
真っ裸になり、落ち着いたそれをぷらぷらと、恥ずかしげもなく揺らす男戦士を前に、零れ落ちるようにため息を吐いた女エルフは、なんでもないわと呟いた。
ぎゅっと、男戦士の着ていた服が、女エルフの魔法によって宙に浮く。
そのままぎゅうと雑巾のようにしぼられると、ふるりふるりと辺りに水をまき散らして、その場で回転し始めた。
いつも、男戦士には内緒で使っていた、洗濯の魔法である。
「こんな便利なものがあるなら、早く言ってくれよ」
「言ったらアンタの洗濯しなくちゃいけないじゃない。いやよそんな男くさいの」
「ひどいなぁ、モーラさんは」
先に乾かしておいたパンツを男戦士に投げつける。
綿でできたゆったりとしたそれに足を通すと、男戦士はよいせと川から上がった。
すぐに、彼が向かったのは女エルフの方だ。
何も言わず、男戦士は彼女の隣に座り込むと、そっとその肩に手を回した。
女エルフの頬が少し紅みを帯びる。
「ちょっと、手元が狂うんですけど」
「ありがとうモーラさん。君のおかげで、俺は命拾いをしたよ」
「――パートナーだからね、当然のことをしたまでよ」
とは言ったものの。
まさかここまで順調に、男戦士が復活するとは、女エルフも思っていなかった。
あくまで、延命のための一時処置。
彼を生きながらえさせ、その命を繋ぐためならば、どんな辱めもうけよう。
そう覚悟してやったことだった。
それがこんな思わぬ結果を生んでいることに、正直、彼女自身も困惑を覚えていた。
「こんな簡単に、毒って抜けるものなのかしら」
「あぁ、これなら今度から、毎回、モーラさんに(毒を)抜いてもらおうかな」
「はい、目的語を抜くな!!」
「気持ちよかったからな。いっぱい(毒が)出たんだろうな」
「やめいやめいやめい!!」
げしげし、と、男戦士の脇腹に肘鉄をくらわす女エルフ。
ふと、ちらりと見た脇腹に、女エルフはちょっとした違和感を覚えた。
前に宿屋で二人部屋に泊まった時にも見た。
紫色をした、ユニコーンの角を模したような、奇怪なタトゥー。
それがそこにはあった。
前よりもはっきりと色味を増して。
そして、その模様を少し大きくして。
ついぞ視線がそれを捉えてしまったのは仕方ない。
そしてそんな女エルフの視線に、男エルフがさっと脇腹を隠したのも。
やだ、ちょっと、隠すようなことでもないじゃない、と、女エルフがいつもの茶化すような感じで語りかけたその時。
「モーラさん。すまない。今見たものは、忘れてくれないか」
「――へ?」
男戦士がいつになく険しい顔で、そう、女エルフに言った。




